第6話
洗礼式の日を境に、バーナー家による俺の育成計画が始まった。
父さんは騎士の仕事があるので、休みの日以外はセバスが剣術を教えてくれた。父さんがトラウマになったという基礎訓練は、想像以上に激しく、強化されている俺の身体をもってしても苛烈を極めた。父さんに訓練の話をするとトラウマを刺激されるのか、冷や汗を流しつつ、引きつった笑顔で励ましてくれた。
母さんは主に魔法担当。光魔法を中心に治癒系を教えてくれた。訓練で疲れた俺を気遣って、優先して教えてくれているようだ。お陰で光魔法と水魔法はぐんぐんレベルが上がってきている。
そしてメアリーは主に礼儀と読み書きを教えてくれる。こちらの世界の言葉は聞き取れるが、文字に関してはチートがないのか、女神様が忘れたのか全く読めなかった。早く文字を覚えて、この世界のことを学ばなければ。
計算問題に関しては式のようなものは文字が違うためまだ書けないが、ほとんどが暗算で事足りる。メアリーが足し算を教えてくれたが、暗算でスラスラ答えられるくらいのレベルだったので、拍子抜けだ。メアリー曰く、俺は天才の部類にはいるらしい。足し算出来るくらいで大げさだとは思ったが、この世界では10歳から学校に入って習うらしいので、5歳で出来てしまう子はほとんどいないらしい。まあ、教えられてもいないのに足し算出来たら確かに勘違いされても不思議はないか。
身体能力強化促進のスキルの甲斐もあって、1年が過ぎる頃には、体力的にセバスでは相手ができなくなり、剣術に関しては父さんが相手をすることになった。バーナー流剣術のスキルもようやく覚えてきたので、あと数年で父さんにスキルの面では追いつけるだろう。
読み書きも問題なくでき、理解できるかは抜きにして専門書も容易く読めるようになった。生まれ変わって頭が柔らかくなったのか、この身体はなんでもすぐに覚えられる。
順調だったのはここまで。ある意味一番肝心な魔法だが、光、水に関しては母さんからの指導もあり、すでに免許皆伝の域に達している。
父さんから時折学んでいた、火と風はレベル1になるのは早かったが、そこから全くレベルが上がらない。なんでもすぐに覚えられる身体になった俺だが、魔法やスキルのレベルを上げるには何か条件でもあるんだろうか?
6歳現在の俺のステータスはこんな感じになっている。
ハートランド・バーナー
年齢 6歳
職業 女神の想い人
HP 700/700
MP 8000/8000
属性
火魔法 レベル1
風魔法 レベル1
水魔法 レベル6
土魔法 レベル0
光魔法 レベル7
闇魔法 レベル0
無属性魔法 レベル0
スキル
無詠唱 レベル3
魔法創生 レベル0
即死耐性 レベル10
物理耐性 レベル7
痛覚耐性 レベル5
魔法耐性 レベル1
幻惑耐性 レベル3
身体能力強化促進 レベル4
バーナー流剣術 レベル2
だいぶ偏ってます。
正直、このステータスを見られるのは俺だけなので、父さん、母さんを始め誰も俺のステータスを見られないので、俺だけが悩んでいる状況だ。
といっても、普通の人からすれば規格外なのは間違いないので、これ以上を求めるのは贅沢なのかもしれない。
だが、人の欲とは恐ろしいもので、才能あるのに使えないのは納得いかない。ここはひとつ、両親の持ってない属性を持った魔法使いに指南を受けたい。
「父さん、相談があるんだけど。」
仕事終わりにソファでくつろいでいる父さんに話しかける。
「お前が、相談とは珍しいなぁ。訓練を優しくしてくれとかはなしだぞ。お、俺だって好きで厳しくしてるわけではないんだからな。そこはわかってくれよ。お前のためを思ってやってるんだからな。」
言い訳にも似た言葉を発する父さん。
まあ、子供に嫌われたくないのはわかるけど、そんなに焦らないでほしい。
「うんと、そのことは大して気にしてないし、厳しいとも思ってないから大丈夫。」
