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本音と欺瞞と

「はぁ。ほいで、そない疲れてはりますの?」

「ええ、まあ……体力的には回復しているのに、精神的にはかなり疲れてます……」


 なんだかんだ、夜のドッタンバッタン大騒ぎを乗り越えた私は、一週間ぶりとかそれくらいにナスティさんと別案件で会ったんだけど、顔を見るなり心配された。

 自分では自覚がなかったけれど、表情がかなりやばかったらしい。

 

 正直、体力的には、ドミナス様のおかげで問題は無い。

 脳の機能だって回復させられている。

 ……うん、させられている。


 けれど、多分それだけでは回復しきれなかった何かがあるんだろうな……。

 微妙にそれも自覚しちゃっているのが、さらに問題なのだけども。


 そんな私を、ナスティさんは……なんだか優しげな目で見つけてくる。


「そうなんやね……うちのために、そこまで身体張ってくれて」


 ……そうか。確かに、ナスティさん視点で言えば、そうだ。

 ナスティさんを迎え入れるために色んな意味で身体を張った形なのだ、私は。

 いやまあ、多分世間一般的な意味での身体を張る、とは全然違うのだけども。

 でも、それでもナスティさんからしてみれば、好意的な反応になるのもわからなくもない。

 ……若干どころでなく、後ろめたい気持ちがあるけども。


「まあほら、身体を張るのは多分これからも同じですし……。

 多少のことなら、ドミナス様が治してくれますしね~……」


 治癒魔術を駆使すれば、身体は治る。

 なぜだか、シャカリキに上り坂を登る自転車野郎の姿が脳裏をかすめた。

 そんな幻覚にも似た何かを、頭を振って追いやる。


「アーシャせんせ。それ、最後の手段を日常的に使われてる、いう意味やあらしません?」

「あははははは、や、やだなぁ、そんあことあるわけないじゃないですかぁ」


 ナスティさんの問いかけに、自分でもわかるくらいあからさまな棒読みで返す。

 実際、少なくともこの一週間ばかりは、最終手段を毎日使われた。

 肉体的には疲労感がないはずなのに、精神的にはじわじわとじわじわと積み重ねられていく、ある意味で貴重な体験と言えなくも無い。

 だからって、また経験したいかと言われたら、断固としてNO! なのだけど。


「ほな、それは一応、そういうことにしておきましょ。

 後は……これからのこと、やね?」

「ですねぇ、ナスティさんを妻として迎えるわけですから、ちゃんと式も挙げたいですし」


 改めて口にすると、どうにも気恥ずかしい。

 2年ぶり2度目、の経験ではあるのだけど。……こう表現すると、酷いにも程があるな、私。

 いやまあ、多夫多妻制であるこの国では、決して犯罪ではないのだけれども。

 それはともかく、ちゃんと内実も形式も整えた形で迎えたい、というのが私の本音だ。

 平等に接するっていう意味でも、ね。


 だけど、言われた当のナスティさんは、乗り気では無いようだ。


「ん~……うちは、その……あんまし派手なんは遠慮したいなぁ、言うんが正直なところなんやけど」

「ありゃま。……ん~……ナスティさんの性格からしたら、わからないでもないですけどねぇ」


 正確に言えば、ナスティさんの抱えている負い目からしたら、だけど。

 あの夜から一週間とちょっと。

 たったそれだけで、今までナスティさんが抱えてきた後ろめたさが解消できるわけがない。

 呪い、までは言わないけど、ナスティさんに絡みついている鎖のようなそれを、何とか外していきたいな、とは思っているのだし。

 かと言って、無理強いが良くないのもわかっている。


「せやからうちは、地味なんでええんですよ。何なら、参列者は身内だけ、くらいで」

「なるほど。それは……まあ、わからなくもないです」


 実際、正直なことを言えば、むしろわかりすぎるくらいにわかる。

 私だって、最初の式はむしろ地味婚でやりたかった。基本的にオタクで引きこもりたいタイプだから。

 ……そこ、『え?』とか思い切り怪訝な表情しない。いや、ほんと前世ではそうだったんだって。

 今世、というか、この島に来てからは、大分違うけどさ……。


「でも実際問題として、私が今や、ドミナス様という王族を伴侶に迎えた、王族の外戚という立場がありまして……」

「ああ、おまけに風竜王であるゲルダはんの伴侶でもあるわけやし、ねぇ。そら、色々つきまといますわなぁ」


 私に言われて直ぐに理解したらしく、ナスティさんの表情に沈鬱なものが宿る。

 さらに言えば、急速に工業化近代化するこの島において、ぐんぐん発言力が増してきているドワーフの顔役であるノーラさんもいるし、魔王様の側近であるドロテアさんも居るし、工業化の中心人物の一人、歩く化学工場であるキーラだっている。

 これで、ひっそり地味婚をと言っても、参列者の調整なんかはやっぱり難航するだろう。


「ある程度規模を小さく出来た、としてもですよ。

 魔王様とグレース様が参列なさるのは、多分止められないです……ほぼ間違いなくノリノリで参列しようとするでしょうし」

「あ~……それはまあ、確かに……仕方ないことやねぇ」


 遠い目をしながら言った私の言葉に、ナスティさんが苦笑しながら頷いた。

 ……何だろう、結構複雑そうな感情が見えたぞ?

 これは、この場で追求すべきか、それとも後でとすべきか……。


 ……うん、後で、にしよう。

 今のナスティさんなら、言えることは全部言ってくれるはずだ。

 そのナスティさんが言わないのだ、多分今は、聞くべきじゃないのだろう。

 そういうのは、ゆっくり明かしていくのだっていいはずだ。

 まして、こういう特殊な形の結婚なら、ね。


「なので、それはもう仕方のないことと諦めまして。

 来賓は豪華に、でも人数は少なく、の方向性でいこうかと思ってるんですよ」

「せやね、うちもその路線に異議無しですわ」


 よ~し、ここまではこっちの想定範囲内だ。

 後は……。


「じゃあ、後は……衣装ですけど、こっちはちょっと凝りたいなって。

 今度採寸したいんですけど、時間の取れる日ありますか?」

「別に、ありきたりのでええんやけど……まあ、アーシャせんせがそう言うなら、お言葉に甘えましょ。うちの予定は……」


 と、納得したのか、あっさりとナスティさんは承諾してくれた。

 私はにこやかに、その予定の中で衣装担当からあらかじめ聞いていた予定とすりあわせ、日時を決めていく。

 一通りが終わって、ナスティさんはちょっと落ち着いたようなため息を零した。


 ふふふふ……気付いてない気付いてない。


 流石のナスティさんも、衣装担当がクリスで、その補助というか布を作ってくれるのがクラウディアさんだとは全く気付いていない。

 式自体は質素でも、ナスティさんはこれ以上なく着飾らせてやる! お金に糸目はつけない! 相変わらず気が遠くなるくらい頂いてるから!

 そんな、自信だか自虐だかよくわかんない高揚感を胸に、私は結婚式の準備を進めるのだった。

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[一言] ドッタンバッタン大騒ぎってけもフレかな…?
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