第63話
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「お、お兄ちゃん、おかえりなさい。」
な、なに?お兄ちゃんだとっ!
真っ白な猫耳美少女が俺を出迎えてくれた。白いレースのフリフリのついた空色のワンピース。上目遣いで大きな目をウルウルさせて。なんか新しい世界が開ける気がする。
くっ!俺にはアイリスというかわいい妹がいるが、ずっと会えていない。くそっ!この子は誰だ?かわいいじゃないか!?
「ほらね、上手くいったでしょ?ダーリン喜んでる!」
「フィーネ、この子は君の知り合いか?それになんで俺のことをお兄ちゃんだなんて言うんだ?」
「えっ?ダーリン何言ってるの?その子ミツキちゃんだよ?」
「はぁ?えっ、でもミツキはグレーの髪色じゃなかったか?あれ?じゃあそこにいるもう1人のその白と黒のシマシマの奴はハイドなのか?」
「当然。ハルキ、よく見るといい。2人とも私とフィーネが水浴びさせたら綺麗になった。服はナナ様、、、ナナが買ってきたのを着せた。どう?メイサえらい?」
フィーネとメイサが綺麗にした結果、ハイドは白と黒の虎柄獣人に、ミツキは真っ白な猫?のようになったとのことだ。ハイドによるとミツキもいずれ黒い模様が出てきて虎柄になるだろうとのこと。というわけで2人はホワイトタイガーの兄妹だったことが判明した。
「ミツキ、よく似合ってるぞ。ハイドもな。」
「それと、フィーネ、メイサ、ナナ、ムラト、2人のこと、ありがとう。ギルドとはある程度、話してきたから、まずは夕飯にしよう。腹も減ったしな。」
俺が助けたくてみんなに相談しないで、連れてきてしまったが、嫌な顔ひとつしないでお世話をしてくれたことに感謝だ。
2人の部屋を取ろうと思ったが、フィーネとメイサが面倒を見ると聞かないので、2人に任せることにした。ハイドとメイサも懐いているようなので、任せることにしたが、悪影響を受けないことを願う。
食堂に向かう途中、不意に袖を引っ張られたので振り向くと、ハイドが袖を摘みながらじっと睨みつけるようにこちらを見ていた。何か用があるのかと思って、目線の高さを合わせたら、
「ミツキに手を出したら、殺す!あいつの兄は俺だけだからな!」
先ほどの丁寧口調をなくしたハイドがそこにいた。どうやら俺がミツキにお兄ちゃんと呼ばれたことが気に入らなかったらしい。こいつもシスコンか。まあ、気持ちはわかるが、俺が呼ばせたわけではないので、そこは許してほしい。
子供達には好きなものを好きなだけ注文していいと言ったのだが、なんだか遠慮しているようだ。ここは女性陣に任せて、俺はムラトと内緒話でもしてようか。
「ムラト、ちょっといいか?」
「ん?どうした?何かあったか?」
俺はムラトを食堂から連れ出し、奴隷商にいたハイドたちと一緒の部屋にいた人たちのことを話した。人数がそれなりにいるために、全員を連れて行くわけにもいかないから、ナナの国で引き取れないか確認だ。ナナに話せば、二つ返事で了承してくれるだろうが、事情が分からないものたちを、押し付けるのもどうかと思うので、その辺りのことをムラトに聞いておいた方が良いかと思った次第だ。
「まあ、2人を見る限り、こちらに危害を加える様子はないが、面倒ごとに巻き込まれる可能性はあるな。それを含めてもナナは引き取るというだろうが。」
うーん、まあ、ナナならそう言うだろうな。あそこにいたベルデを見る限りは教養のありそうな感じだし、どことなくセバスを思わせる。ハイドたちへの態度を見ても、元々は貴族の家の者だったのかもしれない。その事情が面倒そうではあるが。明日、解放するついでにその辺りを聞いてみるか。それを踏まえてから、どうするか決めたほうがいいかもしれない。
「ちょっと!私にも事情を話してよね?約束でしょ?」
ムラトと2人で話しているところに、ナナが何かを察してこちらに来たようだ。ちょっと怒ってるようにも見えるので、正直に話したほうが良さそうだ。
「あぁ、あとでみんなに話す。あの子達が寝たあとな。今、ムラトと話してたのはその確認だ。今日はみんなが飲みすぎないように注意してくれ。」
いまいち納得していない表情をしていたナナだったが、俺がそれ以上話さないことが分かるとムラトに声を掛けて食堂に向かった。俺も1人残されてもすることがないのでそれについて行く。
「ハルキ、どこに行ってた?もうご飯の時間。ハルキがいないと2人が食べられない。」
食卓には大量の料理が運ばれており、今か今かとミツキが食べたそうにしている。ハイドも食べたそうだが、お兄ちゃんだからか我慢しているようだ。それにしても、おかみさん、料理出すの早すぎだろ?いや、先にある程度、準備しておいてくれたのかもしれない。
俺はおかみさんにお礼を言って席に着き、乾杯の音頭をとる。周りに他の冒険者もいるので、ダンジョンのことは内緒で、2人の歓迎会ってことにしておく。あ、ちなみにミハエルも食卓にいる。彼には一言も喋るなと命令してある。ハイドとミツキを怖がらせたくないからな。
「ハイド、ミツキ、これからよろしくな。2人のこれからの未来に、乾杯!」
さすが、虎獣人と言うべきか?肉ばかりをガツガツ食べている。昔のムラトのようだ。今は、品良く食べているが、昔はあんなだったなぁと懐かしくなってくる。そんな2人の口元をナナがナプキンで拭き取ってあげている。微笑ましい。
