第77話
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ドS公爵に誘われたパーティで婚約の打診をされるハルキ。そんな中、カール王子に妹がいることを思い出したハルキだったが・・・。
「お兄ちゃま、あの方はどなたですか?」
カールの妹であるエミリー・フォン・サジタリアがカールとともに俺を指差して扉の隅から此方を覗き見る。
あれが王女かと言う思いと、あれに絡まれないようにしなければと言う思いが交差して複雑である。
俺はなぜか幼女に好かれる。一体俺のどこに幼女に好かれる素養があるのか誰か教えて欲しい。
「お兄ちゃま、ひょっとしてあの人がアイリスさんのお兄ちゃまですか?お話ししたいです!」
案の定、お姫様は俺との会話をご所望だ。気付いてないふりをして、この場を少し離れるか。
「お兄様、あちらにエミリー様がおられますよ?ご挨拶されなくて良いんですか?」
愛しの妹、アイリスが俺にそんな言葉をかけてくる。うーん、困った。こう言われて仕舞えば、挨拶しないわけにはいかない。アイリスとエミリーは学園のクラスメイトらしく、仲も良いらしい。
「お初にお目にかかります。ハートランド・バーナーです。アイリスの兄です。今まで諸事情によりご挨拶出来ず申し訳ございませんでした。」
相手は幼かろうと王族だ。一応の礼儀は必要だろう。ちなみにカールも王族だが、元同級生ということもあり、そこまでかしこまった感じで話してはいない。この2週間で少しは話したが、あちらは俺を友人として接したいらしく、堅苦しい言葉はやめてほしいと言われている。
「アイリスさん、いつも話してくれた通り、素敵なお兄ちゃまだね!」
「ええ、私の自慢の兄です。」
アイリスとエミリーは仲良く談笑している。そうかぁ、アイリスはいつも俺のことを話してくれているのか、その言葉が聞けただけでも話した甲斐があったというものだ。
「ねえ、ねえ、お兄ちゃん」
俺の裾を引っ張るミツキ。
「うん?なんだい?ミツキも話したいのか?」
ミツキの目は何か訴えているように見える。チラチラと後方に視線を向けている。
後方を見てみるとハイドが数人の貴族に捕まっていた。獣人ということで何かしら因縁をつけられているようだ。
「姫さま、申し訳ございません。連れが粗相をしているようなので、こちらを離れることをお許しください。」
エミリーに挨拶し、ハイドの元へ向かう。その途中、嫌な言葉が耳に入ってくるが、俺は自身の感情を抑えて、彼らに近づく。
サジタリア王国はいい国ではあるが、獣人にはまだ差別が残っている。マユのようにナナといつも行動を共にしていれば、思い切った行動に出ないようだが、ハイドは違う。俺のそばを離れれば見知らぬ獣人の子供が、このパーティに招かれているのだ。貴族でさえ、誰もが参加できるわけでないところに見知らぬ獣人の子がいれば絡みに行くのが、どうしようもない貴族のテンプレだろう。少し考えれば、このパーティに参加しているもののツレと分かりそうなものなのに。
「ハイド!」
俺がハイドの名を呼ぶと、一目散に俺の元にかけてきた。ハイドを嬲っていた貴族は俺を見ると顔色を変えている。
「私のツレがあなた様方にご迷惑をおかけしたのですか?謝罪しますので、どのようなことをしたのか教えていただいてもよろしいですか?」
俺は極力声を抑えてその者たちに話しかける。
「い、いや、特に何もしていない。見知らぬ者がいたので、尋ねただけだ。」
「そうでございましたか。何もしていないのに罵倒されていたと、そういうことですか?」
ハイドは何も言わないが、明らかに涙をこらえている。拳を強く握り、必死に耐えているようだ。
「俺たちはどこのものか尋ねただけで、罵倒などしていない。」
奴らは白々しくとぼける。
「そうでしたか。ただ、顔色を伺うに粗相をしたと思われますので、お名前を教えていただいてもよろしいですか?私のことはご存知のようですし?」
こういう輩は次もまた獣人に対してこう言った差別的なことを繰り返すのだろう。名前を聞いておいて、警戒しておかなければ。
「ハートランド、許してやってくれないか?奴らも悪気があったわけではないのだ。」
ぷちっ
何かが切れる音がした。俺の中のどこかから音がしたようだ。
「悪気がない?」
俺が振り返るとそこには笑顔で奴らを庇うカールの姿。俺はその姿に感情が抑えきれなくなってくる。
「カール王子、この者たちは悪気がなくてこんな小さな子を嬲るのですか?」
抑えようとしているが漏れ出す魔力はとめどなく溢れてくる。顔色を変え尻餅をついているカール。
「ダメ!ハルキくん、抑えて!」
マユが必死に俺をなだめるが、俺は今の言葉を許せそうにない。
「マユ、黙ってろ!」
マユに対して、こんなに乱暴な言葉をかけたことはない。マユもナナもムラトでさえも俺の言葉に唖然としている。
「おい、カール!俺は我慢してやってるんだぞ。俺の仲間を侮辱しておいて、こいつらに悪気がなかっただと?冗談も大概にしろ!」
俺の沸点はどうやら低いらしい。こんなところで揉めるのは絶対やめたほうがいいに決まってる。ただ、俺は俺の仲間に対しての今の発言だけは許せない。ハイドは幼いながらも、自分の立場をわきまえ、奴らの侮辱にも涙をこらえて耐えていた。それを笑って許してやれとはどういう了見か?
