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10話 焦げたぬいぐるみ

ノゾミは、森本と一緒にいるとき、姉のように頼りになる森本のことが好きだった。

そんな森本に押し倒された時に恐怖を感じた。

森本から、姉妹のそれとは違う強い感情を感じたからだった。

ノゾミにはそれを受け入れることはできなかった。


森本の近くにいることに居心地の悪さを感じ、勢いでそのマンションを出て、今のマンションに引っ越した。

新しい場所では、隣人には関わらないようにしようと思い、日々を過ごした。

しかし、出会ってしまった。

その日、ノゾミが近くのスーパーで食材を買った帰り、エレベータの中に入ると、唐突に女性が入ってきた。

黒髪のショートボブで、疲れた顔をしていたが、目には力があって精悍さを感じた。

スーツも子綺麗で何か大人っぽいいい香りがした。

さらに、その女性はノゾミが住む部屋の隣だった。

ノゾミの心は気づけばなぜか踊ってしまっていた。


その夜の出会いは、一人が寂しかったのだろうと思い、ノゾミは出会ったことを忘れることにした。

しかし、次の日の朝にも偶然、その女性に出会ってしまった。

女性は、とても綺麗にしていて、ピチッとスーツを着こなして、髪もキチッとセットされていた。

ノゾミは憧れた。仲良くなりたいと思ってしまったのだ。


ところが、そう思っていたものの、その後1週間は会うことができなかった。

隣の部屋の生活音から、お隣さんは仕事が忙しく、帰宅する時間が遅いことがわかってきていた。

ノゾミは、なんとしてでも会いたかった。

そこで思案し、森本のように行動することにした。


その日、ノゾミは夜に近くのスーパーで買い物をし、その買い物袋を持ったまま、マンションのオートロック前でお隣さんを待ち続けたのだ。

途中、マンションの他の住人が不思議そうにノゾミを見て通っていくのを横目に、ノゾミは待ち続けた。

あの人が来るまでなら、何時間でも待つ、と。


「こんばんわ。」

そう声をかけられた時、ノゾミの胸は強く高鳴った。


エレベータに乗り、仲良くなるために、なんとか会話しようとした。

しかし、混乱して何を言うべきか忘れてしまっていた。

お隣さんは疲れているようで、素っ気なくもあり、心が挫けそうになった。

そして、気づいたら部屋の前まで来て、お隣さんも部屋に入ろうとする。


ノゾミは、今まで生きてきて中で最大の勇気を出した。

「あの!!ご飯って今日食べられましたか?」

その時のお隣さんの表情は戸惑っていた。

ノゾミはさらに勇気を出した。

そして、その勇気は報われた。ノゾミは嬉しかった。


二人で初めて一緒に食べる夕ご飯はハンバーグにした。

そしてノゾミは、前もって用意していたぬいぐるみをヒロコに手渡した。

森本がノゾミにモモというぬいぐるみを手渡したように、ノゾミも好きな人にプレゼントすることにしたのだ。

ぬいぐるみの名前はノノにした。ノノとはノゾミ自身の名前から取っていた。

ノゾミは、ヒロコがノノを自身と重ねて抱きしめてくれることを祈った。


何が効いたのかはわからなかったが、その日から、時々、ノゾミとヒロコは一緒に夕ご飯を食べるようになった。

ヒロコはノゾミのことを気に入ってくれているようで、ノゾミは嬉しかった。


ノゾミはヒロコと一緒にいることが楽しかった。

ヒロコのことを思い浮かべるとそれだけで幸せになれた。


そんな中、火事が起こった。いや起こしてしまった。

火が広がっていく様を怖くて見ていることしかできかなった。


そこに王子様のように颯爽と現れたのだ。

ノゾミを抱きかかえ、救出してくれる人が。

そして、困っているノゾミに手助けしてくれる人が。

ノゾミはヒロコに感謝すると共に、自身の本当の気持ちを知った気がした。


ノゾミは、初めてヒロコに会ったときのことを思い出す。

ヒロコの姿に心が惹かれ、それは一目惚れだったと、自覚する。

そのとき、ノゾミはヒロコ仲良くなりたいと思っていた。

しかし、今はさらに深い仲になりたいと言う自身の気持ちに戸惑っていた。

ヒロコがノゾミに感じているであろうものとは、それとは違っているように思えた。


ノゾミは、ヒロコの部屋を飛び出て、久しぶりに自身の部屋に戻ったときに、

モモちゃんと呼んでいた焦げたぬいぐるみを見つけた。

森本からもらったぬいぐるみで、彼女との思い出がつまっていたはずのぬいぐるみ。

火で焦げるだけでなく、ヒロコに対しての恋で、思い出まで焦がれてしまったぬいぐるみ。

ノゾミは、もう必要ないと、ゴミ袋に詰めた。


ヒロコの部屋を出てしばらくしたある日、ノゾミは学校が終わり、歩いてマンションに向かう。

火事から修繕され住みやすくなってはいたが、寂しい部屋に帰るのだ。

この時間であれば、ヒロコとは会うことはない。今もヒロコは懸命に仕事をしていることだろう。

ノゾミは何をしてもヒロコのことを思い出してしまっていた。

しかし、ヒロコに会ったとして、どういう関係でいるのが、一番いいのかがわからなかった。


「ノゾミちゃん、待ってた。」


ノゾミは声をかけられ驚いて顔を上げると、マンション前にヒロコがいた。

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