「ほら、そんな風に急いで食べなくても、いっぱいあるからね?ゆっくりよく噛んで食べなさい。ほら、あそこのお兄ちゃんだって、お肉ばっかりだけど、綺麗に食べているでしょう?」
ナナがムラトを引き合いに出して、子供達2人にお行儀良く食べるように諭している。それを見て、みんながほっこりした気分になる。
「ねぇ、ムラトお兄ちゃん。どうやったらそんなに綺麗に食べれるの?」
「な、お、お兄ちゃんだと?!」
ムラトもミツキのお兄ちゃん攻撃にやられたようである。ミツキ恐るべし。
「・・・ちっ。また増えた。」
ハイドが思わず呟いてしまった言葉を俺は聞き逃してない。気持ちはわかるが、ムラト共々許してほしい。
ミツキのお兄ちゃん攻撃にやられたムラトは色んな肉の食べ方をレクチャーしている。骨の付き方で食べ方の作法?があるらしい。ムラトのこだわりを見た気がする。
ハイドとミツキの2人はお腹いっぱいになったこともあり、船を漕ぎ始めた。メイサに目配せすると、ふたりを部屋へと連れて行った。それを確認した俺は、みんなに告げる。
「大事な話があるから、みんな俺の部屋に来てくれないか?」
いつものようにサイレントドームを使い、声が漏れないように対策する。メイサにはあとで伝えればいいだろう。
「まずはみんなに説明しなくちゃな。俺は奴隷商で魔人を奴隷化した。その後のことなんだが、奴隷という商品を見せてもらった。俺が救えるものがいるのなら力になってやりたいと思ったからだ。だが、そこには自分で生きることを諦めたかのような者たちが、小綺麗な格好をして並んでいた。正直俺は吐きそうになった。あの人たちは解放したところで、もう1人では生きていけない。むしろ、奴隷として生きていくほうが幸せなのかもしれない。だから、すぐに帰ろうと思ったのだが、奴隷化出来ない、言い方は悪いが、商品化できない者たちがいると聞いて、そちらも見せてもらうことにしたんだ。そこにいたのがあの子達だ。」
言葉で奴隷というものについて知っていても、内情についてまで詳しいものはいなかったろう。みんなは神妙な面持ちで、俺の話の続きを待つ。
「あの子達がいた部屋は、薄暗く、小汚く、異臭を放ち、檻に入れられた者たちもいたりと、子供がいるには耐えがたいであろう環境だった。そんなところにいたにもかかわらず、あの子たちの瞳には強い意志があった。だから俺はあの2人を救いたいと思い、金を払って引き取ってきた。」
ちなみに奴隷化はしていないことを伝えるとフィーネ以外の全員が、安堵したように見える。俺があの子達を奴隷化して連れてきたとでも思っていたようだ。態度には現れてなかったが、無駄に心配をかけてしまったようだ。フィーネは水浴びさせた際に体の隅々までチェックしたが、奴隷紋が見当たらなかったので、俺がどうにかして奴隷化せずに連れてきたとわかっていたそうだ。まだ、あの子たちの面倒を見ているメイサもそれは確認済みとのことだ。さてさて、ここからが本題だ。
「なあ、みんなあの2人のことだけど。俺が鍛えようと思う。何かしらの事情を抱えてそうではあるが、あの子たちに生きる力をつけてあげたい。一応、元教師だしね!」
これにはみんなうなづいてくれた。まあ、フィーネ以外は元生徒だ。その辺りは納得してくれるらしい。さて問題はこの次だ。
「俺が奴隷商であの子達を保護してきたのは、今、言った通りだけど、それ以外にも助けたい人たちがいるんだ。あの子たちの知り合いと言っていいのかわからないが、あの子達を庇うような者たちがいた。俺はその人たちも開放してあげたいと思っているんだが、どうだろうか?そして解放した後、絶対面倒なことになりそうな予感もしている。矛盾しているのは理解しているんだが。」
「だいたいの事情はわかったわ。で、あの子たちはハルキが鍛えるとして、ほかに助けたいって言ってた人たちは何人いるの?その人たちもあなたが鍛えるつもり?」
うーん、さすがナナ。問題はそこなんだよね。ただでさえ、子供2人を加えて8名になったのに、あと5人増やすのはどうだろうか?正直多すぎるし、面倒を見きれないかもしれない。
「うーん、それをナナに相談したい。あと5名を解放しようと思うんだが、正直連れて歩くには多すぎる。」
「なら、簡単じゃない?うちの国で引き取るわ。」
「いや、面倒ごとを持ち込むかもしれないんだぞ?そんな簡単に決められることじゃないだろう?」
「じゃあ他に何か方法がある?」
「うちの実家で引き取ってもらうとか?」
「はぁ?あなたがいない家に面倒ごとを起こすかもしれない人たちを預けるんだ。ふーん、あなたってそういう人だったの?」
「うっ。」
俺とナナの問答がこんな風に続けられたが、最後はナナの勢いに負け、申し訳ないがアストラムで引き取ってもらうことにした。
「そんなに心配しなくて大丈夫よ。私の国はあなたの国より獣人に寛容だし、ハルキがしようとしたこと、これからしようとしていることは、私が昔やりたかったことと同じだもん。対策は色々出来ているから。」
孤児を引き取っていたナナからしてみれば、俺があの子達を引き取ったことは、自分と同じ行為に映ったそうで、奴隷化しなかったことも高評価だったらしい。快く引き取ることを決めてくれたナナに感謝だ。
それとギルドでのことも話しておかないとな。そう思った時、部屋をノックする音が聞こえた。メイサが2人を寝かしつけてこちらに来たようだ。子供達だけを2人で残してきたのは気がかりなので、気配探知だけはしっかり働かせておこう。何かあっても俺なら対応しきれるだろう。




