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その時は昼にやってきた。

マルクル先輩が私の教室を訪ね、同じ生徒会の私ではなくソフィーに呼びかけたことで押し殺した悲鳴がまわりにいた友人たちから漏れていた。

歓迎会の一件からソフィーと話すときは場所を変えなければならないと学んだ先輩は、彼女を連れだして教室から出ていく。

一連の流れを誰も邪魔することはなかったが一挙手一投足も見逃さんとばかりにソフィーを恨みがましく睨みつける女子たちに私は怖いという感想しか出てこなかった。

先輩とソフィーが完全に出て行ってから数秒、一気に不満が爆発したらしい友人たちから「なんであんなやつがマルクル様に!」「ありえないわ!こんなの!」と発狂しているのを私は傍観しながら別のことに思いを馳せていた。

実は、今日の朝は机に何も置かれておらず昨日のうちに綺麗にした時の状態が保たれていたので拍子抜けしてしまっていた。

もしかして昨日だけ特別に?とか考えたが、一回だけでも十分に事件だと思うし生き物を生死をあんな風に扱ったこと自体許されるべきではないと思う。

つまり、油断は出来ないということだ。

いまだに信じられないと嘆く友人たちに「まぁまぁ落ち着いて」と馬でも宥めるが如く、どうどうと抑えているとその中の一人が「何か事情がおありなのでしょう!」と私に何らかの理由を求めて縋ってきた。

ここぞとばかりに私も昨日考えていた大義名分を教室にいるみんなに聞こえるように少し声を張る。


「歓迎会の件を聞きに来られたのよ。詳しい話をまだ聞けていなかったから、マルクル様は関係者ですもの。訪ねてきても不思議はないでしょう?」


私の渾身の言い訳に納得がいったのか若干、溜飲を下げ落ち着きを取り戻していく友人たちに私は心の中でそっと安堵した。よかった、よかった。

それでも今度は歓迎会での出来事に話題が変わっただけでソフィーへの愚痴は止まらなかったのだけど。

みんなご飯食べに行こうよ…。


ソフィーは昼休憩が終わっても戻ってくることはなかった。

そのことに空気がピリピリとしている。まさか私も昼を超えても帰ってくることがないとは思わなかった。

マルクル先輩は何をしているんだ?先輩自身、ソフィーのことはそこまで得意なようには見えなかったので昼丁度に話を終わらせてソフィーを教室に戻らせるとばかり思っていたのだが…。

なにか不測の事態でも起こったのだろうか。

流石に放課後までには帰ってくると思うけれど…。

ソフィーの席を知らず見つめ授業も身に入らなかった。


ソフィーが帰って来たのは最後の授業の最中だった。

口では「ごめんなさい!遅れてしまって!」と言ってはいるが隠しきれない嬉しさが滲んでいて妙にちぐはぐな印象だ。

教師はぶっきらぼうに「早く席に戻りなさい」というだけで特に咎めるようなことはしなかった。

何事もなかったかのように授業を再開する教師と違って昼の件を根に持っている子たちはこんな時間に戻って来たソフィーのことが気になって仕方がないようで、完全に授業そっちのけで彼女の方に気を割いているように見える。

私としては何事もなく戻ってきたことに一安心。マルクル先輩といて何かあるとは全く考えていなかったがもしかしてマルクル先輩と別れた後、何かあって来られないのではということを危惧していたので本当に良かった。