「カール、お前には失望した。失礼する。」
俺はみんなに声を掛けて、会場を後にする。父さん母さんはみんなに謝罪しながら俺の後に続く。
俺は自分の力が異常であると認識している。だからこそ、その力をみんなが幸せになるために使うと決めた。それなのに、あいつらは俺の仲間に対して酷い扱いをしたにもかかわらず、それを笑って許せと言ってきた。
「ハイド、あんな場所に連れて行ってしまい、すまなかった。俺の注意が足りず、お前に嫌な思いをさせてしまった。申し訳ない。」
転移でバーナー家に戻った俺たちだったが、ついて早々俺はハイドに謝罪した。深く頭を下げハイドが良いというまで頭を下げ続けた。
「そんなに謝らないでください。人間が獣人に対して差別的な発言をするなど、悔しいですが、日常茶飯事です。ですが、あの場であんなに怒ってくれたのを見て、スッキリしました。だからもう、頭をあげてください。」
思うところがあったのか、マユもムラトも俯いている。俺がそういうのに慣れていないのもあるが、正直慣れたいとも思わない。
「ハートランド、お前の気持ちは分かる。だが、ほかに方法があったんじゃないか?そりゃ俺もあいつらのことは好きじゃないし、この子にやった仕打ちを見たわけではないが、雰囲気で何をしたかは分かる。それでもこれから国に協力してもらうことを考えたら、もう少し穏便にことを進めても良かったと思うが。」
「・・・父さん、俺はあそこで我慢してハイドを見捨てるような真似をすれば、俺は俺で無くなると思うんだ。今後のことを考えると父さんには申し訳ないことをしたと思っている。母さんも、ごめんね。でも俺は間違ったことをしたと思っていない。」
サジタリア王国の貴族である父さんにとっては、自分よりも爵位の高い貴族の行為に対して、家を継いでもいない騎士爵の息子が食ってかかったのだ。しかも王太子に対しても無礼な発言。正直、気が気ではないだろう。それでも俺の気持ちを察してくれる父さんは、獣人に対して差別意識のない人なのだろう。
「ハルキ、あなたは間違ってはいないわ。もし、この国に居づらいのなら私の国に来なさい。あなたの家族共々受け入れるわよ。どうせ、マユと結婚するつもりなのでしょう?ちょうどいいじゃない?」
ナナがブッ込んで来る。いやいや、それは最終手段だろう。俺も正直、やり過ぎたとは思っている。だが、いきなり家族ごと引っ越しというのはちょっと。それにマユとの結婚とかこの雰囲気で言われてもどう答えていいか、わからない。
「ハーちゃん、それもいいかもしれないわよ。私もハイドちゃんを差別するような人を平気で許せと言ったカール王子にはガッカリしたし。この国にはそういう風習が昔からあったけど、最近ではそう言ったことを聞かなくなっていたのに。貴族ではそれがまだ当たり前ってことなんでしょう。」
「おいおい、そんなに話進めるなよ。なんとか王子に謝罪して許してもらうようにするって選択はないのか?」
「「「ないね!」」」
母さんの発言を父さんがなんとか止めようとしたみたいだが、みんなに一斉に拒否されてしまった。武勇に優れた父さんも女子供には弱いらしい。部屋の隅でションポリしてしまった。
残念王子のせいでこの後の展開が白紙になってしまった。また一からやり直しじゃないか。今後の展開に辟易していると、セバスが父さんの元へやってきて、なにやら耳打ちする。どうやら誰か来たようである。このタイミングで来るなんて十中八九王宮からであろう。謝罪か決裂かさてどうなることか。
うーん、こんな展開の予定はなかったんですが、気付けばこんな形に。なかなか上手くいかないものです。




