第83話
今週も平日は更新難しそうです。なので今回はいつもよりちょっとだけ長めにしてみました。
「これより世界会議を開催いたします。火急の呼びかけであったにもかかわらず、多くの国に参加いただけたこと大変嬉しく思います。」
アストラムやサジタリアを始め、ピスケス王国、サジタリアの隣国、アトラス帝国と言った強国、そして東方のライブラ共和国まで参加し、世界の主要国のほとんどが参加していた。不参加は内戦が続いている小国と魔人の巣窟になりつつある元フォレスト王国だ。『元』とついているのは調査で魔人が支配している国となっているのだが、魔人が国名を発表してもいないので便宜上元フォレスト王国としている。
「お集まりいただいた皆様にご紹介したい方がおりますので、お時間を頂戴いたします。」
ナナの呼びかけに応え、俺とハイドとミツキが会議場の扉を開け、ナナの隣に立つ。
「ご存知の方もいらっしゃると思いますが、今回の議題である世界連合の指揮を任せます、我が国のハートランド・バーナー伯爵、又の名をSランク冒険者のハルキ。そしてその隣は魔人に滅ぼされてしまったフォレスト王国王太子ハイド・フォン・フォレストとミツキ・フォン・フォレストです。」
「んなっ!!」
ナナの紹介を受け俺たちは一礼したのだが、どうやらサジタリアの参加者から声が上がったようだ。そう、サジタリアの参加者はランベルト王とそのバカ息子カール王太子だ。アホの子のように口を開けて固まっているカール。そりゃそうだろう、ハイドとミツキのことを奴隷だと思っていたのに、フォレスト王国の王太子だったんだからな。国が事実上滅んでいるとはいえ他国の王族に不当な扱いをしたんだ。お前がどれだけのことをしたのかを死んで詫びろ。俺はまだ許してないからな!
そうそう、俺はなんといきなり伯爵位ももらうことになってしまった。本当はもう少し高い地位を渡したかったとはナナの言葉だが、女王権限で与えられる爵位は伯爵が精一杯だったからとのこと。連合のトップが騎士爵や、男爵ではカッコがつかないからだと。それと冒険者ランクについてはピスケスのギルドで出会ったギルドマスターのジンがきちんと手順を踏んでくれたようで、Sランクをいただいた。これは俺だけでなく、ナナやムラト、マユといった面々についても承認してもらっていた。ジンはかなりいい仕事をしてくれたようだ。
「彼の力ははっきりいって常軌を逸しています。1対1の戦いなら余程のことがない限りは負けないと思います。ただ、相手は国を乗っ取っています。数の暴力でこられた場合、多大な被害をもたらすでしょう。したがって今回の作戦では世界が協力して戦い魔人集団『ヘルシャフト』を殲滅するつもりです。」
このナナの発言で、うなづく者、疑心の目で俺を見てくる者、様々な視線にさらされていたが、そこに待ったをかける声が上がった。
「アストラム女王よ。そこにいる青年がどれほど強いのかわからんが、相手は魔人だ。そしてそれはただの魔人ではない。『ヘルシャフト』だ。国を乗っ取っているんだぞ?どれほどの力があるのかを示してもらいたい。」
ま、そうなるわな。俺を知らない奴はそういうさ。高校生くらいのガキに世界の命運を託すことになるんだからな。
ちなみに口を挟んできたのはアトラス帝国だ。サジタリアのお隣さんなんだから。俺のことくらい調べておけっての。自信過剰かもしれないが、普通の人間に俺を倒せるとは思えない。
「アトラス帝、ではどのようにすれば彼の力を信じてもらえますか?」
ナナの問いに、自身の後ろに立つ人物に何やら耳打ちしている。屈強な戦士と思しき人物がこちらを睨みつける。
「では、そうだな。我が国が誇る最強の戦士、ガリアーノ将軍と手合わせしてもらおうか。」
「おぉー、やはり彼が世界に名を轟かすガリアーノ将軍か!」
「天下無双の将軍を連れてきたのか?!」
なんだか周囲から声が上がっております。確かに強そうではあるけどね。脳筋って感じだけど、魔法は使えるんだろうか?魔力自体は結構ありそうだけど。
ガリアーノ将軍はサジタリアとの領土戦争において無敵の強さを発揮したアトラス帝国の猛将で、帝国を大国と呼ばれるまでにした立役者であるそうだ。シエラ先生がリストアップしてくれた各国の強者一覧の一番上に書かれていた人物だ。シエラ先生と戦ったらどちらが勝つのか聞いてみたら、条件次第との返答があったので、なかなかやり手ではあるようだ。
「えーと、ガリアーノ将軍。お一人でいいんですか?」
失礼かとは思うが、ここは煽らせていただく。世界に名が知られてる将軍を完膚なきまでに叩きのめせば、これからの場を支配できる。言い訳の効かない状況に持って行った上で叩きのめす。
「小僧、粋がるなよ!」
おぉー怖っ!眼力だけなら世界一かもしれない。魔法が使えるならともかく、純粋に力で戦うならムラトくらいの強さはありそうだけど。まあ、俺の敵ではないな。
