第40話
飲みすぎて更新予約するの忘れてました。すみません。
「なあ、あんた。昨日ゴブリンの死骸のこと言いにきた奴じゃないか?」
20代前半くらいの短髪の男が話しかけてきた。
男の話によると、あれからゴブリンの死骸を片付けに行ったが、頭が吹き飛んでいて、討伐部位である「ゴブリンの耳」がなく、全く美味しくない仕事になってしまったとのことだった。
俺は責任をとらせられるのかとビクビクしていたのだが、どうやらその件とは別らしい。
「いや、まあ、仕事的には美味しくなかったが、俺が興味を持ったのが、どうやってあれだけの数のゴブリンを狩ることが出来たのか?ってことだ。ゴブリンと言えどあれだけの数に襲われたら、複数のパーティで討伐するのが基本だ。だがあの状況とあんたが片付けを依頼してきたことから考えても、あんたら2人で討伐したんだろう?」
なかなか鋭い奴である。ただ一つ違うのは、マユが倒したのは、数匹だ。残りの50匹近く倒したのは俺だ。
「私はほとんど倒してないよ。武器もナイフしか持ってなかったし。」
マユは自分のことのように誇らしげに答える。
マユ〜そんなこと言ったらバレちゃうよー。
「まあ、ゴブリンがいくらいようと、俺でも倒せるがな。」
ムラト、さすがだ。チラチラ横目でナナにアピールしてるが、わかってるだろう?ナナの方が強いんだから、そのアピールは実らない。それでもアピールしてしまうのが、ムラトクオリティ。
正直、数はうっとおしかったが、時間さえかければゴブリン程度なら余裕だろう。せっかく登録したんだから、ある程度実力があることをわからせておいた方が得策だろう。
「どうやって?って素手で殴ったり、蹴ったりだ。あとはちょこっと魔法を使ったくらいかな?」
質問してきた男はなぜか青い顔をしている。たしかにゴブリンを素手で殴りたくないよな。なんか臭いし、すぐに中身が飛び散るし。
男の顔色が悪いのは、そこが原因ではないのだが、妙に納得したような顔をしているハルキ。
「おい、てめえ調子に乗って嘘ついてるんじゃねえぞ?どうせどっかの高ランク冒険者パーティが狩った後、お前が報告しただけなんだろう?」
いかにも雑魚です、と言わんばかりの3人組がこちらに近寄ってきた。ジロジロとナナとマユを見ている。鬱陶しい。殺しておくか?
なにやら物騒な考えがフツフツと湧き上がってくるが、ムラトが間に入る。
「お前らに用はない。怪我する前に立ち去れ。」
カッケェー!ムラトは以前のような狂犬ではないようだ。この数年ですっかりナナの騎士としての風格が出てきたようだ。
「なんだ?!獣人風情が?このCランク冒険者のオレ様に逆らうってのか?てめえらはさっき冒険者登録したばかりなんだろう?見てたぜ。そんなに早く死にてえのか?あー、心配するな、女はオレ様が可愛がってやるからよ。」
次の瞬間、リーダーらしき男は吹き飛び、他の2人の首元にはムラトの剣が添えられていた。
「てめえらこそ、殺されたいようだな。」
えーと、前言撤回。騎士の風格なんか出てなかった。相変わらずの狂犬でした。ちょっとだけ我慢ができるようになっただけだった。
この騒ぎでミレーユに怒られるというテンプレがあったが、絡んできたのが、奴ら3人組であったこともあり、罰はなかった。
あの3人組は登録したての冒険者がいると、毎回騒ぎを起こすらしい。
「そんな奴らギルドから叩き出せばいいのに。」
俺の独り言が聞こえたようで、ミレーユが困った顔をしている。事情を聞けば、あんな奴らでもCランク冒険者、それなりにギルドへの貢献もあり、なかなか切るに切れないとのことだ。代わりにギルドへの依頼をこなしてくれる人がいれば、すぐにでも追放したいと俺たちを上目遣いでチラチラ見てくる。そして、胸を強調してアピールしてくる。こいつ、やるな。
見ようと思ったわけではないが、目がいってしまうのは本能のようだ。特別意識しているわけではないから、マユさん、真後ろからの無言の圧力をやめてほしい。
まあ、正直、あの程度の輩でCランクなのであれば、俺たちなら余裕だろう。でもEランクじゃ受けれる依頼もたかがしれているので、仕方がない。もっともランク関係なしに依頼を受けられるなら別だが。
「なあ、あんたら本当に強いんだな。それで、実はだな、あんたらの強さを見込んでお願いがあるんだが、、、俺とパーティを組んで、ダンジョンへ行かないか?」
「行かない!」
