第49話
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あと、誤字報告助かります。もし見かけましたらよろしくお願いいたします。
「(ハルキくん、ちょっといいかな?)」
ナナたちと合流して5人で買い物してるときに、マユがそっと耳打ちしてきた。ふわっと香る甘い香りにクラクラする。おっと、いけない、いけない。
「どうしたの?こんなところまで離れて。みんなに聞かれちゃまずいことでもあった?」
「実は・・・」
ムラトとナナのことで相談された。正直、もっと軽く考えていたのだが、事態は意外と深刻らしい。ムラトを貴族にかぁ。うーん、どうしたものか?
普通に貴族にするだけなら、父さんに相談して、うちの養子にすればいい。でもうちは男爵家だから、ナナとの格という面では足りない。
せめて伯爵くらいにならないと厳しいだろう。
そもそも俺は今、家を飛び出した、ただの冒険者。家に帰れば、受け入れてもらえるかもわからない。先日、手紙は送っておいたが、返事もないしね。まあ、この世界は連絡手段が乏しいから、俺の送った手紙もおそらくまだ着かない。一応、ギルドを通して受け取るつもりだが、ここに留まり続けるつもりはないから、いつどこのギルドで受け取れるかもわからない。
「そうだなぁ。俺も力になってあげたいと思うけど、すぐには思いつかないな。」
「そうだよね。私も色々考えてみてはいるんだけど。ハルキくんも協力してくれる?ハルキくんがいればひょっとしたらなんとかなるんじゃないかと思うんだ。」
「うん、任せてよ。今はまだ何も思いつかないけど、俺もムラトとナナには幸せになって欲しいしね!」
「・・・余計なお世話なんだよ!」
2人で結構離れたところで話してたのに、ムラトに聞かれてしまったみたいだ。ナナのそばから奴が離れるとは思わなかったので、正直驚いている。
「ムラト、ナナは大丈夫なのか?」
「あぁん?これくらいの距離なら、何かあっても一瞬で行けるから心配すんな。それよりコソコソ人のこと話してるんじゃねぇよ!」
「悪いな。けど、やめるつもりはない。お前のためじゃなく、ナナのために話してるんだからな。」
「ふんっ。」
ムラトにはナナの名前を出せば俺に反論することはない。それがわかってるから、意地悪な言い方をしてしまった。ちょっと自己嫌悪。
「ふふっ。ハルキくん、じゃあ、そういうことにしといてあげようか。」
なんだかマユが嬉しそうだが、、、。まあ、当然、俺の考えてることなんてバレているんだろう。ムラトに幸せになってもらいたいと思ってることなんて。
「お前はイヤでも俺は勝手に動くからな。お前だって今日みたいなナナの方がいいだろう?くっつかれて鼻の下伸ばしてたもんな。」
「う、うるさい!鼻の下なんか伸ばしてねぇ!俺はお前とは違う!」
「はあ?お前、俺にケンカ売ってんの?」
「ハルキくん。ケンカしないで。ね?」
「うん、大丈夫。俺はケンカしないよ!」
「はぁーっ、やっぱり鼻の下伸ばしてんじゃねぇか。」
俺とムラトがケンカしそうになったのをマユが見かねて仲裁してくれた。ただそれだけだ。俺は鼻の下なんか伸ばしてないというのに、ムラトの誤解にも困ったもんである。
「俺は俺のやるべきことをやる!俺はナナの騎士だ。ナナを守るのは俺だ。俺はあの日、自分に誓った。たとえ、何が起こったとしても絶対だ。」
カッケェな、おい。
「俺もマユのことをずっと守るからね!」
「うん、守ってね!」
うーん、なんかうちらのはちょっと軽い感じがする。でも俺は結構本気で言ってるんだけど。ま、いっか。
「ムラト。ここにいたの?・・・あら?先生とマユも?こんなところで何してるの?」
ナナの追及の目が怖い。でもここで逃げちゃダメだ。ナナにはバレないようにしなくては。
「ナナちゃんには後で教えてあげるね!」
マユさん、教えちゃうんだ。俺がバレないように頑張ろうとしたのに!
