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夜が明けた、しかし

 そして、翌朝。

 さすがにこの状況で、何かはなかった。

 なかった、のだけど。


「ん~……? やっぱり、こんな感じ、かぁ……」


 目を覚ました私は、小さく呟く。

 キーラとドミナス様は相変わらずしっかり私に抱きついている。

 ドロテアさんはドミナス様の背後から覆うように抱きついている……のだが。

 その足がさらっと、私の足に絡んできていた。

 それどころか、太ももが割りとこう、私の足の間に割り込んできている感じで……これ、絶対色々狙ってるよね!?


 意識したら色々まずいことなりそうだったので、私は目をそらした。

 すると、その先にいるのはノーラさん。

 私の左太ももをちょうど枕にするような感じで寝ている。

 そっかあ、そこに収まったかぁ、と思っていると。


「おはよう、アーシャ」


 と、他の人を起こさないようにか、抑えた声がかかった。


「おはようございます、ゲルダさん」


 私も、同じく抑えた声で、ベッドの傍に立っているゲルダさんに返した。

 さすが早起きのゲルダさん、あれだけ飲んだ翌朝というのにもう起きていたみたいだ。


「昨夜は大分飲んでいたが、頭痛などは大丈夫か?」

「あ、大丈夫ですよ。……昨夜は途中から、こっそりオレンジ果汁だけにしてましたし」


 なんて得意げに言いながら、ぱちんと片目をつぶってみせた。

 ……ベッドに横たわって、みんなにしがみつかれてる格好じゃカッコつかないけど。

 だけどゲルダさんは馬鹿にすることもなく、くすっと笑ってくれた。


「なるほど、さすがアーシャだな。

 ドロテアが酒を作っていたら、こうはいかなかった」

「あ~……どうなんでしょうね。

 潰しちゃう勢いできたか……でもドロテアさんだったら、ぎりぎり二日酔いにならないところを狙ってくる可能性の方が高い気がします」


 何しろあれだけ計算高い(褒め言葉)ドロテアさんだ、私が翌朝体調不良になるようなことを許すだろうか。

 夜の襲撃が仮に上手くいったとして、翌朝二日酔いで私が死にそうになることを看過しない気がする。

 むしろ、ちょっと気だるくて『ベッドから出たくな~い』なところを狙ってくるくらいはしてもおかしくない。


 と、私が解説までつけると、ゲルダさんは口元を押さえて笑いを堪えていた。


「く、くく……確かに、その方がドロテアらしい……付き合いの長い私よりもよほどわかってるじゃないか」

「いやいや、ほんとにそうするかはわかりませんし……私から見たドロテアさんとゲルダさんから見たドロテアさんって、また違うと思いますし」


 からかうような言葉に、私はあわてて手を振る。

 実際、まだ数ヶ月だけの付き合いなんだ、わかったような口を利くのもどうだろうと思うし。

 でもまあ、ゲルダさんに『らしい』って言われたのはちょっと嬉しい。的外れじゃなかったってことだし。


「まあ、それはそうだが……違うか正解か、そこで狸寝入りをしている計算高い側近に確認したらどうだ?」


 と、ニヤニヤした顔で、ゲルダさんは視線を落とした。

 その視線の先には、もちろんドロテアさん……なんだけど。

 耳が赤いし、表情も、何かを堪えているような表情だった。


「自慢の鉄面皮も、アーシャの前では形無しだな」

「……うるさいですね、まさかあんな風に言われるだなんて思わないじゃないですか……」


 からかうようなゲルダさんの言葉に、珍しく拗ねたような口調でドロテアさんは返す。

 こういうドロテアさんもかわいいなぁ。

 しかし、ということは、私の想像自体はそこまで的外れではなかったらしい。


「アーシャの理解力と洞察力が高いのは今更だろう?」

「それはもちろんですし、昨夜も色々実感しましたけど……ああもう、調子が狂っちゃいます」

「あ、あはは……ごめんなさい……?」


 これは、謝るので正しいのだろうか、とも思うけども、一応謝っておこう。

 とか思ったら、小声でゲルダさんとやりあっていたドロテアさんが、こちらへと向き直った。

 じぃ、と恨みがましいというか、何かを訴えかけてくるような顔で。


「本当にアーシャのせいなんですからね?

 おかげで、体が妙にうずくし……後で手を貸してもらいますからね」

「待ってください、一体それはどういう類のうずきで、私の手を何に使うつもりですか」


 なんだか、すごく嫌な予感がした。

 向けてくる視線がこう、恨みがましくも妙に熱っぽく、どこかねっとりとしている。


「何って、決まってるじゃないですか。

 だめですよアーシャ、こんな、ドミナスに聞かれそうなところで、そんなこと言わせようだなんて」

「待ってください、私はそういうことを言わせることを目的としてたわけじゃなくてですね!?」

「いいんですアーシャ、あなたがそれを望むなら、私は今すぐにだってこの場で」

「ドロテア落ち着け、それ以上は流石に、まず私がもたない」


 ちょっと普段見ないような勢いで言い募るドロテアさんの頭を、ゲルダさんがぽん、と叩いた。

 ……軽く、のはず。そのまま、頭を撫でている……ようにも、鷲掴みで掴んでいるようにも見える。


「……すみませんゲルダ、落ち着きました。

 落ち着きましたから、一度手を離してもらえますか?」

「……とりあえず、力を緩めるだけはしてやろう」


 やっぱり掴んでたんかい!

 しかもドロテアさんがそんなお願いをするくらいに強く……どれだけの握力なんだろう……。

 考えてみれば、ゲルダさんの身体能力はとんでもないもの。握力だってきっと……。


 なんて思っていたら、もぞり、私の左足付近で動く気配。


「ありゃ、やっぱりしないのかい、残念残念」

「ノーラさん、何さらっと寝返り打ったように見せかけて、私の足を抱え込んでるんですか。

 おまけになんで左手が私の足の間に置かれてたり、両足で私の左足を固定してたりするんですか」

「いや、偶然だよ偶然。寝返り打ったら、たまたま、さ」


 ジト目で問いかける私に、へらりと軽い感じで答えるノーラさん。

 ゆ、油断も隙もありゃしない……。

 しかし、ドロテアさんには何か変な火がついちゃったみたいだし、ノーラさんは油断ならないし……。


 遠からず、百合()られる。


 なんとなく、私の脳裏にそんな言葉がよぎった。

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