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DAYS5 -AnotherSide1- 『だから、一緒になろっ!』

『DAYS5 -3-』にてヒナの部屋に飛び込んだゼロとヒナのやり取り

【ゼロ視点】


 ヒナちゃんと一緒に彼女の部屋に飛び込むと、ヒナちゃんはホッとしたように私の手を離す。少し強く握られていたのが痛かったけれど、逆にそれが心地よくすら感じた。

 彼女は、彼女のままだ。ちょっとだけ忙しなくて、あっけらかんとしている癖に、実はちょっぴり弱気な女の子。そんな彼女を、私は好ましく思っていた。


 不器用だけれど、真っ直ぐで、たとえその身体が人の域を越えてしまっていたとしても、私はこの子の事がとても好きだ。


「いいのかな。私達だけ戦いに加わらなくて」

 現状、私達の中で戦えるのはフタミさんとナナミちゃんだけだ。ヨミちゃんは銃弾があればノッカーに対しては強いけれど、銃弾を使い切ってはどうしようもない。フタミさんはだいぶ進化が進んでいるように見えた、おそらくは私達が後押しをしてしまっているのだろうと思い、胸が痛んだ。


 私の表情が曇っていたのだろう。部屋の外から聞こえる喧騒を耳にしながら、ヒナちゃんは心配するなと言わんばかりに笑う。

「大丈夫だよ。フタミくんはもう多分死ねないし。ナナミちゃんも簡単には死ねないと思う。強いていうなら、それぞれのパートナーちゃん達かな」

 ヒナちゃんは私の前では語尾に"ッス"を使わない。だからこれは、私だけの特権だ。


 といっても、私が周りに溶け込めるようにと口添えした結果の、何とも言えない語尾ではあるのだけれど、健気に私の言うことを守って周りに『◯◯ッス』なんていうヒナちゃんも可愛らしいし、気を抜いて普通に話しかけてくれるヒナちゃんも可愛らしい。


 私は決して同性愛者ではないけれど、ヒナちゃんからはどうしてか庇護愛のようなものをそそらえれてしまう。恋では無いけれど、きっと一種の愛ではあるんだろうと思う。教えこんでしまった『◯◯ッス』については少しだけ反省しているから、いつかごめんねって言おう、いつか。


 そんな風に思っていても、単純な強さで言えば圧倒的にヒナちゃんの方に軍配が上がるというのに、なんだか私はこの子の前だと強気というか、お姉さんぶってしまう。

「それで、ヒナちゃん……どうしよっか?」

 ヒナちゃんの部屋に鎮座している大型のベッドと其の周りを取り囲んでいる機械。それは、明らかに人体改造を施す為の装置だった。見たことはある、知ってもいる。

 

 ナナミちゃんの部屋にあるのもこの装置と似た物だったはず。見たこと自体は無いし、どちらがより精巧な物かは、分からないけれど。

「とりあえず、この施設のシステム系統を全部こっちのもんにしましょ」

 ヒナちゃんはカタカタとパソコンへと向かう。だがその表記の殆どはザラツイていてアクセス出来ないようだった。

「流石に制限がかかっているんじゃ……」

 そう言うと、彼女はパソコンの横に目をやった。丁度手を丸ごと入れられるようになっている。どうぞと言わんばかりに差し出されたソレに、私は手を入れると、パソコンの画面がパッと綺麗になる。


――そっか、管理者権限。

 私の手に施されているのは、所長と同等の力だ。だからこそ、私を鍵として、彼女はこの施設を掌握出来る。所長が動き回っている今ならば、尚更だ。


「これで、コイツも思い切り使える。勝ちましょ……今度こそ」

 ヒナちゃんはニッカリと笑いながら、もう半分の私の手を取った。

「一人じゃダメかもしんないから、はんぶんこ。それに、ゼロ……ちゃんにもちょっとだけ人をやめてもらおっかなって……」

  きっと、私の本名を言いたいのだろう。だけれど、それを我慢して、私をゼロと呼ぶのが歯がゆかった。

 「水臭いなぁヒナちゃんは、私だって覚悟は出来てるよ。今、私達に一番大事なのは、あの人を止めること」

 今、この施設の外がどうなっているのかは全く分からない。けれど五十年も経っているのだ。

「もしかしたら、外はもうとっくに平和なのかもしれないしね」

 もし希望を多めに考えるとしたならば、この施設だけが完全隔離されていて、この施設の外は最早エボル現象なんて過去のものになってしまった平和な世界なのかもしれない。

だとするなら、私達だけがハズレクジを引いている。

私達だけの戦いになっている可能性だって、あるのだ。

「ほーんと、損な役回りッスよね。でもま、外がどうなってるかも、これから分かるよ」

 時々"ッス"が出るヒナちゃんに少しだけ和みながら、ヒナちゃんが操作するコンピュータのモニタを覗き込む。

「私の書き換え権限、そうしてゼロちゃんの管理者権限。二つ揃ってやっと私達の手は武器になる」

 ヒナちゃんが嬉しそうに説明していた。


――私も、とうとう人間をやめるのかぁ

 あんまり実感は沸かなかった。それくらい、人間をやめてしまった人たちを見てきたからだ。だけれど、彼女の言う人体実験は、ノッカーになるための物ではない。

 ヒナちゃんはノッカー化の特殊例として実験対象にはなったけれど、私の場合はナナミちゃんのように身体中に武器を仕込む、アンドロイドのような物になるはずだ。


 だったら、私の頭に一つの考えが浮かんだ。

「ねえヒナちゃん。私達の手は二つ揃ってやっと武器になるって、今言ってたよね?」


 書き換える力が、彼女の両手にある。

 管理者の力が、私の両手にある。


「ん? そうッスね。それぞれ片方だけだと出来る事は限られるけれど、二つ揃えたら途端にやれる事は増えるよ。所長には何も出来ないにせよ、武器にはなると思う」「ならさ、本当に私達の手、とっかえっこ出来ないかな?」

