第51話
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「指弾!」
「ストーンランス!」
詠唱不要だし、魔法名を叫ばなくても魔法自体を使うことはできるが、パーティで行動しているので、仲間になんの魔法を使っているかを伝えるために声に出して使う。
核を狙って指弾を放つが、まだ細かい照準が合わないのがもどかしい。この階層で練習がてら指弾の精度を上げていこう。
フィーネのストーンランスは今のところ、一度の使用で3本の槍を放つことができる。質量もそれなりにあるようで、押しつぶしているようにも見える。びちゃびちゃとスライムが飛び散る様は、水風船が弾けて中の水が飛び散っているのを連想させる。
「きゃっ!」
マユの服に飛び散ったスライムの残骸がくっついたようだ。
「あっ!」
スライムがついたところから服がどんどん溶けていってる。こ、これは?!
服を破いて酸の進行を食い止める。溶けていた服の下が少し火傷をしたように赤くなっているが、場所が場所だけに目のやり場に困る。
「マ、マユ、これを使ってくれ。それと、ムラトはこっちを見るな!」
俺は着ていた上着を脱ぎ、マユに渡す。露わになった太ももが眩しい。上着を巻いて隠してもらわないと、俺の精神衛生上良くない。
「あ、ありがとう。」
マユは恥ずかしそうに俺の上着で隠す。フィーネの魔法だと、ちょっと飛び散りが多くなるので、俺1人で対処したほうがよさそうだ。
そんな感じで俺が気を取られている間に、ウジャウジャとスライムが集まってきてしまった。
俺は指弾を両手の指先で使って、迎撃態勢をとる。他のみんなにはなるべく離れてもらい、飛び散ったスライムがいかないように注意する。
「くっ!コイツ!」
ムラトの声が聞こえるが、ヤツならなんとかするだろう。俺は目の前のスライム殲滅に集中する。
フィーネも応戦してるようだが、心なしかみんなの声が多く聞こえる気がする。
「おい、ムラト大丈夫か?」
マップを確認しても2、3匹のスライムと交戦しているのはわかっているが、その程度ならフィーネとムラトでもなんとかなると踏んでいたので、あまり確認していなかったのだが、これがまずかった。
前方の十数匹のスライムを蹴散らし、みんなの元へ戻ると、スライム自体は倒せていたが、みんなの様子は、思った以上にやばかった。
まずムラトだが、双剣の所々が酸に侵食されボロボロになっている。服もあちこちが破れていて激戦を物語る。
そして女性陣なんだが、、、。
うーん、何というか露出が激しいというか、何というか、眼福だ。特にナナがまずい。1番スタイルがいいというのもあるんだが、普段の戦闘方法が肉弾戦主体のため、剣や盾と言った装備は身につけていない。そして、普段なら難なくかわせるであろうスライムの攻撃も、スライム自体が気持ち悪くて、動けなかったそうだ。
こんなこと言ったら張り倒されるだろうが、こんな美少女たちの胸、肩、足がチラチラ見える状況は、ヤバイ。健全な男子であればわかるだろう。下半身に血液が持っていかれそうなのを必死に耐えている。
まさか、スライムにこんな苦戦するとは思わなかった。コスモたちからも酸に気をつけるように言われていたが、予想以上だった。むしろこの場にあいつらを連れてきていたら、大変なことになっていたかもしれない。いや、むしろこうなることをわかった上で、あの程度の忠告に済ませていたのかもしれない。
このまま進めば、スライムの階層はいずれクリアできると思うが、これ以上女性陣の露出を増やさせるわけにはいかない。どうするべきか?
「ムラト!こっち来てくれ!」
とりあえず、女性陣はマユの収納から着替えやポーションを取り出し、治療をしてもらう。フィーネの土壁という魔法で、簡易更衣室みたいなものを作ってもらい、そこに入ってもらっている。
その間に俺とムラトは今後の対策を話し合う。
「正直、このまま進んでもいいが、対策練らないと厳しいだろう?ムラトの剣も使えなくなってしまったみたいだし。」
「ああ、残念ながらスライム相手だと、今のままじゃ厳しいな。」
一旦、戻って装備を整えないと、厳しそうだ。あとは戦闘方法だよな。
戻る手段は、、、あれを試してみるか。装備は全員、盾くらいは持っていてもいいかもしれない。あとでナカジに相談してみよう。
とりあえず俺はアレを試すことにする。感覚は先日と今日でだいたい掴んでいる。あとは実際使えるかどうかだけど。
「ムラト、ちょっと実験するから他の冒険者が近付いて来たら教えてくれ。」
一応、他の人に見られると面倒なので、周囲の警戒をしてもらう。
サイレントドームで自分の周囲を覆い、魔法創生を使う。
今回作るのはダンジョンからの脱出を目的とした魔法だ。
マップで地点を検索、今いる場所と移動したい場所を空間で繋ぐ。先日の10階層攻略後に魔法陣で移動したこと、今日の魔法陣での移動で、なんとなく感覚はつかめている。
イメージは「どこでも○ア」だ。ダンジョンの外をイメージしてみたが、何か不思議な力が働くようで、空間が繋げる気配がない。ダンジョン自体が不思議な場所なので、何かあるのかもしれない。10階層からダンジョン入口につながる魔法陣がある場所をイメージ。
お、繋がりそうだ。これならいけるか?
あ、でも俺だけ移動できてもしょうがないから、ドアみたいなの作らないとな。名前はそうだなぁ、アレで行こう。
「ゲート!」
目の前に黒い扉が出現した。あとはちゃんと繋がっているかだけど、、、。
俺はマップを使い、入口の魔法陣近くに人の気配がないかを確認し、その黒い扉を開けて、覗いてみる。いつでも戻れるように体半分はこっちに残したまんまだ。
よし!問題ないな。でもこれ、結構魔力使うなぁ。距離とかでもっと魔力を使うのか、どこに繋いでもこの魔力消費なのか確認する必要があるな。
一旦、消しておくか。フィーネにも説明しておかないといけないしな。
サイレントドームを解除し、着替えを終えたみんなと合流した。戦闘用と言うよりは普段着の可愛らしい姿のみんながダンジョンにいるのがなんだかいい感じだ。これがギャップってやつか?
「フィーネ、君は俺たちのパーティメンバーだ。だから君に伝えておかなきゃいけないことがあるんだが、誰にも言わないと誓えるか?もし、無理ならこのパーティから抜けてもらう。」
我ながらずるい言い方だ。フィーネは無言でうなづく。いつもなら騒ぐところなんだが、今回は俺を始めみんな真剣な顔してるから、空気を読んだのだろう。
俺は自分の能力、魔法創生のことを話す。フィーネは魔法が作れることを聞くと「魔王様みたい!」と不穏な言葉を発して目をキラキラさせていたが、ことの重要性はわかったみたいだ。ちなみに魔王様は魔人の国の王様のことで、ゲームで知るような人類を滅ぼそうとする存在ではないとのことだ。驚かせやがって。
スライム対策が出来ていない今の状態で進むのは得策でないこと、そして先ほどゲートの魔法を作ってここからすぐに戻れることを告げ、今回は撤退しようと提案した。
みんな撤退に賛成で、特にナナは大げさなくらい首を縦に振っていた。俺はゲートを使い扉を出現させる。
はじめに通るのはムラト。そのムラトが安全を確認し、ナナ、マユ、フィーネの順に通り、最後は俺が移動したことで、ゲートを閉めた。




