第46話
「そうそう、ランクも上げておくか?これだけの魔物を仕留められるのにEランクのままにしておくのももったいない。どうだ?」
ギルドマスター権限で昇格させてもらえるようだ。特に依頼は受けていなかったのだが、ギルド発行のダンジョン関連の依頼があるので、それをクリアしたことにしてくれるらしい。至れり尽くせりだ。
「ランクが上がるメリットとデメリットは何がある?」
一応念のために聞いておかないと、あとで困ることになるしね。
話によるとまずメリットは受けられる依頼が増えること、報酬額が上がること、名を上げられること。デメリットはBランク以上になると貴族からの指名依頼が入ってくるらしい。身分を隠してる俺たちにとってはデメリットだが、士官を目指しているものにとってはメリットなのだそうだ。あとは緊急依頼などで、強制的に召集されることがあったり、危険な依頼が増えるというのがあるらしい。ただし、戦争にはギルドは加担しないとのことなので、そこは安心材料か。
まあ、今のところは問題なさそうなので、ランクを上げといてもらうことにした。もう少しEランクのままでいたかったが、今後、討伐依頼とかをこなしていくことを考えたら上げといた方が良いだろう。
「では手続きさせていただきますが、フィーネさんはこれから登録なのでEランクです。あとはパーティ名ですが、早めにお決めになった方がよろしいかと思います。」
ランクが上がると指名依頼をされることもあるそうなので、パーティ名は必要になってくるそうだ。夕飯の時にでもみんなで相談しておくか。
手続きを終え、ギルドから宿に向かう。フィーネはこの街で宿を取っていないので、どうするのか聞いたら、同じ宿に泊まると言い出したので、俺とフィーネもマユたちと同じ宿に部屋を取ることにした。これだけ稼げるようになったので、ボロ屋は卒業である。
「すまないね。1部屋しか空いてないんだよ。誰かと相部屋にしてもらえないかい?ベッドは余ってるから、そこに運ばせるから。」
宿屋のおかみさんからの提案にフィーネが俺との同部屋を希望してきたが、流石に断った。マユという彼女が出来たばかりなのに、それはまずい。本当に信頼を失いかねん。ナナの提案で、マユがナナの部屋で一緒になって、今までのマユの部屋にフィーネ、空いてた部屋に俺が入ることでまとまった。マユの部屋に俺が入りたかったが、色々と自重できなそうだったので、我慢した。
夕飯を1時間後に食堂で取ることを約束して各々部屋に移る。ナナの部屋はもともと広めなので、マユが同部屋でも何の問題もないそうだ。ナナはご機嫌である。
部屋に入った俺はアイテムBOXから魔石を取り出す。ゴブリンとコボルトの魔石が合わせて213個、オークが4個にオークジェネラルが1個。それぞれ大きさが違う。魔石はその大きさで価値が変わるらしく、大きければ大きい方が価値が高く、それだけ多くの魔力を貯められるとのことだ。主に魔道具や武器、防具に組み込むことで使用される。
「さてやるか。まずはゴブリンの小さいやつからだな。」
サイレントドームを使い、誰にも見られないようにして、実験を開始する。魔石にはどれくらいの魔力を貯められるかの実験である。
まず魔石から魔力を吸収、空にした状態の魔石に魔力を貯めてみる。
MPの減り具合を見ながらそれぞれどれくらい貯められるのかを検証する。
ゴブリンとコボルトの魔石が100
オークで200
オークジェネラルで1000
ってところだった。
魔法を使ってこない魔物だったので、大した量を貯められないのかもしれない。魔法が使える魔物だと違うかもしれないから、11階層の魔物の魔石でも検証してみよう。
この実験をしたのは、魔力を保管しておけるという手段が出来るかどうかと、攻撃魔法に使えるのではないかと思ったからだ。魔石から魔力を抜き取るとガラスのように透明になる。これはどの魔石も一緒だ。であれば、これに属性を付与した魔力が入っていれば、属性を失った俺でもこの魔石から抜き取り属性魔法が使えるかもしれない。
まあ、今回の魔物はどれも属性を持っていないようだったので、次回以降の実験で検証していくつもりだ。
そろそろ時間なので、食堂へ足を運ぶ。まだみんな揃っていないようだったので、1人席を確保して厨房の様子を眺めている。この世界の食べ物は前世と比べ、技術に差があるものの、同じような食材を使っている。魔物は別物だけどね。だからメニューを見ればなんとなくその料理がどんなものなのかもわかる。味付けは西洋風で、和食のような味付けは見たことがない。ただ、あるだろうなぁとは思う。以前のクラスメイトのマキは転生者の末裔だ。絶対、何かしらの料理や食材を作っているはずだ。いつか絶対食べてやろうと思ってる。
なぜそんなことを思ったのかといえば、厨房で魚が焼かれているのを見たからだ。焼き魚には醤油が欲しい。塩焼きも悪くないけど、やっぱり醤油が欲しい。お米も味噌汁も欲しい。