この中途半端な時間に戻って来たのにも、なにか訳があるのだろう。

それはマルクル先輩に聞けばある程度の足跡は分かるだろうし、先輩とこの時間まで一緒に居たというのならそれはそれで構わない。

すべての真実は放課後の生徒会室で明かされるはず。

ソフィーが戻って来た時点で授業も後半だったこともあり、その後すぐに授業は終了して放課後となった。

今日はいつも以上に楽しそうに教室から駆けて出ていくソフィーを見送ると私も生徒会室に向かうのだった。


今日も今日とてノックをしてすぐに扉を開けば、実は生徒会室内に備えられている休憩用のソファーに寝転がって占領しているマルクル先輩がいて驚いた。

窓から入る日差しを遮るように腕で目元を隠し長い足をはみ出させている先輩が、本当は寝ているのか寝ていないのかは分からない。

もし寝ていたとしたら起こすのも悪いと思いそろりそろりと動いていると、先輩が急に声を発したので私は肩を跳ねさせた。


「彼女は教室に戻ったか?」

「!先輩…起きてたなら、私が入って来た時点で起き上がってくださいよ…」


バクバクと高鳴る心臓を手で抑えながらソファーにいる先輩をじと目で睨めば、そんな私を腕の隙間から見て「すまん」と悪びれもせず笑っていた。

この野郎…。

それで『彼女は戻ったか』って?彼女ってのは多分ソフィーのことだろう。


「ちゃんと戻ってましたよ。先輩はもしかしてサボりですか」

「あとで教師には許可をとるからサボりにはならんさ」


許可、というとおそらく生徒会役員に与えられている特権を使うのだろうな。

サボりの理由に特権を行使するのはどうかと思うけど。

“特権”というのは生徒会役員にのみ与えられる特別な権利のこと。そのまんまの意味ではあるが、この特権には様々な権利が存在している。

先輩はこれの一つを使ってサボりに明確な理由をつけようというわけだ。

特権を使うにも普段からの生活態度や教師からの評価が大事になってくる。なにより成績優秀でなければ当たり前のように許可が出るはずもない。

これを普段から行使できるとして認められるには筆記90点以上、実技B判定以上を定期考査で常に叩き出さなければいけないので意外と厳しかったりする。

ちなみに生徒会は全員この基準を満たしている。というより、満たしている者以外で選ばれることはないのだが。


「それで、先輩はソフィー嬢が戻ってくるまで一緒にいたんですか」

「不本意ながら、な」


先輩はようやく起き上がると彼が使っている机を指差した。

そこにはシンプルだが可愛らしいラッピングをされた小包が置かれている。

おそらく、これがソフィーからのお菓子が入ったプレゼントなのだろう。


「食べるか?」

「いりませんよ。貰い物を横流ししないでください」

「たぶん大丈夫だろ」


多分ってなんだ。多分って…何か入っている想定で話しているのか?


「お疲れですねぇ。相性が悪いんですか?」

「そうだな…ただ押しが強いだけなら御せるんだが、ああも必死だとな」

「必死、ですか…」


必死かぁ。ソフィーとしては初の遭遇があれだったとは言えマルクル先輩と関われたことは僥倖ということだろうか。

先輩の庇護下に置いてもらいたい魂胆とか、あわよくば玉の輿とか…そういう必死さなら納得できないこともない。

やっぱりいじめを苦にしているということか。それを気にしない人などいないと思うのだけれど。

詳しい話はみんなが集まってからということで待っていると、リュドミラ先輩が一人で来たことに私は地味に驚いていた。


「エヴねぇ、今日は遅れてくるそうなの。ごめんなさいね」

「いや問題ない。あいつにはいつでも伝えられるからな」


たしかにマルクル先輩はアンドリ先輩とは同学年だし問題ないだろうな。

というわけで、アンドリ先輩以外が生徒会室に集まると昨日に続き同じ議題を話し合うこととなった。


「ソフィー嬢を連れ出してからの話になる…」


マルクル先輩は昼休憩のうちにソフィーとの話を終わらせてしまおうと、ひとまず生徒会室に隣接している応接室にソフィーを通したようで…。


『ありがとうございます!お時間下さって!』

『いや、君との約束もあったしね』

『覚えててくださったんですね!実は昨日、クラウス様の教室に行ったんですけど見当たらなくて…』


既に行動してたらしいソフィーにも『入れ違いになったかな?』と愛想笑いで返したそうな。


『これ受け取ってください!』

『ありがとう。早速だけど、あの日何があったのか聞いても?』

『はい…あの時、わたし誰かに足を掛けられたんです!』

『それは本当に?』

『はい…クラウス様はご存じか分かりませんが、わたし実はいじめられているんです」


ご存じです。でも先輩はわざと驚いたふりをしたらしかった。


『そうだったのか。それは大変だったね』


彼女は泣くことはせず気丈に振舞って『大丈夫です!わたし、こんなことに負けたりしませんから!』と先輩を心配させまいと笑顔を作ってみせた。


『誰に足を掛けられたかは、わかる?』

『それは…ちょっと…』

『分かった、ありがとう。こちらでも探ってみるから、何か困ったことがあればすぐに頼ってくれ』


「とまぁ…こんな話をした後は自分がいじめられている件で思うところはあるか、とさらに聞いているうちに話が別の方に転がり昼も終わりそうな頃に帰りなさいと言っても聞かず人生相談のようなものに話は流れ…結果として彼女自身はいじめを気にしてはいるものの、そこまで病んでいるわけではないのではという結論に達した」


もしかして先輩、昼からソフィーが戻ってくるまでの間ずっと人生相談を聞いてたんですか?

