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RE:DAYS6 -Another Happy End- 『ちゃんと、ヒーローだった』

RE:DAYS6を乗り越えた人達の話

【ゼロ視点】

 施設から出る前に、私達は一般フロアの連絡系統が生きていることに気付き、外の世界と連絡を取った。簡易的な電話だったが、使う分には問題がなくて助かった。やはり電気系統は生きていたし、連絡系統もちゃんと繋がっていたらしい。ただし、発信のみ。


 とりあえず記憶に残っている機関に連絡をしてみると、まずは上役の上役の上役の、という風に何度も何度も待たされ、たらい回しにされた。


――でもまぁ、このくらい待つなんて、どうって事は無いんだ。きっと。


 聞く所によれば、この施設は外からは開けようが無く、連絡も取れないままだったらしい。なのでこの施設からの連絡には大いに驚かれた。

「あの、フタミ博士が管理していたディジェネの人達で、いいんですよね?!」

 電話口では興奮した女性の声がした。名前は、失念してしまったが、とにかく何らかの組織の偉い人なのだということが分かった。

 

 簡単な説明を受ける。

 ノッカー化している人間の有無について、だがそれは一般フロアにいるという時点でそう多くは聞かれなかった。ノッカー化しているが自我を保っているフタミさんとヒナちゃんについては絶対に攻撃しないで欲しいという事を伝え、了承は貰った。

 不安は残るけれど、あの二人は殺そうとしても死なないくらいだ。人間相手だとしたら、銃弾の雨を受けながらでも説得しようとするだろう。


――そして、今からこの施設に迎えが来る。

 どうやらこの隔離施設は、日本の首都の近くに人工的に作られた小島に作られていて、怖い物好きの間では有名な観光名所にまでなっているらしかった。絶対に開かない数十年前の実験施設として、ツアーまで組まれているんだとか。ややむかっ腹が立ったが、どうやらこの偉い人は随分とこの施設について好ましく思っているらしいことが分かった。



 最後に、所長の生存を聞かれた。それに私が口ごもると、電話口の女性はショックを隠しきれないようだった。その反応に対して私が疑問をぶつけると、その女性はペラペラと私達の知らない事情を話し始める。


 事の真相は、こうだ。


 所長はどの世界に於いても、エボル現象への特効薬を作り出し、世に送っていた。そして、私達を目覚めさせ、実験は終了するはずだったのだ。だが、もう少しで私達が目覚めるというところで、石動(イスルギ)家が特効薬の特許や所有権について口を出し始める。


 そうして裏工作が始まり、所長の心が壊れていく。

 その後、石動家の裏工作や暗躍は何者かによって暴かれ、石動家は事実上権力を失い、所長は世間のヒーローになるのだが、その頃にはこの施設との連絡手段は途絶えていたというのだ。


――ほんの単純なすれ違い。

 

 悪人に虐げられる事に慣れていなかった善人の心の弱さが、三十年以上もの沈黙をこの施設に与えたのだ。尤も、所長がヒーローとして扱われたのは少しの間で、何十年も経てばエボル現象という言葉すら皆忘れてしまっている。


 けれどこの女性は、幼い頃にエボル現象を体験している世代だったという。ということはそこそこ歳は重ねているだろう。その割に妙に初対面の私に対してテンションが高いのは、やはり救われたという想いが強いのだろう。つまり、彼女は所長が救った人間なのだ。


 沢山の感謝を伝えられた後に、施設の外で待っていてくださいと言われ、私達は施設の外に出た。


 真っ青な青空が目に映る。

 空気を吸い込むと、不思議な味がしたが、それはただの錯覚なのだろう。


 全員の目に、涙が溜まっているのが見える。


 手を繋ぐ"二人"を見ながら、私は苦笑する。


 ナナミちゃんがはしゃいでいるのを、シズリさんが珍しく笑って見ている。


 ふと、ボロボロの銅像が目に映った。

 それは、私のよく知る、優しい所長の姿を模した銅像だった。


「ちゃんと、ヒーローだったじゃないですか」

 私は小さく呟いて、その台座の埃を払った。

 

 すれ違いと、思い違い。

 強さと、弱さ。

 善人と、悪人。

 ヒトと、ケモノ。

 イマと、イツカ。

 生きる事と、死ぬ事。

 希望と、絶望。

 そうして、自己犠牲をしてまで他人を助けようとする人、他人を犠牲にして上り詰めようとする人。


 色んな物を選んで、色んな物を組み合わせて、世界は回っている。

 私達が過ごしていた、同じような部屋と、冷たい廊下、死の匂いが充満していたあんな歪な世界でも、希望があったのだ。

 

 私達には絶望を与えていた所長ですら、本当の所では世界に希望を与えていたのだ。

 だからこそ、止められて良かった。

 所長が、世界のヒーローのまま、この施設での話が終わって良かった。


「ギリギリ、カッコつけられましたね。私達のお陰なんですから」

 所長に話しかけるように銅像に向けて言い放った後、私は銅像をポンと叩いて施設を振り返る。

 

 願わくば、あの中で待っている、私の大好きな二人が、いつか必ず、必ず希望に辿り着けますように。その為ならば、私はこの未来を、どんな事にだって使おう。勿論、狂ってしまわない範囲で。

 

 青い、青い空が広がっている。

 太陽がいやに眩しくて、我慢はしていたけれど、やっぱり少しだけ泣けてしまった。


 ヘリコプターの音がこちらに近づいて来る。

 きっと、私達の未来は、あの中から始まるんだ。

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