第64話
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「それじゃあ、明日解放してくるから、その人たちのこと頼むな。」
ベルデたちのことをナナに頼むと、メイサを含めて明日の段取りを話し合う。午前中に俺が奴隷商に行き、彼らを解放。ナナは彼女の護衛に連絡を取って、彼らをアストラムへ。ベルデたちが納得しないかもしれないが、そこは説得するしかない。午後からはみんなの装備の新調をナカジに頼みに行って、近くの森でハイドとミツキの特訓だ。
「じゃあ、明日のことはこんな感じでいいか。で、ギルドでのやり取りのことなんだが・・・。」
俺がギルドの話を切り出そうとしたところ、気配察知に反応があった。
「ムラト!メイサ!」
どうやら2人も気付いたようだ。
「私が行く。こういうのは得意。任せて。」
メイサがいち早く気配を消して、侵入者の元へ。ムラトにはハイドたちの護衛のためにフィーネたちの部屋に向かってもらう。場を緊張が包む。
俺はミハエルの側に立ち、万一のことに備える。ナナはマユとフィーネとともに少し離れたところに固まってもらっている。
しばらくするとメイサが戻ってきた。侵入したものたちを捕獲したらしいので、その場へ向かう。途中ムラトと合流して、子供達の警護のためにナナ、マユ、フィーネを置いていく。フィーネとマユが部屋の中、扉の前にムラトの布陣。
捕らえた者の元に向かうのは俺とメイサとミハエル。ミハエルの顔には脂汗が浮かんでいたので、話しても良いと言わせると、どうやらトイレを我慢していたようだ。空気の読めないやつだ。仕方ないので、俺が付き添いメイサには周りを警戒して待機してもらう。気配察知には怪しい反応はなさそうなので、念のためだ。
メイサが捕らえた者たちは縄で簀巻きのようの状態で縛られて、さらには庭の木に吊り下げられていた。3名の侵入者はそれぞれ眠らされているのか、微動だにしない。まるで大きなミノムシがいるようで、なんとも言えない気分になる。
その侵入者たちの頭の上には、大きな垂れた耳が付いていた。あれは犬耳だろうと見当をつける。俺は3人のうちの1人を木から降ろし2人から遠ざける。残りの2名はメイサに見張らせてその場にミハエルも置いていく。少し不安は残るが、メイサの命令を聞くように指示しておいた。そしてメイサには別の指示も出してある。
「わかった。早く帰ってきてね。」
俺の指示に対して、不安な表情を見せることなく、彼女は愛らしく微笑んでいた。こちらも手早く終わらせてメイサの元に戻ることにしよう。
ちなみに俺が1人侵入者を連れ出したのは尋問するためだ。
「おい、起きろ!」
頬を叩いてそいつを起こす。
「うっ、う、うん?」
「目が覚めたか?お前は何者だ?ここに何しにきた?」
「・・・・・・。」
男は黙りこくったまま、こちらと目を合わさないようにしている。
まあ、そう簡単に話さないよな。
「じゃあ、これから死ぬまで拷問していくから、話したくなったら話せ。」
「・・・俺を殺したら情報を得られないんじゃないのか?」
さすがに殺されるのは嫌だったらしい。男はこちらを見てだんまりをあっさり解除した。
「安心しろ。もし、お前が死んでしまってもあと2名いるからな。誰かしら喋るだろ?」
「・・・・・・。」
また、だんまりか。
はぁーっあんまりこういうのはしたくないんだけど仕方ないか。
俺は奴の頭に手を乗せる。周囲をサイレントドームで覆い、声が漏れないようにしていく。
「・・・死ぬなよ。」
奴に一言だけ告げて、魔力吸収を始める。漏れ出る魔力は大したことないから、すぐに終わるだろう。
「な、何をやっているんだ?!や、やめてくれ!か、体から力が抜けていくっ!」
「ん?話したくなったか?早くしないと本当に死んでしまうかもしれないぞ?」
「・・・くっ、殺せ。俺は死んでも喋らん。」
女騎士でもないのにそんなセリフを吐くなと言いたい。誰得だよ?ただ、このまま魔力を吸い取ったところで、こいつは喋らなそうな気がしてきた。ギリギリまでやってダメなら他の手を考えるか。
「はあ、はあ、はあ、ほ、本当にやめてくれ。」
「だから、やめて欲しけりゃ話せ。」
「そ、それだけは言えない。」
うん、こいつは喋らないな。俺に尋問スキルでもあれば良かったんだが、そんなものないし。今回を機に覚えられたらいいな、くらいだし。面倒にもなってきたし、早く戻らないとメイサも心配だしな。
「なかなかしぶといな。じゃあ、これならどうだ?」
そう言って俺は魅了をかける。最初からこうしておけば、早かったんだが、尋問に興味を持ってしまったんだから仕方がない。
「あ、あう〜。」
そう言ったあとは早かった。俺が聞きたかったことを話してくれた。なるほど、事情はわかった。早くメイサの元へ戻ろう。魅了を解除し、そこらの木にぶら下げておく。
さて、メイサの方はうまくいっただろうか?
