第61話
ちょっと仕事が忙しくて更新が遅れて申し訳ないです。お盆休みくらいまではこんな感じになってしまうかもですが、よろしくお願いします。
「お前たち、そこから出てきてこのお方に顔をよく見せなさい。」
パンプキンは怯えながらもこちらを睨みつけている子供達2人に命令する。
「だ、誰がお前のいうことなんか聞くか!」
もう一人の子を庇うように手を広げ、少年がパンプキンに向かって叫ぶ。
薄暗い部屋のためハッキリとは見えない。ぼんやりとだがグレーの髪にマユのような耳を頭につけているように見える。
その少年は怯え、震えながらも後ろの子を庇うようにしている姿が好印象だ。そして存在感を際立たせる赤く光るその瞳には強い意志が感じ取れる。垂れ下がった細い尻尾はネコ科を思わせるもので、ネコ科の獣人の子供と見るのが正解か。
「なあ、君。後ろに庇っているのは君の友達かい?」
俺はその少年に優しく話しかける。頭の上の耳がピクピクと動いているから、俺を警戒しているんだろう。
「・・・妹だ。」
そう言われた後ろの少女は気になったのか、少年の背中越しからこちらを覗き込み、俺と目が合った。
ささっとまた少年の背中に隠れるが、また少しするとこちらを覗き込む。何度かそれを繰り返してはいたが、俺が危害を加えないとわかったのか、隠れるのをやめてこちらの様子を伺っている。
「こいつは君たちの名前を俺につけてくれと言っていたんだが、君たちには元々の名前はあるのかい?」
「・・・ある。ぼく、、、俺はハイド、妹はミツキ。」
ハイドとミツキは腹違いの兄妹で、7歳と5歳。周りにいた数人の奴隷が彼らを守ろうとするそぶりが見られるので、最悪な環境ではあるが、いじめられたりとかはしてなさそうだ。
「なあ、ハイド。君はこれからどうしたい?」
「・・・ここから抜け出したい。そして・・・。お、お前は俺たちをどうするつもりだ?」
一瞬、思いつめた顔をしていたが、キッとこちらを睨み付けこちらの様子を伺っている。
「ここから抜け出したいなら、助けてやる。まあ、全員は難しいけどな。」
「な、助けてくれるのか?奴隷にするんじゃないのか?」
「奴隷にして欲しいならそうするけど、何かやりたいことがあるんだろう?」
俺とハイドのやりとりが進む中、周りの奴隷たちも唖然としている。奴隷商に来て、奴隷にしないで助けるというようなことを言う奴なんて、そうそういないだろう。
「何が目的だ!?」
「俺はお前たちのように、自ら望まずに奴隷にされそうになっているやつを救いたい。俺の自己満足だけどな。力が欲しいなら鍛えてやってもいい。生きる意志があるなら俺の手を取れ。」
そう言って彼の前に手を差し出す。ハイドはどうしたらいいのか、周りをキョロキョロして意見を求めているようだ。
「冒険者様、お話の途中に横から入ることをお許しください。私はこの子らと一緒にここに連れてこられたものです。差し出がましいとは思いますが、我々のことは結構ですので、この子らをお救いください。」
「ベルデ!勝手なことを言うな!お前がいなかったら俺たちは・・・。」
父親?とはちょっと違うようだが、この子たちのことを大切に思っているのだろう。ベルデと言うのか、こいつのことも覚えておこう。
「あんたは来ないのか?見たところこの子らの親代りって感じだが?」
「私のことは結構でございます。こんな扱いを受けているとはいえ、我々は奴にとっては商品です。それなりの値段で取引されることは私も存じております。」
俺はちらっとパンプキンを見ると、気まずそうな顔をして俯く。後で確認しておこう。
「どうかこの子たちをよろしくお願いします。」
そう言ってベルデが頭を下げると周りにいた数名の者たちが、一斉に頭を下げた。
俺はパンプキンを呼び、こっそりと引き取る際のことについて話を聞く。この部屋には先ほどの兄妹とベルデの他に10名ほどが詰め込まれている。頭を下げたのはベルデを含む5名。檻に入れられてる2名は犯罪奴隷とのことだったので、ひとまず置いておいて、全部で8名。なかなかの値段になりそうである。
「(パンプキン、この部屋にいる犯罪奴隷以外の者を俺が引き取るとしたらいくらになる?)」
「(金貨15枚となります。)」
た、高い!ま、まあ、仕方ないか。ただ、手持ちが足りない。とりあえず、兄妹だけ引き取って、他は保留にするか?
