第75話
いつもお読みいただきありがとうございます。
「まずは素晴らしい戦いを見せてくれたことに感謝しておこう。君はとんでもなく規格外な存在だと聞いてはいたが、実際に目にするまでは信じられなかった。シエラのお気に入りだけあるな。」
今代の王様、ランベルト・フォン・サジタリア。カールと同じ金髪金眼であるが、カールと違い恰幅のよい身体つきである。謁見の間はかなりの広さがあるのにその部屋に響き渡る低くて通る声、威厳と自信に満ちたその佇まい、まさしく王と呼べるものだった。
「ランベルト王!それ以上言うようならお仕置きしますよ。」
シエラ先生は王様に対してもお仕置きできるような人らしい。底冷えするような冷たい声で、先生の背後に般若が見える。
「こ、これは失言だったな。許せ。」
王様のビビリっぷりもなかなか笑える。もうちょいいじってみようか?
「・・・やめてあげてくれないか?」
俺の心が読まれたのか?ドS公爵ことフランツ・フォン・サジタリアに止められてしまった。自分が攻めるのはいいが、他の人が攻めるのは止めるらしい。
「おっほん。本題に入ろうか?カールから話は聞いている。世界同盟の話だったな。具体的にはどう言ったことを考えている?申してみよ。」
俺は『ヘルシャフト』のこと、それがいかに脅威であるか、優秀な人材を世界各地から集め、それに対抗したいこと。力が足りないものには、自分が鍛えて戦力化することを話した。
「それは同盟というより、連合だな。各国が自分たちの軍隊を派遣するのではなく、各国から優秀な人材を集めて戦うのだろう?」
たしかに、そういう意味で言えば連合の方がしっくり来るかもしれない。正直、力のない兵士をいくら連れて行っても無駄な死傷者を出すだけかもしれない。選抜された人が、一軍隊に匹敵する実力を付けて事に当たった方が良いかもしれない。
「ただ、それには一つ問題がある。各国のパワーバランスだ。君が鍛えれば、皆それに見合う力を手に入れるのであろう?国から選出する数を決めなければ、後々問題になるのではないか?」
うーん、まあ奴らを倒したあとはたしかに問題になるだろうな。ただ、国の大きさが違えば、人口も違う。魔法に長けた国もあれば、身体能力に長けた国もある。そこは致し方ない部分ではあるが、どうするべきか?今回のことをきっかけに戦争のない世界が出来ればいいのにと思うのは、甘い考えで理想に過ぎないのだろうか?
「ランベルト王、俺は戦争のない世界にしたい。性別も人種も関係ない、誰もが差別なく生きられる世界だ。甘っちょろい理想論だと思われるかもしれない。でもそれを目指すことは俺の自由だ。後々に問題になると思うのは各国が戦争すること前提で話してるからでしょう?もし、この国が他国に戦争を仕掛けるなら、俺は敵に回ります。俺のこの力は自分と自分の周りの人のために、愛すべき人々のために使う。」
うーん、ちょっと語り過ぎて恥ずかしくなってきた。ただ、俺の力をあてにして戦争を仕掛けようと思っているのなら、俺は正さなければならない。
「貴様っ!この国の民のくせに、国のために力を使わないと申すのか?!」
突然、一人の貴族が俺の意見に対して噛み付いてきた。この程度のことで、声を荒げるような奴を部屋に入れるなよ。
「ランベルト王、今、彼が言ったこと、どうお考えですか?彼と同じように俺にこの国で力を奮えと仰せですか?」
「・・・・・・。」
「沈黙は肯定と受け取りますよ?」
「やめないか!ハートランド!王に対して無礼がすぎるぞ!」
ここまで一言も発することなく、貴族の末席にいた父さんが俺のそばまで走ってきて、俺の両肩を掴んで叫ぶ。
「父さん、ごめんね。でもこれは譲れない。俺の力ははっきり言って異常だ。本気でやれば国一つ滅ぼすくらいわけもなく出来てしまうと思う。それをこの国だけに、他国に戦争を吹っかけるために使うというなら、俺はこの国を出て行くよ。その時は父さんや母さんにも一緒に来て欲しい。」
「お前、そこまで考えて・・・。」
父さんは俯いてぷるぷる震えて何かを堪えているようだったが、意を決して顔を上げる。
「ランベルト王!私は息子を責められません。何卒、お考え直しをお願いいたします!」
「貴様!男爵風情が王に意見をするなどっ・・・」
「黙れ!モブ!」
えーっ!モブって?!あいつか?俺に噛み付いてきた奴はモブと言う名前らしい。そう、モブ・トラッツェリアである。俺が学園にいた頃、Sクラスにいた子爵家の次男坊。今は王宮に勤めているようだ。上級クラスに進めなかったところから大した力はないと思うが、相変わらずの貴族主義な奴だ。
ドS公爵に黙らされているし、俺を目の敵にでもしてるんだろうな。父さんに向かって男爵風情と罵ったことは許せない。あとでお仕置きだ。
「ランベルト王、なぜすぐに答えないのです。戦争する気なんかないくせに。お戯れが過ぎるのではないですか?」
ドS公爵は王様に向かって話しかけると、王様はニヤッとしてこちらを見た。
「フランツ、もう少し見ていたかったのに、邪魔しおって。」
「はぁーっ、本当に出ていかれたらどうするつもりですか?彼は転移も使えるんですよ?」
「おっと、そうだったな。悪い悪い。ハートランド、すまなかった。お主を試してみたくてな。力に溺れた愚か者なのか、皆が言うように真の英雄となるだけの資質を持った者なのかをな。」
完全に騙された。フランツ公爵以外ポカンとしているから、他の人も同じように騙されていたんだろう。父さんなんか放心状態だし。
「それと、あのバカに関してはこちらに任せてくれないか?君に任せると殺されかねん。あれでも我が国にとっては優秀な魔法士なんでな。」
ランベルト王はモブを指差し、バカ呼ばわりしていたが、命は助けてやってくれと頼んできた。
「わかりました。ただ、次同じようなことがあれば、その時は容赦しませんので、お許しを。」
その後、王様とは建設的な話し合いができたと思う。世界連合となりそうな団体に関しては各国の戦争に参加しない旨を明記して参加国に承認を得ることにする。世界同盟と世界連合、そのための世界会議。話がだいぶ大きくなってきたが、取りまとめは国でやってくれるそうだ。アストラムのナナとも連絡を取って上手いことやってもらおう。この辺は俺にはわからないことばかりなので、丸投げだ。
話し合いも終わったので、帰ろうかと思ったのだが、夜に軽めのパーティがあるから参加してほしいと公爵から頼まれた。あまり乗り気ではなかったが、シエラ先生をはじめ、女性陣からの強烈な後押しがあったため、やむなく参加することにした。夜までまだ時間があるし、王宮内でもぶらついてみるか。




