第25話
シエラ先生のプレッシャーに負けて俺は身体強化、ブーストのことについて話す。
昨日の先生との話から自分なりに魔法を試したところ、なんとかなりそうなんで、やってみたこと。
ムラトが突っかかってきたので、これ幸いと模擬戦をやったこと。そして、剣が消失してしまったこと。
先生ははっきり言って呆れてた。
身体強化で剣が消えることはないという。
何か別の力が働いているんではないかと。
魔法に精通しているからこそ、不可思議な魔法に興味を持つのはある意味当然だろう。
生徒が帰った後に闘技場で実際に見せて欲しいとのことだ。
俺としても、特に断る理由はないし、剣が消えてしまったことに関しても解明したいと思っている。なんとなく、先生なら解明してくれそうな気もするし。授業が終わったら、また研究室に来るように!とのことだったので、俺は一旦教室に戻った。
教室に戻ると、見知らぬ生徒?が1人増えていた。
身長はクラスの誰よりも低いが立派なカイゼル髭を蓄え、手足は誰よりも太く、分厚い筋肉に覆われている。いわゆるドワーフといった風貌。
「えっと、君は?このクラスの生徒?」
どう見ても生徒には見えないが、一応念のため、聞いてみる。
「あー?俺はこのクラスの生徒だが、あー、お前は確か式の時に話してたやつじゃないか?あー、お前はあれだろ、Sクラスだろ?」
ドワーフ然とした男は、昨日の式で俺のことを覚えていたらしい。どうやらクラスメイトで間違いなさそうだ。
「昨日まではSクラスだったけど今日から俺もこのクラスの担任をやらせてもらうことになったんだ。」
授業を任せていたオーロラ先生はなぜか椅子に座ったまま寝ているので、それを無視してドワーフと話す。全く困った先生だ。
「あ、初めましてだね。ボクはハートランド・バーナー、生徒兼担任だ。君の名は?」
「あー、担任だったか。俺はナカジ、ハーフドワーフだ。あー、昨日の夜、仕事手伝ってたら朝までかかって、寝過ごして遅れた。すまん。」
悪びれるでもなく、淡々と述べて軽く頭を下げている。あー、悪いやつではなさそうだ。あ、口癖伝染った。
「で、ナカジ、君にも聞いておきたいんだけど、、、。」
俺は午前中にみんなから得意魔法を聞いて、実践したこと。そこからの教育プランを考えるためにナカジにも教えてほしいことをお願いした。
「あー、まあー、言ってもいいんだが、あんまり大した能力じゃないぞ?」
この世界のドワーフは種族的に魔法を嫌うため、人間とのハーフで魔法が使えるナカジは一族では異端扱いされているらしい。そのため、魔法に対してあまりいい印象がないようだ。
ただ、彼の能力は有用なものなので、鍛えればものになる。
ちなみに彼の能力は複製魔法。
武器、防具なら、オリジナルには劣るが、材料さえあれば複製出来るらしい。武器や防具は1つずつ手作りが基本で、それを劣化版とはいえ複製出来てしまう彼の魔法は確かに異端だろう。
複製出来る数は魔力量によって変化するらしい。はじめはナイフ1本程度しか複製出来なかったが、今では2本まで作れると言っていた。確かに魔力を上げる手段がなければ、大した能力ではないと感じてしまうだろう。
王国では今のところナカジしか確認できていない魔法なので、ダメで元々と、国が強制的に入学させたらしい。
しかし、一体どうやって調べているんだろうか?
普通に考えれば、ドワーフが魔法を持つなんてのは考えない。ハーフドワーフだからもしかしたらと彼の両親が教会に連れて行ってわざわざ調べたんだろうか?
それとも魔法の有無関係なしにステータスカードを作る風習でもあるんだろうか?
