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DAYS2 -AnotherSide1- 『お前なら、斬れるよな!』

『DAYS2 -4-』にて、二十三番とナナミがメインホールを出てからの出来事

【ナム視点】

 もはや意味不明な言葉を発しながらナナミは兄さんと共にホールから去っていく。

「ひゃあ、こんへなはほっひはんで、ふいへひへふだはい!」

 意訳すると「コンテナはこっち」という意味なのだが、そんな間抜けな声を出しながらにーさんを連れて意気揚々と出ていくナナミの声に、少しだけ笑ってしてしまった。しかし、私が笑ったのはその間抜けなやり取りよりも、新鮮味を帯びたそんなやり取りが起きているという久々の光景を見たからだ。


 いきなりの事で彼も困惑しているだろう、振り返ったなら困惑した目でこちらを見ているに違いない。けれどまぁ、ナナミと一緒なら大丈夫だ。私はソファに寝転んだままそんな意味を込めて、あえて振り返らずに、手を上げて私なりの見送りをした。

「行っちゃいましたねー……」

「でもまぁ、ナナミがいたら大丈夫だと思うよ」

 あいつ――ナナミの固有武器は、今の所アタシが見た中で最強だ。固有武器は本当に多種多様で、いつまでも燃料の切れない火炎放射器のような物を持っているヤツもいた。空気に触れた数秒後に氷になるような液体を噴射する巨大な水鉄砲を持っているヤツもいた。壁を軽くへこます程度の衝撃を放つフィストを持っているヤツもいたし、雷撃を放つロッドを持っているヤツもいた。


――それでも皆"いる"ではなく"いた"のだ。


 今いる私達、その中では私の『青刀・秋刀魚』も間違いなく固有武器としては強い部類だ。ノッカーを切る以外の用途を見つけられない程に切れ味が鋭く、そもそもこの施設に入るまで金属製の刀なんてのは模造刀でしか見たことが無かった。そして剣道を元々嗜んでいた私の為に渡されたかと思う程に、この刀はアタシにとって適正の高い固有武器だった。だから私は生き残ってきて、未だに此処に"いる"のだ。とはいえこの前のコンテナ部屋のノッカーには文字通り歯が、刃が立たなかったわけだが。

 

 そんな適正のある武器と与えられた私と比べて、ヨミの固有武器は正直に言うとノッカーに与えるダメージとしては基本的に頼り無い物ではあったし使いづらそうな印象を持った。真剣を振るい慣れている人間もそういないだろうし、私も最初はその重み等に戸惑いはしたが、それ以上に銃を撃ち慣れている人間が日本国にどれだけいるだろうという話だ。太刀筋のいろはがある剣道に比べて、精巧なエアガンやガスガンを好んでいた人としても実銃となれば話が変わってくる。それに加えてヨミは構造のいろはから始める程の初心者だった。


 ただ、それでも遠距離射撃という攻撃行動はその扱いに慣れて、誤射さえしなければバディを組んだ時の確かなアドバンテージになった。起きた時期も近かったからか、私は好んでヨミとバディを組んでいたからこそ、彼女が銃に慣れるまでの血の滲むような努力を良く知っている。そうして、フタミのにーさんを助けた時のような単身の無茶に対しても痛い程よく知っていた、はずなのにこの体たらく。あの子はあくまで後方支援で輝く子なのだから、それだけはしっかりと伝え直さなければいけないなんて事を考えていた。

 

 ソファの上で寝転がっていたって下らない事や何も考えていないわけではない、だが前のソファに座っているヨミと目が合えば別だ。軽く笑って手を振ると、彼女は思い出したように頬を少し膨らませてこっちを見る。あれでも睨みを効かせているつもりなのだろう、それが本当に可愛い。

「どしたの? まだ怒ってる?」

「そりゃそうですよ! もう、あんなのビックリですよ! 殺しちゃう勢いだったじゃないですか!!」

 ジト目のヨミに、さっき私がにーさんに切りかかった事をもう一度ぶり返される。実を言うと今思い出しても、私自身どうしてあんな事をしたのか実は不思議な位だった。ヨミが関わっていたとしても、冷静な判断だって出来たはずだ、そこまで理解が無い私では無い事は自覚している。なのにあの時は怒りが抑えきれなかった。


 目覚めたばかりで右も左も分からないのに固有武器を使ってノッカーと対峙した人間に対して、戦闘に対しての不満をぶちまけるだなんて、思い返すと理不尽極まりない。それでも、その時の怒りは確かに本物だった。けれどあの時にはその怒り以外にも、何か彼に対して憎悪の種を撒かれたかのように怒りに支配されていた気がする。

人間に対してあそこまでの憎悪の感情を抱いた事なんて今まで無かったのに、どうして私はあんなに彼に対して敵意――殺意を持ったのだろう。


 ただ、そんなアタシの感情はとりあえず置いておいて、ヨミに嫌われるのだけは避けたい。

「ごめん、悪かったって。ねえヨミ、ごめんね」

 ヨミに嫌われるのは本当に怖いから、ちゃんと謝る。しっかりと謝る。望まれる限りずっと謝る。彼女は「二度目なんて絶対無いですからね!」なんて言ってソファに戻る。


 ヨミは私の天使だと言っても過言ではない。私は同性愛者というわけでは無いが、彼女がいなければ私はきっと早々に自害していただろうと思う。それが言い過ぎでは無いくらいに、彼女の前向きな生き方に救われた数年間だったのだ。