がーん、と表現してもいいような顔をして父さんは言葉を続ける。
「そ、そっかぁ、厳しくないかぁ、ハートランドはすごいなぁ、父さんだったら逃げ出しちゃうくらいの訓練なんだけど、、、。」
気にしたら負けだ、そう思い要望を伝えていく。
「どうやらボクには父さんと母さんが持っている属性以外の魔法も使えそうなんだけど、それを教えてもらえる人がいないと覚えられないみたい。
父さんは、王宮で働いてるんでしょ?ボクに魔法を教えてくれる人っていないかな?」
「うーん」
そういったまま、父さんは考え込んでしまった。俺的にはそんなに難しいことを言った覚えはないのだが、父さんはすごく悩んでいる表情で、おもむろに立ち上がると、母さんと何か小声で相談してる。
「ハーちゃん、ちょっといいかしら。」
父さんと小声で何やら話してた母さんが俺のもとに歩み寄る。
「ハーちゃん、大切なことだからしっかり聞いて答えてほしいの。ハーちゃんはなんで他の属性の魔法が使えると思うの?お父さんから教わった火
と風の魔法もまだちゃんと使えてないでしょ?そんな状態なのに他の属性の魔法が使えるとはママには思えないんだけど。」
それはそうかぁ、レベル0とはいえ、他の魔法属性がステータスカードに記されているのは俺にしかわからない。ましてや、火と風が上達してない状況でそれを言うのは、ただの逃げに聞こえるのかもしれない。
「母さん」
意を決して俺がユーリに言うと
「母さんじゃなくてママでしょ!」
「えっ?そっち?」
相変わらずの天然っぷりに気勢を削がれる。
「じゃあ、ママ。他の人には内緒で聞いてくれる?
ステータスカードには土魔法、闇魔法とかがレベル0って書いてあるんだ。だから覚えれば使えるんじゃないかと思うんだけど、違うのかな?」
ママって言っちゃったwママっていうの恥ずかしっ!
関係ないところで照れてしまった。
ママもとい母さんはそんな俺を見て言葉を続ける。
「じゃあ?そんなに適当に言わないで!
ハーちゃん、あのね、ママはハーちゃんにママって呼ばれたいの!わかる?」
なんか怒らせてしまった。
うーん、どうしたもんか。思考がぶっ飛んでるよね?結構重要なこと言ったんだけど、ガン無視されて違うことで怒られた。
うーん、天然も度を過ぎるとめんどくさいなぁ。
「ママ、今はボクの質問に答えてほしい。魔法がレベル0で表示されるのは普通のことなのか、それとも異常なことなのか?」
これを知らなければ、どこまで人に話せるかも変わってくる。ここで、母さんがレベル0なんて知らないようなら、秘密にし続けなくてはならない。でも、もしレベル0が普通のことなら、、、
「はぁ〜、なんとかはぐらかそうと思ったんだけど、ダメだったかっ。」
母さんなりの配慮だったらしい。めんどくさいとか思ってごめんなさい。
「ハーちゃん、このことは誰にも話しちゃダメよ。レベル0なんてステータスに表示される人はいないの。ううん、ひょっとしたらいるのかもしれないけど、私は聞いたことがないわ。
一般的には洗礼式の後、魔法属性を授かった人はレベル1になっていてその時点でその属性の魔法が使える状態になっているの。その時点で何属性の魔法が使えるとかの才能がわかるのよ。
さっきのハーちゃんの言い方だと元々何種類かの属性がレベル0の状態であって、私たちから覚えたことで使えるようになったってことよね?」
母さんは存外キレものだった。普段のポォーとした姿からは想像できないほどに、たった一言の会話から、推測し、秘密にしなくてはいけないことであるからとはぐらかしていたようだ。
母は強し!、ちょっと違うかw
「ハーちゃん、私たちには教えてほしいの?何種類の属性がレベル0になっているの?」
「教えてもらった光、水、火、風の他だとレベル0なのは土、闇、無属性の3種類だよ。」
「えっ?」
「えっ?」
「えっ?」
父さん、母さんからの驚きの声、そしてそれを見ての俺の声。
親子3人でポカンとしてしまった。