第55話
いつもお読みいただきありがとうございます。良かったらブックマークいただけると励みになります。
「一応、作戦を確認しておくよ。先頭は俺とメイサ、そのあとはオーガ型ゴーレム、ムラト、ナナ、マユ、最後尾はフィーネでいいかな?基本的には俺とメイサで倒すけど、撃ち漏らした奴がいたらムラトよろしくね!ナナはこの階層では無理して戦わなくて良いから、ムラトへの指示出しよろしく。マユは後方からの敵を警戒して、フィーネに指示出し。フィーネはマユの指示で後方からの敵がいたら迎撃するのと、ゴーレム操作、あ、ゴーレムに攻撃させないでいいから防御に専念させて。」
ちょっと細かい指示出しだが、こういうことはきちんと確認しておいた方が良い。今回は失敗せずに行きたいから、それぞれの役割を明確にしておく。ナナは今回指示出しのみだが、いざとなったら打撃でスライムを吹き飛ばしてくれるだろう。倒せなくても遠くに飛ばしてくれれば、こちらで対処できる。やり過ぎて中身が飛び出しちゃうと酸でやられるから、そこは気をつけてもらいたい。
マップで確認すると、スライムがうじゃうじゃいるが、最短ルートで階層を降りることを優先していく。
まずは3匹、スライムの核に向けてメイサのナイフが次々に突き刺さっていく。購入時にコーティングをしてもらっているので、ナイフの原型は保たれたままだ。スカートの心配は杞憂だったようだ。俺たちから姿が見えないところで、投げているので問題なかった。残念だなんて思っていないんだからね!
その後もスライムは襲ってきたが、一度に出てくる数も5匹前後なので、メイサ1人で仕留めてしまっている。俺の出番すらない。スライム被害を受けないことで、ナナはメイサを褒めちぎり、3番宣言をしたことも今は忘れているかのように見える。マユのこととなるとナナは過剰に反応するので、なるべく見ないようにしていたが、なんとか上手くやっていけそうだ。
ついに14階層へ続く階段を発見し、歓喜に沸くナナ。でもこれまでのダンジョンの傾向からすると、最低でももう1階層はスライムだろう。だからそんなにはしゃがないでと言いたい。
予想通り14階層もスライムだったが、数が増えただけで、俺が加わればなんの問題もなくこの階層もあっさりとクリアできた。お陰でスライムの魔石が山ほど稼げた。あとでこれも実験に使ってみよう。
15、16階層はファイヤーラットとスライムの混成チーム。やっとスライムエリアを抜けたと思ったのに、タチが悪い。ナナがげんなりしていたが、その気持ちをファイヤーラットに向けてもらい、次々に瞬殺していった。戦えずに申し訳なさそうにしていたが、少しは気分が晴れたようだ。
続いて17、18階層。散々スライムでお世話になった装備の素材、アシッドフロッグだ。酸を吐き出すとのことだったが、こいつには打撃も効くので、吐き出される前に仕留めれば問題ない。万一吐き出されても、余裕でかわせる。初級冒険者のためにもいっぱい狩って素材を確保しておいてやろう。
19階層到達。ネズミ、スライム、カエルと来て最後は蝙蝠。ファイヤーバットだった。要は火を吐く大型の蝙蝠で、空中で飛び回り火の玉を撒き散らす非常に厄介な魔物なのだが、、、。
うちにはヴァンパイアのナナ様がいるので、蝙蝠はいわば眷属のようなもの。立ち向かえるわけもなく、なんの抵抗もできないままに、撃墜されていった。
「ナナ、蝙蝠って眷属みたいなものなんだろう?バンバン狩ってるけど、いいのか?」
ひょっとしたら嫌々買ってるのかもしれないと思って聞いてみたのだが、
「えっ?だって、あくまで眷属みたいなものってだけで、私の眷属じゃないし。」
うん、まあ、そうなんだろうけど、それにしても躊躇なさすぎだ。無抵抗の魔物を殴り飛ばしていく様はちょっとくるものがあったが、心なしか奴らも喜んでいるように見えるから、きっとそういうもんなんだろうと思うことにした。
このまま20階層も軽く突破できると踏んでいたのだが、想定外のことがあった。コスモに聞いたのは20階層のボスはヒュージファイヤーバットと言う、ファイヤーバットの大型版だったのだが、ボス部屋の扉を開けた時、立っていたのは人型の男だった。彼は背中に禍々しい蝙蝠の翼を生やし、腰に届きそうなほどに伸ばした銀髪をなびかせ頭にはフィーネのようなツノがついていた。
「あなたたちですか?私のかわいい眷属をいたぶってくれたのは?」
どうやらさっきの蝙蝠の主人らしい。蝙蝠を眷属にしてるなら、奴もナナと同じヴァンパイアなのだろうか?
