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次の日から、もうザザが学園に来ることはなかった。

私は放課後に、あの教室でマルクル先輩からの話を聞いている。

彼女が意識を取り戻してから、学園側と生徒会とで厳しい尋問が行われたそうだ。

その結果、いじめの主犯は自分であるとザザは自白した。


『でも、私だけじゃないわ』


そう言って彼女は笑ったという。彼女の証言は続く。

何でも私の周りにいる子のほとんどがいじめに加担していると、彼女は言った。

実は怪我をしたあの子も、被害者であり加害者でもあったそうだ。

何度も「私はあの子と一番の友達だから」と言い触らしていたザザに逆らうのが怖かったらしい。

下手に逆らってもし告げ口でもされたら…という恐怖だ。つまり私の琴線に触れることが最も怖かったのだろう。

肝心のザザがしていたことは私の名を使って自分にとって邪魔な相手を追い出すこと。

「マルティネス様が望んだことだから」「私が快く思われていないことに心を痛めてらっしゃる」「私は仲良くしたいのだけど、貴方たちはマルティネス様に嫌われているから」と精神的に追い詰めて、「誰も貴方を助けないわ」「早く消えなさいな」と彼女たちに誰も頼れないと思わせて追い出しにかかる。


「何故、ザザは私の名をわざわざ使ったのですか?」

「あのクラス内では君の家格が最も高かっただろう。自分に強力なバックがあると思わせ彼女らに逆らわせる気をなくす目的があったのだろうな」

「…私にバレるとは考えていなかったのでしょうか?」

「おそらくだが…もし二人うちどちらかでも告発するような者がでれば君のことを庇いつつ、彼女自身は知らぬ存ぜぬを貫き通すつもりだったのだろう。あの時点では明確な証拠もない。疑いから逃れることは不可能ではない」


ザザが知らないふりをするのだから、元からそれに従っている子たちもそれに従うだろう。

私自身は責められたところで、何が何だか分からないのだから何も答えようがないわけだ。

休学した二人はザザのことを嫌っていたし「私に罪を被せるつもりなんです!」とでもザザは言うつもりだったろうことは想像に難くない。


「ザザ以外の子たちはどうするつもりですか?」

「彼女たちも呼び出し、話し合いのすえ処遇を決めることになる。ただ彼女たちに関してはザザ嬢が言っているだけで現時点では証拠はない。どうなるかは彼女たち自身の発言で決まるだろう」


こうして二人が休学をしてマルクル先輩が来た。

実は休学してしまった二人には既に学園側から事情聴取が行われていたようで、その事実確認のために生徒会を動かしたそうだ。


「お二人はなんと仰っていましたか?」

「君が、主犯だと。二人ともそう言っていたと、聞いている」


先輩は少し言いづらそうにしていた。

二人と学園側との間でこの問題を口外しないようにと金銭も含めた約束があったうえで、彼女らの身に起こったことを聞いてみるとザザの計画通りというか二人には私が主犯だと思われていた。