 その言葉に、ヒナちゃんは一瞬考える素振りをした後に、頷いた。

「あー、成る程……うん、悪くない。悪くないよゼロちゃん」

 要は、私の両手にある管理者権限と、ヒナちゃんの両手にある書き換え権限、それを片手ずつ取り替えて、どちらも書き換えと管理者権限を持とうという提案だった。


「悪いことは考えたくないよ。けれど、その方が、私達の"勝ち"の確率は上がると思うの。悔しいけど、いくら考えてもその上を行くのが、あの人だから」


――私達の"勝ち"

 それはすなわち、所長を滅殺し、この施設からノッカーという存在を外に漏らさないようにすることだ。考えたくない事ではあるけれど、これからどれだけの犠牲があったとしても、所長さえ倒してしまえば、私達は少なくとも私達だけの世界の救いの一端を担った事になる。


 本当は、そんな大業を成し遂げたいなんて想いは無い。

 私は生きていたい、幸せに生きていたい。けれど、此処まで辿り着けたのだから、負けるわけには、いかない。


「とにもかくにも、外の様子だよね……っと」

 話しながらもカタカタと止まらずにキーボードを叩くヒナちゃんの手が止まった。

「よっしゃ! ざまみろー! ディジェネのシステムいっただきー!」

 テンションが高いヒナちゃんに苦笑してしまう、こういうところはナナミちゃんとちょっと似ているんだよなあ。といっても、ヒナちゃんの方がちょっと男勝り? いや、確かナナミちゃんこそ元々男の子だったはずなんだけれど。

 最初は気付かなかったけれど、名前は良く覚えている。まさかあの人がまさかあんなはっちゃけた美少女になっているとは思いもしなかった。

 

 そんなことを思っていると、ヒナちゃんがため息混じりに外の様子を確認しているのに気付いた。

「あー……、あー……。あああああ!!!! ここ以外、全部大丈夫じゃないッスかあ!!! あのバカ所長。ディジェネは封鎖ってことにしてこの施設自体を隔離してるッス!」

 キーボードを強めに叩きながら、ヒナちゃんは大きめな独り言を続けている。感情の吐露と共に定着している"ッス"に私は少しだけ喜びを感じながら、それを密かに聞いていた。


――思った通りだ。 


 とどのつまり、この施設の外ではもうエボル現象なんて、過去の事なのだ。だけれど、所長が言う実験を終え、此処から出ていけばそうはいかなくなる。


 人の手では殺せない化け物が飛び出して、化け物を増やし続けてしまっては、この世は終わり。少なくとも、五十年前のエボル危機の再来以上の惨事になるのは間違い無い。


 私は、あの地獄のような世界を目にしている。義勇感に駆られているわけでは、ないのだと思う。あの地獄を見たからこそ、止めなくてはという意思が強く働いてしまうのかもしれない。

「じゃあ尚更、止めなきゃだね」

 その意思をストレートにヒナちゃんに伝えると、ヒナちゃんは笑いながら頷く。

「私、ゼロちゃんのそういうとこ好きだよ」

 真剣な表情に少し照れてしまい、顔をそむけるが、ヒナちゃんは言葉を続ける。

「だから、一緒になろっ!」

「一緒!?」

 何を言い出すかと思えば、ヒナちゃんは私の腕を引いて、人体改造用のベッドへと押し倒す。そして、ベッド横の装置を私を押し倒したまま操作すると、ベッドはグイングインと動き出して、私とヒナちゃんを装置の中に引き込んだ。


「えっ!? えっ!?」

 焦る私の手を取りながら、ヒナちゃんは吹き出した。

「だーから、手、とっかえっこするんでしょ?」


――あぁ……、そうだった。


 私は決して、同性愛者では無いはずなのだけれど、なんだろうこのドキドキは。きっと、必要以上に人間と触れ合うのに慣れていないだけだと思いながら、私は目を閉じる。


「ん、とっかえっことはいえ、指紋の情報を移し替えるだけだから。痛みは無いよ。でも一応、麻酔だけ打とうね」

 そうして、身体にチクっとした痛みが走ると共に、私は深い眠りへと誘われていく。

「あと……私にも……、ばーん……」

 そう言って眠りに落ちる刹那、ヒナちゃんは小さい声で私に謝っているのが聞こえた。

「だいじょうぶだよ」と返事をしようとしたが、叶わなかった。

 眠りに落ちるという事は、きっと、次目覚める時に、私はもうきっと。

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