「ナナ、あいつはヴァンパイアなのか?」
「うーん、多分。でも私の一族とは違うと思う。」
ナナの一族は真祖からの流れを汲んだ由緒正しき家系らしいが、派生したものや、そもそも先祖が違う場合もあると言う。確かにナナの背中には蝙蝠の翼は見られない。
「そんなに見ても、私には翼はないわよ。一族でも翼を持つ人もいるけど、あんなに禍々しくはないわ。」
ダンジョンルールなのか、扉を開けても部屋に踏み込まなければ、戦闘にならないようだ。かなり苛立った風なのに攻撃を仕掛けてこれないようだ。
「なあ、あんた。何者なんだ?ここのボスはヒュージファイヤーバットのはずだろ?」
忌々しげにこちらをにらみ、奴が言う。
「不遜な態度は気に入りませんが、これから私に倒されるあなた方のために不本意ながら教えて差し上げましょう。お察しの通り、私はヴァンパイアですよ。ただし魔人に進化しておりますけどね。そして次の質問の解答ですが、通常であれば私がこの階層に出てくる必要はないのですが、あまりにも見るに耐えかねたものですから、代わりに出て来たのです。」
やり過ぎた結果ヒュージファイヤーバットの代わりにヴァンパイアで魔人のあいつが出て来たらしい。魔人の生態がよくわからないが、進化したとはどう言うことなんだろうか?
「なあ、あんた。魔人に進化って言ってるけど、人より魔人の方が優れてるって言いたいのか?」
「『あんた』って。いい加減、私への暴言は控えていただきたいのですが、仕方のない奴ですね。頭の弱そうなあなたたちにはわからないでしょうが、普通のヴァンパイアの使える魔法は、せいぜい身体強化と魅了程度ですが、私はさらに多くの魔法が使えるんですよ。魔人に進化したことで、魔力量も跳ね上がってますしね!さあ、殺される準備はできましたか?早くかかって来なさい。」
殺される準備はしてないが、実験のための準備はこの会話中に行なっていた。奴の魔力量はナナを大きく上回っているのは『視て』いたからわかる。魔法に対しての抵抗力がどの程度かがわかればやり過ぎないで済むと思うんだが。もう少し煽ってから攻撃してみるか。
「名前も知らない奴は『あんた』で十分だろ?それにあんたの殺される準備は出来てるのか?こっちは6人、あんたは1人。どう考えてもそっちの方が不利だろ?」
「はっはっは!そうでしたね。確かに名乗りを上げておりませんでしたね。それにしても私に『殺される準備は出来たか?』なんて聞いてくるなんて、愉快な人たちだ。力の差がわからないと見える。いいでしょう、いいでしょう。私の名前を教えて差し上げますよ。覚えたところで、意味がないかもしれないですがね。
私はヴァンパイアを超えた至高のヴァンパイア、魔人ミハエル・ノスフェラトゥ。
愉快なあなた方には先に攻撃することを許しましょう。己の無力さを味あわせてあげます。」
おっ、ラッキー!先制攻撃いただき!どっちからやってみようかな?一応みんなにも意見を聞いておこうかな。
「ハルキくん、なんか楽しそうだけど、あの人結構すごそうだけど大丈夫だよね?」
マユも『視た』ようで、禍々しくも巨大な魔力にちょっとビビってるようだ。ここはやっぱり俺がカッコいいところを見せて安心させてあげなくちゃ。
