トランプナイト・リトルジョーカー
1、正義の変身ヒロイン誕生
私、成木野寛子16歳で高校1年生です。
一家がサーカス一座だったため、中学まではあちこち転校を続けていましたが、高校進学を機に一座を解散して父はマジシャンに、母は体操教室の先生になりました。
私は横浜市内にある私立の女子高で新体操部に入部しました。
家は学校からバスで15分にある小さなマンションで暮らしています。
入学式の時に知り合った四葉愛子さんとは家が近所で、しかも同じ新体操部なので、同じバスに乗って帰っています。
今日も部活が長引いて帰りが遅くなりました。
「寛子はいいよね。部長に叱られることがないから。私は今日も部長に叱られてさんざんだったよ。」
「私の場合、サーカスをやっていたから。」
「サーカス!?一座の名前は?」
「成木野大サーカス。今はもう解散した。」
「なんで?」
「私の高校進学に合わせて。サーカスをやっていたころは全国を回っていたから学校も転校の繰り返し。ファンが出来ても一緒に遊んでくれる友達が誰一人いなかったの。稽古中は父のムチが飛んできたり、母の怒鳴り声が飛んできて逃げたいと思ったことが何度もあったよ。」
「どんな芸をやっていたの?」
「空中ブランコや綱渡り、玉乗りとか、他にも手品も覚えさせられた。」
「大変だったんだね・・・・だから新体操で今までの経験を活かせたんだ。」
「もしかしたら自分に向いているかもしれないと思ったから・・・。」
「絶対に向いているよ。」
「ありがとう。」
「そういえばサーカスは3人でやっていたの?」
「ううん、他の団員もいたけどその人達は父の紹介で他のサーカス一座に行った。あと一人だけサラリーマンになった人がいた。」
「そうなんだ。寛子は将来どうするの?またサーカス始めるの?」
「わからない。卒業してから考えてみようと思う。」
「それもいいかもしれないね。私は一度国際大会に出てみたいと思っているけど、私の実力ではおそらく無理かもしれない。」
「頑張れば絶対になれるよ。」
「ありがとう。じゃあ、そろそろ帰ろうか。」
「じゃあ、また明日。」
私は愛子と別れた後、家に戻りました。
しかしこれから私にとんでもない運命がのしかかって来るとはその時は思ってもいませんでした。
両親の仕事の帰りが遅いため、夕食はほとんど一人で済ませています。
居間でテレビをつけてみたらニュースがやっていたので見てみたら事件の話題ばかりやっていました。
刑務所からの脱獄、強盗、殺人が相次いでいると報じられました。
しかも翌朝の新聞の一面には「市内の公団住宅で爆弾テロ発生、死者多数。容疑者は逃走中」と書いてありました。
さらに隣の記事を見ていたら「市内の女子高生、通り魔に襲われる。目撃情報によれば犯人は化け物の姿をしていた」と書いてありました。
学校へ行けば新聞やテレビのニュースの話題で盛り上がっていました。
教室、廊下、トイレ、どこへ行ってもその話題が絶えることなく続いていました。
部活も時間を短縮したり、家が遠い人は家族に迎えを頼むようにしています。
ここ何日か犯罪者の異常発生には警察も頭を抱えているようでした。
その日の夜、玄関に警察がやってきました。
「こんばんは、夜分遅くにすみません。神奈川県警の者ですが、すでに新聞やテレビでも報じられてご存知かもしれませんが最近、犯罪者の異常発生しています。ご近所で不審な人もしくは化け物などは見かけていませんでしたか?また学校のお友達で被害に遭われた人はいませんでしたか?」
「確かに事件のことはメディアで知りました。しかし、不審者や被害者の情報はありません。」
「そうですか。何かありましたらこちらに連絡ください。私神奈川県警捜査一課の金田と申します。何かありましたらご連絡ください。」
金田さんという警察官は私に名刺を渡してそのままいなくなりました。
9時ごろ両親が帰ってきて警察が来て名刺を置いたことを伝えました。
「部活で遅くなるのは仕方ないが、学校が終わったらなるべくまっすぐ帰るようにするんだよ。」
「お母さんも正直心配になってきた。ねえあなた、寛子も高校生になったわけなんだし、スマホを持たせた方がいいんじゃない?」
「そうだな。どんな機種が欲しい?」
私は思い切って日曜日に駅前の家電量販店に行って最新の大容量で色はピンク、音楽と動画を入れ放題の機種を買ってもらうことにしました。
翌日、学校で友達や部活の仲間と電話番号やメアドを交換しました。
「寛子はSNSってやっていないの?」
「昨日買ってもらったばかりだから。」
「よかったらTwitterやLINEやらない?せっかく買ったのにやらなきゃ、もったいないよ。」
「そうだね。」
「まだやり方とかわからないし・・・」
「じゃあ、私が教えてあげる。」
私は愛子に教わってTwitterやLINEの設定のやりました。
「これから何かあったら、これで連絡しよ。」
「うん。」
家に帰ってからニュースを見てみたら、またしても通り魔事件が発生。警察は犯人が同一人物とみて話を進めているようでした。
私は食卓にある骨付きチキンを一つつまみ食いをしながら、ニュースを見ていました。
「寛子、行儀が悪い!」
「だってお腹が空いたんだもん。」
「もうじきお父さんが戻ってくるから、少し待っていなさい。」
「はーい。」
しばらくしてから父が戻り、夕食を済ませ、自分の部屋に戻ったら、「お帰りなさい」という女の子の声がしました。
誰もいない部屋からでしたので、空耳かと思って無視をしていましたが、またしても女の子の声が聞こえてきました。
「ずっとあなたを探していたの。よかったあ、やっと会えたよ。」
「あなたは誰?」
「私、マジックワールドからやってきた使者なんです。」
「私にはただの幽霊にしか見えません。もし幽霊でないと言うなら姿を見せてください。」
今まで姿が見えなかった「マジックワールドの使者」は少しずつ見えてきました。
よく見ると私と同じくらい年齢の女の子でした。
「あの、お名前は?」
「私の名前はダリアと言います。私の住んでいるマジックワールドは今まで平和に過ごしていましたが、ある日エビル帝国のキングエビルが復活し、私たちの住んでいる世界を犯罪の世界に染めて行ったの。そして今度はあなたたちの住んでいる地球までがそうなってしまっている。最近、おかしいことはなかった?」
「そういえばニュースで女子高生が通り魔に襲われたという話があった。」
「それもキングエビルの仕業なの。このままだと犯罪が当たり前の世界になっちゃう。お願い、一緒に戦って。」
「でも、そういうのは警察に任せた方がいいのでは?」
「警察も手に負えないくらい凶暴になっているの。これあなたに差し上げる。」
「これ何?」
渡されたのは黒いゴーグルの形をしたペンダントでした。
「このペンダントは?」
「変身アイテム。普段はアクセサリーとしても使えるから。」
「このペンダントでどうやって変身するの?」
「ペンダントもって胸に当てて心に念じるの。そして『トランプナイト、メタモルフォース!』と叫んでみて。」
私は言われるままに叫んでみました。
「トランプナイト、メタモルフォース!」
そのとたんペンダントが強く光りだし、体を大きく包み込んでいきました。
体が熱い、なんだかムラムラするする感覚がしてきました。
光がやんで鏡を見たら、トランプのジョーカーの姿になっていました。
「なんでコスプレになっているの?」
「コスプレじゃない!戦闘服だよ。今日からあなたはトランプナイト・リトルジョーカーとして戦ってもらうよ。」
「でも、急に言われても・・・・」
「気持ちはわかるけど、大切な人が危険な目に逢ったもいいの?」
「・・・・・」
「今すぐ立ち上がって。」
「でも、今外に出ると親に言われそうだし・・・」
「だったらベランダから出たら?ここ1階だし。」
私はベランダから表に出てマンションの外に出ました。
