5話 事後処理
ノゾミの住む部屋で、火事が発生し、ヒロコはノゾミの部屋に突入した。
火は幸いにも、初期消火の段階で食い止めることができたのだった。
その後、消防隊員が駆けつけ、部屋の中の火は完全に消し止められていることを確認した。
ヒロコはノゾミから出火状況を聞き出し、代わりに消防隊員に状況を説明する。
火災元は鍋の油を熱し過ぎ、火柱が上がり、周りに燃え広がったことが原因だった。
火柱が上がった際に、火を止めていればよかったのだが、
ノゾミは火柱に驚き、混乱し、火を止めるのではなく、火を強めるほうにノブを回してしまい、それで火柱はさらに高く上がり炎が飛び散ったのだった。
このときにノゾミは驚き悲鳴を上げ、隣人のヒロコが気付き、飛び込んで適切な消火活動を実施したために、運良く火の広がりは最小限に抑えられたのであった。
ヒロコが説明している間、ノゾミはヒロコと腕を掴み、後ろに小さくくっつくように話を聞いていた。
そんな様子のノゾミを見て、ヒロコはノゾミのことを放っておけなかった。
ヒロコも火事対応は初めての経験であったが、ノゾミの代わりに火災保険会社、マンション管理会社に連絡をし、状況説明をした。
そして、幸いにも、火災保険で修繕費は賄えることになった。
ただ、部屋の修繕には最短でも一ヶ月必要ということだった。
消防隊員など関係者、周りの住人が去っていった後、部屋の中をノゾミとヒロコは見て回る。
部屋の中は全体的に焦げ臭く、消火器の粉も相まって、とても快適に過ごせる状況には見えなかった。
ダイニングは黒ずんでいて、料理をできる状態ではなかった。
リビングに続く廊下も黒ずんでいるところがあり、焦げ臭い匂いが漂っていた。
ベッドは黒焦げで、ノゾミが大事にしていたであろうぬいぐるみも黒く焦げていた。
「仕方ないですよね。私がバカしちゃったばっかりに……。」
ノゾミは目に涙を浮かべ、悲しそうに言った。
「仕方ないよ。被害が小さくて、ノゾミちゃんも無事なんだから、次気をつけたら大丈夫だから。」
「ヒロコさんはやさしいです。」
ノゾミはもたれかかるようにヒロコに体を預ける。
ヒロコは、精神的に弱っているノゾミに同情するととともに守ってあげたかった。
「ノゾミちゃんは、修繕中もここに住むの?」
「……。はい。実家は遠いし、ホテルも高くて何日もは無理だし。焦げ臭いし、眠るところはないけどここで過ごすしかないです。」
「そう……。」
ヒロコは言うべきかどうか迷った。
しかし、勇気を出してノゾミに向き合う。
「ノゾミちゃん、もしよかったら、私の部屋に泊まる?」
「え?でも、そんな、部屋に泊まらせてもらうなんて……。本当にいいんですか?」
「うん。この部屋居心地悪そうだし、なんかノゾミちゃんのことほっておけないし。もしよかったらと思って。」
「嬉しいです。でも私そんなお返しもできないですよ。」
ノゾミは寂しそうに冷めた笑みを浮かべる。
「別にそういうんじゃないから。ただ単に心配なだけ。ノゾミちゃんって妹みたいなところあるから。」
「妹ですか。」
ノゾミは照れたような表情をして俯く。
「あ、そうだ。もし気になるなら、夕ご飯は作ってほしいかな。」
「夕ご飯ですか。でも、私火事を起こしちゃうかもしれないし。」
ノゾミはその日の出来事を後悔しているのか、悲しい表情をした。
ヒロコはノゾミの肩に触れる。
「そんなこと言わないで。ノゾミちゃんは一回失敗したかもしれないけど、失敗して学んだのだから大丈夫。火元に気をつければ大丈夫。」
「ヒロコさん。」
「何より、私、ノゾミちゃんの料理好きだし。」
「ヒロコさん!」
ノゾミはヒロコに抱きつく。
ヒロコはノゾミに腰に手を回され、胸に顔を当てられて、驚き、心臓が高鳴った。
「私も、ヒロコさんの部屋に泊まりたいです。料理もまたしますね。」
「うん。」
ヒロコも震える手で、ノゾミを抱きしめ返す。
ノゾミの体は華奢で細かったが、ぬいぐるみと違って暖かかった。
その日から、二人は一緒にヒロコの部屋で住むことになった。