「マユ、大丈夫だよ。まあ、少し下がって見ててよ。」
俺はマユの頭に手を乗せて、安心させるように微笑む。猫耳がピクピク動いていて可愛らしいが、触りたい気持ちを我慢して、手を離す。
さて、魔人退治といきますか。
「じゃあ、お言葉に甘えて、先制攻撃させてもらうよ。」
俺は少し強めに魔力を凝縮させて指先に集める。それを両手の指先に集めるので、10発分だ。
「簡単に死ぬなよ。指弾!」
俺の指先から凝縮された魔力の塊が10発分、魔人に向かう。今までの魔物なら触れたら消し飛ぶほどの威力を持つそれは、俺のイメージに合わせて狙いの場所へ飛んでいく。
眉間、顎、喉、右胸、左胸、鳩尾、右肘、左肘、右膝、左膝。
魔力の視えない者には不可視のその攻撃は、強力極まりない。魔人と言うからには、これくらい見えていると思うが、果たしてどう対応するのか?
「くっ!なんだこれは?」
指弾が発射された直後、時間にして1秒にも満たない瞬間に、この強烈な魔力の流れを感じ取ったミハエルは魔法障壁を作り出しこれを阻止しようと試みる。
魔人の面目躍如と言うべきか、分厚い魔法障壁が指弾と激突する。
ド、ド、ド、ド、ドっという音を立て、魔法障壁を突き破る。魔法障壁自体は破壊されずに、指弾のみが貫通していく。
「なっ?!」
ミハエルが驚きの声を発した時にはすでに全ての指弾が彼の体に突き刺さる。そして指弾はその勢いを落とすことなく貫通し、彼の禍々しい翼をも切り裂いていく。そして彼が立っていた後ろの壁に激突することで、ようやく勢いを止めたようだ。後ろの壁は貫通してはいないと思うが、先が見えないほどに深い穴が10箇所出来ている。ダンジョンの壁は自動修復していくので、そのうち埋まるだろうが、彼はどうだろうか?
「ぐはぁっ!」
口から大量の吐血、そして無残にも射抜かれた10箇所の穴。身体中から血を流し、四肢の関節を破壊されたミハエルは大の字に仰向けになっている。四肢の関節が破壊され、その先は千切れ飛んでいる。から小さい大の字だが。
さすが魔人。これだけのことをされても、まだ生きているように見える。
「おい、ミハエルって言ったか。生きてるか?」
「ごっごばっか・・・っ!」
顎を撃ち抜かれて喋れないが、なんか言ってるから生きているようだ。これだけやっても死なないのでは、存在ごと消してしまうか?
かなり物騒な考えを持つようになったハルキは、奴に向けて手の平を向ける。
「ちょ、ちょっと待って!アレに聞きたいことがあるから、まだ殺さないで。」
ナナが俺の腕を両手で掴んで止めに入る。綺麗なおねいさんに腕を掴まれるのはいいもんだ。物騒なことを考えていたにもかかわらず、あっさりと気持ちを落ち着けるハルキ。
「と言ってもあいつ、喋れないじゃん。どうするの?」
「とりあえず、あいつが何も出来ないように魔力をもう少し削ってくれれば、多分私の魅了が使えるから、そうしてくれるかしら?」
俺はナナに言われた通りに奴から魔力を吸収し、最低限の魔力だけ残してやる。一応念のため、マユには奴を『バインド』で拘束しておいてもらう。さて、ナナはどうするつもりなのか?お手並み拝見だ。
 




