第37話
一夜明け、目を覚ます。隣にはマユリちゃんが眠っている。昨日は2人、酒を飲んだ。そして酔っ払って泣いて、その後、、、。
まずい!記憶がない。この状況はまさか!?
「んー、あ、お、おはよう。」
マユリちゃんが目を覚ましたようだ。なんだかもじもじしている。
「マ、マユリちゃん、お、おはよう。」
も、もしかしてやっちゃったんだろうか?え、えー、まさか童貞卒業?記憶ないままに?それはちょっと、いやかなり残念すぎる!
「酷いよ、ハートランドくん。昨日はマユって呼んでくれたのに。。。」
え、こ、これは本格的にヤバいんじゃないだろうか?記憶ないとか言ったらまた傷つけちゃうんじゃないだろうか?で、でも確かめなくちゃ。俺の一世一代の大イベントなんだから。
「あ、あの〜この状況ってやっぱり、、、。」
「・・・覚えてないの?」
うひゃー、ヤバい!ヤバい!ヤバい!ど、ど、ど、どうしよう?!
「はぁ〜、しょうがないなぁ。結構酔ってたみたいだしね。」
あ、あれ?そんなに怒ってない?
「酔っ払ったハートランドくんをここまで連れてくる時ずっとマユ〜、マユ〜って呼んでくれたのに。ベットに運んだらすぐに寝ちゃうしさ。わ、私も、つ、疲れたからそのまま、と、隣で寝ちゃって。」
話しているうちに恥ずかしくなってきたのか、今の状況で何かを想像したのかわからないが、マユリちゃん、いやマユは真っ赤な顔している。
喜ぶべきか悲しむべきか、話を聞く限りでは俺の童貞は守られていたようである。残念!
よくよく見れば2人とも昨日と同じ服装のままだし、何もなかったのだろう。同衾という事実は残るが。
ちなみにここはマユの住まいというか宿で、朝食を取ろうと食堂に2人で向かうと、この宿屋のおかみさんが、生暖かい目で俺たちを見ていた。
「お、おかみさん!ち、違いますからね!」
マユがものすごい勢いでおかみさんに事情を説明している。
「おやおやそうなのかい?でもあいつなんだろう?あんたがはるばるサジタリアからこのピスケスまで探しにきたのは?」
この国はピスケスと言うのか。一体どの辺りなんだろう。逃げて逃げて逃げて、たどり着いたのがこの地で、地理もよくわからない。場所は後でマユに聞くとしてこれからのことを考えなくちゃ。
朝食を注文し席について待っていると、マユが戻ってきた。勝手に注文したことを怒られたが、このお金もマユが出してくれている。これじゃあ完全にヒモだな。何か仕事してお金稼がないと、帰るにしても、旅費だってマユの負担になってしまう。マユは何の仕事してるんだろう?
「ね、ねえ、マ、マユ。この街では何の仕事してるの?」
マユと呼ばれて照れ臭そうにしてる、そんなところも可愛い。
「わ、私はギルドで冒険者登録して、依頼のあったパーティの荷物持ちしてるよ。空間魔法を使って荷物を収納して運べば、ある程度の量の荷物運べるから。転移は見える範囲にしか出来ないからあまり需要もないし。」
なるほど。冒険者か。この宿もそこそこ高そうだし、それなりにお金になる仕事なのかもしれない。特に学園に通えるほどの魔法が使えるなら重宝されるのかもしれない。
「俺も冒険者やろうかな?」
バンッ!
「やろうよ!一緒に!ハートランドくんならすぐに一流の冒険者になれるよ!」
テーブルを叩いて立ち上がり、キラキラした目で俺を見てくる。あー、かわいい。
「そ、そうかな?成れるかな?一流に?」
「成れる成れる!だっていろんなパーティについて行ったけど、ハートランドくんほど強い人見たことないもん!」
とりあえず、仕事は冒険者が良さそうなので、後で一緒にギルドに行くことにした。
まずは朝食食べて腹ごしらえだ。
朝食はパンになにかの肉と野菜を挟んだサンドイッチのようなものとスープとサラダ。どれも美味しそうだ。食べ盛りの俺としては物足りなさも感じたが、お金払えない俺がそれ以上注文するのは流石に憚られる。
ガチャッ
店の入口の扉が開き
「ここにマユリってやつがいると思うんだが?」
と言う声が聞こえた。マユには聞こえてないようだが。マユに仕事の依頼でもしにきた冒険者だろうか?まだ朝食を食べている最中のマユを置いて、ちょっと見てくると告げて店の入口に向かう。
銀色を思わせる灰色の髪、犬のような耳、そして髪と同色の大きな尻尾、背は高く軽装の鎧を身に纏っている。そして両腰には剣を携えている。
どこかで見たような容姿だ。ただ違うのは俺の記憶にあるやつよりも背も高く筋肉も盛り上がっている。
「ん?おい!お前、ま、まさか?!」
「その金色の目、もしかしてムラト、か?」
「俺の名を知ってるってことはハートランドなんだな?マユリからは見つけたけど、話してくれないと手紙にあったが、どうやら話はできたようだな。だが、何でお前がここにいる?ここはマユリの泊まってる宿だよな?しかもこんなに朝早くから、、、まさかテメェ!?」
「ご、誤解だ!昨日酔っ払って看病してもらっただけだ!」
ガチャッ
もう1人入ってきた。金髪赤目の美人さんだ。真っ黒なドレスのようなものを着ているが、そのスタイルの良さをさらに強調しているかのようだ。
その姿に誰もが目を奪われるといっても過言でない出で立ちとは裏腹に、氷のように冷たい表情。
「ムラト、何を騒いでいるの?早くマユリを呼んで!」
静かに冷たくムラトに言う。
こ、これは間違いなくナナだろう。俺は恐怖から後ずさる。そこに突き刺さる視線、、、。
目が合ってしまった。
「ナ、ナナ、その〜ひ、久しぶり。」
今の俺に出来る精一杯の言葉だった。