「ガリアーノ将軍、失礼いたしました。ただ、彼が言うのもあながち間違っていないのですが、ガリアーノ将軍とサジタリアの誇る大魔導士シエラとは同じくらいの力と伺ってます。それに間違いはございませんよね?」
「不服ではあるが、あのふしだらな格好をした女の力は認めておる。しかし、それが何か?この青年があの女と同等だとでも言うのか?」
俺の失礼な発言をナナが謝りつつもさらなる煽りの手順を踏んでいく。ここまでは予定通り。
「いえ、もしシエラと彼が戦えば彼は圧勝します。なにせ、サジタリアで行われた模擬戦ではシエラ、オーロラ、サリという王国最強の布陣でも負けましたからね。」
「な、なんだと?!バカなっ?それほどの力をあの者が持っているというのか?」
たいそう、驚いてくれております。お兄さんは満足です。さて最後の仕上げといきましょうか。
「もう一度、お聞きします。本当に1人でよろしいのですか?こちらとしてはそちらが俺の力を納得してくれれば良いので、何人でも構いませんよ?」
「ふん、何人でもだとっ?では我が騎士団最強の30名を選出しよう。それに勝てたら認めてやる。」
「30名ですか。大人気ないですが、良いですよ。ただこれはあくまで俺の力を見せる戦いですので。ナナ女王、怪我人や死人が出るようなことにはしたくないので、専用の場所だけ用意できますか?」
「すぐに用意させます。アトラス帝国側では準備にどれくらいかかりますか?」
アトラス側の準備の関係で模擬戦は明日の正午に決まった。俺の話抜きで進める会議ではあったが、人員の選出とフォレスト王国を取り戻すための準備や、決行日などが決まっていく。攻略のための作戦は模擬戦の後に決めることになっているので、俺が勝てなきゃ話にならない。専用フィールドでの戦いならば、殺すほどの攻撃でもなんとかなるだろう。明日はド派手にいこう!
うーん、ガリアーノ将軍は何か勘違いしているらしい。精鋭30人と戦うという話だったのに、1人づつ斬りかかってくる。
俺はすでに3人を斬って床に寝転ばせているが、4人目の相手も身体強化をかけて斬りかかってくるがまるでスローモーションだ。その場を動くことなくその刃を流し、がら空きの左脇を横薙ぎにして怯んだところを蹴り飛ばして終わり。どいつもこいつも同じように攻めてくるだけで、退屈である。
「ガリアーノ将軍!俺は30人全員と戦うと言いましたが、1人づつ相手するということではないですよ。一度にかかってきてくれませんか?これでは俺の力が示せない!」
「な、なんだとこの小僧がっ!調子に乗りおってっ!何してる!さっさと隊列を組め!調子に乗ったあやつを笑い者にしてくれようぞっ!」
やっと本気になってくれたようだが、果たしてどの程度のものか?あまりにも弱いようならば、数で攻める作戦も考え直さなくてはならない。
5名1組と思われる塊が5つ、最後尾にはガリアーノ将軍。最初の2組が俺の周囲を囲み、その後ろに杖を構えた2組の集団、おそらく魔法士だろう、が控えている。ふぅー、囲めばなんとかなるとでも思ったのだろうか?それとも何か罠でもあるのだろうか?
前方で構えていた騎士が大きな盾を構えて突っ込んでくる。背後も同じように盾を構えて間合いを詰めてくる。そんなもので俺が止められるものか。
「ではまず1人目っ!」
俺は迫る大楯に、脚に魔力を纏わせて真正面から蹴り飛ばす。・・・飛ばすつもりだったのだが、貫通してしまった。
「げっ!脆すぎだろ?」
盾を持っていた人はその一撃で伸びてしまった。周りの人もまさか盾を貫通させられるとは思っていなかったのか、衝撃的な場面に固まっている。
かくいう俺も盾に足が突き刺さってなかなか抜けなくてかなり間抜けな感じになってしまっている。
「な、何をしているっ!今だ!さっさと攻撃せんかっ!」
後ろからガリアーノ将軍の叱咤がかかり、また一斉に俺に向けて攻撃を仕掛けてくる。未だに足は抜けてない。
面倒くさくなった俺は、そのまま逆立ちして足を振り回す。前世のゲーセンで見たことある技の見よう見まねだ。大楯にそれなりの重量があったこともあり、なかなかの威力。近くの兵士たちを吹き飛ばしていく。その反動もあって足からも抜けてくれたので、こちらとしては良いことづくめだった。
前衛がいなくなったことで、後ろにいた魔法士連中は後ずさっていたが、魔法をこちらに当てようと詠唱を始める。
ふむ、精鋭の割には無詠唱もできないのか?これは思った以上に大したことないぞ。俺は周りの魔法士に向けてドレインを発動。魔法を飛ばすことすらできないまま、皆崩れ落ちていく。
「さあ、残りはあなた方だけですよ?それとももう降参します?」
ガリアーノ将軍と最後の1組の5人に向けて降参を促してみたのだが、あまり狼狽えてない様子。不思議そうに見ていると、
「ふん、貴様の手の内は見えた。我らは今まで相手した奴らとは違うぞ?」
うーん、手の内なんてほとんど見せてないんだが、何をして来るのだろうか?