かすかだけど女の子の悲鳴が聞こえてきました。
「女の子の悲鳴が聞こえる。」
「このまま真っすぐ行って。」
行った先はいつも学校帰りに立ち寄っていた児童公園でした。
よく見ると襲われていたのは愛子でした。
「愛子!?」
敵は刃物を持っていました。後姿だったのでよくわかりませんが、かなりの体格の持ち主でした。
こんな怪物と戦うなんて夢にも思いませんでした。
このまま何もせずに逃げるか、それとも戦うのか運命の選択肢が求められました。
2、必殺の武器はトランプのカード
私は急に足が震えだしてきました。
「リトルジョーカー、逃げたらダメ!」
「だって、相手は刃物持っているし、正直勝てないよ。」
「愛子ちゃんを見殺しにするの?」
「そんなに言うならダリアが変身して戦えばいいじゃん。私は普通の女子高生だよ。他の女の子と同じように部活やったり遊んだりしていたいよ。」
「それが出来たら、そうしているよ。でもね、リトルジョーカーは地球の女の子で運動神経のいい人じゃないと務まらないの。実はマジックワールドから地球の様子を見ていたの。その時にサーカスをやっていた女の子を見かけて、この人ならきっと世界を救ってくれると信じていたの。あれからずっと探してやっと見つけることができたの。それは急に変身して戦ってほしいなんて無理を言ったのは認めるけど、今どうしても戦ってほしいの。お願い!」
「じゃあ、私が昔サーカスをやっていたことを承知したうえでお願いしたわけなんだね。」
「お願い!このままだと愛子ちゃんだけじゃなく、家族や身近な人たちが次々と失っていくんだよ。今、逃げたら誰が愛子ちゃんを助けるの?大切な人たちがいなくなっていくんだよ。」
「だったら警察を呼ぶわよ。本当に困った時に助けを求めるのは市民の義務なんだから。」
「警察を呼んだところで、どうすることもできないんだよ。あれはただの凶悪犯じゃないの。キングエビルに操られているの。それを救えるのはリトルジョーカー、あなただけなの。」
私は一瞬考えました。ダリアがそこまでお願いしてきた以上は後戻りが出来ないと。
そして何よりも目の前で愛子が襲われるのが見るに耐えられませんでした。
「わかった。戦う。」
「本当に!?ありがとう!」
私は公園の奥へ進みキングエビルに操られている人に勝負を挑みました。
私の足は震えだしました。
「やはりだダメ!」そう思って公園を去ろうとしましたが、ダリアが私を引き留めようとしました。
「リトルジョーカー、ここで逃げるの?」
「だってしょうがないでしょ?あんな化け物、どうやって戦うの?私はリトルジョーカーじゃない!成木野寛子よ。普通の女子高生なの。」
「それは違うよ。もう寛子ちゃんは普通の女子高生じゃなくて、みんなの平和を守る正義の変身ヒロインなんだよ。目の前で襲われている愛子ちゃんを見捨てて帰るの?」
私は一瞬考えました。正直怖い。でもここで逃げたら愛子はあの化け物に殺されてしまう。
そう思った瞬間、化け物は愛子を強く抱き上げて握りつぶそうとしていました。
「助けて!」
「無駄だ。お前の声など誰にも届かない。さあ、このまま悲鳴を上げて、苦しむがよい。」
化け物は虫をつかんで遊んでいるかのように、愛子の体を強く握りしめていました。
私には正直見るに耐えられない光景でした。
愛子は声にならない悲鳴を苦しんでいました。
私は震えた足を化け物に向けて戦いを挑みまhした。
「待ちなさい!」
「なんだ貴様は?」
「私は愛と正義のトランプナイト・リトルジョーカー!今日の勝負の相手はあなたよ。受けて立ちなさい!」
私は指さしてかっこよく決めたつもりでしたが、いざ戦闘になると相手の迫力に負けてしまいそうな感じでした。
「じょうちゃん、さっきの威勢はどうした?かかって来いよ。」
化け物は容赦なしに攻撃してきました。
「リトルジョーカー、逃げてばかりじゃダメ!ちゃんと戦って。」
「どうやって戦えばいいの?」
「自分が思い描いた動きをしてみて。」
ダリアは私に無茶なことを言い出してきました。
自分が思い描いた動きって何なのかサッパリわかりませんでした。
その間にも化け物は容赦なしに襲ってきました。
「思い描いた動きって何?」って思いながら、逃げていくばかりでした。
しかし、一つ自分の体に大きな変化を感じました。
走っていくスピードが少しずつ上がっていくのでした。
「速い!」そう感じて、化け物の動きをよけていきました。
「クソ、ちょこまかと!」
化け物は私のスピードについていけず、苦戦していました。
今度は時計台にめがけて大きくジャンプしてみました。
まるで自分の体じゃないみたい。
サーカスや新体操で鍛えられたのもありましたが、それよりも変身したことによって得られたこの力に驚きを感じました。
私は時計台から垂直に化け物にめがけて大きくキックを入れてみました。
化け物は大きく倒れました。
「今度は私の反撃の番」、そう思って私は化け物にめがけて攻撃を開始しました。
柔道の背負い投げのように投げ飛ばしたら、公園の外れの方まで飛んでいきました。
「これ本当に私がやったの?」そう心の中で呟きました。
でもこれで化け物が死んだわけではないことは確かでした。
少しずつ近寄ってみたら、少しだが動いていました。
私はとどめを刺そうとしましたが、どうすればいいか分かりませんでした。
「リトルジョーカー、早くとどめを刺さないと・・・・。」
「どうやって?」
「あなたの武器はトランプよ。」
「トランプって遊びで使うトランプ?」
「投げたらナイフよりも威力はあるよ。」
ダリアは懐からトランプのカードの山を渡しました。
「普段は小さくして懐にしまうこともできるよ。」
「ありがとう。」
私はダリアから受け取ったカードを切り交ぜて化け物に攻撃をしようとしました。
しかし、そのとたんに化け物が立ち上がり私に攻撃を始めましたので、カードを小さくして懐に入れました。
私はバク天をしてとっさによけました。
「さっきはよくも投げてくれたな。」
私は高くジャンプしてもう一度キックを入れようとしました。
「同じ攻撃は二度効かないんだよ!」
化け物は私に大きなパンチを入れてきました。
私はとっさに木の枝にジャンプしてぶら下がり、化け物の顔面にめがけて大きくキックを入れました。
化け物は体のバランスを崩してその場で倒れました。
そのすきに私は懐からカードを取り出して、まんべなく切り交ぜた後、カードを3枚ほど取り出して化け物に投げつけました。
「うわー!」
化け物は大きな喚き声を上げて倒れました。
私はそっと化け物の正体へと近づいていきました。
そこで見たのは担任の金田先生でした。
「金田先生?なんで?」
「あれ?なんでこんなところにいるんだ?」
「君はいったい誰なんだ?」
「私は愛と正義のトランプナイト・リトルジョーカー。」
「リトルジョーカーか。ありがとう。」
私が去ろうとした瞬間、愛子が私を引き留めようとしました。
「まって、リトルジョーカー。助けてくれてありがとう。よかったら私と友達になってくれませんか?」
「なんで?私と一緒だと危ないし、さっきのように化け物に襲われたら、あなたを守り切れなくなる。」
「普通に話し相手になってくれるだけでいいの。迷惑でなかったら、仲良くなってくれませんか?」
「わかった。次会えたら・・・」
私が去ろうとしたら愛子が私の手首をつかんで再び引き留めました。
「今夜両親がいないの。よかったら、一晩だけでいいから付き合ってほしいの。」
「でも明日だって学校があるし。」
「リトルジョーカーって、うちの学校の生徒だったの?」
「いや、違う。本当はマジックワールドの住人だから。」
「マジックワールドってどこにあるの?」
「それはちょっと秘密・・・・」
「おい、四葉この辺にしておけ。リトルジョーカーが困っているじゃないか。」
「あなた四葉さんって言うんだね。」
「うん、私四葉愛子。」