勿論、実際に動いていたザザたちの名前も挙がっていたがどちらも主犯は私であると。

何度も何度も「マルティネス様のため」と言われていれば、私が陰の黒幕でいじめていた彼女たちが操られているように感じたのかもしれない。


「生徒会としては事情聴取の結果、君から容疑は外れていた。最も有力な容疑者は、ザザ嬢であろうことも検討がついていた」

「でしたら何故、彼女を放っておいたんです」

「放っておいたわけではない。学園側との協議の結果、君が主犯でないならば急ぎ容疑を固めることはないと言われた」


二人も休学が出ているというのに、学園側は何故急ぐ必要がないと言えるのか。私には分からなかった。


「であれば、しっかりとした計画を立て事を進めるべきだと生徒会長が決めた。が、これは言い訳だな」

「では何故、私に教えて下さらなかったのですか?」


マルクル先輩は少し言い淀む。


「君は…彼女の友達だっただろう」


先輩が来てからザザの目的が変わってしまった。

私の一番という地位を守ることから、マルクル先輩に会うための口実として。

3人目に関しては、騒動を起こすための犯行だった。彼女が選ばれた理由は、ただ彼女が自分よりも下の家格であり自分に逆らえないことを分かっていたから。

私が早くに登校することを知っていたザザは私が相談しに来るのを待っていたのだ。

それを口実にマルクル先輩に会いに行く。

私はここでもいいように使われていたようだった。

どうやら私が何も言えないのをいいことに私がマルクル先輩に会いに来る背中を押していた、という設定にしていたらしい。

遠慮がちな友達の背を押しているうちに、自分と先輩が…という筋書きらしいが、それは私にはよく分からない。

先輩から聞いた話はこんなもの。

凡その話を聞き終えて、少しの静寂がその場に満ちる。

私はマルクル先輩にどうしても聞きたいことがあって口を開いた。


「マルクル様。何度か私に対して言い淀む場面がございましたが、それは何故です?」

「…すまない。それは…」

「もしかして、私に何か遠慮してらっしゃいますか?」


先輩は私の言葉に黙ってバツが悪そうに目を逸らす。

そのことに、なぜか私はひどく傷ついた気がして顔を伏せた。

私がザザと友達だったから。すべてはそこに繋がるのだろう。

友達だから、ザザが疑わしいこともザザが仕出かしたことの結果もザザが最後、私に危害を加えようとしたことも。

先輩は私が聞かなければ、私には言わないつもりでいたのだと思う。

きっとそれは先輩なりの不器用な気遣いで私を傷つけまいとしての躊躇いだ。

分かっていはいても我慢ならない。だって私は何も知らないままいろんなものを失うとこだったかもしれないのだから…。

だから私は今までのこと全て知れて良かったと、ちゃんと思っているのだ。

だというのにマルクル先輩は申し訳なさそうな顔ばかりで、これでは私が先輩にお礼を言っても余計に重荷を背負わせてしまうのではないだろうか。

そんなことはさせない。これから私が言おうとしているのは、きっと私の八つ当たりに近いものだと思う。


「マルクル様…いえ、マルクル“先輩”」


私はこの日初めてマルクル先輩のことを“先輩”と呼んだ。

マルクル先輩は私の予想外なセリフにかわずかに目を見開いて逸らしていた顔を私に戻した。

私はそれに挑むような視線を向けて笑顔を浮かべる。


「騎士様方の間で目上の方、先に入団した方をそうお呼びすることがあるそうです。こちらの方が親しみがあってよろしいと思いません?“様”なんて堅苦しい呼び方は学生の身にはどうかと思っていたんです」


先輩は私の言葉を把握は出来ていただろうが理解が追いついていないようでまだ黙って私を見ていた。


「と、いうわけで。マルクル先輩!私、これから貴方に恨み言を言いますが全部八つ当たりなので黙って聞いていてください!」

「私、先輩にザザを取られたこと実は根に持っているんです!貴方が来なければザザは私から離れることはなかったってずっと考えてました。私の名を騙って、私の一番の友達という地位を守ろうとする間ザザは私のことを少なからず思ってくれていたはず、です!」


今後、マルクル先輩が私に対する罪悪感のようなものを抱えて生きていくのは何か違うと感じている。

だから今日ここで全てのことを清算してしまおうと、私のため込んでいたことも私が思っていたことも全てぶつけてしまおうと考えたのだ。


「でも!先輩が来てザザの目的が変わって怪我人が出るまでになってしまっても私は…私はこれで良かったと思っているんです。ザザが私を目的に動く限り、私はザザの言葉を受け入れてしまっていた可能性があります」