それは…長い人生相談だな…。

まぁソフィーが今すぐにいじめを苦にどうこうすることがなさそうなことには安心するとして、華やかな歓迎会の裏でも彼女は常に悩みを抱えていたのだろうな。


「あの時周りにいた人物って覚えてますか?」

「顔はなんとか」

「僕は、人の隙間からだったのでちゃんとは見れてないです」

「わたしも…」

「私は覚えているわよぉ」


つまり現場の近くにいた癖に顔を見てすらいないのは私だけですか。そうですか。

気が回らず、すみませんね。

自分で考えて空しくなったのでやめておこう。

ともかく、先輩二人が覚えているのであれば足を引っかけたらしい犯人の特定は出来そうだ。

二人の記憶をもとに特徴を書き出していくと、何人か二年生の生徒で思い当たる人物が見つかった。

これは詳細を精査したうえで、犯人特定に至れば呼び出して厳重注意ということで話が纏まった。

歓迎会の件はこれでよしとして、あとは根本の問題であるいじめについて。

それをこれから話し合おうという時にアンドリ先輩が誰かを連れて入って来た。


「つれてきたぜー」


え、なにを?

原則、生徒会室には関係者以外入れないようにと決まっているのだけれど連れてこられた人は一体誰なんだろうか。

気の弱そうな女の子は私たちを前にして顔色を赤くしたり青くしたりして大変そうだ。


「で、誰なんだ?彼女は」

「事情通の子!」


事情通とは?なにやら知っているらしい彼女をとりあえず余っていた椅子に案内して座らせる。

あまり圧迫感を与えないようにと囲うようなことはせずその場で、彼女が何か話してくれるのをじっと待った。


「あのわたし…私、あの子を…」


彼女は詰まりながらも堰切ったように事情とやらを話してくれた。

彼女はソフィーをいじめているグループの一つに所謂使い走りのような扱いをされているらしい女の子だった。

ソフィーを呼び出したり言われるがままに魔法を使うこともあったという。


「私のせいで、彼女に何かあるたびに私申し訳なくて、でも逆らうと今度は私がっ!わたしそれが怖くてっ…」

「そんなとき歓迎会での出来事があって、役員方の前で起こったことだから流石にもうバレるかもしれない、やめたほうがいいって私言ったんです…。そしたら!」

「『私たちはやってないんだから関係ないでしょ』って『貴方がやったことだものね』って言われて私っ!」

「…本当に、本当にごめんなさいっ」


彼女は涙ながらに謝り続けていた。

主犯と思われる子たちは決して自分で手を出そうとはせず、彼女たちのような弱い立場にいるものを無理やり従わせて指示通りに動かなければ…と脅していたようだ。

そのうえで危なくなれば自分たちが直接やったわけじゃなく、貴方がやったのだと切り捨てて責任を押し付ける。

彼女は自分でもどうしていいのか分からなくなって、教室で一人泣いている時にアンドリ先輩が来たそうな。


「わたし、私が処罰を受けるときが来たんだって思って…そ、そしたら今まで黙って耐えていたのが馬鹿らしくなってっ」

「そう、辛かったわねぇ。打ち明けてくれてありがとう」

「ちなみにだが、箱について心当たりは?」

「箱?は知らないです…ごめんなさい…」


主犯の名前は全て押さえると今日のところはもう彼女に聞くこともないので帰ってもらおうということになった。


「私が送ります」


誰かに何かを言われる前に彼女の手を取り、立たせると生徒会室を出て行く。

道中しばらくの間、会話は何もなかったが私には彼女に聞かねばならないことがある。今がその時だ。


「少し聞いてもいいかしら」


彼女は生徒会室に来た時よりもおびえているように見えた。

それでも私は彼女を逃がすまいと手を繋いだままにしていた。


「貴方に指示を出していた子たちは彼女、ソフィーに何か言っていた?」

「そ、れは…」


彼女は言い淀む。なにも彼女とソフィーだけでいじめ現場にいたわけではないだろう。

たとえソフィーから姿が見えない位置にいたとしても必ずどこかから見て嘲笑っていたはずだ。

そうなると直接手を出すのが彼女の役目だとして主犯の子たちは何をしていた?と考えた場合きっと彼女たちは口だけは出していたのだろう。

その時に何を言っていたのか…私が聞きたいのはそこだ。

彼女は私にそれを打ち明けていいものかどうかを迷っているようで目をしきりに左右に動かしている。


「もしかして、『マルティネス様が望んでいること』とでも言っていた?」

「ぁ…なぜ、そのことを…」


やっぱりか。

当然、私はそんなことを望まない。望むはずもない。

でも私は以前にも私のことを勝手に使った出来事に巻き込まれたことがある。また同じようなことをしているとは馬鹿の一つ覚えもいいところだ。


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