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転生魔法使いの愛のある生活  作者: チムチム
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第60話

いつもお読みいただきありがとうございます。今日も引き続き奴隷話です。なかなかまとめられなくて申し訳ないです。

「おい、パンプキン。ここにいる者たちはどういった理由でお前に捕らえられているんだ?」


ナナとムラトがいなくなったこともあり、俺は少し威圧的に話しかける。あまりこういったところは2人には見せたくない。力をつけたことで、俺の精神もそれなりに成長してきたのかもしれない。


「ほっほっほ。それが本来のあなた様の姿なのでしょうか?なんと雄々しいと言わざるを得ないです、はい。」


「余計なことはいい。で、どうなんだ?」


「ここに捕らえられているのは、犯罪を犯した者から、自ら奴隷の道を選んだ者、そして身寄りのなくなった者たちです、はい。」


やはりか。犯罪を犯したものたちは致し方ない部分もあるが、自ら奴隷の道を選んだ者とはどういうことだ?それと身寄りをなくした者たち、これがおそらくマユと同じような状況で拾われたものたちなんだろう。


「自ら奴隷の道を選ぶのはどうしてだ?」


「奴隷になるとその身分は主人の所有物になります。そして、奴隷を不当に扱うことは禁止されておりますので、最低限の衣食住を保証せねばなりません。また、主人に見染められれば奴隷から解放され主人の妾として裕福な暮らしを得ることもできますです、はい。」


なるほど。どんな扱いを受けようとも、不当に殺されることはないわけか。そして、うまくいけば裕福な家庭での生活も出来る可能性がある、俺が思っていたのとは少し違うようだ。弄ばれて捨てられるといったことは、そうそうないわけか。



「ですが、それはどんな主人に買われるかにかかっております。あなた様のように若く、覇気に富み、見目麗しい方ならば、奴隷たちも安心して身を任せられるというもの。奴隷を預かる身としては、あなた様のような方にこそ、奴隷を買っていただきたいと思い、お声をかけた次第です、はい。」


どうやら俺の考えていた奴隷商というのは外道な奴らという印象だったが、そういう奴らばかりではないということか。まだ完全に信用したわけではないが、こいつの評価を少し上げてもいいのかもしれない。


「まあ、中にはお売りしたくない貴族の方もおりますが、買うと言われたら売ってしまうのは商売をしている以上やむを得ない時もありますがね。その辺りはこちらも割り切っておりますです、はい。ほっほっほ。」


ううん、いい奴なんだが悪い奴なんだかわからないな。まあ、奴隷商なんていう業の深い仕事をしてるんだ、これくらいは仕方ないか。人によっては忌避感を持つだろうな、とは思うが。


「もう一つ、聞かせてくれ。身寄りのなくなった者たちのことだ。」


「文字通り、身寄りのない孤児でございますです、はい。我々も仕事ではありますので、身寄りのない者たちすべてを拾ってきているわけではございません。身寄りのない者たちでも見目麗しい者、魔力に富む者、希少種、そういった者たちを優先して保護しておりますです、はい。お連れ様の氷の女王様がされていたのと同じですな、ほっほっほ。」


ちっ。こいつナナのことをわかっていたらしい。わかった上で、知らないふりをしていたのか。まあ、こいつも俺に対して少しは腹を割って話してきたと思うべきか。


「お前も食えない奴だな。」


「ほっほっほ。あなた様にそう言われると、誇らしい気持ちになりますです、はい。さあ、着きました。あなた様に救っていただけるものがおりましたら、よろしくお願いしますです、はい。」