「なかなかやるようだが、これは受け切れるかな?」
俺が他の奴らを相手にしている間に何か小細工していたのだろう。まあ、魔力の流れで見えてはいたんだけどさ。
「食らうが良い!アトラス帝国最強の秘奥義!ビーストラッシュ!」
限界まで身体強化を施したガリアーノの将軍にさらに周りの5人が自身の魔力を纏わせることで、爆発力を生み出しているようだ。普通自身の魔力を他の人に纏わせることは出来ないので、秘奥義というだけはあるか。
ドレインで吸収してしまえばそれまでなんだが、後からなんかごちゃごちゃ言われるのも癪だ。真正面から受け止めた上で粉砕して心を折るか。
俺は刀を収め、迫り来るガリアーノ将軍を迎え撃つ態勢を取る。
「バカめ!貴様ごときが受け止められるものかっ!その自身もろとも砕いてくれるわっ!」
疾風迅雷とでも言うのだろうか?常人では考えられないスピードで迫り、拳や足を繰り出してくるガリアーノ将軍だったが、俺はそれを全て躱してみせる。拳を振るうガリアーノ将軍の顔が歪む。
「何故だ?何故当たらん?!」
「そりゃあ、避けてますから。今度はこちらも攻撃しますよ?」
絶対的な自信を持った技を事も無げに躱されれば心も折れる。それよりもさらに速く重い攻撃で体の方も追って差し上げよう。シエラをふしだらな女って言ったこと、俺は覚えているんだよ。お前ごときとシエラが同格とかなめてんじゃねぇ。
「オラオラオラオラッ!」
少年マンガのあの主人公のように、殴る、殴る、殴る、死なない程度に加減をしながらも全身動けなくなるまで殴り続ける。
「ハルキッ!そこまでよ!」
ナナの声でふと我に帰る。ガリアーノ将軍はどうやら途中で意識を失ってしまっていたようだ。
会場から負傷者を運び出すと全員体の傷は癒えたが、心の傷は癒えなかったようで、俺に対しての怯えの表情が見て取れる。
「はぁー、もう何やってるのよ。あそこまでやらなくても良いじゃないの?どうしたのよ?」
ナナが呆れたように俺に向けて声をかけてくる。
「ナナは腹が立たなかったのか?あいつはシエラをふしだらな女って言ったんだぞ?俺の仲間を悪く言う奴は許さん。ナナもわかってて煽ったもんだと思っていたんだが。」
「そりゃ私だってムッとしたけど、それにしたってあれでは使い物にならないかもしれないじゃない?」
ガリアーノ将軍を見ると先程までの威勢はなく、真っ青な顔をして俯いてしまっている。
「何だあれは?化け物だ、そう本物の化け物だ。」
彼が小声で呟いているのが聞こえる。
「ガリアーノ将軍っ!」
「はっはい!」
「俺は化け物だが、今回の戦いでは貴殿とも協力して戦う戦友だ。一緒に魔人を倒しましょう。あ、そうそう、シエラは俺にとって大切な人です。以後、ふざけた言動はとらないようにお願いしますね。次はないですよ。」
協力を要請した上で、シエラへの暴言についても一言加えておく。
「はっ!かしこまりました!」
お灸を据えすぎたようで、かしこまってしまったよ。それを見て、おたくの帝王様がこっちを睨んでてきてるじゃないか。あっ!それにいち早く気付いたガリアーノ将軍が帝王を何やら説得している。何だかんだ良い方向に進みそうじゃないか。良かった良かった。
「はぁー、もう本当に呆れるわね。で、シエラ先生も大切ってなに?マユとどっちが大事なの?」
ナナも平常運転のようだ。俺にとっては俺によくしてくれた人はみんな大切だ。今回はたまたまシエラのことだったが、ナナに対しても失礼なことする奴がいたら俺が許さないから安心してほしい。
「それにしても、最近あなたやりすぎじゃないかしら?怒るポイントがおかしいと言うか、早いと言うか。」
確かにそれは俺も感じている。情緒不安定というわけでもないのだが、仲間に対して過剰に反応しすぎている気がする。この圧倒的な力を手に入れてしまったからかもしれないが、少し傲慢になってきているのかもしれない。何も持たなかった前世とは真逆の何でも持っている状態は俺の精神にどんな影響をもたらしているのか。俺がそのことに気付くのはもう少し先のことなのかもしれない。




