9話 開いた穴
ノゾミが自身の部屋に戻ってしばらく経つと、ノゾミの部屋の修繕も完了したようだった。
もう、ヒロコとノゾミが同じ部屋に住む理由もなくなったのだ。
ヒロコが家に帰宅すると、暗い玄関と冷蔵庫にはいつ買ったかも覚えていない冷めた食材が置かれていた。
仕事で疲れたか体で、料理する気力も湧かないので、外食が増えていき、食材を買っても無駄にしていた。
ヒロコの以前の日常に戻ったようだった。
ヒロコは会社の近くにある公園で、ぼんやりと空を見上げていた。
仕事に集中しないといけない状況ではあったが、集中できなかったので、気分転換に休憩していたのだった。
以前なら、集中しないといけないときには、集中できていたが、今のヒロコにはできなかった。
ヒロコは空を見上げながら、ノゾミとの日々を思い出していた。
ノゾミの料理は美味しかった。
ノゾミは家に帰ると、暖かく迎え入れてくれた。
二人で楽しく話した。
一緒に眠った。
抱きしめると暖かかった。
以前のヒロコとは違い、今のヒロコにはぽっかり穴が開いていた。
ヒロコは目を閉じ、ノゾミのことを思い浮かべる。
優しい表情で可愛らしく、美しいノゾミ。
天使のような笑顔。暖かな体。
ヒロコは目を開き、立ち上がる。
そして、その日午後休みを取り、会社を出た。




