第59話
いつもお読みいただきありがとうございます。
奴隷の話が嫌いな方は飛ばしてください。
「ほっほっほ、ようこそおいでくださいました、お嬢様。本日は奴隷の購入ですか?それとも奴隷の契約でしょうか?はい。」
「奴隷契約よ、この魔人のね。あ、それと契約するのは私じゃないわよ。」
うさんくさいちょび髭を蓄えシルクハットにサングラス、腹は出ているが、脚は細くて短いという、いかにも怪しい雰囲気の男が、ナナに話しかける。高貴な雰囲気を感じ取って声をかけたのだろう。リーダーの俺のことに気付かなかったのは失敗だ。人を見る目は微妙だな。
「ほっほっほ。これはこれは失礼いたしました。私は奴隷商のパンプキンと申します。以後お見知り置きを、はい。」
かぼちゃかよ!とツッコミたかったが、前世の言葉がそのまま使われているわけではないので、黙っておく。
「あぁ、よろしく。こいつを奴隷契約したいんだが、出来るか?今はだいぶ弱らせてあるが、それなりに強い魔人だったが。」
「ふむふむ、拝見いたしますね。・・・ん?おや?何か魔法で洗脳のような状態にしておりますな。これは旦那様が?・・・っ!」
奴隷商、パンプキンは懐からモノクルを取り出し、サングラスを外してミハエルを見ると、ナナの魅了状態を見破った。そのあと何かに驚いたようだが、モノクル型の魔道具だろうか?
「あぁ、魅了で縛ってある。奴隷契約するのに解除したほうがいいのか?」
「い、いえ、いえ、旦那様。そのままで問題ございませんです、はい。それよりも旦那様は見たところ、冒険者様のご様子。さぞ高名な方と存じますが、お名前をお聞きしてもよろしいでしょうか?」
「は?確かに冒険者だが、高名なんてことはないぞ。俺はハルキだ。で、さっそくやってもらいたいんだが。」
俺を見て高名な冒険者と思うなんて、なかなか人を見る目のあるやつじゃないか。さっきの発言は撤回してやろう。
「これはこれはご謙遜を。あなた様のような方は、これから大きく名を挙げることとなるでしょう。今後ともご贔屓によろしくお願いいたしますです、はい。」
ふふふっ、悪くない。そんなに持ち上げてくれると気分が良い。ふと、ナナの視線が気になって目を合わせると、ジト目で見られていた。調子に乗るなということだろう。ま、奴隷商だ。交渉のためにこう言ったことは誰にでも言っているのかもしれない。気を抜かないようにしないと。
「じゃあ、さっそくやってくれ。」
奴隷契約は金貨1枚と高額だったが、人を1人束縛することになるんだ、これくらいは致し方ない。
俺はミカエルを指定された魔法陣の上に立たせる。するとその魔法陣を覆うような檻が天井から降りてきて、ミハエルを囲む。
「ほっほっほ、奴隷契約はそれなりに痛みを伴いますので暴れる場合があるのです、はい。そのためこのような処置を取っておりますです、はい。」
なるほど、ただこれはただの鉄柵ではないだろうか?こんなものではミハエルは抑えきれないと思うんだが。
「この檻は特殊な金属で出来ておりますので、並大抵のことでは壊れませんし、魔法陣には魔法の使用が出来ないように細工してありますです、はい。それでももし、暴れてしまうようでしたら、旦那様の方で抑えていただければと思いますです、はい。」
色々、細工はしているようだが、一応用心はしておいたほうがよさそうだ。
「ムラト、一応念のためナナの前に、ってもう構えてたか。さすがだな。」
「ふん、当然だ。」
俺はパンプキンに準備ができたことを告げると、彼はナイフと羊皮紙に魔法陣が描かれたものを俺の目の前に差し出した。
「旦那様、奴隷契約には主人となる方の血が必要となりますです、はい。こちらをお使いになって、この魔法陣に一滴落としてくださいです、はい。」
ふむ、血で縛るのか。まあ、それくらいはわけないからすぐにやってみよう。
血を一滴垂らすと、魔法陣は光りを放ち、周囲を照らした。
「オォオォォー、なんという力、旦那様、私このような輝きを放つのを見たことがございませんです、はい。これなら強固な奴隷契約がなされるでしょう!」
そう言ってその光る羊皮紙に描かれた魔法陣をミハエルの胸に押し付ける。そして、なにやらブツブツ唱え出した。俺は念のため、魔力の流れを注視して、どう言った魔法が使われているのかを観察する。
「ぐわああっ!や、やめろ、な、なにをし、している!」
ミハエルが叫ぶ。魅了で縛っていたのだが、痛みで弱まったのかもしれない。
「黙れ!」
うるさいので、再度俺自身が魅了を使い縛る。
「ぐ、ぐはっ、ぐぐぐが!」
余計なことは喋らなくなったが、相変わらずうるさい。人の悲鳴を聞いてるのはあまり気分のいいものではない。早く終わって欲しい。
「・・・・・・。」
ん?終わったのか?声が聞こえなくなった。
「ほっほっほ。これで完了いたしましたです、はい。これでこの者はハルキ様の奴隷となりました。もしも、契約を解除される際には、またお越しくださいです、はい。」
なるほど、魔力の流れでなんとなくわかった。魔法陣がまだ読めないが、これさえ読めるようになれば、俺ならいずれ使えるようになるだろう。契約解除の方法もいつか魔力の流れを見せてもらおう。
「パンプキン、世話になった。また、何かあったら頼む。」
「はいです。旦那様。それと旦那様、奴隷をご所望でしたら、少し見ていかれませんか?人間、獣人、亜人、魔人と揃っておりますです、はい。用途も戦闘用から玩具用と幅広く扱っておりますです、はい。」
獣人と亜人は違うのか?それと玩具用と言ったか?それはまさかアレか?アレなのか?
ゴクリ。
思わず生唾を飲んでしまった。
はっ?!
俺の危機管理センサーが反応している。ゆっくりと後ろを見るとナナ様の眼が怪しく光っている。
い、いかん。なんとか誤魔化さなくては!
「お、俺は亜人と言うのがわからないんだが、獣人と亜人は違うのか?」
「おやおや、旦那様。お戯れを。獣人は獣の流れを汲む人種、亜人は妖精族の流れを汲む人種、エルフやドワーフといった種族となりますです、はい。」
興味はあるが、やはり人道的にはマズイ気がする。それにそちらに興味を持ったとすればナナからどんな仕打ちを受けることか。
いや、待てよ?マユのように不当に捕まっている者もいるんじゃないか?そう言う者たちを解放してあげるのは人道的には問題ないのではないだろうか?
「おい、パンプキン、その奴隷を見せてくれ。」
「な、ハルキ!あなたなにかんがえてるの?!」
ナナが怒りに任せて俺に叫ぶ。
「ナナ、俺に考えがある。俺を信じてくれないか?」
「・・・あとでちゃんと話してよね。」
「あぁ、きちんと説明するから。」
ミハエルはムラトとナナに任せて、俺は1人で奴隷を見せてもらうことにする。もしも不当に囚われているものがいるのならば、俺が解放してやろう。




