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DAYS4 -1- 『イチャつくの禁止ー!』

 流石に自分も疲れていたのだろう。深すぎる睡眠に、嫌な夢はついて来なかったようだ。

「フタミさん、そろそろ」

 俺はそんなゼロの声に、あっという間に現実に戻される。 もう、三十分も経ったのか。そもそも、俺は眠っていたのだろうかと思うくらいだったが、いくらか頭はスッキリしていた。


「早いな」

 部屋を見渡すと、その部屋にはナム以外の全員が準備を整えてソファに座っていた。

「正確には、一時間です。ヨミちゃんが、どうしてもって」

 その言葉を聞いてヨミの方を見ると、こちらを向いていたであろうヨミがバッと前に向き直るのが見えた。

 その横顔が少しだけ赤い。


「モテますねぇ、フタミさん。ヨミちゃんったら、さっきまでずっとこのソフもがっ……」

 ゼロが笑いながら何かを言おうとした途端、目にも留まらぬ速さで駆け寄ってきたヨミに口を塞がれる。

「ゼロちゃん! そういうの、良くないですよ!」

 口を塞がれてパニックになっているゼロを気にもとめずに口を塞ぎ続ける。

 三秒、五秒、十秒。

「もう! もう!」

 と言いながら頭の上にプンプンなどという古風な擬音を飛ばしていそうなヨミは、その腕がゼロによってタップされていることに気付いていない。

 目をグルグル回しながら「もがふ、もが」と声にならない声を出し続けているゼロが少し可哀想になったので、俺は立ち上がってヨミの身体を持ち上げた。

「ヨミ、ストーップ。行く前に殺しちゃうぞ……」

「わああああ?!」

 俺に持ち上げられてヨミが思わずゼロから手を離した途端に、ゼロの肺にやっと空気が循環する。

「っぷはあ! ……死ぬかと思いました」

 少し申し訳なさそうな目つきと、少しジトっとした目つきがヨミに刺さる。

とはいえ、今のはゼロが少し意地悪だったような気が、しないでもないのだが。


「ごめんなさい……」

 ヨミは少しシュンとした後、改めてゼロの顔を覗き込み「ごめんね」と言うと、ゼロは苦笑しながら「いえいえ……、こちらこそ……」と言い、その後二人は顔を見合って、お互い何かに納得するように笑いあった。


「そこー! イチャつくの禁止ー! せめてナナミちゃんを中心にだなー!」

 ああもう、余計なヤツが会話に入ってきた。

 多めに眠らせてもらっておいてこんな事を思うのもなんだか気が引けたが、目覚めた以上は動き出さないと。そもそもナムの容態を考えての三十分という提案だったのだ。だがゼロがそれを許した以上、ある程度ならば余裕もあるという事なのかもしれない。


 嬉々として近づいて来るナナミを無視して、俺は次の目的についての会話を大きめの声で切り出す。

「で、確か医療フロアに行くグループと、部屋開きの対策をするグループで分かれるんだったよな?」

 ゼロの方を見ると頷き、彼女が何か言おうとした途端に、俺の後ろから声がする。

「偶然ではありますが、先程決めたグループ分けが一番生存の確率は高いかと」

 突然の聞き馴染みの無い声に驚き振り返ると、シズリがもう必要無いはずのリュックサックを背負って、俺の後ろに立っていた。


――その姿を見て、俺は本当に現実に引き戻されたような気がした。


 そうだ、俺はこの子の家族を。そう思って顔を顰めそうになった途端に、シズリがこちらにグッと近付いてきて、耳元で囁く。

「終わったことをいつまでも引き摺っている人は、嫌われてしまいますし、死んでしまいますからね?」

 それだって、引き摺っても仕方ないことくらい、あるはず。そうして、これは引き摺ってしまっても仕方のない事のはずなのだ。それでも、それでもこの子がそういうのなら、と俺は「ああ、分かった」と言い顔を引き締めた。


 それを見て、シズリは納得したのか、一歩後ろに下がって話を進める。


「私達は、医療フロアの内情を、情報的に知っています。現状については定かではありませんが、あちらにいる成れの……、ノッカーの強さはこちらの比ではありません。一体一体に注視して進むべきですから、そちらに人数を割くのが良いというわけですね」


「それに……」とシズリがヨミの方を見ると、ヨミはパッと顔を明るくして、銃弾を取り出してこちらに見せる。

「ここ! ここに! ちっちゃいスイッチがありました!」

 銃弾を見せてもらうと、弾頭の横の方に極小さなスライド式のスイッチが見えた。

分かっていても手探りくらいでは場所が分からないくらいの小ささ。

それに、爪を立てないとずらせないくらいの、小さな窪み。

 

「ヨミちゃんの専用武器は、銃では無く銃弾の方にあります。

 姉さんがディジェネのデータベースを参照してまとめていたので、私も全員分の固有武器を把握していますが、今の所私から言える武器へのアドバイスはこれくらいですね……。フタミさんの物は……」