「よろしくね。愛子ちゃん。じゃあ、私帰るから。」
「リトルジョーカー、また会えるって約束してくれる?」
「もちろん、いつになるか分からないけど、必ず会える日が来るから。」
私は急いで家に戻りましたが、一つ厄介なことが起きました。
「ダリア、いるんでしょ?」
「どうしたの?リトルジョーカー。」
「どうやったら、元に戻れるの?このまま変身したままでいるの?」
「黒いゴーグル外してごらん。」
私は身に着けていた黒いゴーグルを外しましたら、元の姿に戻りました。
そのままベッドに眠りましたが、この正義はいつまで続くのか不安になってきました。
3、敵は身近な人たち
翌日学校へ行ってみたらリトルジョーカーの話題でいっぱいでした。
「リトルジョーカーって、私らと同い年って感じがしない?」
「するする。」
「マジックワールドから来たって言うけど、本当はこの辺の人なんじゃないの?」
「たぶんね。」
「私、かなり気になる。」
廊下で何人かの人がうわさ話をしていました。
最初は愛子が言いふらしたのかと思いましたが、そうではなく昨日何人かの人が見ていたようで、早速噂話をして盛り上がっていました。
ダリアが言うには決して正体を明かしてはならないと言う約束でした。
さらにキングエビルは私たちの身近な人たちの弱い心に漬け込み、豚やカエルなど様々な魔物のに姿を変えさせる力があるみたいなのです。
そんな放課後の出来事でした。
部活の帰りに愛子と一緒に自販機でジュースを買って飲んでいたら、悲鳴が聞こえてきました。
私は急いで悲鳴が聞こえた校舎の裏に行ったら、チューバの姿をした魔物が現れました。
「練習なんかやっていられるか!」
間違いなくエビルワールドの仕業でした。
校舎だと変身しづらいので、一度学校を出て近く神社でリトルジョーカーに変身しました。
学校の中は大パニックでした。
チューバの化け物は次々と生徒や先生を襲っていき、手に負えない状態になりました。
「金田先生、ここは警察を呼んだほうが・・・」
「ダメです。警察を呼んだところでどうすることもできません。」
「ではどうすればいいのだ。」
「教頭先生、私に一つ考えがあります。」
「ほう、どんな考えだ?」
「今、生徒の間でうわさになっている『リトルジョーカー』を呼べばいいのです。」
「何をバカなことを言っているんだ。そんなことより生徒を安全な場所へ避難させなさい。私はその間に警察を呼ぶから。」
教頭先生は職員室へ向かい、電話で110番通報をしました。
「みんな、急いで校舎の中へ逃げて!」
「あなたは?」
「私はトランプナイト・リトルジョーカー。先生はすぐに生徒を安全な場所へ避難させてください。」
「わかった。おい、みんな急いで校舎の中へ逃げるんだ!早く!」
先生が生徒を避難させたところで私はチューバの魔物と戦うことにしました。
「あなたの相手はこの私よ。かかってきなさい。」
「来たな、リトルジョーカー!まずはあいさつ代わりにこの音をプレゼントしよう。」
チューバの魔物は低くで爆発音に近い音を鳴り響かせました。
「何この音。」
私はとっさに耳をふさいでしゃがみこんでしまいました。
「さ、もう一度聞かせましょう。」
今度は私だけでなく、校舎にいる人たちの耳にまで直撃ました。
1人の生徒が私を見て校舎の外に出て、私に耳栓を渡しました。
「リトルジョーカー、私はあなたを応援しています。よかったら使ってください。」
「あなたは?」
「私はこの学校の1年で水泳部員の荒川かすみです。」
「荒川さん、ありがとう。必ず返すから。」
「いえ、これは差し上げます。あと私のことは『かすみ』と呼んでください。」
「ありがとう。かすみ。なら私のことも敬語じゃなくてため口でおねがい。」
「わかった。がんばってね。けがをしちゃだめだよ。」
「ありがとう。かすみも早く校舎へ戻って。じゃないと戦いにくいから。」
「うん!」
荒川かすみは軽く手を振って校舎の中へと入っていきました。
私は荒川かすみからもらった耳栓をつけて再び勝負に挑みました。
「私は愛と正義のトランプナイト・リトルジョーカー!今日の勝負の相手はあなたよ。受けて立ちなさい!」
「望むところだ。覚悟しろ!」
チューバの魔物は爆音を巻き散らかしながら私に突進してきました。
しかし耳栓のおかげで爆音の攻撃をかわすことができませした。
「覚悟する方は貴方の方よ!」
私は高くジャンプして攻撃をしようとしましたが、私が攻撃をしようとするたびに音波が邪魔してできなくなります。
正直お手上げでした。
カードを使って攻撃しても音波が邪魔するので太刀打ちが出来ませんでした。
私はついに力尽きて地面に伏せてしまいました。
「リトルジョーカー、頑張って!」
「チューバの化け物に負けたらダメだよ。」
「リトルジョーカー!」
その時、チューバの化け物が突如泣き出しました。
「何よ、みんなしてリトルジョーカーを応援して。私なんかいくら努力しても舞台に出られないのに。」
「もしかして、同じクラスの音無さん?」私は心の中で呟きました。
しかし私が音無さんの名前を出したら間違いなく正体がばれると思って口にするのをやめました。
「ねえ、あなたは舞台に出られるためにどんな努力をしたの?」
「私は毎朝、他の誰よりも早く来て練習したり、放課後だってみんなが遊んでいるにも関わらず、ひたすら演奏の練習をしていた。それなのに先生は遊んでいる先輩たちを舞台に出させて真面目に練習している下級生を舞台から降ろした。」
「それ、先生や部長に話した?」
「先生は上級生の味方だから話しても無駄だと思って言わなかった。」
「なんで言う前に決めつけるの?まずは言わなきゃ。」
「リトルジョーカーには分からないよ。」
「うん、わからない。言いたいことも満足に言えない人間の気持ちなんてわからないよ。私なら先輩や部長、先生の前できちんと言いたいことを言うよ。だから、あなたもきちんと言ってごらん。言わなきゃ伝わらないから。」
その時、校舎の窓から何人かの生徒が私に便乗して叫び始めました。
「リトルジョーカーの言う通りだよ。言いたいことがあるならはっきり言いなよ。」
「そうよ!レギュラーになりたかったら、はっきり言いなよ。」
「遊んでいる上級生のことなんかチクりなよ!」
皆が口々に窓から言い出してきました。
「でも、私こんな姿になったから・・・」
「わかった。すぐにもとに戻してあげる。その代り痛いのを少しだけ我慢して頂戴ね。」
私は懐からカードを取り出して切り交ぜたあと、3枚カードを取り出してチューバの化け物にめがけて投げつけました。
「うわー!」
チューバの化け物は大きな喚き声を上げながら人間の姿へと変わっていくのを見届けました。
私はそっと近づくとやはり音無さんでした。
「そこのあなた、逃げてばかりいたら何もできないよ。今思っていることを言ってごらん。」
「ありがとう、リトルジョーカー」
私は校舎を出て近くの神社で元の姿に戻り、そのまま帰宅しました。
翌日のことです。音無さんは教員室で顧問の先生に演奏会に出せてもらうようお願いしました。
「先生、お願いします。次の定期演奏会の時に私を出させてください。」
「ああ、そのつもりでいたけど。」
「でも、先生は上級生を優先にするのでは・・・」
「ああ、あんな遊んでいる2年や3年なんか最初から出さないつもりでいたよ。」
「知っていたのですか?」
「先生が何も知らないとでも思ったのか?」
「その情報ってリトルジョーカーから?」
「何言ってんだよ。最初から知っていたに決まっているじゃん。それとな、先生も反省して今度からオーディション形式にしたよ。それなら文句はないだろ。」
「はい、ありがとうございます。」
音無さんは満足げな顔して教員室を後にしました。
学校ではリトルジョーカーが一人の生徒を救ったという話題で盛り上がっていました。
それと同時に正体を探りたがる人も出てきたのです。
4、正体がばれる?