いっそみんなに聞いてみるか。
「ねえ、みんな。ちょっと聞きたいことがあるんだけど、いいかな?」
「みんなは自分が魔法を使えるって知ったのはいつごろなのかな?ボクは教会でステータスカードを作った時なんだけど。」
ナナ、ムラト、マユリちゃんの3人はナナの国にいる鑑定士に見てもらったそうだ。鑑定士は鑑定眼というスキルを持っている人で、すごくレアな人らしい。一般的には教会で魔法を授かるという風に思われているが、鑑定士曰く、5歳になると教会に行かなくても、授かるそうだ。
だから5歳になっても教会にも行かず、鑑定士にも見てもらったことのない人に関しては、自分が魔法を使えることすら知らずにいることもあるらしい。平民でお金のない人には良くあることらしい。
そして、ナカジだが、、、。
魔法を使えると知ったのは、教会でも鑑定士でもなく、ただ単純に父親の作ったナイフを見て、自分もこんな風に武器を作りたいと思ったら、複製魔法が発動して、ナイフをもう一本手にしていたらしい。そして、そこで魔力切れを起こしたため、病院で知ったらしい。
なんともまあ、レアなケースだろうな。
そんなレアケースな情報をたどって、ナカジを入学させるくらいだから、よほど魔法に関しての情報収集は欠かさないようにしているのだろう。
きっと俺のこともバレバレなんだろうな。
まあ、これでナカジも魔力量の増加が課題であるとわかった。
ここからは俺の出番だな。
さて、でも魔法創生のスキルは多分知られるとかなりヤバイ。だから全てを、バレている無属性魔法のせいにしよう。
とりあえず、いい加減にあいつを起こそう。
これだけみんなで話してるのに起きないとか、どんだけだよ。
「オーロラ先生、起きてください!」
「ん、んーおはよう。。。っじゃなくて、起きてたよ!私寝てないから!本当だよ!」
はぁ〜。これだけ寝ておいてバレてないとでも思ってるのか?困ったやつだ。
「オーロラ先生は先生に向いてないようですね。生徒からやり直しましょうか?ボクからシエラ先生に伝えておきますね。」
「えっ!ウソ、やめて!そんなことされたらあたし生活できなくなる!うちお金ないし、あたしが稼がないと!」
うーん、どうしたもんか。思ったよりも貧乏貴族だったのかもしれない。
「はぁ〜じゃあしょうがないですね。次やったら報告しますから。見逃すのは今回だけですからね。みんなに魔法の基礎知識の指導お願いしますね。ボクはちょっと用があるので、席外しますから。」
まったく、どっちが先輩かわかったもんじゃない。
シエラ先生に言われた時間まではまだ余裕があるので、自分に割り当てられた研究室へ向かう。
ある魔法を作るためだ。なんとなくイメージは掴めてきたからね。
研究室へ入ると、当然だがテーブルと椅子が備え付けられているだけで、本当に何もなかった。部屋自体はそれなりの広さがあったので、これから自分で揃えていけってことだろう。
鍵をかけ、ソナーを使って部屋に誰もいないことを確認し、いざ魔法製作開始だ。
「魔法創生。」
自分だけ聞こえる程度の声で唱えて、イメージする。
参考にするのはドレイン。ドレインは毛穴みたいなところから大気中の魔力を吸収する。
今回俺が作ろうとしてるのは、自分の魔力を他の人に与える魔法だ。
自分の魔力を放出、それを相手の毛穴、いや言い方かっこ悪いから魔力器官に注入するイメージ。
さっきナナが使っていた魅了は自分の魔力を相手に流し込み、支配すると言っていた。
だから俺の魔力を相手の魔力と同調させて、、、。
あ、これ相手いないと出来てるのかわからないじゃん!がーん。
はぁ〜、失敗した。うーん、どうするか?誰かに協力してもらわないと難しい。
でも秘密を守ってくれて、信用できる人なんて、、、。
「ハートランドくん、いるんでしょ?ちょっと開けなさい。」
突然、扉がノックされた。
思わず驚いてしまったが、これはおそらくシエラ先生だ。うーん、どうしよう。シエラ先生にお願いするか?でもさらに弱みを握られるような気もするし、悩みどころ。
「早く開けなさいよ!」
だいぶイラつかせてしまってるようなので、俺はしぶしぶ扉を開けた。