「メイサ、どうだった?」
「うん、ハルキの言う通りになった。」
俺がメイサに指示したのは、ミハエルが逃げ出しても気付かないふりをして、2人への尋問を続けること。ミハエルにはメイサの言う事を聞くように指示したが、メイサが逃げるなと言ってないので、拘束されることはない。そういう隙を見せれば動くと思っていた。案の定、ミハエルは気配を隠して逃げ出したらしい。
「そうか、で、気配は追えてるか?」
「大丈夫。ここから少し行ったところで、身を隠してるみたい。あいつは私のことを侮っていたから、問題ない。」
俺も感知範囲を広げると、奴が潜伏している場所がわかった。他にも誰かいるようだから、何かしらの連絡を取っていたんだろう。ま、おそらく、さっきのトイレの時だろう、こちらが泳がせてるとも知らないでよくやるよ。
「さっき渡した魔石はあいつに気付かれないように仕込めたか?」
「それも問題ない。でも、あれには何の意味があった?」
俺は空になった魔石に自分の魔力を込めたものを、ミハエルに気付かれないようにメイサに仕込ませていた。探知すれば、自分の魔力を頼りに奴の居所がわかるように、仕込んだ。結果としては問題なかった。いくら自分の気配を消しても、俺の魔力を探れば見つけてしまえるのだから。
「2人の尋問の方はどうだ?」
「・・・ごめんなさい。まだ吐かせきれていない。」
「そうか。じゃあ俺は続きをやるから、こっそりミハエルの近くに行っててくれるか?あとで合流するから。」
メイサの気配遮断は魔力に頼らないので、探すのがしんどいが、ミハエルに仕込んだのと同じ魔石をメイサに持たせておけば、俺なら探し出せる。無理しないように監視しておいてくれれば良い。
メイサが目の前から消えたあと、2人の尋問を引き継ぐ。
「お前らの他にもう1人いたよな?あいつがどういう目にあったか、聞きたいか?」
「・・・あいつは無事なのか?」
「質問に答えたら教えてやる。嘘を言ってもわかるから、適当なこと言うなよ。」
「・・・・・・。」
「お前たちは何者だ?」
「・・・答えられない。」
「じゃあ死ぬか?あいつはきちんと答えてくれたぞ?お前たちで答え合わせするつもりだ。」
「なっ?!あいつが口を割るわけがない!何をした?」
「質問に答えたら、教えてやる。」
「・・・・・・。」
「はぁーっ。お前たちはみんな自分の立場をわかっていないようだな。お前たちの命は俺次第だと言うことが全くわかってないようだな。片方殺せば話す気になるか?」
あいかわらずだんまりを決め込む。力を得てから俺は攻撃的になっている。元の世界では絶対許されないことだが、それだけこの世界に染まってきたと言うことかもしれない。
とりあえず1人を気絶するくらいまで、魔力吸収しておくか。
俺は手のひらを男の方に向けて、一気に吸収する。
「ぐっ!・・・。」
一度目を大きく目を見開いていたが、あっという間に首から力が抜けたようにダランとなった。
「ちょっと!本当に殺すことないでしょ?」
実際は生きているが、少し離れたところに吊るしているため、そこまでの判断ができないのであろう。
「お前が喋らないのがいけないんだろう?どうする?お前も他のやつと同じ目に逢いたいのか?」
「・・・わかったわ。喋るわよ。」
あれ?女?だったのか?
「私たちはハイド様、ミツキ様をあなたたちから救おうと思ったのよ。今まで、どこにいるかわからなかったのに、今日になって急にお二人の匂いを見つけたから、私たちが様子を見に来て、可能であればお救いしようと思ったのよ。」
俺が魅了をかけたやつも同じことを言っていたからおそらく間違いないだろう。ハイドたちが狙いなのかミハエルが狙いなのか、はっきりさせたかったので、今回はこのような形をとった。ミハエルの可能性を考えてはいたが、別件だったようである。
「最初からそうやって素直に話せば、こっちも手荒な真似をしなかったのに。ハイドとミツキは奴隷商で見つけて俺が解放した。だが、あいつらは弱い。俺が鍛え上げてから、お前らに返してやるよ。このままだと簡単に死にそうだからな。」
俺の話を聞くと、女侵入者はポカンと口を開けて、間抜けな顔をしていた。
「ちょっと待ちなさいよ!お二人を解放したと言っていながら、あの魔人と一緒にいたのよ?あいつは私たちの・・・何でもないわ。鍛えると言ってもあのお二人はそれを認めているの?強制的に鍛えると言うなら納得できないわ。」
なんか気になることを言うのをやめたようだが、どうしたもんか。とりあえず明日、ハイドとミツキが起きたらこいつらと会わせてみるか。あ、ベルデも解放してからの方が話は早いかもしれないな。俺は奴らをひとまとめにし、人目のつかないところに連れて行き、魅了でそこから動かないように指示した。
1人でミハエルを追っているメイサの元に早く行かなくては。