「ダーリンみっけ♡」
結局全員揃ってしまった。意外とうちらは気の合うパーティなのかもしれないな。
結局、情報収集は捗らなかったけど、ギルドで魔法対策のことは聞いてある。あとは実践しながら情報集めていけばいいだろう。
みんなで宿に帰る途中に、武器と防具の店があったので、立ち寄ってみたが、大したものは置いてなかった。なんでも、良い商品はダンジョンの出張所に持って行ってるそうだ。この辺りの武器屋は交代でダンジョンに店を出すことになっているようで、日によって店も商品もラインナップが変わるらしい。当たりの日もあれば、ハズレの日もあるってことだね。明日が当たりだといいなぁと思い、俺たちは宿に向かった。
昨日の反省を生かし、今日の夕食はお酒を控えた。昨日のことがあるので、みんな賛成してくれた。明日こそはダンジョン行かなくちゃね!
「明日は行けるところまで、とりあえず行ってみよう!20階層のボスまで行けたら良いけど、どれくらいの強さかわからないしね!」
「おやおや、君らは冒険者かい?そんなに簡単にダンジョンは攻略できないぜ?」
キザったらしい男が俺たちのテーブルに近づいてきた。見ない顔だ。今まではいなかったと思う。
おかみさんの方を見ると、こちらの様子を察して近寄ってきてくれた。
「あんたたち、この人はAランクパーティ『紅蓮隊』の人だよ。あんたらが言ってるダンジョンの最高到達者さ。しばらくダンジョンに潜ってたけど、今日戻ってきたってわけさ。仲良くやりなよ。」
ほぉ、こいつがAランクパーティのメンバーか。見た感じは大して魔力もなさそうだけど、強いのかな?
「綺麗なお嬢様方、はじめまして。私は紅蓮隊のエビル。以後お見知り置きを。我々のパーティは先ほど、最高到達階層を更新してきました。そして宿に戻ってみればこんなに美しい方々にお会いできるなんて。これも神の祝福のなせる技かな。この出会いを祝して私たちと一緒にこちらで飲みませんか?」
うーん、なんだこいつ?ただのナンパか?俺とムラトがいるのに何言ってんだ?
「お生憎様。私たちは私たちで楽しみますので、他を当たってください。」
「えっ?なぜ断るですか?最高到達者の私がお誘いしてるのに?」
うーん、こいつダメだわ。本気で断られると思ってない顔してる。
「はい、はい、はい、皆さん、ごめんなさいね!うちのエビルがご迷惑おかけしてるみたいで。」
今度はノリの軽そうな男が混じってきた。あれ?でも、こいつ、、、。
「なあ、お前!俺と会ったことないか?」
「へっ?あれ?ナナさんにマユリさん?」
いや、俺に会ったことないかって聞いてんのに、こいつは相変わらずだな。
「あれ?ひょっとしてコスモくん?」
マユ、気づかなくてよかったのに。
「お久しぶりっす!マユリさん。突然いなくなっちゃったからビックリしたっすよ!」
「うん、ごめんね!元気だった?」
「元気っすよ!先生と会えたみたいで良かったっすね!」
うん、こいつ、完全に俺のこと無視して、マユと話してるな。
「コスモ、久しぶり。俺も突然いなくなっちゃって悪かったな。元気だったか?」
俺はもう大人だ。大人の対応をしよう。
「あ、はい、元気っすよ。」
「ところでナナさん、表情も戻ったみたいですね!絶対そっちの方がいいですよ!美人は笑ってた方がいいっす!冷たい表情も個人的にはアリなんですけど。」
完全に俺と女性陣との扱いに違いがある。
「ところでそちらの可愛らしい方はどなたですか?」
今度はフィーネか。相変わらず、女と見ると積極的だな。
「ダーリンの恋人2号のフィーネだよ!よろしくね!」
そんなよくわからない宣言をして、また腕に絡んできた。
「おい、フィーネ、誰が2号だ!誤解されるだろうが?」
「ヘェ〜、相変わらずリア充なんっすね。死ねばいいのに。」
怖っ!コスモ怖っ!