薄暗い回廊を進んでいたが、一際大きな扉の前に出た。その扉の前には2人の大男が立っていて、巨大な大剣を手に扉を守っているように見える。


パンプキンは大男たちに二言三言交わすと扉を開けさせた。


開いた扉の先には貴族の一室といいほど整った部屋で、生地の薄い服を着た20名ほどの女性が整列し出迎えてくれた。


「おかえりなさいませ、ご主人様。」


想像と全然違う。パンプキンは俺をソファへと座らせ、彼女たちを一人一人、年齢やここに来た経緯、金額といったことを紹介していく。


「ほっほっほ。この娘たちは今、名前がありませんので、お連れになるときは名前をつけてあげてくださいです、はい。」


女性たちは10歳から30歳までで、見た目も様々、かわいい系からキレイ系、種族もバラバラとある意味よりどりみどりな状態。犯罪奴隷も混じってはいたが、殺しではなく窃盗や詐欺で捕まった者たちとのことだ。


「おい、パンプキン。これで全部か?」


「ほっほっほ。お気に召すものがおりませんでしたか、残念です、はい。」


落ち込んだ様子などいっさい見せないパンプキン。異様なほどずっと、笑顔でこちらを見ている奴隷たち。束縛するものも付けておらず、いつでも逃げられるように見えるのに逃げ出すそぶりも見せない奴隷たち。


正直、吐き気がする。綺麗で清潔に見える部屋で女性たちも髪や肌が痛んだり、傷ついたりすることもない。ぱっと見の印象では悪くないように見えるが、俺が吐き気を催すのは彼女たちの瞳だ、張り付いた笑顔だ。人生を諦めている、人に依存するために無理やり笑顔を作っている。俺の周りにいた女性の瞳や笑顔とは全く違う。ここは身体的には健全な場所に、精神的には不衛生な環境が作られている。


見初められて奴隷からの解放?そんなものを願っているものがこの中にいるとは思えない。こうやって客が来るたびに整列させられ、客にジロジロ見られ、自分や仲間たちの値段を聞かされる。こんな環境にいれば、健全に生きられるわけがない。やはり奴隷制度は人の心を壊すものだと思う。清廉潔白を謳うつもりはないが、これはダメだ。


「パンプキン、どうなんだ?これで全てか?まだいるなら見せろ!」


思わず声を荒げてしまった。この女性たちに罪はない、犯罪という意味ではなく、この環境にいることについてだ。それぞれに理由はあるだろうが、生きるために取った手段だ。奴隷商によってはこれよりも劣悪な環境だってあるだろう。綺麗なところで過ごせる分、ここの女性はひょっとしたらマシなのかもしれない。俺には全ての人を救うことなんてできない。ただ、せめて、ここから抜け出したいと思っているもの、生きることに希望を持っているものから救ってやりたい。


「あ、あなた様、覇気をお沈めください。女性たちが怯えてしまっております。」


普段の口調が出ないほど、余裕のなくなったパンプキンが俺を落ち付けようとする。


「すまない。」


俺は女性たちに謝る。パンプキンに対しては思うところはあるが、女性を怖がらせるためではない。


「あなた様にお見せできるようなのは、この者たちだけです。」


「おい、見せられない者たちはいるってことか?」


「・・・見た目を整えていない者、まだ来て間もない者、教育ができていない者たちがおります。」


「では俺のことは気にせず、その者たちのところに案内しろ。」


「・・・本当によろしいのでございますか?気分を害されるかもしれませんが、、、。」


「構わない。それに・・・。すでに気分は最悪だ。」


「・・・かしこまりました。」


そう言って俺を奥の部屋へと案内する。先ほどとは違ってこじんまりした部屋、そして少し鼻に付く匂い。扉を開けると一段とその匂いに拍車がかかる。


「この者たちと先ほどの奴らの扱いの違いは何だ?随分と環境が違うじゃないか?『あなた様に救っていただきたい』と言っていたのは、先ほどの女性たちか?それともここにいる者たちか?どっちなんだ?」


この部屋にいるのは、檻に入れられてこちらを睨んでいる者、髪は痛み埃にまみれ、顔や体にアザのある者、体調が悪そうに咳き込んでいる者、怯えて部屋の隅に隠れている者。およそ、この者たちが奴隷と言われた方がしっくりくる。おそらく先ほどの部屋にいた女性たちの覇気のない瞳は、洗脳とかそう言った類のものではないかと思えてきた。ここにいる者たちの瞳とは明らかに違う。


