第101話
更新がだいぶご無沙汰になってしまいました。仕事との両立はなかなかに難しいですね。
ハルキが創世神とのやりとりをして、乙女の祈りでカースを取り除いていたその頃、マユの父親であるアルベルトは窮地に立たされていた。
「あのカエルやろうっ!」
団員たちはカエルこと、コルネウス・ミューラー、北の砦のNO.2である彼のことを馬鹿にしていた。
しかし霊獣がいるためにNO.2に甘んじているだけで、実力はそれなりにある魔人である。北の砦の霊獣は怠惰のカースを持つ大亀。彼(?)は面倒くさいと指揮権をコルネウスに移譲していた。
ただコルネウスは指揮権を行使し、自ら先頭に立って動くよりは他のものに任せることを優先した。部下たちに成長の場を用意する方が、今後の統治に使えると考えていたためだ。従ってその実力を発揮する場はほとんどなかった。彼は存外優秀だった。
魔人のそんな内部事情をただの人間である彼らには知らされることはなかったため、アルベルトは『大した実力もないのに偉ぶっているカエル』とコルネウスを軽んじていた。「カエル」と揶揄し、虎の意を借りるものとしか認識がなかった。そのことがこの窮地を作っていたことに、事が起きてから気付いたのである。
「抜かったわ。」
アルベルトのこの言葉が全てを物語っていた。
一度引いたように見せかけて、大亀の霊獣を筆頭に魔人軍を率いて再度アルベルトの元へ侵攻を開始したのである。
コルネウス自らが先頭に立って軍を率いた姿を見た事がなかったアルベルトたちは、一糸乱れぬその進軍に、同じ軍を預かるものとしての格の違いを見せつけられた。
アルベルトにとって不幸だったのは、コルネウスが魔人の存在以外認めていないという、彼の性格によるものが大きかった。
魔人たちからは『できる男』として、認められていたし、怠惰の大亀が機能しなくとも、コルネウスがいればなんとかなる、という信頼を得ていた。ただ、いかんせん魔人以外のものに対する態度は最悪の一言で、これには魔人たちもやり過ぎではないかと苦言を呈していた。
むしろそんな態度しか見た事がないアルベルトからすれば、『短慮で無能なNO.2』と評価してしまったのも致し方なかったのかもしれない。
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「私を見縊ったことを後悔するがいい!」
コルネウスは自身の周囲に水の塊、ウォーターボールを無数に配置し、一斉にそれをアルベルトたちの軍勢に投げつけた。
高密度の水の塊なら盾で防ぐこともできただろう。現に彼らは盾を構え、攻撃を防いだかに見えていた。
だが、相手は魔人である。しかも北の砦を任される程のものなのだ。単純なウォーターボールであるはずがなかった。
隊列を組んで防御に当たった騎士たちは、攻撃が止むのを待って攻め込むつもりでいたのだが、ウォーターボールがその鋼鉄の盾に触れた途端に溶け出し、さらには貫通して直撃を喰らうことになった。
「ぎゃっはははっ!」
コルネウスは下品に笑う。
「そんなおもちゃで防げるとでも思ったか?獣人!」
人をいたぶるのが何よりも楽しいと言った顔で、
彼は普段の冷静さをなくしていた。これには魔人も引き気味だった。
「死ぬ前に教えてやろう。私のオリジナルのウォーターボールはね、鉄をも一瞬で溶かすのだよ。君らは避けるしかない。あー、でもこれだけの数は獣風情には避け切ることはできないだろうねぇ。ぐふっぐふっぐふ」
周囲をウォーターボールに囲まれ絶体絶命のアルベルト。だが傷つき倒れた部下たちが、アルベルトの盾になるために必死に彼の元へ走りよる。
「団長っーーーっ!」
「死ねーっ!」
アルベルトに向け放たれた無数のウォーターボールは破裂し、周囲を霧のように覆い尽くす。
「ぐふぐふぐふっ。じわじわと痛みを感じながら溶けていくが良い。さあ、痛みに正直に、声をあげよ!私に獣人がもがき苦しむ声を、そんな甘美な声を聞かせておくれ!」
彼は興奮した面持ちで、その時を待つが、いつになっても声は聞こえてこない。まさか、声も上げずに溶けてしまったのだろうか?と風の魔法を使って霧となって見えなかった部分を払う。
もちろん、その霧は鉄をも溶かす溶解液。万が一自分の部下の方に飛ばすわけにはいかないから、いったん上空で風を纏わせて奴の姿が確認できたらもう一度攻撃に使うつもりだ。
徐々に霧が晴れる。そしてそこには何もなかった。アルベルトの姿も、彼を守ろうと走り寄った者たちも、その服、盾、剣といった装備品と言われる何もかもがなかった。
「・・・いくらなんでもこの短時間で溶けるには早すぎる。あの一瞬に何があった?」
異常事態に対して、瞬時に冷静さを取り戻したコルネウスは周囲を警戒する。それに伴って彼の部下たちにも緊張感が走り、周囲を警戒するためにほんの一瞬その場から目を逸らす。
「っ!コルネウス様っ!」
コルネウスの部下の1人が叫んだ!そしてそれを耳にした部下たちが一斉にコルネウスの方を向く。
ゴトっ、プシューッ!
頭を失い、首から噴水のように血を吹き出したコルネウスだけが立っていた。