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RE:DAYS6 -1- 『皆を、助けに来た』

 光の先に足を踏み入れると、まずは数メートル先にいたフタミと目が合った。

 それもそうだろう、俺と同じく、彼にも感覚の青が走っているのだから、この異質な状況に気付かないわけがない。


 そして、彼が即座に放つ斬撃を、俺は片手に持ったイスルギで受け止めた。

「味方だ、話がしたい」

 俺が呟きながら、片手のイスルギの力を抜くと、フタミが放った斬撃がスルリと俺の肩へと突き刺さる。だが、痛み等は無い。

 傷など、俺にはもう何の関係もないのだ。だからこそ、その斬撃を受ける事によって信用してもらえないだろうかなんていう、安易な事を考えていた。

 

 この位で敵意の確認をしてもらえるなら、容易いのだが、そうもいかず、次の太刀が飛んでくる。流石に周りのメンバーは見に回っているみたいだった。

 だが、この九十四番目の世界のヒナが大きな声で「ストーーーーップ!」と叫ぶ。


 それにビクリとしたフタミは、俺から数歩下がり、彼は刀を構えたままに俺にズンズンと物怖じせず近づいてきたヒナに道を譲る。

「私と話せば一番早い、そうッスよね?」

 結局、どんな盤面であれ、一番肝が座っているのは彼女なのだろう。

「あぁ、本当に話が早くて、助かるよ。ヒナ」

 そう言ってから、俺は依然ヒナ以外の全員に警戒されたまま、この世界の仲間達から離れ、ヒナと話をする。

「お前は九十四で、俺は九十三。これで、分かるよな?」

 その言葉だけで、ヒナは改めて全てを理解したようだった。だが、珍しく彼女も流石に驚きを隠せないようで、ハッと口を覆う仕草が、何ともしてやったりな感じで、俺はククっと笑ってしまった。

 

 こんな笑い方、しなかったはずなのに、と思う。自分の精神面の変化に気づき始めてはいた。俺の中で混ざりあった沢山の遺伝子が、力と共に俺の心までをぐらつかせているようで、少し怖い。

 それでも、すべき事は、絶対に揺らがない。俺であるという事実は絶対に揺るがせない。

「呼ばれてないのに急に出てきてすまない。けれど、俺は……」

 そう言って、グルリとホールにいる連中に目を見る。


――皆、生きている。

 

 フタミはイスルギを構えたままこちらをジッと睨みつけている。

 ヨミはホルスターに手をかけながらも、困惑の表情を浮かべていた。

 ナナミはその両手を静かに地面に向けたまま、様子を伺っている。

 シズリは腰を屈めて、いつでも俺の喉元に飛びかかれるような姿勢を取っていた。

 ゼロはデバイスを持ったまま俺の目を見て、デバイスに目を落とした瞬間に一人で慌てていた。


 だが、事情を把握したらしいヒナだけは驚きの表情の後に、にへらと笑みを浮かべていた。

 

――だから、まだ間に合う。


「皆を、助けに来た」

 その言葉に、全員がざわめく。言葉より何より、俺の風貌が、まるで所長のようだったのが良くない。

 ある程度人間体にはなれても、急ごしらえの変化だったせいもあり、ところどころまだ慣れきっておらず、中々普通らしい見た目にする事が難しかった。顔はフタミを彷彿させてしまう。

 急に現れたこともそうだが、それも不安を煽っているのだと思った。

「なーんか格好つけてますけど、大丈夫ッスよ。この人は味方です。それもまぁ、ズルレベルの。だから、はいみなさん武装解除ッスよ~」

 なんと説明すべきかと思っていた所に、ヒナがフォローを入れてくれる。

 彼女自身が持っている武装、というよりも機能の一つなのだから、彼女が一番この状況について理解している事はやはり間違い無い。

「助かったよヒナ……それと、フタミ。まずは二人と話がしたい」

 俺は敵意が無い事を示す為に、手に持ったままのイスルギを地面に突き刺し、皆に声が聞こえないホールの端に二人を呼び寄せた。


「これまでの状況は、分かってる」

 俺がそう言うと、ヒナはニヤつきながら俺に返す

「そして、これからの状況も分かっている……って事ッスよね?」

「あぁ、だからそのために、来たんだ」

 フタミはキョトンとしているが、俺の顔をよく見て、やっと理解したらしい。

「お前は……俺なのか?」

 俺はフタミの言葉に頷く。俺と彼には戦闘力の大きな違いは無い。

 決定的に違うのは、俺はもう既に理性を持ったノッカーそのもので、彼はまだノッカーの力を持ってはいるが、ギリギリ人間だということだ。

 ゼロの遺伝子を取り込み、進化促進薬をその身に受けた俺はもはや、人には戻れない。だが、彼ならばまだ、人に戻る道が残されている。

「俺は、お前が全部を投げ捨てて、完全な化け物になった後の、俺だよ」

 その言葉に、フタミの身体が少し強ばるのが見えた。

「黒、使ったよな? それの、遠い、遠い向こう側、果てにいる」


 だからこそ、何とも言えない気分にはなるが、俺は彼をも救いたい。


「俺がいない場所で起きた事は分からない。だから、結果だけ先に伝える。これから、このまま行けば所長は倒せるだろうと思う。だけど生存者は……、俺とヒナ、そしてヨミの三人だけだ。白の薬液はヨミに使った」