ここ連日のように戦い続けて体力が持たなくなりました。
さらに部活も掛け持ちなので、そろそろ休みたい気分でした。
学校ではリトルジョーカーが誰なのか、探りを入れようと新聞部が動き出しました。
カメラを片手に校内、学校周辺をうろうろするようになってきました。
私は身の危険を感じるようになったので、リトルジョーカーの活動を控えようと思いました。
しかし、そんなことなどお構いなしに敵は襲ってきました。
私は仕方なしにリトルジョーカーに変身して敵と戦い、速やかに家に戻りました。
翌日のことです。
校内新聞にリトルジョーカーの記事が大きく張り出されていました。
「昨夜も児童公園にてリトルジョーカーが現れる。正体は身軽な女子高生と推測。しかし、その正体はいまだに不明。」
掲示板の周りは大勢の生徒でいっぱいでした。
「ねえ、誰だと思う?」
「身軽って言うくらいだから、新体操部じゃないの?」
「マジ?」
「おそらく、成木野か四葉あたりじゃないの?」
「身長からすれば、この2人が怪しいよね。」
この噂話は毎日のように続いていました。
「人のうわさも75日」とは言いますが、それまで活動控えるか、化け物が来ないことを祈るしかありませんでした。
しかし、そうはいきませんでした。
新聞部の増田さんはカメラをもって毎日のように私の後をつけまわす始末でした。
「何とか正体がばれないように気を付けよう。」そう思って毎日注意を払って過ごしてきました。
増田さんのお父さんは雑誌の記者なので、すぐにスクープにするのは目に見えています。
「増田さん、なんでこう毎日私の後をついてくるのですか?しかもカメラをもって。」
「あなたがリトルジョーカーであることは知っているのよ。変身するところをきっちり見届けて、それを写真に収めるの。」
「私がリトルジョーカーっていう理由でもあるの?」
「あの身のこなしはあなたしかいないじゃん。しかも、元サーカス団員、そして今は新体操部員、証拠としては充分でしょ。」
「だからと言ってこれだけでは私がリトルジョーカーという証拠にはならないよ。」
「だからこそ私はあなたが変身するところを見届けるのよ。」
増田さんは完全に私がリトルジョーカーであることにほぼ見抜いていました。
私が帰った後も増田さんはマンションの入口で待ち伏せをしていました。
その一方私が部屋に戻るとダリアが血相変えて私に戦いを求めてきました。
「ごめん、今日は無理。」
「寛子ちゃん、どうしたの?」
「クラスの人に目を付けれているから。」
「どういうこと?」
「私がリトルジョーカーであることに勘付いたみたい。」
「なら私が寛子ちゃんの代わりになってあげるから、寛子ちゃんは変身して戦ってきて。」
「そんなの、すぐにばれるに決まっているじゃん。」
ダリアは一瞬のうちに私の姿になり、声まで同じになりました。
「寛子ちゃんはベランダから出てちょうだい。私はマンションの入口で増田さんの相手をするから。」
これで一安心かと思ったが、そうはいきませんでした。
増田さんは正直納得がいかない感じでした。
なぜなら増田さんは私の替え玉にうすうす気が付いていたからなのです。
放課後増田さんは近所の公園にあるベンチに座ってカメラを眺めながらため息をついていました。
「誰かにあっと言わせる写真を撮りたいな。これで記事が出来れば一躍有名になれるのに・・・・。」
「そんなに有名になりたいのかい?ならその夢かなえてあげるよ。」
その時です。キングエビルが増田さんをカメラの化け物へと変えていきました。
公園に来た犬の散歩の人が大声で「カメラの化け物だ!」と叫びながら近くの交番へと走っていきました。
私は部屋でスマホをいじっていたらダリアが駆けつけてきて「寛子ちゃん、大変よ。今すぐリトルジョーカーに変身して。増田さんがキングエビルに支配されているの。」
「なんだって!?」
私はすぐにリトルジョーカーに変身して化け物の場所へと向かいました。
現場にはすでに警察がいて、周囲を立ち入り禁止にしていました。
「あ、君。危ないから立ち入り禁止だよ。」
「私はトランプナイト・リトルジョーカーです。」
「ご苦労様です。くれぐれもけがのないように。」
私はすぐにカメラの化け物の場所へと向かいました。
「カメラの化け物、私が相手よ!」
「誰なんだ?」
「私は愛と正義のトランプナイト・リトルジョーカー!今日の勝負の相手はあなたよ。受けて立ちなさい!」
「リトルジョーカーだと?面白い、相手になってげるわよ。覚悟しな!」
カメラの化け物は容赦なしにフラッシュの光で私に攻撃してきました。
「まぶしい!これじゃ攻撃できない。」
「さすがのリトルジョーカーもフラッシュの光には適わないか。」
「あなたが撮りたいものって何?他人のプライバシー?」
「うるさい!私がどんな写真を撮ろうと私の自由じゃないか!」
「プライバシーを侵された人間の気持ちってわかる?」
「そんなの正義の味方のあなたには関係ないでしょ?」
「プライバシーを侵してまで得た記事ってどれくらいの価値があるの?私にはわからないよ。私の正体をばらすなら、それでも構わない。でも、他の人のプライバシーを侵すのだったら、今すぐあなたを叩きのめす!」
「うるさい!」
カメラの化け物は容赦なしにフラッシュの攻撃をしてきました。
「なぜ、よける?」
「あなたが攻撃をしてくるからでしょ?」
「私だって見た人が幸せになれるような記事を作りたい。でも、みんなは他人の秘密を知りたがっている。」
「そんなに知りたいなら私の記事を書けばいいでしょ?私は1年2組、成木野寛子よ。」
「2組の寛子ちゃん?」
「これで思う存分記事が書けるはず。だから、これ以上の攻撃はやめて頂戴。」
「わかった。でも、この姿にされたから、もう記事は書けないよ。」
「なら、今すぐもとに戻してあげるね。」
私はいつものようにトランプのカードを取り出し、切り交ぜた後にカードを3枚取り出し化け物をめがけて投げつけました。
「うわー!」
カメラの化け物はたちまちもがき苦しみ、最後は元の人間に戻りました。
私は増田さんのそばに駆け寄って様子を見ました。
しばらくしてうっすらと目を開けたら私だと気が付き、起き上がりました。
「一人でも大丈夫?」
「うん、ありがとう。リトルジョーカー。」
私が去ろうとした時、増田さんは私を引き留めようとしました。
「まって、あなたの正体を教えて。」
「私は私。愛と正義のトランプナイト・リトルジョーカーよ。」
「本当のことを教えて。あなたの正体は成木野さんなんでしょ?」
「私の正体を教えたら、他人のプライバシーを記事にしないって約束できる?」
「わかった。約束する。」
私は増田さんの前で黒いゴーグルを外しましたが、彼女は写真には撮りませんでした。
「なんで写真を撮らなかったの?」
「だって、目の前で堂々と変身を解かれたら記事になんかできないよ。それにリトルジョーカーと約束したの。二度と他人のプライバシーを記事にしないって。」
その言葉を聞いて少し嬉しくなりました。
「増田さんの下の名前を教えてくれる?」
「教えてなかったっけ?」
「うん。」
「私は増田久美子。」
「改めて私はリトルジョーカーこと成木野寛子だよ。よかったら友達にならない?」
