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RE:DAYS6 -7- 『お前も含めて、生き延びるんだからな』

 少しだけくすみ方や使用した感じは違えど、同じ刀は刀、その一撃の威力に遜色はない。ノッカーは問題無く"俺達のイスルギ"で斬り伏せられていく。

 俺のイスルギをフタミよりも長く使った時間はそう多くはないはずなのだが、俺の持つイスルギは俺と一緒に世界を股に掛けたからだろうか、どうしてか俺のイスルギの中央に入った緑の線は薄い。


 先程フタミに手渡した時は、単純にその緑の線を含めた刀身自体がくすんでいるようにも見えたが、よく見ると緑の線はほぼ見えないくらいに薄く、元々の青い刀身はそこまでくすんでもいないようだった。

 まるで九十三番目の世界ではナムの魂がその刀身に現れていたのかと思うくらいに、俺のイスルギは元の青い刀に戻りつつある。

 それはきっと、九十三番目のナムの遺志を俺は完遂出来たからなのだと、勝手に思う事にした。まだ薄く残っているのは、彼女もこの世界の遺志と、俺の意志を見届けたいのだと、信じてみる事にした。


――そういう希望を持っているヤツが、生き残るんだって、聞いたから。


 俺はフタミと阿吽の呼吸でノッカーを斬り伏せていく。

 お互いに、自分自身のタイミングというものは、理解している。

 だからこそ、俺達はぶつかり合う事が無い。というよりも、戦闘に関して言うならば片方が理解してそのタイミングをずらせばいいだけの話だ。

 だから俺は、今までの俺であればこうするだろうというタイミングをあえてずらしていく。そうやってノッカーを対処するように心がけると、自然と俺とフタミのバランスは取れていった。


 これも、もしかすると事前に必要になるであろう重要な確認だ。

 俺がいることによって、俺が本来の展開を変えることによって生じるイレギュラーに対処する為に、俺は俺と共に戦うということに慣れる必要があった。

 さっきの、ナナミとヒナを目的とした天敵が現れて共に対処するというような、俺が今まで見たことの無い組み合わせの中で戦うという事についてもそうだ。

 

 もう既に、九十四番目のこの施設では、俺の知らない事が起きはじめている。

 だからこそ、俺はフタミと肩を並べる必要もあるのだ。違う世界のクリアデータを持った、単なる一つの戦力として。

 何故ならば、この調子だと俺とフタミが同時に前に出るタイミングが、そう少なくない確率であるはずなのだ。


 そう思いながら、フタミの動きを確認しつつノッカーを斬り伏せていると、急にフタミが俺に話しかけてくる。

「なぁ、アンタは俺なんだろ? なら、なんで此処にいる。ヨミは……どうした?」

 フタミがノッカーを斬り伏せながら、俺に聞いてくる。

「そりゃまぁ、ヒーローになりたいからだよ」

 俺が気付いたばかりのその事実あえて言葉に出してみると、フタミは不思議そうな顔をして俺に問いかけた。

「ヒーロー? 誰のだよ。少なくとも、ヨミのヒーローにはなれたんだろ?」

 そりゃ、不思議だろうと思う。今の彼には分からない事だろうと思う。

 俺だって、さっきまでそんな事を言われてもピンと来なかっただろうから。

「なれたさ。でも……俺達のヒーローになれたら、良い。そう思って来たんだよ。まぁ主役は譲るけどな」

 世界の為のヒーローだなんてのは恐れ多い。それは、今から俺達が倒す所長がもう既に行っているのだから。


 俺は、俺の視界に映っていた人間を守れたら、それでいい。それだけでいい。

 思いを遂げられずに消えていった人達を救えたならば、それでいいのだ。

 

 だから、俺達のヒーローに、俺はなりたい。


 俺の言葉に、思わずフタミは吹き出す。

 自分に自分の考えを笑われるというのはどうにも納得出来なかったが、それもまた同個体とはいえ環境の変化による物なのだろうと考えると、俺はこのフタミという男の事をまた一人の男として見れる気がした。


