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朝帰りならぬ昼帰り

 ……結局昼前まで、そうやって開き直った皆にくっつかれて良いようにされてしまった。

 いや、あくまで抱き着かれるだけで、それ以上はなかったけどさ。

 最後には私は、悟りを開いたような目になっていたような気がする。

 

「いやぁ、酔った勢いって奴は怖いねぇ」


 なんてノーラさんは言ってたけど。

 絶対酔ってなかったよね、完全に抜けてたよね!?

 でもさ……。


「これで明日からまた、一週間頑張れる……」


 とかキーラに満足そうな顔で言われたら、こっちはもう、何も言えないじゃないか。

 他の皆も同じような顔だし……いやもう、いいんだけどさ、これくらいは。


 あ~……なんで私なんかをそこまで、と思わなくもないけど、口には出さない。

 それは、向けてくれる気持ちに対して失礼なことだと、わかってるから。

 とまあ、頭でわかっちゃいるけど、感情がねぇ……なんで? っていうのが拭えないのは勘弁して欲しいなぁ。


 まあ……そういうことを考えちゃうのは、逃避でしかないこともわかってるんだけど。

 つまり「どうしてこうなった」ではなく本当に考えるべきは、「これからどうすべきか」ってことで……。

 それに答えが出ないから、困ってるわけだ。


 考えてもみて欲しい。


 この島に来て最初に出会い希望を見せてくれた、凛々しく高潔で、そのくせ優しく茶目っ気もある女騎士。


 健気で頑張り屋で、最近自分の居場所を見つけて自信を身に付けた女の子。


 この島に来てからずっと頼りになりっぱなしの、凄腕なのにそれを鼻にかけることもない、竹を割ったような性格の職人。


 同じく頼りになりっぱなしで、色んな面でサポートしてくれる有能秘書な面と、プライベートで私に上手く甘える面を使い分けてくるお姉さん。


 簡単に列挙しただけでもこのスペックである。それも、全員美女美少女。

 細かい魅力を上げていくと、ほんともう、枚挙にいとまがない。

 こんな人達の中から一人選べって、そりゃ無理ゲーってものでしょ!?


 また、おまけに、さぁ……。


「私達の気持ちは私達の気持ち。アーシャの気持ちはアーシャの気持ちですから。

 歩調が違うのも当然ですし、焦らせるつもりも困らせるつもりもありません。

 ゆっくり考えてください」


 とか、ドロテアさんが落ち着いた笑顔で言うんだよ。

 他の皆も、何か言いたげではあったけど、それもそうだと納得する人格者ばっかりだしさぁ……。

 ますます、選べるわけなくない!?


 そして、そんな状況であることを知ってか知らずか……いや、多分知っててなんだけど。


「しかし、我々の気持ちもやはりあるので、今後は選んでもらうために色々アピールが増えるだろう。

 そこは覚悟しておいてくれ」


 と、ゲルダさんが笑顔で宣戦布告してきた。いや、これは宣戦布告なのか?

 でも、皆の顔を見る限り……多分、宣戦布告的な何かであることも間違いないわけで。


「お、お手柔らかに……」


 私は、そう返すことしかできなかった。

 自分でもわかるくらいに、顔が引きつってたと思う。





 その後、もう時間も時間ということで着替えてから、みんなでお昼を食べに行った。

 連れ立ってやってきた私達を見て、特にちらっとドロテアさんを見て。


「あ~……ついに?」


 とか、何か言いたげな笑顔で言ってきた。

 そうだよねぇ、普段ぴしっとした格好してて一分の隙もないドロテアさんが、ちょっとくしゃっとなった昨日と同じ服を着てたら色々察するよねぇ……。

 でも、多分それは誤解だっ!


「ち、違います、お泊りにはなったけど、それ以上はなかったですから!」

「あ、そーなんだ。じゃあ、全員で宅飲みしてたんだね」


 否定する私の声に、あっさりと状況を察したエルマさんが納得顔になった。

 この辺りの察しの良さって一体……。

 そのエルマさんにゲルダさんが頷き返して。


「うん、おかげで楽しく過ごせたよ。

 ああエルマさん、空いた酒樽は表に置いといたから」

「そりゃ、わざわざどうも。……しかし、一晩で、三人で空けちゃいますか……」


 と、流石のエルマさんもあきれ顔だ。

 そりゃそうだよね、あれだけ飲んだ後に、小さめとはいえ蒸留酒一樽空けちゃうんだもの……。

 おまけに、ゲルダさんやノーラさんはまだしも、ドロテアさんまで全く二日酔いの気配がないのだから、恐ろしい。

 ちなみに私とキーラは、レモン水で割ったものをちびちびやってた、はず。

 とてもストレートでは無理、さすがに。


「いやぁ、同じペースで飲める人がこれだけいたら、ついついねぇ」

「ええ、いい酒の肴もありましたし」


 あっけらかんと言うノーラさんの後に付け加えながら、ドロテアさんがこちらをちらっと見た。

 いや待って、私食べられてないからね、エルマさん、そんな目で見ないで!


「まあ確かに、アーシャが寝てしまってからが一番盛り上がったな」

「まってゲルダさん、一体何の話をしてたんですか!?」


 怖い。私の知らないところで、寝てる私を前にどんな話をされたのか、凄く気になる。

 しかし、慌てふためく私を前に、ゲルダさんは何とも言えない笑みを見せて。


「アーシャ、あなたなら、世の中知らない方がいいこともある、ということはわかるだろう?」


 と返すばかりで教えてくれなかった。

 縋るようにノーラさん、ドロテアさんにも視線を向けるけど、同じような笑みで返されるばかり。

 最後の頼みの綱、とばかりにキーラを見れば。


「ごめん、アーシャ……私も、アーシャが寝た後すぐ寝ちゃって」


 と申し訳なさそうに肩を竦めた。

 ちくせう、最後の望みが断たれた……一体私は、何を言われてたんだろう……。


「まあまあ、別に悪口とかは言ってないからさ」


 う~む……ノーラさんが言うなら、きっとそうなんだろう。

 嘘を吐くような人じゃないし、吐けるような人じゃない。


「ええ、でも、とても有意義な時間でしたよ」


 ドロテアさんが満足そうな笑顔でそう頷く。

 ……なんだろう、とてもこう、気になる。ドロテアさんのその笑みの裏に、何かあるような気がしてしょうがない。

 でも多分、教えてくれないんだろうなぁ……。


「はいはい、楽しかったのはよくわかりましたから、注文してくださいな」


 と、エルマさんが注文を取りに来て、話は途切れたのだけど……。

 話の中身はわからなかったけど、知らない間に私の包囲網がさらに狭まったような状況にはなったんだろう、という予感がひしひしとしていた。

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