 それがこの二人をこちらに呼び寄せた理由。ヨミを呼び寄せなかったのは、こちらのヨミであれ心配はかけたくなかったからだ。

 勿論、こちらのヨミが愛しているのは、こちらのフタミなのだが、それでも彼の為に、彼女に心配をかけたくなかった


 ヒナは少しだけショックを受けた表情をした後に、口を硬く結んで、俺の目を見た。それに対して、俺は小さく頷く。

「大丈夫、この世界じゃ、絶対に……」

「それでも、そっちじゃ……」

 不安気な声で呟くヒナは、おそらく俺の世界のゼロについても心を痛めているのだろう。

「ナナミとシズリは分からなくても、ゼロはちゃんと俺が看取った。あいつがいなきゃ、所長には勝てなかったから、精一杯、頑張ってくれたよ」

 俺の声にも、熱が籠もってしまっていたのだろう。ヒナは少しだけ目を擦ってから、改めて状況整理を続ける。

「こっちのフタミさんよりも強い理由、一応教えてもらっても?」

「あぁ、それもまぁ、必要だよな。察しているとは思うが、ゼロの耐性を引き継いでヨミに進化促進の銃弾を撃ってもらった。要は所長が目指し続けていた化け物が、今の俺だよ」

 ヒナもフタミもそれには納得したようで、俺はこれから起こる状況を続けて説明していく。

「これから起こるコンテナ部屋の奪還でまずナナミがやられる。次いでそれを見に行ったシズリも同じくやられる。相当の手練がコンテナ部屋に出るみたいだ。それとヒナ……ヨミの手製の手榴弾、見たか?」

 ヒナに聞くと、それはもう見せてもらった後のようで、頷く。

「それを医療フロアの入り口で使う事になるが、二つ目を使う事は無かったから必要無い。それを作りにシズリとヨミが共にヨミの部屋に戻り、戻ってきたのはヨミだけだった」

 ヒナは首を縦に振りながら納得しているようだが、フタミは少し不安そうな目で俺を見ていた。

「フタミ、心配は無いよ。お前はお前のやれる事をやればいいだけだ。俺はただ、お前らが全員生きていける未来が見たいから別の世界からやってきたお節介焼きだからな」

 その言葉には、フタミも納得したようだった。


――だってきっと、お前もそうするもんな。


 彼の強い眼差しからは、俺の覚悟を強く受け止めてくれたような、信頼のようなものを感じた。その顔が当たり前だがそっくりで、鏡を見ているようで奇妙な気持ちになる。 


「ただ、お節介を焼きに来てくれたのはいいものの、こう顔が似てるんじゃ何とも奇妙な感じだな……」

 フタミはそう言いながらヨミの元へと戻っていく、思っている事も同じで何だか笑えてしまった。流石"俺同士"といったところだろう。

 フタミはヨミと何やら話した後に、彼女のマントをイスルギで少しだけ切り落として持ってきた。

 

――あぁ、何とも妬ける。

 頭では分かっていながらも、思ってしまうのは仕方がない。

 それでも、二人が幸せになる以上の事を、俺は望めないし、望まない。

「コレで、口元でも隠せばマシじゃないか?」

 そう言われてフタミに渡された布で口元を覆い、首の後ろで縛ると、マスクを付けているような要領で、多少差別化が出来た気がした。

「見分けもついて、丁度良いか。という程、顔以外は似てないんだけどな」

 俺は元の世界――九十三番目の世界のヨミから腕に結んで貰った布を軽く掲げる。それを見たフタミは、何となく事情を察したようで、困ったように笑ってから、ヨミやナナミ達の元へと戻っていった。

 俺は俺なのだ。事情さえ理解出来れば、話の分からないヤツではない。俺の事は単なる協力者――お節介焼きとして、認識してくれたのだろう。


 ヒナは変わらず俺の前に残って、何やら考えた後に、俺をとんでもない名前で呼んだ。

「それで、キューさんはどうするんスか?」

 キューさん? きゅー、さん。九十と、三……。

区別はすべきだとは思ったが、流石に適当過ぎて、少し呆気にとられてしまう

「なぁヒナさん。それ、流石にあんまりじゃないか?」

 確かにこの世界でのフタミは彼で、俺自身彼の事をフタミを呼んではいるものの、もう少し何か無いものだろうかと考えてみたが、すぐには思いつきそうも無かった。

「まー、いいじゃないッスか。所長との決着は今日。だからどうせ今日だけ、でしょ?」

 そう笑うヒナは、やはり何処にいても相変わらずだった。


「ヒナって、緊張するとその『ッス』ってやつ忘れるよな」

 あんまりなあだ名を付けられた仕返しに少しだけイジってみると、ヒナは顔をポッと赤くして、こちらをじろりと見てから、笑った。

「みんなーー!! この突然沸いて出てきたキューさんって人が助けてくれるらしいッスー!! どんどんこき使ってくださいねー!!」

 勝てない、やはり彼女には勝てないのだ。

 そう思っていると、十二時を告げるチャイムが鳴った。 


 全員にではなく、ヒナとフタミにのみ緊張が走る。それに対して、俺はヒナに小声で問題を出す。

「ナナミの氷炎だけではコンテナ部屋に封じ込めるだけで倒しきれなかった。そしてシズリの爪撃や雷撃を以てしても、共倒れだったはずだ。この場合の適性メンバーは……」

 勝算が読めるシズリにも言うべきだったかもしれない。

 けれど、死の事実で動揺させるべきではないと思ったのだ。


 ヒナはにっこりと笑って、俺に指を差した。

 そして、そのまま指を彼女の笑顔に向ける。


「此処は、楽に死ねない同士で、ぶっ飛ばしてきましょ」

 その不敵な笑みから感じたのは、まだ俺が見たことの無い彼女の顔だった。

 名前をつけるならば、勝利を確信した笑み。

 

 それを見て、俺も布越しに小さく声を出してフッと笑った。

 此処から先に、敗北なんて、間違いなんて絶対に起こさせないと誓いながら。

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