「アンタ、俺とは違うな」

 ククッと笑いながら愉快そうに刀を振るうフタミの顔は心底愉快そうだった。

 彼もまた、俺という男を自分とは別の一人の人間だという認識に落とし込めたのだろう。


「お前も、九十三番目の世界のクリアデータを持ってたら、こうしてたさ」

「じゃあ、さながらお前はお助けキャラってヤツか。呼んでないけど……助かる」

 そして、きっと俺も、俺がいた九十三番目の世界にこんな男が来たら"アンタ"なんて呼びながら悪友面をしただろう。


 二人でノッカーを殲滅するのに、大した時間は必要無かった。

 だが、気付いた事は少なくない。自分の動きを客観的に見るなんて事は今まで出来る余裕も何も無かった。


 フタミが前へグイっと踏み出し、両手で持ったイスルギをノッカーへと振り降ろす。一撃一殺の攻撃、雑魚相手には両手持ちにする必要は無いが大型から盾持ち相手には両手で一々構え直す必要がある。

 それは面倒だ。何より咄嗟の出来事に対応出来ない。だから俺もずっとそうしてきた。

 彼はずっと両手でイスルギを握り、雑魚相手にも構わず大振りの一撃でなぎ倒している。


――だが、そこに毎回隙がある事も事実。

 それは、俺が自分を客観的に見ることが出来たからこその気付きだった。


 俺のように完全に果てのノッカーになってはいないにしろ、その身体の殆どがノッカーに近づいているフタミには、防御をするという気持ちが薄い。


 守るくらいならば、その一撃で押し切ってしまえという戦法なのだ。


 俺自身もそうだったから分かる。

 だが、今の彼は俺とは違い、死ぬ可能性がまだ残っているのだ。彼はヨミの銃弾だって、受けるわけにはいかない。


――だからこそ、俺がその隙間を埋める必要がある。

 

 三体同時にこちらに襲いかかってくるノッカーに対して、フタミはそれぞれの個を見ず、その三体をまとめて斬り伏せようとする。


 ギリギリまで近づいてくるノッカーを引きつけ放たれる横一文字。

 復活しないように分断していくのは、相手の無力化が済んでからで良いという判断なのだろう。


 二体のノッカーの胴体が半分になる。

 だが、三体の内の一体は、攻撃が甘い。

 その腕がフタミに迫る寸前で、俺が即座にイスルギを順手に持ち替えて思い切り最後の一体へ投げつける。斬るよりも投げられているようなイスルギは、ノッカーの脳天を貫き、壁へと張り付けにしたノッカーの手がぶらりと垂れ下がり、絶命を確認する。


「……フタミ。お前も含めて、生き延びるんだからな」

 俺はそう言いながら、壁に突き刺さったイスルギを引き抜きざまにノッカーの首を跳ね、四肢を落としていく。

「人よりもずっとノッカーに近くても、まだ人の部分は残ってる、まだ"お前"は死ねるんだからな」

 フタミは少しバツの悪そうな顔をしてから、何も言わず胴体を半分にしたノッカーの後始末を始めた。

 いくら待っても返事は無かったが、そのバツの悪そうな顔に免じて、これ以上は何も言わないことにした。


 何故なら、こう言われた時にフタミがどう思うかなんてことを、俺自身が知っているからだ。悔しいだろうが、仕方がないのだ。


「……アンタはどうなんだよ。死ねないんだろ?」

 だが、フタミからは恨み節や反論ではなく、俺への純粋な疑問が返ってきた。

「死ねても死ねない、だろ? 俺達はそういうヤツなんだよ。俺の事はまぁ……終わってから考えるさ」

 本当は、何も考えていなかった。というよりも、九十四番目のこの世界の後についての俺自身の身については、あまり強い希望を抱かないようにしていたのだ。


――希望は持つ時間は、希望を待つ時間は、まだ先だから。

 だからこれは、自己犠牲を防ぐ為に自己犠牲をする、皮肉な男の話。


 きっと、答えた俺はバツの悪そうな顔をしていたのだろう。

 だからフタミは、それ以上の追求をしてこなかった。


 今はいつかのことよりも、今を生きる事を思うべきなのだ。


『そんな事思ってる人から死んじゃうんですよー』

 あの子なら、こんなひねてしまった俺にこんな事を言うんだろうなと、その声がj本当に聞こえる日を小さく想いながら、俺はいい加減品切れらしい最後のノッカーを軽く斬り伏せ、処理を終える。


 これで、少なくとも現状を生きる為に必要な情報は、あらかた揃ったと考えて良いだろう。後は油断をしない事。

 対少数に対しては、フタミもしくは俺がこのパーティーの中で最強だろう。

 そうして、今回は対多数に於いても、ナナミやシズリがいる。命を懸けさせるわけにはいかないが、彼女達にも勿論生き残る為に頑張って貰わなければいけない。


――殺されず、生き延びる。

 単純なルールだ。

 この隔離施設が始まった時からの、単純で一番達成で難しいルールを守ればいい。


 残すは、所長。

 この世界での所長がどういった進化状況なのかは、分からない。ある程度同じ事が起きているとはいえ、食事まで一緒なんてことは無いだろう。そして、用意している罠やノッカーについても同様だ。