「何言っているの?私とあなたはもう友達じゃない。それにあんな大事なことを教えてくれたら、もう大親友だよ。」
私は嬉しくなって思わず増田久美子さんの体を抱きしめました。
「寛子、ちょっと苦しい。」
「あ、ごめん。増田さん。」
「私のことは久美子でいいから。」
「わかった。久美子。」
「私ね、寛子の役に立ちたいの。一応新聞部だし、情報をかき集めることは可能だから。」
「なら一人、紹介したい人がいるから、会ってくれる?」
「どんな人なの?」
「普段は見えないけど、私が呼ぶと出てきてくれるの。」
「もしかして幽霊?」
「幽霊と言うよりも、妖精にちかい存在かも。」
「妖精に近いじゃなくて、妖精なの!」
そのとたん、ダリアが現れました。
「寛子が言っていた紹介したい人って、この人?」
「うん。」
私は久美子にダリアを紹介しました。
そして私がリトルジョーカーであることを久美子に話したことも言いましたが、特に驚いた表情もありませんでした。
「増田久美子ちゃんだっけ?これからもよろしくね。」
「こちらこそ、よろしくね。私は新聞部に入っているから、情報提供なら任せてくれる?」
「ありがとう。あと、いい忘れたけど、私たちの秘密は外に漏れないように気を付けてね。」
「わかった。」
「寛子ちゃんも気を付けるんだよ。」
ダリアは少し睨み付けるような目つきで私に目を向けました。
「はい、気を付けます。」
「ダリアちゃんもそんなに責めないで。何かあったら私がフォローするから。」
「頼んだよ。」
こうして新たに秘密を共有する人が増えました。
そして次の事件が始まろうとしています。
5、小さな女の子の願い
夏休み前の放課後の出来事でした。
私と久美子は一緒に帰ることになりました。
「次の日曜日って久美子は予定どうなっているの?」
「私は駅前に行ってデジカメのメモリを買おうかなって思っている。寛子は?」
「私は愛子と一緒に新しいレオタードを見に行こうかなって思っている。」
「もうじきインターハイなんだよね。応援ついでに記事を書かせもらっていい?」
「記事期待しているから、よろしくね。」
「いい記事を書いてほしかったら、優勝目指して頑張りなよ。私だって期待しているんだから。」
「うん。」
ちょうど保育園の前を通ったら子供たちが外で遊んでいるのを見かけました。
「懐かしいなあ。」
「どうしたの?久美子。」
「私と愛子、この保育園を出たの。そのあと、小学校、中学校、高校、ずっと一緒だったの。」
「じゃあ、二人は幼馴染なんだ。」
「まあね。家も近所だし、よく遊んでいたよ。あの砂場でトンネル掘って泥んこになって親に叱られてたよ。」
久美子が思い出に浸っている時、子供たちがリトルジョーカーごっこして遊んでいました。
「私、リトルジョーカー。洋くん敵ね。陽子ちゃん人質になって。」
「歩美ちゃん、いつもリトルジョーカーの役ばかり。つまんない。洋くん、お部屋でつみ木遊びしない?」
「いいよ。」
歩美ちゃんって子はつまんなそうに、一人で遊んでいました。
でも、今の私や久美子ではどうすることもできませんでした。
次の日も、そして次の日も保育園の前を通ると、歩美ちゃんが一人つまんなそうな顔して遊んでいました。
「久美子、歩美ちゃんって子、いつも一人だよね。」
「あと気が付いたんだけど、いつもリトルジョーカーごっこで遊びたがっているよね。」
「うん。」
「あんたに憧れているんじゃない?せっかくファンが出来たんだし、会ってあげたら?」
「でも、私がリトルジョーカーだってことは秘密だから・・・」
「わざわざ打ち明けなくてもいいんだよ。どこかで変身して会ってあげて、元気づけるだけでいいと思うんだよ。」
「いきなりは、ちょっと・・・。まずは状況を確認した方がいいんじゃない?」
「どうやって?まさか、保育園に忍び込むとか?」
私と久美子がフェンス越しで会話をしていたら、ひとり大人の人がやってきました。
「増田久美子ちゃんだよね?」
「はい。」
「覚えてる?」
「あ、もしかしてキツネ組の山崎先生ですか?お久しぶりです。」
「そうそう。久しぶりだね。元気に過ごしてた?今は高校生?」
「はい。」
「どこの高校へ通っているの?」
「この近くの私立若葉女子高校に通っています。」
「本当に近くなんだね。この制服似合っているわよ。」
「ありがとうございます。先生は今はどこを受け持っているのですか?」
「今はこの保育園の園長をやっているの。愛子ちゃんとは今でも一緒に遊んでいるの?」
「はい、ずっと同じ学校でクラスも一緒です。愛子ちゃんは新体操部で私は新聞部にいます。」
「久美子ちゃん、新聞部なんだね。今度出来上がった新聞を見せてくれる?」
「わかりました。楽しみにしていてください。」
「ところで、隣にいる人は?」
「初めまして、久美子ちゃんのクラスメートの成木野寛子です。」
「もしかして成木野大サーカスの妖精って言われた人?」
「はい、でも高校受験を理由に一座を解散して父はマジシャン、母は体操教室の先生になりました。」
「そうなんだね。あのサーカスはよく見せてもらったよ。光のイリュージョンの中であなたがキラキラと光る姿はとても最高だったよ。」
「ありがとうございます。」
「サーカスをやめた後、高校で何をしているの?」
「新体操をやっています。」
「では愛子ちゃんと一緒なんだね。」
「はい。」
私と園長先生が話している時、久美子が本題へと切り出そうとしました。
「山崎先生、実はここ何日かフェンス越しで見ていましたが歩美ちゃんって子、いつも一人なんですけど・・・。」
「二人はリトルジョーカーって知っているわよね。」
「はい。」
「実はあの子、ずっとリトルジョーカーに憧れて、お友達と遊ぶとなると決まってリトルジョーカーごっこをしたがるの。だけど決まってリトルジョーカーの役をしたがるから、お友達は飽きて一緒に遊ばなくなって最後は一人になったの。両親は共働きで帰りは遅くなるの。」
「あの、余計な一言かもしれませんが、おじいさんとおばあさんに来ていただくことは難しいのですか?」
「あの子のご両親は両方とも東北出身だからそれが、難しいの。」
「そうなんですね。よかったら、歩美ちゃんとお話をしてもいいですか?」
「それは構いませんが・・・」
私と久美子は園長先生と一緒に歩みちゃんのいる部屋に入りました。
中は親の迎えを待っている子供たちでいっぱいでした。
その中で一人クレヨンで絵を描いている女の子を見かけました。
「歩美ちゃん、少しだけいいかな。このお姉さんたちが歩美ちゃんとお話をしたいんだって。」
「今、お絵かきをしているの。」
「歩美ちゃん、こんにちは。何の絵を描いているの?」
「リトルジョーカー。」
「お姉さんに見せてくれる?」
「いいよ。」
「上手。可愛く描けているね。」
「リトルジョーカーに渡したいの。」
「歩美ちゃんの絵を見たら、すごく喜ぶよ。」
「本当に?」
「当たり前じゃない。この絵、よかったらお姉さんがリトルジョーカーに渡してもいい?」
「それはダメ。私が直接わたしたいから。」
「そのほうがリトルジョーカーも喜ぶかもしれないよ。」
「本当に?」
「うん!お姉さんね、リトルジョーカーとお友達なの。だからちゃんと会ってもらえるようにお願いして上がるから。」
「本当に会わせてくれるの?」
「もちろん。」