「結果的に自我を失わないってんなら、何でもいい」

「なら、何も言わないでおきます」

 それにしても、ヨミの固有武器が他の人間の持つ大層な固有武器に比べて、ただの銃というのは見劣りがするような気もしていたが、まさか銃弾の方に秘密があったとは、意外だった。

「その銃弾の先にあるスライドスイッチを入れると、ノッカーの進化速度を急激に加速させて自己破壊を促す薬物が少量、火薬に押し出される弾頭に付着します。その急速進化には、ノッカーも、人間もまた耐えられませんから、くれぐれも誤射にはご注意を、そのスイッチというかギミックは、対人用と対ノッカー用を切り替える、安全装置みたいなものです」


 シズリが説明すると、ヨミがコクコクと頷いている。

「よろしい」っと言った感じで微笑んで話を終えるシズリを見て自分よりもずっと年下に見えるのにも関わらずこの施設の誰よりも大人びて見えた。


 シズリの説明が終わり、待っていたゼロが口を開く。

「では医療フロアに行くのは私、フタミさん、ヨミ"ちゃん"。

 部屋開きに対して準備するのはシズリさんと、ナナミ"さん"で」

「だからー!!!!」

 ヨミについては"ちゃん付け"が安定していたというのに、ナナミをうっかりさん付けした事でまた寝た子を起こしてしまった。

 ハッと気付いて申し訳なさそうに「あぁ! ごめんなさいナナミちゃん!」と頭を下げるゼロを横目に、今のこの、緊張感の無さに少しだけホッとする。

 

 いつも、こんな風なら良いのに。

 そう思いながら、ポケットの中の残り僅かになってしまった俺の武器を確認しながら、ナナミをたしなめる。

「ほら、後は頼んだぞ。ナナミ"ちゃん"」

「うーん、狙い過ぎですね、今お兄さんが言うのは……、ポイント入らないんで……」

 そりゃそうかと思いながら、思えばこの金髪碧眼美少女は恋愛としてどちらの性別を好きになるのだろうと考えたが、流石に今する話題ではないかと思って、苦笑しながら口を閉じた。


「部屋開きは一応、明日ということになっているはずですが。時間の概念もあやふやですし、その情報も何処まで正しいか分かりませんので、警戒をお願いします。場所は……、言うまでもありませんね」

 ゼロが後ろを振り向いて廊下の方を見ると、ナナミとシズリが頷く。

その部屋は、ゼロが目覚めた図書館の目の前にある、一番の部屋だった。

「大丈夫です。先程お兄様が眠っている間に、私達も準備は済ませてきましたので」

 シズリが言うと、ナナミが「ねー!」と笑う。シズリもよくよく見ると真面目な顔が多い為気がつかないが、可愛らしい顔立ちをしている。やはり、この元男の恋愛対象は……。いや、やめておこう……、見た目は、見た目は美少女なのだ。


「私達の部屋を通るかと思います。なので一応、コンピュータには、触らないでもらえると……」

 シズリが少し小さめの声で頼み事をしてくる。きっとそれは、ムクの……。そう思って暗い顔をしそうになるが、先程言われた言葉を思い出して顔には出さず、心だけで彼女達の冥福をもう一度祈った。

「あぁ、分かった。何も触らない、通るだけだよ」

 俺がそう言うと、シズリは柔らかく笑った。

なんだかんだ言っても、それでもきっと、愛があったのだろうと思いながら、俺はナナミとシズリが見ている廊下の先に目をやる。


 曲がり角の手前にある、数えて四番目の部屋。

「じゃあ、行こう。ヨミ、ゼロ」

 先陣を切って歩き出すと、彼女達が声を揃えて返事をしてついてくる。そういえば、俺がこの施設の廊下の先陣を切るのは初めてじゃなかろうか。

 この二人よりも、まだまだ弱いであろう俺が、それに武器も僅かな俺が、何故仕切ってしまったのか少しだけ後悔しながら歩いていると、あっという間にシズリ達の生活していた部屋の前に着き、先陣をゼロに渡すことになった。


「俺じゃドア、開けられないんだったな……」

「あはは……」と言いながらゼロがドアノブに手をかけると、ドアの解錠音がする。

 それを見てヨミが「おおー……」と声を上げているのを横目に、俺はホールの方をチラリと見た。

 

 シズリが、こちらを見ている。その表情は分からない。 けれど、間違いなくこちらを見ているのが分かった。


――そりゃ怖いか、聖域だったんだもんな。


 俺は大丈夫という意味も込めて、ホールに向かってシズリにだけ分かるように小さく手を上げる。すると、シズリも俺のその動きと意図に気付いたようで、ホールにいるシズリの頭が縦に揺れたのが見えた。

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