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RE:DAYS6 -4- 『絶対に、全員で』

 ナナミが俺の前を立ち去ってから、俺は唯一俺の元へ来ないまま、難しい顔をしているゼロの事が気になった。彼女はデバイスを見たまま難しい顔をしているが、時々俺の方を見ては、またデバイスの方に視線を落とす。

 どうやら、俺の存在の疑問をそのままにしている人間について、説明が必要なようだ。


――ただし、ヨミを除いて。

 

 最初にまとめて話しておけばよかったかもしれないが、順序があると思った。だからこそ俺そのものであるフタミと、事情を知っているであろうヒナ。そうしておそらく状況に感づいているシズリと、元からピンと来ていたであろうナナミ。

 だが、ヨミに知られるのは避けたかった。他人の空似を全員が言い通せば、彼女はきっと信じてくれるだろうと思う。こちらのヨミが気にすべきは、こちらのフタミだ。


 だが他のメンバーについては、俺をより人体兵器として、理性あるノッカーとして、使いやすく戦力に出来るように知っておいてもらうべきなのは間違いない。

 ヒナとシズリあたりは平気で俺ごと敵を撃ち抜いてくれるだろう。


 それも、ヨミについてはおそらく躊躇ってしまう。それに、もし俺が生命を落としでもしたら、必要以上に悲しませてしまう可能性もある。

 だからこそ、本来は全員に口止めをしたかったが、結局は全員空気の読める連中のようで、俺と交わした会話を誰かに他言している素振りは誰にも無かった。


 俺は、未だに難しい顔をしているゼロに近づいてみるが、それでも俺に気付かなかったので、俺から声をかけることにする。

「……不思議、だよな」

 俺のその声にゼロはビクっと身体を跳ねさせ、小さくジャンプをする。そして慌てて俺の目を見る彼女に、俺は言葉を続ける。

「話、いいか?」

 俺が慎重に話しかけると、ゼロはこちらにまで緊張が伝わるくらいに身体を硬くしながら、言葉は無いままにゆっくりと頷いた。

「じゃあ、向こうで、座りながら」

 そして、ゼロと連れ立って俺が居座っていた部屋の隅に行こうとすると、一瞬だけヒナの強い視線を後ろに感じた気がする。


 流石に"ゼロを連れて行く"という行為には抵抗があったかと思い、申し訳ない気持ちになるが、その気持ちもどこかの馬鹿の「ナンパしてるぞー!」というガヤにかき消されて終わった。

 バランサーなんて言っていたヤツの言葉とは思えないが、よく考えるとこれも実は彼女なりのバランス、もとい空気感調整なのでは……と考えたところでこれ以上ナナミの株を上げるのが癪だったので考えるのをやめた。


 俺は部屋の隅まで戻って壁にモタれて座る。後ろからついてきたゼロは、ストンと俺の目の前で背筋をピンと伸ばして正座をしていた。

「いやいや……そこまでかしこまらないでほしい……昨日の夜くらい近くなくてもいいから、隣でいいだろ?」

 流石に正座をするには痛いだろうに、だがその痛みも緊張で感じていないのだろう。俺はとりあえず隣に座る事を促す。

「えっ⁉ でもあの……いえっ、じゃあ、失礼します……」

 彼女はおずおずと俺の隣に座ると、足を崩した。

「えっと、貴方は……フタ」 

 少し緊張もとけてきたであろうゼロがそう言いかけたところで、俺はしょうがなく、本当にしょうがなくこの世界での自己紹介をする。

「キューさんだ。俺は、キューさん」

 これがゼロの疑問への解答。正答を遮ってまで何故自分を偽らなければいけないのか悲しくなったが、ゼロはそれでなんとか納得したようだった。

「は……はい……。それで、キューさんは、えっと……、その……」

 言葉を探すゼロからは疑問だらけで頭が追いついていないような印象を受ける。おそらくヒナからパラレルワールド行きの片道切符についての話はされていないのだろう。ヒナとゼロについては、直接説明しないとこれについてはどうしようもない。


