第73話
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「ではこれより御前試合を始める。双方前へ。」
俺は今、サジタリア王国の騎士訓練場で国王様観覧の元、試合をするべく呼び出されていた。相手は王国最強との呼び声高いシエラ先生。それとオーロラとサリの三人。
カール王子との会談から2週間、俺は王子を含めてみんなを鍛え続けていた。みんなのステータスは確実に上がり、俺自身も別行動していたマユたちがいるアストラムに転移を繰り返したことにより、魔力量も大幅にアップした。
そんな中、今日になって王国から使者が来て御前試合をすると通達があった。相手は先ほど言った三人。このメンバーとは実践的な戦いは経験していないので、どんな戦いをして来るのか楽しみだ。特に気になるのはサリだ。
Eクラスで唯一、卒業後に宮廷魔導師の一員となったようだ。魔力量は俺が教えていた時よりも遥かに増している。当時は魔力量が少なすぎて絵画魔法もそこまで強力なものは使えなかったが、これだけ増えたとなるとどんな感じになっているのか楽しみだ。
「ハートランド先生、私はあの合宿に参加できなかったのずっと後悔してたんです。先生も色々あっていなくなっちゃって、その場にいられなかったのをずっとずっと悩んでいたんですからね!今日は胸を借りるつもりですけど、全力でやりますから、しっかり私のことも見てくださいね!」
少し、気弱なところがあったサリだが、この数年で大きく成長したようである。魔力量だけでなく、精神的にも、肉体的にも。
「ちょっと!二人だけで盛り上がらないでよ!私だっているんだからね!」
「あら、ハートランド君はサリちゃんにも興味があるのかしら?先生にも興味持ってくれていいのよ?私はいつでもオッケーよ!」
オーロラ、シエラ先生ともに変なアピールして来る。さっさと試合をしてしまったほうがよさそうだ。
「さあ三人とも、試合やりましょうか?ここだったら致命傷でも大丈夫何ですよね?少し本気でやってもいいですか?」
この訓練場には特殊な結界が張られているので、結界内で受けたダメージは結界を出た時点で回復する。学園の模擬戦に使う闘技場と同じだ。魔法障壁も張られているので、魔法の暴走も防いでくれるらしい。ちょっと薄くて不安なのでコッソリ強化しておいた。
「油断してると酷い目に合うわよ。私たちはこの前の生徒たちのようにはいかないわよ。オーロラ先生も今回はちゃんと戦ってね!」
シエラ先生から忠告受けたが、俺は油断なんかしていない。でも、彼女たちの魔法には興味があるから先制は許そうと思う。
「では、始め!」
開始の合図とともに三人が陣形を組んで攻め込んでくる。先頭はシエラ先生、後ろに二人、横に並ぶように向かって来る。
「ペイント!」
サリはそう叫ぶと、三人それぞれの装備に自分の魔力を飛ばしていく。
「硬化!」
その言葉とともに、装備が光りだす。絵画魔法は付与魔法のようなものなのか?言葉から見て装備を硬くするってことなんだろう。
「「風合成魔法!タイフーン!」」
サリの魔法を見ていたら、シエラ先生とオーロラ、二人の風使いによる合成魔法が目の前を覆い尽くす。激しく吹きすさぶ風、そこに風の刃が混ぜられているようだ。触れれば切り刻まれるようだ。なかなかに強力な魔法だ。
でもこれくらいなら、俺はドレインで吸収しようと右手をかざす。
「ドレ・・・ッ!」
何か嫌な予感がしたので、中断しその場を離脱する。
「バレたか。さすがね!」
俺がいたその場所には、シエラ先生とオーロラの放った魔法で大きなクレーターが出来ていた。合成魔法を隠れ蓑に左右から魔法を放っていたようだ。
「ドロー!レッドドラゴン!」
サリは魔力を使って赤い龍を描いた。そこに描かれた龍は実体化し咆哮をあげる。そしてその龍はその巨大な口から炎のブレスを吐いてくる。
「「ウインドブレス」」
龍のブレスに合わせるように風魔法をぶつける。炎はさらに大きくなり俺に襲いかかって来る。前からは炎、後ろにはタイフーン、右にシエラ先生、左にオーロラ。逃げ場はない。
「ハートランド君、覚悟!」
シエラ先生とオーロラが風を纏い、物凄いスピードで迫って来る。
「これくらいじゃ甘いよ。ブラックホール」
俺は球体状にした魔力の塊を上空に浮かべる。その球体は強烈な勢いで周囲の魔力を吸い込む。
「対象指定、風魔法と赤い龍」
俺は対象を指定し吸い込むものを限定する。こうでもしないと、周りの魔力を全て吸い取っていくので俺自身の魔力も吸われてしまう。
この魔法は何度も転移を繰り返していたことで思いついたものだ。転移の時に扉を開くがその繋ぐ先を指定しなければどこに繋がるのかを考えた。その結果、アイテムBOXのような謎空間につながるのではないかと仮定してみた。それを利用して前世の知識と合わせて、イメージしてみたら出来てしまったのだ。
ただ、無節操に吸い込んでしまうので、対象を指定できるように改造した。そしてこの魔法は欠点もいくつかある。これはものすごく魔力を使う。それに吸い込んでいる間は、俺自身他の魔法が使えない。むやみに使うことは出来ないが、インパクトとしては大きいだろう。
「な、何よそれ?反則じゃない?」
オーロラの抗議は無視して、俺は俺専用の刀、白州を抜き、峰打ちする。さすがに切るのは可愛そうな気がしたので、峰打ちにしておいた。
その動きを見て唖然としているシエラ先生の懐に潜り込み、峰打ちを狙うが、ククリ刀のようなもので防がれる。ちなみにサリはレッドドラゴンで魔力を消費したのか、ほとんど動けなさそうなので、シエラ先生にだけ集中することにする。
「驚いたわ。また変な魔法作ったものね。」
さすがにシエラ先生は一筋縄ではいかなそうである。
「先生も流石ですね。これで終わりかと思ったんですけど。」
「せっかくの二人の初対決なのよ。そんなに簡単に終わらせるなんてもったいないわ。」
不敵に笑うシエラ先生。うーん、妖艶だ。俺の峰打ちを防いではいたが、武器同士の衝撃の時に発生した衝撃波でサリが強化した装備は一部破損している。その隙間からチラチラ見える褐色の肌がイヤでも目に入ってしまう。ククリ刀の方は無事なようなので、俺と同じように特殊な武器なのかもしれない。
「こんなにみんなが見ている前で、そんなに熱い目で見られると、私も恥ずかしいんだけど。二人きりの時ならいくらでも見てもいいのよ?ただ今はあなた以外の人に肌を見せるのは嫌だから、隠させてね!」
「え、えぇ、わかりました。」
俺は先生から距離を取る。仕切り直しだ。
「そういうところはまだまだ甘いのね。」
シエラ先生はそう言うと、聞き慣れない言葉をつぶやいた。
「精霊同化、シルフィード。」
シエラ先生の背中からは透き通るような大きな羽が生え、服装も緑のワンピースに変わっていた。そして何よりも、褐色の肌が雪のような白に変わっていた。
「これであなたに勝ち目はないわ。」
シエラ先生の不敵な笑顔だけは変わらず妖艶だった。




