第82話
久々の更新です。
「ナカジいますか?」
俺はピスケスの国に転移しナカジがいる店に顔を出している。
ナカジは中で作業中のようで、店には立っていなかったが、俺のことを覚えていた店員さんが呼びに行ってくれた。
「ん?どうした?何かあったのか?この前と感じが違うが。」
あいかわらずのぶっきらぼうな言い方で、ナカジに問われる。
俺はサジタリアであったあらましを説明し、この後アストラムに向かうことを話した。俺が治める予定の森のことについて話すと、少し顔を歪めたが、淡々と森について話してくれた。
「あそこは正直あんまりいい思い出はないんだがな。俺はハーフだしな。お国柄的には差別のないところなんだが、俺みたいな半端者には多少の差別はあったように思うぞ。ま、俺はあんまり気にしなかったがな。ガッハッハ。」
やはり、どこの世界にもこうした差別は起きてしまうものなのだろうか?俺が求める差別のない国というのは理想論なのか?
「まあ、けど、お前さんが治めるならいいところになるんじゃねぇか?なあ、そこに街を作るなら俺も行って店出してもいいか?」
「大歓迎だ!ナカジが来てくれるならいいが、今のこの店はいいのか?」
「ダンジョン攻略も終わっちまってるんだろう?先は見えてるさ。俺も独り立ちしろって言われてるしちょうどいいだろ。」
気が知れた仲間が鍛治師として来てくれるのは素直に嬉しい。これからの戦いに武具は必要不可欠だしな。
「じゃあ、折り合いついたら連絡してくれよ。迎えに来るから。」
そう言って俺は、ナカジにも念話をつなぎ、連絡方法について告げる。
「あーそうそう、コスモとタケルにも話しておくがいいよな?」
「戦力はいくら会っても足りない。来てくれるなら大歓迎だ。そっちの連絡は任せるな。」
ナカジのところはすんなり話が進んでホッとした。毎回毎回何かあってはこっちもたまらない。
ナカジの勧誘になってしまったが、そちらはなんとかなりそうなので、アストラムの王城に向かい、ナナとムラト、そして愛しのマユの元へ向かう。
俺のことを説明してくれていたようで、あっさり門番は俺を謁見の間に案内してくれた。顔パスってやつ?ちょっと気分がいい。
「いらっしゃい。で、準備はどう?部屋は用意してあるから、いつでもみんなを連れてきてもいいわよ?」
赤い絨毯が敷き詰められた部屋の最奥に、黄金で出来た豪華な玉座に座り、足を組んだナナが待っていた。玉座は少し高い位置にあるので、美しい交差させた脚と、魅惑の三角地帯が目線に来るわけで、非常に嬉しい反面、恐怖を感じる。
というのもナナの両端にはムラトとマユが立っているので、視線が痛いというか既に怒っていらっしゃるようだ。
その視線に気付いていてのことなのか、ナナが不敵な笑みを浮かべながら足を組み替える。もうちょいゆっくり!っと思わず言いたくなってしまうが、極力目線をそらして、俺の理性の高さを見せてやろう。
・・・としたんだが、なかなか難しいもので、より一層黒いオーラを撒き散らしているナナの両サイド。
「ナナ、頼む。動かないでくれ。あとが怖い。」
俺はナナに負けを認めて、懇願する。それに満足したのか挑発的な行動は謹んでくれた。
その後これからのことを話しこちらにきそうな人員の話をし、早速領土の状況を見に行こうという話になった。
流石に女王であるナナはそれほど身軽に動けないので、俺と一緒に行くのはマユとアストラムの第2騎士団ということになった。
俺がまずやらなくてはならないのは、そこに住むエルフとドワーフの集落への説明と俺の領主館をどこにどの程度の規模で建てるのかということを決めてきてほしいとのことだ。
領主館といっても丸ごと今の家を持って来るつもりだからそれでいいと持っていたのだが、かなり広大な領地になるので、別館も建ててほしいんだとか。領地の規模に合わせて領主館を建てるのも貴族の嗜みなんだとか。
「あと、すぐってわけではないんだが、街も作ってみたいがいいか?」
ナナに話すと二つ返事でオッケーをもらえた。むしろ、そういうのを期待していると言われてしまった。魔人討伐という命題があるので、街作りにばかり気を取られてはいけないが、ロマンがある。少しづつ形にしていこう。
「世界連合とかの話はこっちで進めるけど、任せてもらっちゃっていいかしら?」
「あぁ、それは任せる。俺じゃあわからないしな。ただ、サジタリアと揉めたばかりだから、そこは考慮してもらえると助かる。」
世界連合や同盟の話は門外漢の俺がやるより、ナナに任せておいた方が良いだろう。俺は俺のできることをやっていこう。
ナナとの会談からすでに1ヶ月が過ぎようとしていた。交渉が難航するかと思っていたエルフとドワーフの集落の件は、シエラ先生とナカジの協力もあって、意外とすんなり進んだ。
エルフの集落では森の過剰な伐採に対しての意見を多くもらった。そこは必要な部分だけを伐採することを約束し、さらには集落の活性化を考え、気軽に取引できる街の建設案を出すと、喜んで協力してくれることになった。エルフたちもアストラムの王都へと取引に行っていたようだが、広大な森を抜けて行くのはやはり負担が大きかったようだ。エルフ集落とドワーフ集落の中間に領主館と街を建設することで解消できるだろう。俺の魔法を使ってすでに街の大部分は出来つつある。あとは人の問題を解決すれば問題なく機能するだろう。
ドワーフに至っては鍛治に使用する木材の伐採にルールがなかったことでエルフとのいざこざを起こしていたので、伐採地域の設定と、植林地域を設定し、減らすだけでなく増やす活動をしていくことで折り合いがついた。まあ、一番は高濃度のアルコール、つまり酒を大量に寄贈し、この酒を新しく作る街で販売すると言ったらあっさり片付いたんだけどね。やっぱりドワーフは酒好きだ。
そしてまもなく、ナナが、アストラムが主催国となった「世界会議」が開催される。俺の願いは叶わず、サジタリアも出席することになったが、人材の流出、まあ、ほとんど俺のせいなんだけれども、大国としての力は失われつつあった。