「もちろん、この者たちでございます。」


いけしゃあしゃあと言いやがった。俺はさらに追撃する。


「では、なぜこのような環境にしている?お前がもう少し待遇を良くしてやれば、この者たちは救われるかもしれないのだぞ?」


「・・・申し訳ございません。私共も商売ですので、商品価値によって差をつけさせてもらっています。」


「この環境から抜け出したいなら、従順に従え、とかそんなとこか?」


「おっしゃる通りでございます。ただ・・・。」


パンプキンは何かを言うべきかを迷ったように、こちらをチラチラと見ている。


「なんだ?言いたいことがあるなら言え!」


「・・・私も覚悟を決めます。ふぅーっ。正直に申し上げますです、はい。」


呼吸を整え、いつもの口調に戻ったようだ。先ほどとは違い、胡散臭さは消え、目に力が入っているように見える。


「あなた様がここにいらっしゃらなかったら、私はこの者たちを救ってもらおうなどとは思いませんでしたです、はい。ただ、私なりにこの者たちには生きて欲しいとは願っております。そのため従順に主人に従うよう教育し、せめて殺されない程度の生活が出来るようにしていくのが私の使命とも思っておりますです、はい。」


やり方はアレだが、こいつなりに思うことはあるようだ。どこまで本当かはわからないけどな。


「ただ、この者たちは主人に従順になることを良しとしなかった。私は従順になることを受け入れた者と待遇に差をつけることで、考えを変えてくれるのではないかとこう言った部屋に押し込みました。だが、それでもこの者たちは依然として、生きるために、この状態から抜け出すために抵抗を続けているのです。」


あぁ、俺がなんであんなにも先ほどの部屋を見てイライラしたのか分かる気がする。さっきの部屋の者たちは諦めたんだ、自分で生きることを。そして、この部屋の者たちは自分の力で生きようと必死にもがいている。


「そして、今日、あなた様にお越しいただけました。氷の女王と共に。これは運命だと、この者たちを救ってくれる救世主が現れたのだと思ったのです、はい。」


「なあ、どうして俺が来たからってそう思うんだ?俺はただの冒険者だぞ?」


「ご謙遜を。若干10歳にしてフェリス魔法学園の教員となり、氷の女王をはじめとした多くの生徒を一流の魔法使いに育てたあなた様を私が知らないとお思いですか?」


「んなっ?!な、なぜそれを!」


「ほっほっほ。氷の女王がムラト様以外の人と一緒におられたこと、そしてあなた様に従うそぶりを見せたこと、そして最後にコレです。」


そう言ってパンプキンは懐からモノクルを取り出し、それをこちらに手渡してきた。


「こちらは魔道具なのでございますです、はい。こちらを使うと、その方から出る魔力と属性を見ることができる優れものなのです、はい。そしてそれにより見えたのはあまりにも強大な魔力と『無属性』の反応。無属性でありながら圧倒的な才能を持つ者など、ハートランド・バーナー様以外に私は存じ上げませんです、はい。」


やられた。あの時驚いてたのはコレが原因だったか。ナナのことといい、俺のことといい、こいつはなかなかの情報通だ。商人である以上、情報に長けている方が有利であるが、こいつはそれをわかっている。


「はぁ〜、まあ、バレてたんならしょうがないか。」


「あなた様のことを話すべきか迷いましたが、正直に話さないと、ご協力いただけないかと思い、覚悟を決めました。どうかこの者たちを救ってはいただけないでしょうか?全てとは言いません、せめてあの子達だけでも救っていただきたいのです!」


彼が指差した方向に目を向けると、小さな子供が2人寄り添い、体を震わせながらもこちらを睨みつけていた。


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