忘れている人もいると思うので、こいつの説明をしておこう。
彼は魔法学園のEクラスに在籍していたコスモ。召喚魔法が使える。子供の頃から女性が大好きで、授業中も良くシエラ先生やオーロラ先生に絡んでいた。ちなみに俺が逃げ出した合宿にも参加していた。当時は、コスモ、ナカジ、タケルと3人で仲良くやってたので、他の2人のことも知ってるかもしれないので、後で聞いてみよう。
「おい、その辺でやめておけ。」
「すんませんした!」
ムラトの一言で収まった。できればもっと早く止めて欲しかった。
「コスモくん、こんな綺麗な方々と知り合いだったのなら、早く紹介してくれれば良かったじゃないか?」
「エビルさん、この人たち特に、女性に手を出すと簡単に死にますよ!一応、忠告しましたからね!」
「なっ!どういうことだ?死ぬとは物騒じゃないか?」
エビルが驚いているが、覚悟はしておいてほしい。ここには俺とムラトがいるんだ。2人に手を出せばどうなるかはコスモも身を以て知っている。ま、ナナにもぶっ飛ばされたことがあるから、それもあるんだろうが。
「俺、魔法学園卒なんすよ、アストラムの。」
「はぁ?初耳だぞ!」
「ええ、初めて言いましたから。」
コスモはいかに俺たちが規格外かを説明していた。そしていかに危険な存在なのかを。正直そこまで、言わなくてもいいんじゃないのくらいに言っていたのだが、マユとナナも、うなづいていたのが悲しかった。
「あぁ、そうそう、タケルもいますよ!おーい、タケル〜!」
コスモに呼ばれめんどくさそうにこちらへ来たが、女性陣を見つけると軽やかなステップでやって来た。
「お久しぶりです!お元気でしたか?」
コスモに比べると話し方は丁寧だが、このコンビは女性が絡むと色々ヤバい。
「ナナさん、マユさん、久しぶりにお会いできたので、下のムスコもご挨拶したいそうです!」
コレである。
彼、タケルもEクラス。彼は透過魔法という簡単に言えば透明になれる魔法だ。透明になれるだけでなく、壁すらもすり抜けられる。ただし、莫大な魔力を引き換えにする。当時はまだ魔力量も少なかったので、大したことは出来なかったが、今はどうなんだろうか?うちの女性陣に悪さするなら、俺も覚悟を決めなくてはならない。
「心配しなくても大丈夫だよ。私がマユちゃんといる限り、あいつの好きにはさせないから。」
ナナさんが俺の心を読んだようだ。俺の心配事を減らしてくれるという。俺も元クラスメイトに手をかけるような真似はしたくないので、助かった。
以前のことを思い出したのか、コスモとタケルは青い顔をしている。
「なあ、タケル、コスモが私を脅すんだが、彼らはそんなに危険なのかい?」
エビルは藁をもすがる思いで、タケルに話しかけるが、彼は無言でうなづいた。
「いや、でも私はAランクの冒険者だぞ?こんな駆け出しのような彼らに負けるとは思えないんだが。」
「えぇ、彼らの桁外れの魔力がわからない時点で負けですよ。諦めてください。」
タケルがエビルを慰めて渋々自分たちの席へ連れ帰っていった。
ちなみにナカジはダンジョンで仕入れた素材を元に、ダンジョン入り口で商売しているようだ。鍛治技術に磨きをかけているようなら、装備を任せてもいいかもしれない。
後で聞いたことだが、3人は学生時代からちょこちょこ冒険者の真似事をしていたらしく、卒業と同時に本格的に冒険者になったそうだ。ナカジだけは鍛治をすると言い張ったそうだが、うまく丸め込んで、こんな遠くまで連れてきたそうだ。ちなみに彼らのランクはB。さっきのエビル以外にも2名のAランク冒険者がいるパーティだそうだ。
あんな奴がAランクならすぐになれそうだ。まあ、魔力量しか見てないけどね。
意外とすぐにランクがあげられそうだと感じるとともに、ナカジがどれくらい鍛治の腕を上げているのかを楽しみに、俺たちは部屋へと戻るのだった。




