第70話
いつもお読みいただきありがとうございます。ちょっと短いですが、よろしくお願いします。
「じゃあ、先生、そういうことで。」
「本当にいいのね?舐めてるわけではないのよね?」
「はい、舐めてるわけではないですよ。俺も自分の力がどの程度通用するか試したいので。」
「じゃあ始めましょうか?」
俺が先生に提案したのは、俺一人対あちらのメンバー全員。さらに俺は訓練用の武器を破壊したら勝ち。直接身体には攻撃しない。
このルールに対してカール王子を筆頭にいらない反感を得てしまったが、それくらいのことをしないと、俺の力を認めさせることはできないだろう。今後の交渉をする上でも必要なことになるだろう。
「準備はいい?はじめっ!」
シエラ先生の開始の声で、真っ先に飛び出して来たのはカール王子。こちらに向かいながら何やら詠唱している。詠唱は魔法の威力を高めてくれるが、相手に何の魔法かを告知しているようなものだ。どれだけ威力が高かろうと、避けられたら意味がない。
「ヒートジャベリン!」
10本の火の槍が俺に向かってくるが、予想していただけに、軽くかわす。一般的な魔法使いが飛ばせるのはせいぜい5本。倍の本数を飛ばせるところを見るとそれなりに優秀なのが分かる。
俺はブーストすらまだ使っていないが、俺のスピードに目を見張っているようだ。王子の懐に潜り込み、王子の訓練用武器である短杖を破壊する。
「ウォータープリズン!」
アクアリスは俺に対して水属性の拘束魔法を使って来たようだ。
俺は右掌をその魔法にかざしドレインで吸収、その魔力をそのまま魔力弾としてアクアリスの武器に向けて放つ。流石に破壊するまでには至らなかったが、衝撃で長杖を手放した。
チャンスと見た俺はカール王子の元から跳びのき、その長杖の元へ。拾い上げたそれを目の前でへし折る。
そうこうしていると、何か不穏な気配を感じてその場から離脱する。周りには多数のターニャ。そういえば彼女は幻惑魔法を使うんだった。おそらくこれは魔法のものだろう。
俺は目に魔力を集め本体を探る。一人だけ魔力量の高いターニャがいたので、それを本体と仮定して彼女の裏に回った。
ギョッとした顔をしたターニャがいたので、手に持っていた短剣を取り上げ、こちらもへし折ってやった。へなへなとその場に座り込むターニャ。
残りはオーロラ先生とマキの二人だ。オーロラ先生には聞きたいことがあるから、先にマキから倒しておこう。
「あなた様に刃を向ける私をお許しください!」
そんなセリフが聞こえたと思ったら、マキの姿が消えた。気付いた時には目の前に刃が迫っていた。俺は左手に魔力を集めてその刃を止める。
「驚いた。マキ、君はすごいな。じゃあ俺ももう少し本気でいかせてもらうよ。」
俺はブーストをかけその場を離れて距離を取る。
「嘘、マキの『閃光』でもダメなの?!」
シエラ先生が何か言っているが、あとで聞こう。
ブーストをかけて一段階スピードを上げたのだが、マキはまだ捉えきれない。魔力量が減って来ているから相当負担となっているだろう。このまま続けていれば、魔力が尽きて俺が勝つだろうが、それでは面白くない。俺は圧倒して勝たなくてはいけないんだから。
「やるなぁ、じゃあもうちょいスピード上げるよ。」
ブーストを足にかけている魔力量を増やせば、さらに俺は速くなれる。さらに複数の魔法障壁を空中に作って足場にして立体的に動いてみる。
「な、何ですかこれは?!」
縦横無尽に動き回る俺の姿は、流石にマキの眼でも捉えきれなくなったようで、マキの刀を魔力を込めた手刀で斬る。折るというよりは斬ったと言っていい切断面だ。まあ、このスピードを活かした手刀なら造作もないことだ。
「ふぅ。さて、あとはオーロラ先生だけか。」
ここまで、一切手出ししてこなかったオーロラ先生の目の前に立つ。
「俺は全員で、って話をしたのに、これまで全員で協力して攻撃してこなかったのは、何でなんですか?」
なんだか順番が決まっていたかのように、一人づつ攻撃して来ているのが気になった。これなら一対一を連続して行っているだけだ。
「だってみんなそれぞれで戦いたいっていうんだもん。」
およそ教師らしくない話し方であったが、彼女らしい言動にちょっと和む。
俺の眼には今、オーロラ先生の魔力が視えている。そして身体を覆うように真っ白に輝くオーラ。以前、マキが言っていた『神気』ってやつだろう。
先程、眩しかったのは、この『神気』のせいだろう。俺やマキ、一度女神に乗り移られたアイリスなんかをはるかに上回る輝き。俺は確信していた。こいつがあの駄女神アウロラだと。
俺はみんなに気付かれないように、『念話』を使う。
(なぁ、オーロラ先生。あんたはアウロラなんだろう?)
彼女の身体が一度ビクッとなったかと思うと、さらに『神気』の輝きが増した。