 俺はナナミとヒナを襲った"失敗作"について、九十三番目ではナナミが死んでいたからいなかったのだと判断したが、もしかすると元々存在していなかった可能性だってある。


 知らないことは、想像するしかない。

 そして、想像して、対策するしかない。

 想像に、怯えている場合ではないのだから。


 俺とフタミは、お互いに傷一つ無い事を確認してから、お互いのイスルギについた血液を払う。そして、三叉路の前にいた皆の元に戻ると、どこからともなく拍手が上がった。


「息ぴったりじゃないですか! さっき初めて会ったなんて思えないくらい!」

 そう言って手を叩くヨミに、何ともいえない顔で笑い返すフタミ。

 そんなヨミの言葉に、全員が苦笑しているのが分かった。


――そう、こういうところが好きだったんだよな。

 

「そりゃまぁ! 二人はムググ……」

 思わず余計な事を言おうとするナナミの口をヒナが塞ぐ。

「男同士の友情は育まれるのが早いんスよ! うんうん! 仲良しさんでいいッスよねー! って事で行きましょ! キューさん順番教えてくださいッスー」

 医療フロアに入った時に俺に編成に口出しされた事を覚えていたのだろう。

 根に持っていたという様子では無かったが、俺の顔を覗き込むようにして、ヒナは俺に指示を仰ぐ。純粋に期待されているのかもしれない、彼女にしては、珍しいように思えた。


 本来ならば、俺とフタミが一番前に出るべきだと考えていたが、少しだけ考えが変わった。

「ほぼ最初に言った事を同じだけど、俺だけが一番前に出る。二番目はナビゲート役のヒナと俺が取りこぼしたノッカーを倒すフタミで、三番目は人間組のヨミとゼロ、変わらず二人とも見慣れないノッカーが出た時には特に気を配ってくれ。そして四番目にナナミとシズリだ」

 改めて全員が生きて、しかも傷一つ無い状態で医療フロア立っているという事実に俺は喜びを隠せなかった俺は、少し興奮気味にまくし立てた。

 だが、その興奮は皆には伝わらなかったようで、それぞれが真剣に頷く。流石にこの興奮についてはナナミにも気付かれなかったようで「何故早口……」と呟かれていた。


「ん、妥当でしょうね。センス良いですよ。おに……キューさん」 

 シズリのお墨付きも貰い、俺は安心する。ヒナもその表情から問題は無さそうだ。

フタミは少し不満気にも見えたが、一緒に戦ったのもあってか俺の癖が理解出来ているのだろう。俺もまた、彼の癖が理解出来ているからこそ、彼を一つ後ろへと下げたのだから。


 とにかく、コンテナ部屋の制圧から三叉路の攻防については、イレギュラーはあれど終わった。シズリとの共闘が出来ていないのだけが少し心配だったが、彼女はオールラウンダーだ。だから余程の事が無い限り肩を並べた時にぶつけ合うなんて事はないはず、戦闘時も冷静で、時には冷酷さすら感じる。


 俺とヒナは放っておいてもまず死なないので前で良い。

 だがフタミについては前に置くのは少し危険だ、特に対多数に突っ込まれると後が怖い。これはさっきのフタミとの共闘で得た教訓でもある。俺も危なっかしい戦い方をしていたのだと、今更ながら少し後悔をした。

 もしかしたら、それが皆の覚悟を煽ったのかと思うと、少し心が痛んだが、終わった事だと、そんな悲しい想像は無理に頭からかき消した。


 ゼロとヨミは守る対象として常に警戒する。

 ナナミにはさっき大規模な武装使用もあったので、無茶をさせないように後方待機。シズリは状況に応じて行動を見守ってもらう。

 

 おそらくは、この布陣で進むのが良いはず。

 後は、これ以上のイレギュラーが起こらないのを祈るだけだ。

 

「じゃあ、行こう。皆、頼むぞ」

 いつのまにか指揮を取ってしまっていて、しゃしゃり出すぎたかと申し訳なく思いつつも、皆が生き延びる為なら何だっていい。


 こんな地獄は早く、終わらせてしまえ。

 そう思いながら、俺は医療フロアの奥へと先陣を切って駆け出した。

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