作れればいいんだけど、あいにく作りかたなんか知らない。こんなことになるなら勉強しておけば良かった。
「ダーリン♡だーれだ?」
ダーリンって言ってる時点でバレバレなんだが、後ろから俺の目を隠して聞いてくるやつがいる。
はあー、なんでこんなに懐かれているんだろう?こんなところをマユに見られたくないのに。
「ハ・ル・キくーん!」
噂をすればなんとやら、バッチリとマユに見られていたようだ。フィーネの手を振り切りマユの元に向かう。
「お、遅かったね、マユ。早くご飯食べよー!」
「むぅーまたイチャイチャして〜」
マユ様はおかんむりのようだが、俺は席に案内し、隣に座る。俺の左隣の席にフィーネが座りそうだったが、ナナが阻止する。俺の正面にフィーネ、ナナの正面にムラトが座り、とりあえずセーフ。ムラトも事情を察してか、俺の隣にナナが座っていても文句は言ってこない。あらかじめ打ち合わせでもしてたのかもしれない。
それぞれ思い思いの品を頼んで行く。俺はもうさっきのを見て焼き魚の気分になってしまったから、それとエールを頼んだ。マユが俺と同じものを頼んだが、飲み物は林檎酒にしていた。ちょっと魚とは合わなそうな気がするが、酸味が効いたお酒なので、さっぱり食べられていいのかもしれない。ムラトとナナは牛肉ステーキとワインにしていた。牛は餌代とかもかかるので、割と高級な食材だが、今日の俺たちの稼ぎなら問題ない。フィーネはというと魔物の肉、今日はオークでなくワイバーンという下級竜の煮込みと蜂蜜酒を注文していた。ワイバーンはそのまま食べると硬いが煮込むとちょうど良い歯ごたえになるらしく、料理人の腕次第で、味が左右するのだとか。
「今日の戦果に乾杯!」
俺たちは10階層を攻略したが、それを大きく公表したりしない。揉め事は沢山だし、ただでさえ美少女が揃ってるパーティのため何もしていなくても目立つ。ランクがもう少し上がれば伯も出るのだろうが、Dランクパーティではそれもない。むしろDランクで10階層突破は難しいとされているので、イカサマをしたのではないかと疑われても仕方がない。仲間内だけで喜び合えればいいのだ。
先ほどの焼き魚は、トマトのような食材と一緒に香草を煮込んだソースがかけられて提供された。脂の乗ったふわっとした身とトマトの酸味が絡み合ってものすごくうまい。魚の身を飲み込んだ後に口に広がる香草の香りが魚臭さを洗い流してくれる。この食事ができるだけでも冒険者になってよかったと思える。良い食事は心にもいい影響を与えてくれているようだ。
お酒も進み、話題はパーティ名の話になった。
「パーティ名なんだけど、有名なところってどういう名前か知ってる人いる?」
俺は今まで興味を持っていなかったため、そう言った事情に詳しくない。マユはギルドで依頼受けていたこともあるし、ナナに関しては女王だ。冒険者のことを知ってるんじゃないかと、聞いてみた。
「うーん、有名なところだと『金色の翼』とか『月夜の狐』『竜撃隊』あたりかな?この辺りのパーティはこの国以外でも活動しているから、割と知られているけど。」
俺の問いにマユが答えてくれた。なんていうか厨二的な名前の方がいいんだろうか?
「うーん、なんか難しそうな名前が多いね。」
「そんなことないわよ。そのパーティの特徴を表すパーティ名ならなんだっていいんだから。」
悩んでる俺にナナがアドバイスをくれる。俺たちの特徴ってなんだろう?俺、ムラト、マユ、ナナ、フィーネ。うーん共通点らしいものは見当たらない。いっそ『ナナと愉快な仲間たち』みたいなのでもいいんだろうか?いや、一応リーダーは俺だから『ハルキと愉快な仲間たち』か、ないな。
「俺たちの特徴って何かな?」
「うーん、やっぱりハルキくんがこのパーティの1番の特徴だと思う。だってハルキくんみたいな規格外な人って他にいないし。」
「えっとそれって褒め言葉?それとも、、、。」
「褒め言葉だよ!ハルキくんみたいな人と会えて幸せだし!」
いつになくマユが恥ずかしいことを大きな声で言ってくれた。少しお酒が入ってるのもあるのだろう。
「ありがとうマユ。俺もマユに会えて幸せだよ!」
「チッ」
なんとも甘い空気になってきたところで、ムラトの舌打ちでここが食堂だったと我に帰る。
ふーむ、俺の特徴かぁ、白い髪に赤い眼、無属性魔法が使えて、、、俺以外誰もいないか、、、でも俺だけじゃなくてみんなも特殊だと思うんだよね〜。
「あのさ『ONE AND ONLY』というのはどうかな?一人一人がかけがえのない存在とか唯一無二の存在とかそんな意味なんだけど、、、。」
「いいじゃない、それ。たしかにみんなかけがえのない人たちだわ。」
ナナが賛成してくれた。これでムラトもオッケーだろう。
マユとフィーネを見る。
「「賛成!」」
珍しく2人がハモった。
パーティ名が決まった。今日から俺たちは
『ONE AND ONLY』
その名に恥じぬ活躍をしていこう!




