第24話
闘技場を後にし、俺たちはみんなで昼食をとることにした。この学園にはレストランも真っ青の巨大な食堂があり、5学年の生徒が所狭しと昼食を取っている。貴族が多いこともあって本格的な料理の注文が出来るようになっているが、お金のない生徒のためにバイキング形式の安いメニューも揃っている。貴族は主に注文方式、平民は主にバイキングを利用する。生徒がその場でお金を払うわけではない。注文するとそこで名前を記入し、あとでその家に請求書が届くという仕組みだ。
平民が注文式で頼むこともできるが、家のことを考えれば、安いバイキング方式を選ぶのは当然だろう。学割の観点があるのかは知らないが、非常に安い金額で食べられる。中には昼にいっぱい食べて、夜と朝は何も食べないなんて人もいるくらいだが、世間的に見れば、平民でも安心して食べられる設計になっている。
今の俺たちのメンツで言えば、ナナはお姫様だが、ムラト、マユリちゃんが平民、俺が騎士爵の貴族で、、、あれ?オーロラ先生は家名があるから貴族だと思うんだけど、爵位はどうなんだろう?確かカールスバーグ家だったか?
「オーロラ先生、今さらで申し訳ないんですが、カールスバーグ家の爵位は何になりますか?ボクはそういうのに疎くて、失礼があっても申し訳ないので、教えていただけますか?」
「あれ?言ってなかったっけ?私の家は確か男爵だったかな?あれ子爵?うーん、どっちだっけ?」
「「「えっ?」」」
みんな一斉にオーロラ先生を見る。自分の家の爵位を知らないとか、覚えてないって、どんだけ〜。
「なんか、この学園来る前の記憶が曖昧でさ、名前はもちろんわかるんだけど、家のことって言われると、、、。そういえば私の両親ってどんな顔してたっけ?」
声も出ない。ここまでアホな子だったとは。魔法の才能は抜群なのに残念すぎる。いや、もしかしたら何かショックなことがあって記憶が混濁してるのかもしれない。ケガとか病気とか?
「まあ、そのうち思い出すでしょ。気にしないでいいよ。さあ、ご飯食べよ!」
ごまかしてる風な感じはしないから、おそらく本心で言ってるんだろうけど、なんだか気になるな。あとでシエラ先生にでも聞いてみるか?
ナナがムラトとマユリの分を支払うとのことで、今日は注文式の昼食をとることにした。俺としてはバイキング方式に興味があったのだが、一緒に食べる最初のランチだからということで、そういうことになった。
注文式では肉か、魚か、種類を選ぶとその日の料理が出てくるらしい。注文式といっても全部が全部注文出来るわけないよな。これだけの生徒がバラバラな注文したら作る方も大変だし。
俺とムラト、ナナ、マユリちゃんが肉、オーロラ先生だけが魚を選んだが、みんな肉を注文するなら私も肉にするという変なこだわりで全員が肉料理にした。
肉料理は牛、豚、鳥、魔物の4種類で、今日の魔物はオークだと言っていた。この世界には魔物という野生の動物が魔力により変化した存在がいるらしい。多くの魔物はダンジョンと呼ばれるところに生息し、一番近くだとこの王都から40キロ程度離れたところにあるらしい。そこはダンジョン都市と呼ばれ冒険者たちの狩場なんだそうだ。そんなに遠くもないので、いつか行ってみたいものである。そしてダンジョン以外にも魔物は生息している。かつてはサジタリア王国の領土で今はアトラス帝国にある魔の森と呼ばれるところに生息している。人間を恐れているのか、その森から出てくることはないようだが、王国領であった時は定期的に討伐隊が派遣されていたとか。アトラス帝国になった今はどうなってるかの情報はないようだ。
我が家では母さんが嫌がるので魔物の肉は出てこない。なので、俺は食べたことないオークを注文した。魔物肉は高額らしいが、一回くらいは父さんも許してくれるだろう。俺がオークというと全員がオークにすることになってしまった。オークは他の肉に比べて高いが美味しいらしい。特に庶民が食べるオークと貴族用は部位が違うらしく、格段に違うらしい。牛で考えればどの部位も違った味わいが楽しめるので、オークも似たようなものではないかと思う。ちなみにオークは人型の魔物であるが、それを食べたいと思うのはこの世界に生まれたからなのか?精神耐性があるからなのか?まあ、どっちでもいいか。
結論から言うと、オークは最高に美味かった。脂が滴っていたが、スッキリした脂なのか重く感じることもなく、あっという間に平らげてしまった。甘みのある脂はクセになりそうである。
全員で昼食を終え、食後のティータイムをしているとシエラ先生が来て、俺だけ来て欲しいと呼び出される。とりあえずそれに従って、午後の授業はオーロラ先生に任せることにした。大丈夫だよな?まあ、一応先生なんだし。不安はあるが任せることにする。
俺もオーロラ先生の話が聞きたいと思っていたので、ちょうどいい。そう軽く思っていた時期もありました。
シエラ先生の研究室に2人きりで向き合う。ものすごく真剣な眼差しでこちらを見ている。これは心して聞かねば。
「単刀直入に聞くわね。午前中、闘技場で何してたの?」
へっ?
間抜けな顔をしてしまった。真剣な表情だったからなにかすごいことでも起きたのかと思ったら、なんの授業をしたのか、気になっていただけのようだ。
「みんながどんな魔法が使えるのか知りたくて、ムラトと軽い模擬戦をして、ナナとマユリちゃんの魔法を見せてもらってオーロラ先生が風魔法で飛び回っていただけですけど。」
俺はさも何も特別なことはしてないと言う言い方をしたが、シエラ先生は頭を抱えている。
何か悪いことでもしてしまったんだろうか?
不思議そうな顔をしてシエラ先生を見ると、ため息を吐いて、告げる。
「はぁーっ。まず模擬戦だけど、あなたたちだけでやるのを禁じます。やる時は私を呼びなさい。そして魔力障壁を張ること!これは絶対よ。
次にオーロラ先生に勝手に飛び回らせないで!」
ナナとマユリちゃんに関しては問題なかったらしいが、俺とオーロラ先生が問題だったらしい。
「あなたたち2人の魔力量ははっきり言って異常なの。魔力感知できない生徒でもあなたたちの魔力を感じ取れるくらいね!そこは自覚しなさい!」
その後も小言をビシバシと叩き込んでくるシエラ先生。いっぱい怒られた。結構本域で怒られた。人生40年目に突入してこれほど怒られたのは初めてかもしれない。
先生が言うには、午前中の座学中に高学年を中心に桁外れの魔力を感じて恐慌状態に陥ったらしい。低学年でも魔力を感じ取れる、Sクラスの面々、特にマキなんかが授業にならないくらいに取り乱したそうだ。でも、現場にいたムラトたちは全然平気そうだったんだけどなぁ。
「あなたの言いたいことはわかるわ。Eクラスの子たちは平気だったんでしょ?」
先生によるとナナの国には大きな魔力を持った存在が多いため、彼女らには耐性がついていたのではないかと言うことだ。魔力障壁を張っていれば、これは防げたというんだから、凡ミスだ。
「あ、それと木剣が3本なくなっていたんだけど、あなたたちが使って返し忘れてるんじゃない?」
忘れてた。冷や汗を流してる俺にシエラ先生の追及の目が迫る。




