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襲撃の裏側

「という感じで、中々ええデータが揃ってきましたえ」


 得意げな顔で皆へと資料を配っていくナスティさん。

 途中、私に資料を渡すときに一瞬目が合えば、はにかむように上目遣いで微笑んでくる。

 うん、今のは多分、後で褒めてっていうアピールだな。可愛いから後でいっぱい良い子良い子してあげよう。


 などと私が不埒なことを考えるくらいに、部屋の中の空気は落ち着いて居た。

 勇者対策会議で使う、いつもの小部屋。

 そこには魔王様とグレース様をはじめ、ドロテアさん、ゲルダさん、ドミナス様、ノーラさん、キーラ、ナスティさんがいつものように集まっていた。

 ただし、そこにはもう一人、見慣れぬ中年男性が来ている。

 中年男性とは言うけれど、スラリと背が高く、蒼い髪をオールバックにして、その下には鋭い眼光が光る、中々のイケオジだ。

 というか、この雰囲気って……。


「あの、ところで陛下、こちらの方は……もしかして?」


 私がおずおずと尋ねると、魔王様はこっくりと頷いてくれた。


「うむ、前風竜王殿、つまりそなたの義父殿だな」

「やっぱり!?」

『ハハハ、人身に化ける魔術を使って参ったが、流石アーシャ殿、一目で見抜くか!』


 と、驚く私を見て、男性、つまりお義父様は豪快に笑って見せる。

 おおう……相変わらずびりびりと響く声だ……流石に竜の時に比べたら小さいけど。

 っていうか、あの巨体がこのサイズって……質量保存の法則はないんだな、この世界では。


 などとどこかずれた感心をしたりしつつ。

 私は更に気になったことを尋ねた。


「でも、どうして急にお義父様がいらっしゃったんですか?」

「うん、私も全く聞いてなかったんだが」


 実の娘であり現風竜王であるゲルダさんすら聞いてなかったらしい。

 二人して視線をお義父様に向ければ、それはもう楽しげに笑ってらっしゃる。


『うむ、此度の資料の中には、我が勇者と一戦交えた記録もあってな』

「何やってんですかお義父様!?」

「それこそ聞いて無いぞ親父殿!!」


 あっさりととんでもないことを言い出したお義父様に、私とゲルダさんは思わず声を上げた。

 けど、後驚いてるのはノーラさんとドミナス様くらい。

 苦笑してる魔王様にグレース様、ドロテアさんにナスティさんは知ってたんだろうな。

 そして驚愕する私とゲルダさんに、お義父様は悪戯が成功した、と言わんばかりの顔を向けてくる。


『言っておらんからな。うっかり口にすれば、ゲルダは腕ずくで止めようとしたであろうし、アーシャ殿は泣いてでも止めたでろう? 我は女の涙には弱いからなぁ』


 ……なんか可愛いこと言い出してるぞこの人。もしかしてお義母様の涙にはめっちゃ弱いのか。

 今度遊びに行ったときにでも、こっそりお義母様に聞いておこう……。

 いや、そんなほっこりしてる場合じゃないのだ。


「いやいや、それは止めますって、そんな危ないこと!」


 あくまでもこの調査は、大陸の魔物……つまり、魔王様の支配下になく、理性が弱い魔物との戦闘データを集める調査だったはずだ。

 こう言ってはなんだけど、返り討ちにあう可能性が極めて高いのだから。

 しかし、お義父様は得意げに笑っている。


『うむ、しかしこうして戻ってきたであろう?』

「一つ言うておくが、妾は止めたからの? 彼が言い出して、論破された故に止められなんだ」

「え、陛下を論破って……」


 ぼやくような魔王様の言葉に、私は思わず絶句してしまう。

 真面目な議論で魔王様相手に勝てる自信は、私はあんまりない。

 なのに、お義父様は論破してのけた、とは。


『何しろ、此度の調査ではあちらの魔物のみ、それも低級で接近戦主体の連中ばかりときた。

 これでは、陛下を始めとするこちらの主戦力との比較において不十分であるのも間違いなかろう?』

「それは……確かに、そうですけども」

『そこで、我だ。竜王をゲルダに譲って大きな責任のない楽隠居。

 おまけに大陸までひとっ飛びで行ける翼を持ち、遠距離からの高威力攻撃も可能で、回避能力と耐久力を兼ね備えて生還能力も高い、となれば此度の攻撃役に適任であろう』

「……確かに反論はできないですけども……おまけにこうしてちゃんと生きて戻ってきてくれてるから、なおさら……」


 ぐうの音もでない私に、横合いから追い打ちがかかる。


「ついでに言えば、超高高度を超高速で飛行するから、人間の魔術師に感知された可能性はほぼないと事前に彼に教えている。

 勇者との戦闘は感知されたかも知れないけど、少なくともこの国から飛来した、とはバレてないはず」

「ということは、外交的な問題というか、こっちの侵略行為と思われる可能性もない、と」


 ……うん、結果論も含むけど、確かにこれは文句の付けようがない。

 いや、勇者と接敵することになった、という部分だけはやっぱり、危険度高いから文句を言いたいのだけど。


『また、流石に近距離は危険と判断してな、約3kmの距離からブレスでの狙撃を行ったのだが』

「そんな距離からですか!?」


 これである。

 確か狙撃銃の射程が最大1kmとかそんなもんだったはず。

 対物ライフルっていうコンクリートの壁も打ち抜けるくらい火薬量の多いやつでも3kmいったかな?

 そんな距離での狙撃を行ったのだという。そんだけの距離があれば、普通は攻撃なんて届くわけもないのだけど。


「というか、よく当てられましたね……そもそもよく見えましたね」

『ん? ああ、人間ではあの距離は見えぬか。我やゲルダにとっては大したことではないぞ』


 スコープなしで当てられる、相手が見えるってどんな視力してるんだろう、ほんと……。

 そのおかげで助かった面もあるのだけど。


『そういえば、あの人間もあの距離で反応したな。いや、あれは先に神剣が気付いたのかも知れん。

 我のことが見えていない様子で、剣に導かれるように構えておった』


 そこで一旦言葉を切ると、お義父様は何故か急に笑い出した。


『これは私見だがな、我はあの勇者の性格を好ましいと思うた。

 諜報員のグラスランナー、ケーナと言ったか。彼女をかばうように前に出たからな。

 戦の場ではその本性が出る、という。それでああなのだから、恐らく心根はいい奴なのだろう』


 ここまでの調査で、多分そうなんだろうとは思っていた。

 けど、実際に矛を交えたお義父様が言うと、さらに説得力が増すなあ。


『また、さほど好戦的でもないようだ。あるいは、神剣に人格までは操られていない、というべきか。

 我が一度攻撃し、あちらから反撃があった。それを回避した後に追撃がなく、こちらを待ち受けているようであったから、恐らく敵は徹底的に潰す、というようなタイプではないのだろう』


 お義父様の言葉に、なるほど、と皆で頷く。

 ……う~……確かにこれだけの情報が今手に入ったのはありがたい。

 その身を危険に晒してくれたからこその情報であるのも事実。

 ここまでやってくれたら、文句はもう、どうあがいても付けられない。

 なんだかやり込められてしまった気がして、若干敗北感を感じてしまった……。

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