歩美ちゃんの目は宝石のようにキラキラと輝き始めました。
「ばーか。お前のように自分のことしか考えない人がリトルジョーカーと仲良くなれるわけないだろ。」
「そこの君、女の子にいじわるを言わない。」
「はーい。」
「わかったなら『ごめんなさい』は?」
「ごめんなさい。」
「わかればよろしい。」
私と久美子が帰ろうとした瞬間、歩美ちゃんが久美子の袖をつかみました。
「どうしたの?」
「本当にリトルジョーカーに会わせてくれる?」
「うん。」
「じゃあ、今すぐ会わせて。」
「どうしたの?」
歩美ちゃんが急に泣きそうな顔をしました。
「よかったらお姉さんに教えてくれる?」
歩美ちゃんは無言で首を縦に振った後、両親のことを話しました。
「実はお父さんとお母さん、急に怖くなったの。私ね何もしてないのに・・・」
「それでしたら、児童相談所に話した方が・・・。」
「山崎先生、待ってください。歩美ちゃんの話を最後まで聞きましょう。歩美ちゃん、お父さんとお母さんが怖くなったのはいつ頃からかってわかる?」
「昨日か、その前の日くらい。」
「それまで優しかったの?」
「うん。リトルジョーカーのぬいぐるみを作ってくれたし、3人でレストランにも連れて行ってくれたよ。」
「今、お父さんとお母さんはどんな姿をしている?」
「どんな姿って言うと、お母さんはリトルジョーカーのぬいぐるみで、お父さんはフォークの姿になった。でも、昨日お迎えに来た時には普通の姿だったよ。」
「久美子、これって間違いなく・・・」
「うん。」
「歩美ちゃん、お姉さんたちがこれからリトルジョーカーにお願いをして、元のお父さんとお母さんにしてもらうように頼んでおくから。」
「本当に!?」
「うん!」
しかし、私が変身するよりも先に化け物になった歩美ちゃんの両親がやってきました。
子供たちは泣き叫び、怖がっていました。
「キングエビルめ、やってくれるじゃないの。」そう思って怒りがこみ上げてきました。
久美子と園長先生には子供たちを安全な場所へ避難させるよう指示をだし、私は誰もいない部屋でリトルジョーカーに変身しました。
しかも今回が化け物が2匹なので正直しんどいです。
「私は愛と正義のトランプナイト・リトルジョーカー!今日の勝負の相手はあなたたちよ。受けて立ちなさい!」
「リトルジョーカーだと?受けてたってやる。」
最初に攻撃してきたのはフォークの方でした。両手のフォークで容赦なしにつつき始めてきました。
私はよけるだけで精いっぱいでした。
しかも今回は敵が2匹。1匹倒しても、もう1匹が残っているから正直厄介でした。
「歩美ちゃんとの約束を守れそうにない。」そう思った瞬間、2階のテラスから子供たちの叫び声が聞こえました。
「リトルジョーカー頑張って!」
「あんな敵、さっさとやっつけろ!」
その時、歩美ちゃんの声が聞こえました。
「リトルジョーカー、お願い!お父さんとお母さんを元に戻して!」
私は子供たちの声を聴いて気合いが入り、反撃に入りました。
「歩美ちゃんが悲しんでいるから、元の姿に戻って。あゆみちゃん、ぬいぐるみもレストランも喜んでいたよ。一緒にいた幸せな時間を無駄にするの?」
「できることならそうしたい。でも、現実の厳しさに耐えきれなくなって逃げに入ってしまった。」
「私も。嫌な上司と仕事することに限界が来て、逃げたくなった。」
「じゃあ、歩美ちゃんと一緒にいた時間?それも逃げるの?」
「違う!歩美は僕たち夫婦の宝だ。」
「だったら歩美ちゃんのためにも嫌な現実に向き合って頑張ってよ。」
その時、化け物動きが納まりました。
「今よ!リトルジョーカー!」
テラスから久美子の声が聞こえましたので、私はトランプを取り出し、素早く切り交ぜカードを3枚それぞれに投げつけました。
化け物はそれぞれ大きなうめき声をあげて、元の姿に戻りました。
「みんな、もう大丈夫だよ!」
私が保育園を去ろうとした瞬間、歩美ちゃんが私のところへやってきました。
「リトルジョーカー、これ私が描いた絵なの。よかったもらってくれる?」
「これ、私に?」
「うん。」
「ありがとう。大事にするね。」
「ねえ、せっかくだし。歩美ちゃんとリトルジョーカー、一緒に写真に写らない?」
「いいの!?」
「もちろんだよ。」
久美子は用意したカメラで私と歩美ちゃんを並べてツーショットで撮りました。
「二人とももっと近寄って。あと笑顔でね。」
「あ、ズルい!お姉ちゃん、俺たちも一緒に頼むよ。」
「よし、全員まとめて撮ろう!みんな集まって!」
久美子は写真を6枚ほどとって、できあがったら保育園に届けると言いました。
歩美ちゃんは元に戻った両親と一緒に手をつないで帰りました。
「今日リトルジョーカーに私が描いた絵を渡したり、一緒に写真を撮ってくれたよ。」
「そう。よかったね。」
「今日は何が食べたい?」
「私、ハンバーグ。」
「よし、ハンバーグにしよう。」
歩美ちゃんが両親と帰った後、私と久美子も帰りました。
「寛子、いい加減変身解いた方がいいんじゃない?」
「だって、子供たちがいる前で解けることができないでしょ?」
私は誰もいない細い路地に入って元の姿に戻りました。
翌日、校内新聞でリトルジョーカーが保育園で化け物から子供たちを救った記事が載っていました。
写真は皆で写っている写真が使われました。
そして保育園ではリトルジョーカーが子供たちと一緒に写っている写真が飾られていました。
6、トランプナイト、マジックワールドへ向かう。
「今日の敵、しんどかったよ。」
「おつかれ。」
今週に入ってから3回目でした。
部屋に戻るなり体をベッドに投げ出してそのままスマホをいじっていました。
「寛子、疲れているみたいだから先に風呂に入っちゃいな。」
「わかった。」
私は疲れた体を湯船でほぐしながら軽くうたた寝をしてしまいました。
そのまま出て、パジャマに着替えて濡れた髪を乾かして今度こそは寝ようとしました。
しかし、今度は食事が出来上がったので食事をすれば少しは目が覚めると思って箸と茶碗を持ちましたが、やはり眠気には勝てず、そのままうたた寝をしてしまいました。
「寛子、大丈夫?」
「うん。」
「眠かったら寝たほうがいいよ。」
「でも、ご飯が。」
「そのまま残しておいてあげるから、今日は寝なさい。」
私は母に言われるまま、そのまま部屋で眠ってしまいました。
翌日は日曜日でしたのでゆっくり眠ろうかと思いましたが、8時に目が覚めてしまい、そのまま起きました。
半分重たい体で居間にあるテレビをつけてみたら目を疑いたくなるような報道が流れていました。
「街では化け物たちが人々を襲っています。」と報道していました。
その化け物とは言うまでもなくキングエビルに支配された人々でした。
その時、私のスマホから愛子から久美子から電話がかかってきました。
「寛子、テレビ見た?外が大変なことになっているの。」
「わかっている。でも、私一人ではどうにもならない。」
「あなたリトルジョーカーなんでしょ?」
「私だってどうにかしたいよ。でも、数が多すぎて手に負えないの。」
「ごめん、ちょっと言い過ぎた。」
「今から寛子の家に行ってもいい?うちの両親もかなりやばくなっているから。」
「わかった。気を付けてきてね。」
久美子が来るまでの間、何か策を練っていたら今度は愛子から電話が来ました。
