第62話
なかなか更新できなくてすみません。仕事が落ち着いたらまた、毎日更新に戻します。
いかついスキンヘッドのおっさんことゴーンは俺たちをギルドのカウンターを抜け奥の部屋に案内した。
「わざわざ来てもらってすまんな。」
ゴーンに連れられて入った部屋にはギルドマスターのジンがいて、書類仕事をしているようだった。
「いや、構わないよ。こちらとしても相談したいことがあったから。で、どんな用件なんだ?」
ジンとは10階層攻略時に収納のことを秘密にしてもらい、なおかつランクも特例であげてもらった経緯がある。こちらも何かしら力になれることがあれば協力しておいて、貸しをなくしておきたい。まあ、俺も相談することがあるから、貸しが増える可能性もあるのだが。
「では、単刀直入に聞こうか。20階層をクリアしたのか?」
「あぁ、なんだそのことか。さっきクリアしてきたぞ。」
やはり、噂はギルドマスターの耳に届いていたか。俺があっさり認めたのが意外なのか、目を見開いている。
「ん?そんなに大したことじゃないだろう?」
「で、素材はまだあるのか?ダンジョン前の店に譲ってたと言う話を聞いたのだが。」
おっさん、すごい情報網だな。
「そんなことも知ってるのか?すごいな。たしかに素材は知り合いに譲ってきたが、まだ残りは持ってるから、大丈夫だぞ。」
「そうか、これからは相場よりも高めに買うからギルドに売って欲しいのだが。」
ジンはいかにダンジョン産の素材の確保が大変かを切々と話す。ましてや、巨大な収納を持つ俺はギルドにとっては最重要人物らしく、コスモやタケル、ナカジが所属する『紅蓮隊』のような最高階層到達者よりも優遇するからと言い寄られた。でも、正直、年老いても筋骨隆々のおっさんにそんなこと言われても、誇らしくは思うが嬉しくはない。
「まあ、俺の相談したかった一つが素材の売却だから、それに関しては協力できると思う。」
ジンはあからさまに安心したそぶりを見せるが、俺が本当に相談したいことを言ったら、ガッカリさせるだろうな、と思い、ちょっと心が痛む。
「・・・あと、すごく言いづらいんだが。」
俺が切り出すと、ジンはあからさまに緊張し、それがゴーンにも伝わり、遠くで聞こえるようなギルドの喧騒だけが、部屋に響く。
「・・・な、なんだ。言ってくれないとこちらも対応できるかわからん。出来る限りのことをすると約束する。話してくれないか?」
気が重いが話さないと始まらない。俺はなかなか切り出せない。ここまでの会話で、ジンとゴーンがいいやつだと気付いてしまったから。
「・・・魔人のことか?」
俺が切り出すのを迷っているとジンの方から話し出した。まさにそれだと言いたいが、この話をして信じてもらえるのか?協力してもらえるのか迷う。
「・・・そうか。魔人か。やはり本当なんだな。」
ジンが勝手に納得している。
「・・・・・・。」
「・・・ヘルシャフト・・・なんだな。」
ジンは俺の顔色で判断しているらしく、色々と当ててくる。察しが良すぎる。
「ハルキくん・・・。ギルドマスターを信じてもいいんじゃないかな?」
沈黙を守っていた俺をマユの一言が打ち破る。
「・・・ジン、どこまで知っている?」
沈黙を破って発した言葉は、ジンを攻めるかのよう。正直、ジンの口から『ヘルシャフト』の名前が出るとは思わなかった。
「お前さんらが何者かを連れてダンジョンから出て来たって聞いてな。怪我してるように見えるのに、それを隠すようにしてるって聞いてな。何かしら理由があると考えるのが普通じゃろ?」
そして、奴隷商から出てくるのを見られて、魔人じゃないかと見当をつけたとのことだ。ダンジョンから魔人を連れ出してくる理由が不明確だったが『ヘルシャフト』の名前を出してカマをかけたそうだ。さすがギルドマスターといったところか。
「はぁーっ。お見通しってわけか。じゃあ、こっちからも質問だ。『ヘルシャフト』について知っていることを教えてくれ。」
「わしも詳しいことは知らん。そういう魔人の集団がいるということくらいだ。これはギルドでも上層部しか知らんことだ。」
「じゃあなんで俺に『ヘルシャフト』の名前を出したんだ?知らなかったらどうするつもりだったんだ?重要事項なんだろ?」
「勘じゃよ。」
勘かよ。まあ、それが当たってたから良かったものの、外れたらどうすんだよ、まったく。
「わしの勘は鋭いからな。『直感』スキルも持っておるしの。」
「はぁーっそうかよ。ま、相談したいことっていうのはそのことだからまあいいか。捕まえた魔人はミハエル・ノスフェラトゥ。ヴァンパイアから進化した魔人だそうだ。で、奴が言うには子爵の位にいたらしい。で、そいつを俺は奴隷にしたから、奴を使って『ヘルシャフト』のことを探るつもりだ。」
「おいっ!ちょっと待て!子爵じゃと?それをお前たちが倒したのか?」
「えっ?あー、そうだけど。何かまずいのか?」
「いや、奴らは騎士爵のものでもAランク冒険者が束になってようやく倒せるレベルだぞ?お前たちはどれだけ強いんだ?」
「えっと、魔人を倒したのはハルキくん1人ですよ。」
マユ、そこはみんなで倒したってことにしておかないと。俺1人が目立っても仕方ないし。
「・・・・・・。」
開いた口が塞がらない、を実際に見て俺は正直ドン引きしている。いいおっさんと爺さんが、顎が外れんばかりに口を開けたまま固まっているんだから。
「おーい、戻ってこーい。」
俺が呼びかけるが、まだ戻ってこない。まあ、正直ミハエルはそれなりに強かったと思う。指弾10発でも死ななかったし。でもそれくらいだ。奴が油断してたからってこともあるが、対して苦労はしていない。
「ま、まさかそこまでとは。わかった、お前たちのことはギルド会議の議題にあげる。そこでランクアップの申請をする。良いな?これは力を持ったものの役目だ。拒否は許さん。」
いきなりの強硬姿勢。俺はもっと自由にやりたかったのだが、そうもいかないようだ。甘んじて受け入れよう。でもどうするかな?
「悪いんだが、俺はこの国を出るつもりだ。だからランクアップ申請してくれるのはありがたいが、ここで受けることはできないぞ。」
「な、なんじゃと!どこに行くつもりだ?」
「当面の目標は『ヘルシャフト』について調べながら旅をして、途中アストラム寄ってからサジタリアだ。ちょっと野暮用があるんでな。」
「ナナ様とお前の故郷か。」
「あぁ、やっぱり知ってたか。」
知っていても黙ってくれていたらしい。ハルキなんて名前で冒険者登録するくらいだから、何かしら事情があると思って無理に詮索するようなことはしなかったらしい。ありがたい。
「ま、そう言うわけだから、素材を売っぱらって近々、旅立つからよろしく。」
何度も引き止められたが、俺にもやることがある。丁重にお断りして、素材の買取だけしてもらった。先ほどの約束通り、色をつけてくれたので、当分金に困らなそうな額で買ってくれた。奴隷商に約束したベルデたちの引き取りをしてもまだ余裕がありそうだ。
とりあえず、宿に戻ってみんなと祝勝会&ハイドとミツキの歓迎会だな。そこでこれからの旅のことを話して、2、3日中には出発しよう。