「だから、マルクル先輩が私に遠慮することは何一つ一切として、ないんです!私がこれで、この結末で良かったと思っているのだから。これでいいんです。だから…」


私の滅茶苦茶にも思える言葉を先輩は理解してくれているだろうか。

ただ衝動のままに心の中身を整理整頓もせずに吐き出して、でも私が本当に言いたいことはただ一つだ。


「先輩は何も背負わなくていいんです。私が休学した二人の分も、怪我をしてしまったあの子のことも、ザザのことも。全て私が背負いますから」


それは、一種の独占欲にも似ている。ザザのことも何もかも私一人が抱えるべきものにしたかったのだ。

私は先輩にそう言い切ると一人満足して、なんだか自然と笑顔を浮かべることが出来た。

先輩はなんというか奇妙な表情を浮かべて長いため息を吐き出した。


「そうだな。君が背負うというのなら、俺はそれを止めることはしない」

「そもそも先輩に止める権利なんてないんですから、諦めてください」


先輩は今度こそ小さく笑うと、さっきまでとは違う軽い雰囲気を纏っていた。


「君は強いな」

「そうですか?私ダメなときは遠慮なく先輩のこと頼りますよ」

「あぁ、そうしてくれ」

「言いましたね。絶対に頼りますから。だから先輩も、遠慮なく私のこと頼ってください」


私は胸に手を当てて得意げに先輩に言って見せた。

言質も取ったことだし、先輩はもう私からの頼みを断ることは出来ないのだ!やったね!


「言ったな?」

「…え?ここは遠慮するところでは?」

「お前が遠慮するなと言ったんだろうが」


もしかして早まったか!まぁ、先輩がさっきまでとは違ってなんだか楽しそうだし私も今は楽しい気分なので、これでいいかと思えた。

いつの間にか私のことも雑に呼んでるし、それはどうなんだ?


「ところで先輩。少し先輩の見解をお聞きしたいんですけど」

「なんだ」


実は私には、ずっと引っかかっていることがあった。


「実はあの子が怪我をする前、二度ほど机が荒らされていたのを綺麗にしているんです」

「ほう」


これは先輩には言っていないこと。

私はあの時、碌な説明もしないまま先輩に協力をお願いしていたのだ。

あの時点で既に私が容疑から外れているとはいえ、先輩はよくあのお願いで引き受けたものだなと今にして思ったがそれこそもう今更だろう。


「それで私二回とも『何もなかった』って答えていたら。怪我人が出まして」


あの時は本当に驚いたものだ。恋する乙女の原動力って怖いものなのだなぁ。

今更ながらにしみじみ、そう思う。


「あの時、私は机を綺麗にすべきではなかったのでしょうか?」


実は三人目の前、一人目と二人目の時彼女たちが休学するまで私は机を綺麗にし続けていた。

これは私の独断で、登校してきたときに机が汚いのは可哀想だという偽善から行っていたことだ。

どの時も一度目に発見したときはザザに報告していたのだがそれ以降は言ったことはない。ザザが仕組んでいたのだから当然、私が綺麗にしていることは気づいていただろうが。

だから三人目も一度目は報告したが二度目からはしなかった。

何度も聞かれたのは三人目だけだったが、あまり関係ないと考えてしまっていた私は依然と同じような対応をしてしまっていたのだ。

あの時私が机を綺麗にしておかなければ他の子かザザ本人か誰かしら反応があってザザの望んでいた風にいっていたならば、あの子が怪我をすることもなかったのではないかと。

結果論ではあるが、すこし私の中で引っかかっていることだった。


「…いや。それは違うだろう。ザザ嬢が求めていたのは、あくまで口実のための騒動であり机が綺麗であることの有無は関係なかったはずだ」

「そう、ですね」


まぁそうだよな。自分の中でもなんとなく、こうじゃないかと結論は出ていたがやっぱりそうか。


「だから、お前はむしろそれを大事にするべきだ」

「大事に、ですか?」


先輩は首を傾げる私に頷いて言葉を続けた。


「お前自身がそれをどう思っているにせよ、俺はその行いを間違いだとは思わない。ならそれを後悔するよりも大事にしてほしいと思うのは当たり前じゃないか?」


先輩はさも当然とばかりに私に同意を求めるが私にはうまく反応出来なかった。

ただ私は、先輩の言葉が心にすとんと落ちてしっくりときた。

そっか。マルクル先輩はそう言ってくれるんだな。私の中にはなかった考えに目頭が熱くなるのを感じた。

ほわほわと浮足立つような気持ちが心を満たして悲しくもないのに、なぜか涙が出そうだ。

私はそれを誤魔化すように少しぶきっちょに笑って先輩にお礼を言うことしか出来なかった。


「ありがとうございます!」


私は一生、先輩のこの言葉を裏切らないような私でありたいとそう思うのだった。


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