「寛子、今うちの両親が化け物になって暴れだしているの。家にいたら危険だから寛子の家に行っていい?」
「わかった。気を付けてくるんだよ。」
私はダリアに相談してみることにしました。
「ねえ、リトルジョーカーって私一人にかなれないの?」
「リトルジョーカーって言うよりかはトランプナイトとしてなら・・・」
「実は巻き込むつもりはないんだけど、久美子と愛子をトランプナイトとして戦ってほしいと思っていたの。」
「そういうと思ったよ。」
その瞬間、ドアチャイムがなりドアを開けてみたら久美子が入ってきました。
「お邪魔します。」
「いらっしゃい。」
私は久美子を部屋に入れてトランプナイトして戦ってもらえないか頼んでみました。
「もちろん、いいにきまっているじゃん。寛子ばかりにいい役を任せるなんてズルイしね。こう見えても中学までは空手や体操教室に通っていたけど、高校に入ってから全部やめちゃった。」
「もったいない。なんで辞めたの?」
「理由としては昔住んでいた近所のお姉さんがカメラをもって撮影をしてカメラの素晴らしさに興味を持ち始めたの。最初はお父さんが持っていたカメラを使わせてもらってけど、高校の入学祝で自分用のカメラを持たせてくれて、それがきっかけで高校で新聞部に入ったの。」
「そうなんだ。ただせっかく習っていたのをやめるのは、ちょっともったいない気もする。」
「みんなそういうんだよね。でも、それが私が選んだ道だから。将来はお父さんと一緒に雑誌の記者になろうかなって思っているの。そのためにはこの状況を何とかしないとね。」
その時にまたしてもドアチャイムが鳴りましたので、私がドアを開けてみたら愛子が入ってきました。
愛子は私の部屋に入るなり、急に私に泣きついてきました。
「寛子、大変。父さんと母さんが化け物になった。外を歩いていても周りは化け物だらけ。」
「テレビで見たよ。」
「あれ?なんで久美子がいるの?」
「久美子の家も似たような状況になっているの。無事なのはうちだけど、いつまでもつか分からない。愛子、落ち着いて聞いてくれる?実はみんなの話題の種になっていたリトルジョーカーは私だったの。でも、正直私一人では限界が来ているから、久美子と愛子の力も必要となってきたの。お願い一緒に戦ってくれる?」
「私もリトルジョーカーのように戦うの?」
「うん。その前に会ってほしい人がいる。」
私はダリアを呼んで二人に変身ペンダントを渡しました。
「初めましてマジックワールドの使者、ダリアです。寛子ちゃんから聞いたと思うけど、このペンダントでトランプナイトに変身して戦ってほしいの。二人はテレビや外の様子を見て気が付いたと思うけど、人々はエビル帝国の国王、キングエビルによって化け物の姿に変えられているの。このままだと、みんなの住んでいる日本だけじゃなく、地球全体がエビル帝国の支配下にされてしまうの。急だから混乱するのも無理はないけど、寛子ちゃんだけだと限界があるの。このペンダントは二人へのプレゼントにするから。」
「要するにこのゴーグルの形をしたペンダントで変身して戦えばいいんだよね。わかった。久美子も戦ってくれるよね。」
「当たり前じゃない。」
「じゃあ、二人は『トランプナイト、メタモルフォース!』と叫んでみて。」
「わかった。」
2人は同時に叫んでみました。
久美子はハートをモチーフとしたコスチュームで、愛子はクローバーをモチーフにしたコスチュームでした。
「久美子ちゃんはリトルハート、愛子ちゃんはリトルクローバーね。」
ダリアは二人に武器の出し方や使い方も説明しました。
久美子の武器はハート型の爆弾、そして愛子はクローバーの剣でした。
「これから3人には一度マジックワールドに行ってもらうけど、ここも決して安全とは言えないから気を付けてね。」
「わかった。覚悟しておくよ。」
私はある程度の覚悟はできていましたが、いざとなると足がすくみました。
ダリアはクローゼットに大きな穴をあけました。
「この穴がマジックワールドの入口よ。この先を進むと戦いが終わるまでは元に戻れないから覚悟してね。」
「わかった。」
「ところでクローゼットに大きな穴が出来たんだけど、これは元に戻してくれるんでしょ?」
「時空の扉だから、あなたたちが通れば元の部屋になるから大丈夫だよ。」
私と久美子と愛子はダリアに続いて時空の扉の向こうへと走っていきました。
空は紫色、全体に霧がかかっていて、何だか不気味でした。
私はダリアの姿が見えないことに気が付きました。
「ダリア、どこに行ったの?」
「どうしたの?リトルジョーカー。」
「リトルハート、ダリアが見えなくなったの。」
「おそらく、うかつに姿を見せると危険だから見えなくしているんでしょ?」
「みんなごめん。しばらく消しておくね。」
「私たちはどこへ向かえばいいの?」
「とにかく、安全な場所へ向かいましょ。」
私たちはそのまま霧のかかった1本道をひたすら歩いていきました。周りは何も見えていません。
1本道の終点には小さな小屋が見えました。
「ここならだれにも見つからないから。」
私たちはダリアに続いて中に入り、そこから地下室入口が見えたので、階段で奥へを降りていきました。
当然真暗だったので、ろうそくに火をつけて小さな明かりの中で作戦を立てることにしました。
「そういえば、ここまで誰もいなかったけど、他の人たちはどうしたの?」
「街の中心に集まっている。行ってみればあなたたちが住んでいる世界の田舎ってところかな。」
「でも、誰もいませんよね。」
「廃村になっても不思議ではありませんよ。」
久美子と愛子は容赦なしに突っ込みを入れてきました。
「実は私の秘密基地なの。」
「ダリアだけの?」
「まあね。あと、時々家族と喧嘩をして一人で隠れえていることが多かったから。」
「そうだんだ。」
「ねえ、そんなことよりキングエビルを倒すことを考えたほうがいいんじゃない?」
私は思い切って切り出しました。
早く元の世界に戻して、何もかも平和になればいいと思っていました。
「そうだね。リトルジョーカーの言う通りだね。今のままだと家にも帰れないし。」
「早くキングエビルのアジトに行って決着つけたほうがいいよね。」
「でも、敵は甘くないよ。私たちが真正面から出向いたら間違いなく返り討ちにされる。」
「ならエビル帝国の人に成りすますのはどう?」
「すぐにばれるよ。」
「そうだよね。」
「なら私の時空の扉を使ってキングエビルの城にもぐりこもう。」
「どうせならキングエビルの部屋は?」
「あそこには結界があるから時空の扉が使えないの。」
「じゃあ、一番近い場所までだったら?」
「何とか行けるかも。」
一度地下室を抜けて小屋の1階の壁に時空の扉を開けてエビル帝国の城の中へと通じるようにしてくれました。
私たちはいっせいに扉の中へと入っていき、走っていきました。
どこまでも続く真暗で長いトンネル。
この暗闇になれたのか、今いる場所がだんだんわかるようになってきました。
しばらく走っていくと、薄明りの出口が見えてきました。
そして、私たちの本当の戦いが始まろうとしていました。
7、キングエビルとの決戦
出口に着くとそこはエビル帝国の城の中でした。
オレンジ色の明かりが等間隔にともされて、少し薄暗い感じに見えました。