 おそらくゼロは、なんだか知っている人とよく似ているし、目を見てデバイスを確認すると知っている人と全く同一の情報が出て、混乱したのだろう。

「確かに、俺は"キミ"が考えている人で、そのデバイスにも表示されている通りだ。 けれどまぁ、いわば世界が違う。アイツの特殊装置の一貫って説明すると、分かりやすいか?」

 そう言ってヒナの方に目をやると、ゼロはやっと納得したようで、表情がやっと少しだけ温和な物に変わった。

「それで……どうしてこちらに? 所長はどうなったんですか?」

 その質問は、少し答えづらい。このままじゃ、君も含めた殆どの人が死ぬからだよなんて、この子の前で言えるはずがない。

 だから、俺は答えを濁しつつ、本意を告げる。

「所長は、倒したよ。だけれど、後悔があったから、これは俺の我儘」

「我儘、ですか……」

 温和な表情も、少しだけ真剣な物に変わっていく。彼女だって馬鹿では無いのだ。何かが合ったことくらいは想像付くのだろう。

「ちなみにな、俺は所長が求めている両方を持ってる。アイツに渡さずには済んだけれど、この世界でも、そうしなきゃな」

 彼女は心配そうに俺の顔を見た後、不思議そうな顔をする。

「あれ……、でも、ということはキューさんは前の世界で私を……」

「貰ったんだ。それ以上は、内緒」 

 接吻の事など言えるわけがない。彼女は俺の返答に少し不満気な難しい顔をしつつも、何とか納得してくれたようだった。


 そして、釘を差すべきはこの子にもだ。

「あとは……、余計なお世話かもしれないが"キミ"は所長にとっての特別だろうけれど、アイツらにとっては、もっと良い意味で特別なんだ。それだけ、覚えておいてほしい」

 そう言うと、ゼロは自分の考えを見抜かれた事に気付かれたのだろう。

 彼女のいつもの癖が出そうになる、けれどいつもは愛おしさすら感じそうになる彼女のそれを、今回だけは制止した。

「苦笑して誤魔化すのも、今回はダメだからな」

 少し、厳しい言葉だったかもしれない。ゼロの苦笑は、その時々で色んな意味がある事に気付いていた。微笑ましい時、困った時、苦しい時、頑張る時、色んな時に、「あはは……」と笑う。


――死ぬ、間際ですらも。


 だからこそ、伝えるべくして伝えた。

 なるべく凄まないようにして言葉にした俺の想いを受けると、彼女は初めて見る表情を俺に見せた。


 一瞬、キョトンとしてから、少しだけいたずらっ子のような笑顔を見せたのだ。

 それは、苦笑とは程遠い、子供のような笑い方だった。

「あはは! バレちゃいましたかっ!」

 そんな事はとっくにバレていたけれど、その笑顔が懐かしくて、少しだけ愛おしかった。


 ヒナは、俺達のやり取りの一部始終を見ていたようで、最初は一瞬だけこちらに妬いているのであろう鋭い視線を送ってきていたが、もう既に笑っているゼロの姿を見ながら、ヒナも向こうの方で微笑んでいた。

 

