6話 二人暮らし
「すっきりした部屋なんですね。」
「ノゾミちゃんの部屋と比べるとそうかもね。」
ノゾミはヒロコの部屋に入ると驚いたような表情をした。
ヒロコの部屋はきれいに整えられているというよりも、無機質だった。
部屋の中には、趣味や嗜好を感じられるようなものは少なく
唯一ベッドの上にノゾミがプレゼントしたぬいぐるみが置いてあるくらいだった。
ノゾミはそのぬいぐるみを見つめる。
「ノノちゃん、大切にしてくれてるんですね。」
「うん、ノノちゃんは眠るときに時々抱いてる。」
「ふふっ、それは嬉しいです。」
ノゾミは笑みを浮かべた。
その表情を見て、ヒロコは何かノゾミを抱きしめたくなった。
ヒロコは気を逸らそうと、ノゾミから顔を背ける。
「ベッドは一つしかないから申し訳ないけど、訪問客用の布団を使ってくれる?」
「はい、ありがとうございます。」
ノゾミの承諾を得ると、ヒロコは、クローゼットから布団を取り出し、
ベッドのすぐそばに敷こうとして、ふと手を止める。
「もっと離したほうが良かったりする?」
ヒロコがそう言うと、ノゾミは首を大きく振る。
「そんな、近くで大丈夫です。何なら、同じベッドでも。」
ポッと頬を染めて、ノゾミに言われ、ヒロコは混乱しそうになるが、平静を保ち聞き流す。
「そう。それならそばにお布団敷くね。」
「……はい。」
残念そうにノゾミは答えた。
その後、二人は別々にお風呂に入り、着替え、次の日支度をした。
ノゾミはヒロコの部屋にも慣れてきたのか、落ち着いた表情をするようになっていた。
そして、就寝時間になった。
ヒロコはベッドに、ノゾミは布団に入る。
照明を消すと、部屋は暗くなった。
暗くなってからも、ヒロコはノゾミのことが気になり、様子を伺っていたが、ノゾミは静かで眠ったようだった。
ヒロコはノゾミが眠りについたことに、ホッとして自身も眠りにつこうとした。
「ヒロコさん、まだ起きてますか?」
静かにノゾミの声が聞こえた。
「……。うん、起きてるよ。」
「ヒロコさんとても恥ずかしいお願い聞いてもらっていいですか?」
「……それってどんなお願い?」
「あの私、今日のことまだすごく興奮しているみたいで眠れないんです。」
「うん、まあそうだよね。」
「それで、あのヒロコさんを抱きしめてもいいですか?」
「え?」
ヒロコがそう答えると、ノゾミが上半身を起こし、二人の目は会う。
暗かったので表情はよく見えなかったが、ノゾミは顔を赤くしているようだった。
「私、いつもぬいぐるみを抱いて寝ていて、ぬいぐるみがあんなことになって……。クスン。」
ノゾミはそういうと、悲しそうな表情をしているようだった。
ヒロコは自身が持っていたノノちゃんをそっと差し出す。
「いいよ、これ使って。」
ノゾミは差し出されたぬいぐるみを受け取ろうとはせず、首を振り駄々をこねる。
「ノノちゃんじゃためで、ヒロちゃんがいいんです。」
「ヒロちゃんって。」
ヒロコは正直なところ、提案に嬉しい面があったが、流石にお隣さんと添い寝するってどうなのかと、冷静に思っていた。
しかし、ノゾミのことを妹っぽいと思ってたし、ノゾミもヒロコのことを姉と思っているのではと思った。
それならば、
「もうしょうがないなぁ。いいよ。ノゾミちゃんもベッドに入りな。」
そう言うとヒロコは後ろに下がりノゾミをベッドに招く。
「やった。」
ノゾミはそういうといなやベッドに潜り込む。
そして、ノゾミはヒロコにくっつくようにぎゅっと抱きつく。
ノゾミの体は暖かく、ヒロコの使うシャンプーとは違う何かいい香りがして、ヒロコはノゾミのことを意識してしまう。
しかし、ノゾミちゃんは妹ぬいぐるみ、妹ぬいぐるみと唱え、ヒロコもノゾミを抱きしめる。
二人は抱きしめあっているうちに、落ち着いていき、しばらくして共に眠りに落ちた。
その夜二人は、それぞれ楽しい夢を見た。
次の日の朝になった。
ヒロコは自身の左腕が完全に麻痺していることに驚きながら目を覚ました。
安らかに眠っているノゾミを起こさないようにしながら、必死になって腕を引き抜く。
腕に生気(血液)が戻ることを確認するとほっとし、ノゾミを見つめる。
ノゾミは子供のように、ヒロコのそばで可愛らしい寝顔をしながら眠っていた。
「ふふ。」
ヒロコはノゾミの可愛らしさに微笑ましく思った。
そして、ヒロコはしばらくノゾミの寝顔を堪能した。
「ふにゃあ?」
ノゾミは目を覚ますと、不思議そうな表情をしてヒロコを見る。
「おはよう。」
「……おはようございます?」
ヒロコが挨拶するとノゾミはぼんやりとしながら挨拶を返す。
どうもノゾミは朝に弱いようだった。
そんなノゾミが可愛らしく、気づけばヒロコはノゾミを抱きしめた。
ノゾミも静かに抱きしめ返す。
そんな朝だった。