大見得切っておいて、カッコ悪いが致し方ない。
「ハイド、ベルデはこう言っているが、お前はどうする?」
「わかった。・・・あなたについていきます。ただし、妹に危害を加えないと約束してください。」
「そうか。これからよろしくな。」
そう言って俺は笑顔を浮かべ手を差し出す。偽善と言われようが、俺はこの子たちを助けたい。だから、それでいい。
パンプキンにほかの人もいずれ引き取りに来るからと伝言し、待遇の改善をするように言っておいた。そして、ハイドとミツキに関しては奴隷契約をせずに外へ連れ出した。
「ここで逃げても構わないぞ。出来れば、俺たちと行動を共にして、ダメなら逃げるって方がいいんじゃないか?俺たちは君たちを傷つけるつもりはないから。」
「・・・。」
ハイドは一度だけうなづいて俺についてくる。その後ろをミツキがキョロキョロしながら付いてくる。
「あっ!ハルキくん出て来た!」
マユが俺が店から出て来たのに気付き声をかけてくる。ナナとムラトも一緒だ。あとついでに大人しくなったミハエルも一緒だ。
「どう言うことか説明してくれるのよね?」
「ああ、とりあえずこの子たちを宿に連れて行って綺麗にしてあげてからだな。」
「グゥ〜」
「ついでに飯もな!」
お腹を鳴らしたハイドは恥ずかしそうにしていたが、頭を撫でてやり宿へと向かった。
途中に串焼き屋があったので、小腹を満たすために2人に1本づつ買ってあげたら、ものすごい勢いで食べていた。飯も満足に食べられなかったんだろうと思い、少し悲しい気持ちになったが、2人の嬉しそうな顔を見たらその気持ちもどこかに消えていった。
宿に着いた俺たちをフィーネとメイサの2人が店先で出迎えてくれたので、2人を水浴び場に連れて行ってもらう。その間にナナとムラトには2人の着替えを買いに行ってもらい、俺とマユはギルドに今日の報告に行くことにした。フィーネ、メイサコンビにハイドたちを預けるのは若干心配だったが、水浴び場から子供達の笑い声が聞こえていたので、問題ないかと思い、おかみさんに伝言を伝えて、俺たちはそれぞれの用事を済ませるために宿を発った。
夕方を過ぎたくらいであったこともあり、多くの冒険者が依頼の報告に来ていたため、ギルドはいつにも増して賑わっていた。
俺とマユは一番空いている列に並び、取り留めのない話をしながら順番を待つ。
「おい、聞いたか?あの新人冒険者、もう20階層クリアしたらしいぞ!」
「マジでか?!」
「なんでも鍛冶屋に持ち込まれた素材の中にファイヤーバットの翼があったらしい。さらに魔法陣で戻ってきたのも目撃されているからほぼ間違いないだろう。」
やっべぇな、結構噂になっちゃっているようだ。これで素材の買取をここでお願いしたら、この人数だし面倒なことになりそうだ。諦めて明日の暇な時間に来た方が良さそうか?
そんな俺の考えに気付いたのかわからないが、カウンターの奥からスキンヘッドのおっさんが手招きしているのが見えた。
「マユ、あれ俺たちに向けて手招きしてるのかな?」
「えっと〜、あぁ、あの人この前、カウンターにいたゴーンって人だったっけ?行ってみる?」
俺たちはイカツイおっさんの手招きに従い、ギルドの奥の部屋に案内されるのだった。