 それにしても、ゼロの笑いは止まらない。 

「そんなおかしかったか?」

「だってそれ、所長が私に良く言ってて、そっくりだったんですもん。キューさんが知ってるワケないのに、それがあまりにもおかしくて……」

 そりゃ、親子だから似るだろうとは思うが、この子の笑いのツボはどこかおかしいことに、今更気付いた。


 どうにも、俺のせいで全体の空気を緩くしてしまった気がして、申し訳ない気持ちになったが、ここからは死地。


「とにかく、絶対に、自分を犠牲になんて考えるなよ。」

 俺はゼロにそう告げて立ち上がる。ゼロもまた俺の後についてくると、全員がホールの中央に集まった。


「じゃー……行きましょっか!」

 ゼロの大笑いなんていう珍しいシーンを見られて眼福だったのだろう。ややテンションの高いヒナが幸せなオーラを身体中から撒き散らしつつ、やや気の抜けた声で号令を取る。

 その後に、頬をパンッと叩いて、ヒナはその緩んだ顔を真剣な顔へ切り替えた。

「絶対に、全員死なない事」

 だが、続けて出たその言葉で、この場にいる全員の心が引き締まるのを感じた。


「とりあえず、私の部屋まで行きましょうか」

 シズリがそう言って、東フロアの自分の部屋の方へ歩き出す。それ以外の皆もそれぞれそれについて行った。


 俺は、ヒナの隣にさりげなくついて、この後の大きな分岐点の一つを説明する。

「一般フロアの手前のホールで、どでかいノッカーのが来るけどあいつはフェイク。所長は後ろでゼロを攫おうと狙ってる。とりあえず、俺の世界の展開はそれで悪化した」

 それを真剣な表情で聞いて、ヒナは俺に小さく「ん、了解ッス」と返す。


 そして、俺の前にいるフタミに、俺は少し大きな声を出して牽制する。

「フタミ! 間違っても所長の真似事はするなよ!」

 これはあえて、全員に聞こえるように伝えた。間に合うのならば、フタミだってすくいたいのだ。だったら、俺と同じ状態になってしまってはどうしようもない。

 

 此処から先は医療フロア、もしかしたら何かしらの対処方法が散らばっていてもおかしくはない。同じ世界に見えても、もう未来は変わっているのだから、可能性は大きく分岐しているはずだ。

「フタミは注射器も絶対に使うな。でも白を見つけたら誰でも良い、余裕があれば絶対に拾ってくれ。一本……出来れば二、三本」

 俺の時は余裕が無さすぎたが、もしかすると『光の白』がどこかしらで見つかる可能性もある。ヨミに一本、フタミに一本、そうしてヒナに一本あれば最高だ。俺については、二の次三の次だ。


 フタミの抑制についておそらく一番引き止めの効果があるのは冷静な時のゼロ辺りだろう。次にシズリあたりか。万が一『光の白』以外の注射器の類いを誰かが見つけてしまった場合、ヒナやナナミはむしろ使えと言ってもおかしくないし、ヨミなんかに使うなと言わせた日には逆にフタミは使ってしまいそうで怖いのだが、全員に伝えないのはフェアじゃないと思った。

 各々が、各々の事を想っている。


 だからこそ、誰もが誰もの暴走を止める可能性を、ばら撒いておくべきだ。

 それに、今の俺は何だか分からないけれど信用できそうな人という奇妙な立場を得ているから、尚更皆に伝えられる事は伝えておきたい。

「あ、あぁ。分かった……」

 少し困惑した様子でそう答えるフタミに、俺は手を上げて返事をする。


 全員がシズリの部屋に入ると、最後のミーティングが始まった。これについては、俺が経験した時より人が少し多いだけで、内容はそう変わらなかった。


 だが、パーティーの順番は少しだけ変わる。

 

 俺とフタミは最前線で敵を各個撃破。

 ヒナはその後ろ、二番目で俺とフタミの進行方向をナビゲート。といいつつある程度の道は俺ももう覚えてはいた。特に感覚の青でどでかいヤツの生体反応を見ていれば進むべき方向は分かる。

 ヨミとゼロの人間組は三番目に並ばせ、その後ろの四番目に人体改造組のナナミとシズリを並べる布陣。

 

 後ろを気にしろと先に言ったのは正解だったかもしれない。ナナミとシズリであれば、万が一、俺の知っているタイミング以外で、後ろから所長に狙われても対応出来るはずだ。

 

――大丈夫、あの時よりも、ずっと良い。


「それじゃ、投げるっスー」

 前よりかは空気が緩いが、それはまだ誰も死んでいないからだ。フタミが感覚の青を使い、外のノッカーの数を確認し、ヒナがヨミの作った手製の手榴弾を爆発させる。ここまでの流れは、同じ。俺はそれを黙って見守る。


 外で鳴り響く破裂音に、少しだけはしゃぐナナミを見る。


――この世界は、まだほんの少しだけ、幸せなのだ。


 けれど、文字通り、戦いの火蓋は切られた。

 まだ、まだ、幸せであれ。


――願わくば、この世界は最後まで、幸せであってくれ。

 

 そう強く想いながら、俺にとっては二度目の、そうして彼らにとっては初めての"最後の戦い"へのドアが開いた。

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