先程、ゴブリン討伐を見抜いた20代前半の短髪の男、ジャックがパーティを組みたいといってきたが、俺は間髪入れずに断ってやった。俺たちには秘密が多い。部外者を入れるつもりはない。
「なあ、そんなこと言わずに頼むよ!どうしてもダンジョンで手に入れたい素材があるんだよ!」
「だったらその素材をギルドに依頼すればいいだろう?わざわざパーティを組むほどのことではない。」
「いや、そこをなんとか!」
「話にならん。」
こいつはなんでそこまで、俺たちにこだわるのか?そしてダンジョンに行きたいのか?その理由を話すわけでなく、ただお願いするだけでは、交渉にもなりはしない。どんな事情があってもパーティに入れるつもりはないけどね。
俺たちは縋るそいつを置き去りにして、ギルドの買取カウンターというところに向かう。奴が付いてきているが無視だ。
「依頼とは関係なくても素材って買い取ってくれるの?」
俺は依頼をこなせなくても金が手に入ればいい。地位よりも金だ。早くマユに借金返済したい。
「依頼を受けてなくても素材の買取自体はやってますが、場合によっては討伐したかを疑われることがあります。特に低ランクの冒険者が高ランクの素材を持ち込むと低く査定されることもあるようです。」
この子はなんだ、あれだな。正直過ぎるだろう。ギルド職員としてはどうかと思うが、冒険者としてはありがたいな。
買取カウンターに行ったのにミレーユが説明する。基本的にいい子なのかもしれない。
そんな感心をしてるとぱっと見笑顔なんだけど、目が笑っていないマユからツッコミが入る。
「へぇー、ギルド職員なのにそんなこと言っちゃうんだ?なんか企んでるんじゃないの?」
正直こんなに好戦的なマユは初めて見た。そんなに気が合わない相手なんだろうか?
モテない経験が彼の思考を邪魔していく。前世はともかく、今世は容姿に優れ、魔法の才能も身体能力も高い、性格も難はあるが嫌われるようなものではない、モテないはずないのだが、彼には理解できない。
鈍感系主人公はこうして作られるのかもしれない。アニメを見てる時にはなんで気づかないんだバカヤローと思っていたが、それまでの経験を経たら思えないのが現実なのかもしれない。
「ハルキさんには正直に言いたいです!嫌われたくないので。」
好戦的なマユに対して正攻法?でくるミレーユ。
ハルキの心は揺れる。マユが一番なのには変わらないが、正直で素直な子には弱い。
ちょこっとだけ、ちょこっとだけだけど、ミレーユに心が傾く。
「じゃあ、とりあえずはなんでも買い取ってくれるんだね?」
「はい!」
笑顔で答えるミレーユ。
それには流石のムラトもちょっとだけクラっとしてしまう。ナナ一筋のムラトをもクラっとさせるだけの破壊力があった。ということは免疫のないハルキにはクリティカルである。
マユもナナもおかんむり。ミレーユだけが笑顔の展開。ヤッバイ展開だ。
「マユ、好きだよ」
言わずにはいられなかった。ミレーユは気になるがマユが一番なのは変わりない。今言っておかないとダメな気がした。
だがそれがマユにとっては気持ちをごまかしているように感じたらしい。
「ハルキくん、このタイミングでそれをいう必要あるのかな?なんかやましいことでもあった?」
ハルキとしてはマユへの愛を再確認し、自分が好きなのはマユだってミレーユにアピールするつもりだったのだが、マユにはそうは受け取られなかったようだ。
許してほしい。だって経験ないんだから。心の中でそう呟くもマユをはじめ周囲の人間には伝わらない。本当に困った奴である。
マユの表情が変わらないことから、自分の気持ちがうまく伝わってないことがわかったハルキは話題を変えに行く。
「なあ、もう一個聞きたいんだけど。ランク関係なしに受けられる討伐依頼ってあるかな?」
なんせ俺のランクはEだ。ロクな依頼はない。ただ、実力的にはCランク以上なのは先ほどのやり取りで判明済みだ。
「ダンジョンなら。ダンジョンは基本誰でも入れるので、そこで狩った魔物ならある程度いい料金で買い取れます。ただ、死んでしまった時の保証はないので冒険者さんの意思にお任せしています。」
まあ、正論だよな。死んでまで面倒は見きれないだろう。ダンジョンでの狩りは有効だとわかった。あとはジャックから必要な素材さえ聞ければすぐにでも出られる。
ジャックが素直に答えてくれれば一番いいが、なかなか難しいだろう。だから俺は、片っ端から素材を集めるつもりだ。それにはアレが必要不可欠。今後のことを考えても、魔法創生を使う必要があるだろう。




