第96話
アルベルト視点です。
ハルキ様とマユを見送り、俺、アルベルト・ノーマンは北の砦から来る軍勢に対していた。
「どうなされたのか?我ら騎士団に連絡なくこのように軍勢を率いて来られると民が困惑する。説明を求める!」
軍勢の中から一人の魔人がこちらに向かって歩みを進めてきた。
「これはこれはアルベルト騎士団長、我らは部外者が侵入したようなので、警戒に当たっているのですよ。あなた方騎士団が無能だから私どもが出る羽目になるのです。部外者の侵入を許したあなた方に許可を取る必要があるとは思えませんがね。」
この魔人の名はコルネウス・ミューラー。北の砦のNO.2であり、実質のトップといったところだ。霊獣は操られているので、王命には従うが、指示を出すことには向いていない。魔力量はそれなりで、権力をうまく使うことに長けているが単体の攻撃力という点においては大したことはない。カエルによく似た魔人である。
下卑た笑みでこちらの様子を伺う姿は、男の俺から見ても気持ち悪い。ソラなんかは嫌悪感丸出しで、鎧の隙間から見える素肌には鳥肌が見て取れるほどである。
「部外者を確認されたのですか?どれくらいの兵力で来たのでしょう?」
俺はハルキ様のことを知らない艇でカエルに、いやコルネウスに話しかける。
「それが分からないから調査してるのですよ。」
コルネウスはさも当然な口ぶりである。ただ、確認できてもいないのに部外者の侵入を確信し、こちらに嫌味を言うのは何かしらの根拠があるのではないかと思ったのだが、彼は一言だけ答えた。
「私の勘がそう告げているんですよ。」
「コルネウス殿、申し訳ないがあなたの勘と言う根拠のないもので、我々を無能扱いとは言ってくれるではないか。あなたごときの勘で動かされる兵や我々のことを考えて行動していただきたいものだな。まあ、その小さな頭ではそこまでは難しいか。」
精一杯の嫌味を込め、我ら騎士団に対する侮辱行為を非難する。まあ、ハルキ様の侵入を許しているので、間違いはないのだが、このカエルには何度も煮え湯を飲まされているので、意趣返しといったところか。
「ぐぬぬぬぬっ!獣人風情が言ってくれるではないか!魔人と獣人の力関係をもう一度分からせる必要があるみたいだな!」
ちょっと挑発が過ぎたのかもしれない。こちらの手勢は俺とソラとシドのみ。少し離れたところに待機させてる兵がいるが、とても魔人勢100名を相手にするには心許ない。
「コルネウス殿、何をそんなに興奮しているのか?あなたが今やらなければならないのは部外者がいるかどうかの確認であって我らに危害を加えることではないはずだ。それとも私とやり合うおつもりか?100名の魔人相手に勝てるとは思わないが、貴殿を道連れにできるだけの力はあると自負しているが、本気か?」
少しの威圧を込めて、引かない姿勢を見せるとコルネウスは悔しそうな表情を見せて後ずさった。
「王都周辺は我らが警戒しよう。コルネウス殿は他の警戒に当たってもらいたい。それでよろしかろう?」
コルネウスたちは渋々その場を離れていった。それを見送った後、ソラとシドは腰砕けの様子でその場に座り込んでしまった。
「団長、心臓に悪いので程々にしてください。団長はまだしも俺たちがやったら間違いなく殺されます。舐められたくない気持ちはわかりますがね。」
シドは優秀な部下だ。戦闘力も俺に劣っているわけではないのだが、どうにも魔人を恐すぎる傾向がある。そこだけが副団長に甘んじている彼の唯一の欠点といってもいい。
「シド、あなたの前にいるのは団長ですよ。心配などしなくても団長がなんとかしてくれます!あなたは団長があんなカエルにいいようにされるとでも思ってるのですか?もしそんなことをかすかにでも思っているなら言いなさい。私があなたを殺してあげますから。」
穏やかな笑顔を浮かべながらソラはシドに対して発言する。
ソラも女性で副団長を任されているだけあってシドに勝るとも劣らない才能がある。ただし、なぜか俺を神聖視している部分があるようで、狂信者のそれに見える時がある。たまに褒めるとだらしない笑顔になるし、怒れば体をモジモジしだすし正直苦手だ。俺は妻も子供も守れなかったどうしようもない奴だ。神聖視するのはやめてほしい。
「ソラ、それくらいにしておけ。シドもあまり魔人を恐れるな。お前には倒せるだけの力がある。自信を持て。」
俺だって我が娘、ミアとの再会を果たしたばかりなのだ。軽々しく死ぬことなど考えない。俺はこの戦いをハルキ様と乗り切り、ミア、今はマユリという名らしいが、彼女と一緒に過ごせる未来のために戦うつもりだ。
「さて、では王都周辺を我らで警護する。邪魔者は極力配慮だ。住人にはなるべく表に出ないように通達するように。」
騎士団と合流を果たし、各隊に指示を与えて散らせた。俺の側にいるのは第1騎士団、フォレスト王国の精鋭であり、シドとソラを抜けば獣人最強の軍団である。
俺がいるのは王都と北の砦を結んだ地点。また奴が戻ってくるとも限らないので、1番厄介なポジションであると思い、俺が残ることにした。
先ほど奴と相対した場所から扇状に広がって魔人は立ち去っていたが、奴らはたまたまなのかそれとも故意にかわからないが、広がっていくスピードが違った。
向かって右側の魔人どもはゆっくりと進んでいて、逆に左側の魔人どもは猛スピードで駆け出していた。魔人でも人によって、捉える答えによって差が出るのだな、と迂闊にも見るだけになってしまった。
魔人の不可思議な行動に対した疑問を持たずに王都の警戒を続けていたが、危険だったのは王都でなく、俺自身だったようだ。
気付いた時にはすでに我ら第1騎士団は魔人どもに囲まれていてすでに逃げ出せない状況が作られてしまっていた。




