1話 出会い
都内には様々な形のマンションが、様々な場所に建っている。
マンションの形はそれぞれで異なり、同じような形をしているマンションもあるが、マンションの中から見える景色は千差万別、同じものはない。
そんなマンションの中の一つのこじんまりした賃貸マンションでの話。
その日、夜遅くに疲れた顔の女性がオートロックの扉を開け、扉のそばのエレベータに乗ろうとした。
疲れた表情ではあったが、黒髪のショートボブの髪をきちんと整え、スーツもキチッと着用していて、若く元気があるように見える。
女性の名前は、ヒロコと言う。
ヒロコは大学を卒業し、今いる会社に入社してから数年が経っていた。
会社の仕事には慣れてきていたが、タスクをこなした分、さらに作業が与えられることになり、帰宅はいつも夜遅く毎日疲労していた。
そして、その日も疲れた表情で、開いているエレベータの中に入ろうとする。
すると、エレベータの中には先客がいた。
茶色がかった長めのツインテールのスリムで小柄な少女だった。
顔つきは幼い可愛らしさがあり、その様子から大学生か下手をすると高校生くらいに見える。
少なくとも誰が見ても、その少女は、疲れ顔のヒロコよりは、若く見えた。
「こんばんわ。」
礼儀正しい様子の女の子は、柔らかく、透き通るような声で挨拶する。
ヒロコがエレーベータの中に入ろうとしていることに気づくと、後ろに下り、ヒロコが入れるようにしてくれる。
「こんばんわ。」
一方でヒロコは、素っ気なく挨拶を返す。
そして、エレベータのボタンを押そうとして、押す必要がないことを知る。
すでにその階は押されていたからだ。
二人は同じ階の住人だった。
エレベータが、沈黙する二人を乗せて登っていく。
少しの間ではあるが、何か気まずい雰囲気が中に漂う。
ノゾミから、ほのかに女の子の優しい匂いが背後からして、ヒロコは心地よくなった気がした。
そして、目的の階に着くと、ヒロコはエレベータを出て、振り返ることもなく、自身の住む部屋に入る。
靴を脱ぎ部屋の中に入ると、隣の部屋の扉が閉まる音がした。
少女はヒロコのお隣さんだったのだ。