4話 事件発生
ヒロコとノゾミは、一緒に夕食を取ってから、週に1,2回くらいの頻度で夕食会をすることになった。
ヒロコが帰宅する時間になると、ノゾミがヒロコの部屋をノックして誘ってくれるのであった。
夕食会は、主にノゾミの部屋で行われることが多かったが、時々は外食に行くこともあった。
その場合は、いつものお返しにと、ヒロコが全額を支払うようにしていた。
ノゾミは、どんな場所であれ、よく食べ、よく笑った。
ヒロコには妹はいなかったが、ノゾミを見ていると歳の離れた妹を見るような気持ちになり、二人は一緒にいることを楽しんだ。
ノゾミは、料理することが好きで、夕食会では色々な料理を披露してくれた。
定番料理以外にも、様々な国の料理を作る練習をしているようだった。
ヒロコは油を多く取ることは控えたいお年頃ではあったが、
ノゾミは若く、脂っこいものもぺろりと食べるので、最近は鉄鍋を新調し、油を使った料理にハマっているようだった。
そんなある日、ヒロコは疲れて帰宅し、家でぼんやりと休息していた。
頭の中にその日した仕事の内容を思い出し、明日にしないといけないことを考えていた。
「ぅわわああ」
隣のノゾミの部屋から悲鳴のような声が聞こえた。
ヒロコすぐさま立ち上がり、勢いよく自身の部屋を飛び出し、ノゾミの部屋の扉を開ける。
部屋の入り口にはロックは掛かっておらず、扉が開いた。
ノゾミは台所で戸惑ってお尻をつき座り込んでいて、目を大きく見開き、驚いて動けないようだった。
そして、目の前のコンロから炎が上がっていた。
さらにはリビングのベッドまで火は広がっているように見えた。
ヒロコはノゾミに駆け寄ると、ノゾミは怯え泣きそうな目でヒロコを見つめる。
「大丈夫。」
ヒロコは自身を落ち着けるとためにも、落ち着いた声を出す。
そして、深呼吸するとノゾミの体に手を回し、抱え上げようとする。
火事場の馬鹿力という言葉の通り、ヒロコの体には力が漲り、ノゾミを持ち上げると、
部屋の外に連れ出す。
外に連れ出すと、自身の携帯電話に119番をかけ、ノゾミに携帯電話を手渡す。
「ノゾミちゃん、消防車を呼んで。」
ノゾミが携帯電話を受け取ると、ヒロコは玄関口にある消火器を手にとる。
消火器の安全ピンを引き抜き、ホースを燃え盛る炎の方に向け、レバーを握る。
ホースから白い煙が勢いよく噴出され、炎にふりかかる。
消化器の威力は強く、すぐに火元のコンロ上の火は消化される。
そして、すぐにコンロのガスの元栓を閉める。
台所内の炎が消化されたことを確認すると、次にリビングに飛び込む。
リビングからも炎は上がっていた。
しかし、幸いにも部屋の中のカーテンや壁紙、カーペットは防炎品になっていたようで、火は周っていなかった。
その中で燃えている衣類、ぬいぐるみ、ベッドに向けて消化器を当てていく。
部屋中に白い煙が上がるにつれて、リビングの中の火は収まっていった。
そして、最後にベッドの火を消し止めると、消防車のサイレン音が聞こえてきた。
火が治ったことを確認し、ヒロコが部屋から出ると、付近の住人が心配そうな表情で集まっていた。
その中で、ノゾミが小さく縮こまって震えていた。
ヒロコはノゾミに近寄ると、肩に手をかける。
ノゾミは怯えるような表情で、ヒロコを見る。
「部屋の修繕はしないといけないと思けど、火は収まったからもう大丈夫。ノゾミちゃん、怪我はない?」
「ぅ、うわわぁん。」
ノゾミはヒロコに飛びつくように抱きつく。
ノゾミは泣いていた。
ヒロコはノゾミを抱きしめ、落ち着かせるように頭を撫でた。