前後を見渡すと長い通路になっていたので、どっちに向かえばいいか分かりませんでした。
前も後ろもわからない状態でした。
ここで立ち止まっていても答えが見つからないので私は明かりが壁がわにあったので、向かって右側に明かりがある方に歩いていきました。
正面の角を右に曲がった途端、鎧を着た騎士が襲ってきました。
「侵入者だ!やっちまえ!」
私たちはとっさに逃げましたが、今の私たちはトランプナイトだったので向かってくる騎士に反撃をしました。
私は高くジャンプして頭をめがけてキックをし、リトルハートは足払いをして倒し、リトルクローバーは思い切って背負い投げをしました。
「とにかく急ごう。」
「うん。」
私たちは駆け足でキングエビルの部屋に向かいました。
左右に部屋の扉があり、どっちかに階段があると判断しました。
私は思い切って右側の扉を開けました。
らせん状に続く長い階段でした。
これを上がれば間違いなくキングエビルの部屋にたどり着ける。そう思った自分がバカでした。
上の方から騎士がやってきました。
もはや生きるか死ぬかの2択になりました。
「この侵入者を始末しろ!」
「みんな行くわよ。」
「うん!」
3人で戦ったけど、場所が階段だったので、1つ間違えたら間違いなく転落しても不思議ではない状態でした。
敵は容赦なしに剣を振りかざしてくるのでよけるのに精いっぱいでした。
愛子はクローバーの剣を取り出し、久美子はハートの爆弾を投げつけてきました。
「リトルハート、ここで爆弾を使ったら階段が崩れる。」
私はとっさに久美子の攻撃をやめさせました。
「じゃあ、どうしたらいいの?このままだと私たちやられるんだよ。」
「私が阻止する。リトルハートはリトルクローバーと一緒に逃げて。すぐに追いつくから。」
「わかった。この言葉信じるよ。」
私は2人を先に行かせて残った騎士をやっつけることにしました。
その時、後ろから2人がやってきて手伝ってくれました。
「なんで、行かなかったの?」
「そのまま『はい、わかりました』とでもいうと思ったの?」
「リトルジョーカーにだけいいところをもっていかせないから。」
残りの騎士を倒した後、階段の頂上へと上がっていきました。
階段の出口は再び長い廊下でした。
どうやら簡単には行かせてもらえそうにもないと判断しました。
奥の扉へと向かうと最後の2人の騎士が入り口で構えていました。
「ここから先はキングエビル様のお部屋だ部外者の侵入を硬くお断りする。」
「悪いけど通らせてもらうよ。」
「力づくなら我々を倒してからにしてもらうよ。」
私たちは騎士たちに攻撃をしましたが、なかなか攻撃が効きませんでした。
「この程度で私どもを倒せるとでも思ったのか?嬢ちゃんたち。」
久美子は懐からハートの爆弾を用意して投げつけました。
騎士たちはとっさに逃げようとしましたが、その時は手遅れで廊下の外れまで吹き飛ばされました。
「この爆弾、すごい威力なんだね。あとで記事にしようっと。」
「無事戻れたらね。とにかく中へ入りましょ。」
私たちはついにキングエビルの部屋に入りました。
そこにいたのは紛れもなくキングエビルで黒い大きなマント、角のついた大きな金の兜の姿でした。
「誰だ!?」
「私は愛と正義のトランプナイト・リトルジョーカー!今日の勝負の相手はあなたよ。受けて立ちなさい!」
「同じく、トランプナイト・リトルハート!あなたの命をもらいにきたわ。」
「私はトランプナイト・リトルクローバー!大人しく覚悟なさい!」
「トランプナイトだと?笑わせるな。お前たちなど一瞬に粉々にしてくれるわ。」
「キングエビル、私たちの仲間を元に戻してもらうからね。」
リトルクローバーの怒りは頂点に達していました。
新体操で鍛えられた身のこなしでキングエビルに接近してパンチやキックを入れました。
しかし、キングエビルは余裕の笑みを見せてきました。
「お前の攻撃はこの程度か。笑わせるな!」
「リトルクローバー、どいて。私の番だよ。」
「リトルハート・・・」
「この化け物、スクープにできないのが残念だけどね。」
「何をごちゃごちゃ言っている!」
リトルハートは空手技で攻撃しましたら、まったく歯が立たない状態でしたので、今度はハートの爆弾を投げつけてきましたが、今度は効き目が出たようでした。
「おのれ、小しゃくな。」
キングエビルから余裕がなくなり始めてきました。
兜は粉々になり、マントはボロボロになりました。
兜を外したらその姿は豚の化け物の姿をしていました。
私は天井につるされているバーにぶら下がって、勢いよくキックを入れました。
キングエビルはよろめいて倒れました。
「今だよ!」
私は2人にとどめを刺すよう、目で合図をしたあと、私はトランプのカード、リトルハートはハートの爆弾、リトルクローバーはクローバーの剣でとどめを刺しました。
キングエビルは大きなうめき声をあげて、そのまま消滅しました。
それと同時に城が崩れ始める音がしました。
「ダリア、早く扉を開けて。」
「ダメ。さっきも言ったようにキングエビルの部屋には結界が貼られているから無理。とにかく部屋から出て。」
私たちは急いでキングエビルの部屋から出ました。長い廊下には大きな振動が伝わってきて、今崩れてもおかしくない状態でいました。
「ダリア、もういいでしょ?早く開けて。」
廊下の突き当りでダリアは大きな扉を開けました。急いで中に入ると再び真暗なトンネルでした。振動が伝わってこないところを見ると、もうお城の外なのか、それともまだ城の中なのかはわかりませんでした。
たどり着いた出口は私たちの近所の神社でした。
外はもう夕暮れ時でした。
周りを見渡すと人々は元の生活に戻っていたようでしたので安心しました。
「じゃあ、変身解こうか。」
私が言いだしたら、リトルハートが「せっかくだし3人で記念撮影してからにしない?」と言い出しました。
「いいね。」
「じゃあ、みんな寄って。」
3人で写った後、ピンの写真を一人ずつ撮りました。
「じゃあ、今度こそ変身を解こうか。」
「うん!」
3人でいっせいにゴーグルを外しました。
元の姿に戻って帰宅してみると、なんでもない平凡な日々が始まりました。
あれから何日か経って、3人集まって変身しようとしましたが、できなくなりました。
もう役目を終えたので、ただのペンダントになってしまいました。
ダリアはと言いますと、マジックワールドに帰ってしまい、向こうで平和に暮らしているそうです。
私と愛子は新体操のインターハイに向けて先輩に怒鳴られながら猛練習です。
久美子は記事のネタ探しで校内や校外を走り回る日々を過ごしていました。
2学期が始まった最初の月曜日、校内新聞で新体操の話題が出ていました。
「若葉女子、初のインターハイ優勝」という記事が出ていました。
私や愛子はサインを求められるようになりました。
おわり
皆さん、今回も最後まで読んでいただき、本当にありがとうございます。
さて今回は初めて変身をヒロインを書いてみました。
変身ヒロインといえば、せーラームーンやプリキュアが有名です。
しかし、この2つの作品と大きく違うのは主人公が化け物に説得してから、とどめを刺すところなんです。
次回はどんな作品を書くかは未定ですが、皆さんに喜んでもらえそうな作品を書いてみたいと思っています。