 彼女こそムードメーカーと呼ぶのが相応しいだろう。丁度良い距離感で、丁度良い安心感で、丁度良い言葉遣いで、丁度良い強さ。もうこの施設に生き残っているのはさっき起きたにーさんを含めて六人と、まだ部屋が空いてない寝坊助が二人だけだけれど、生きて"いた"人達もきっと、ヨミの暖かさに救われていただろうと思う。ヨミの膝の上で言葉をかけられながら死んだ人は何人かいるが、私も死ぬ日はそうでありたい、なんて言ったら彼女はきっと怒るのだろう。だからこそきっとヨミは今も生き残って"いる"


 考える事も悪く無いのだが、どうもモヤモヤして仕方がない事が増えた。戦いたいわけではない、戦闘狂なんて御免だ。だからこそ私は何となく目に入った廊下のその先、生存者として生き残っている双子の部屋の方を見た。


 にーさんの一つ前の生存者、その頃にはもう既にこの施設には目覚めて三年目の私とヨミ、そうしてナナミの三人しか生き残りがいなかったから正直あの双子が助かったのは有難かった。有難かったのだが、コミュニケーションが取れなすぎる。とはいえ、ホール前の廊下の罠を作ってくれるだけでも助かりはするのだけれど、それでも協調性は無い。ヨミはある程度コミュニケーションを取っているようだが、それでもそこまで良い結果は得られていないようだ。


「おにーさん、大丈夫かなぁ……」

 そんな事を考えていると、ヨミがソファに座って足をブラブラさせるなんていう年相応とは言えない少し幼い仕草をしながら、気の抜けた声でぼやく。

「ヨミは随分お気に入りだよねぇにーさんの事」

「なっ! いや! そんなことないですないです! でもまぁ……命救われちゃいましたしね……」

 赤い顔をしてブンブンと首を振る。その強い首の振りと一緒に彼女の頬にポニーテールが彼女の頬へとペチペチと当たっている。可愛い、でもその言葉は嘘、というより誤魔化しだ。救うのが心配の証、顔を赤くさせる理由になるのならば彼女の命くらい私は何度も救っている。


 まさかこれが彼女の恋の芽生えなのだろうかと思うと、また何とも言えない気持ちになったけれど、自分の為に体を張るというのがポイント高いのは私もまぁ分かりはする。

「私は強いからなあ」

「んん? どういうことです?」

「いーの、こっちの話だよ」

 首をかしげるヨミに笑いかけて、私は起き上がりソファへと深くモタれた。にーさんに切りかかってしまった事といい、コンテナ部屋の制圧に失敗した事といい、最近の私は気が抜けている。少し、気合を入れなきゃいけない。


 コンテナ部屋のノッカー制圧については、完全に持ち回りのルールを決めている。

今週は誰と誰、次の週は誰と誰。ここらへんをキッチリしておかなきゃ必ず不和が出るのだ。たとえ五人しかいないにしても、その辺りは重要だ。


 実際に三年の間に数え切れない程の不和を見てきた。初期なんてのはノッカーに殺されるよりも人間同士の争いの方が面倒だったくらいだ。だからこそ基本的には私とヨミか、私とナナミ、ヨミとナナミ、という三人でのローテーションに、定期的に引きこもりの双子が顔を出してくる形になっている。


 あの双子は二人きりでずっと部屋に引きこもっていて、コンテナ部屋の制圧後に食料を運ぶ為に部屋から一度出てきて、自室に運び込むと次のコンテナ開放までほぼ部屋から出てこない。言えば素直に制圧にも行ってくれるのだが、固有武器もよく分からない。制圧に出た時は必ず片方がノコギリのような武器を、そうしてもう片方は手ぶらだが小柄な人間であれば一人入れるかと思うくらいのリュックを背負って出ていく。

ホール前の廊下の罠を用意していたのが双子のうちのどちらかなのは確かなので、片方がノコギリってとは、もう片方のリュックの方が何かを作る系統の固有武器ってことなのだろう。そのリュックで自作の爆弾かなんか運んでいるのだろうか、全く分からない。彼女達についての詳しい事は全く分からないが、コンテナ部屋制圧から帰ってきた時にはいつも血まみれだ。それでも傷一つ負わずに帰ってきているところを見ると、どうやら彼女達の固有武器も中々強いらしい。

「にしてもさ。この前の盾持ち、悔しいなあ」

「んー? さんまちゃんが防がれた事ですか?」

「ん、私の刀は壁だって切れるのにさ」

 私の固有武器の『青刀・秋刀魚』でノッカーに大きな傷を負わせられなかったことは一度も無かった。そもそも、柄のスイッチを入れて振動で威力を増す必要も無いくらいに切れ味が良い刀なのだ。整備セットも使い切れない程部屋に置かれていたので刃が悪くなるという事もないだろう。けれどあの盾持ちノッカーは、柄のスイッチを押した高周波ブレード状態の私の一撃すら防いだ。盾と矛、相性こそあれど長期戦をするのは得策でないとして帰ってきたというわけだ。柔らかい部分もあったのだろうけれど、いかんせん実態が分からなければ用心すべきだ。


 三年経っても、未だに見たことの無いタイプがいることにも嫌気が差したが、私の刀でその生命を奪えない相手が現れた事に、悔しいという感情以上に不安を掻き立てられていた。


 コンテナ部屋のノッカー制圧については、無理はしないことを基本姿勢としている。倒せない量が出てきたなら一旦退却、何故ならコンテナ部屋のノッカー達は次のコンテナが来るまで、あの部屋から出て来た事が無いからだ。とはいえ、コンテナ部屋を丸々一周期分放置して次のコンテナの中身が補充された時には、新しいノッカーも補充されるわけで、今までコンテナ部屋にいたノッカー達は部屋外へと解き放たれる。

 

 私が目覚めてまだ間もなく、人間の数が何十人もいた時に内部抗争が起き、コンテナ部屋の制圧を一週間で済ませられない時があった。その時は部屋開きとも重なり十体近くのノッカーが施設内を彷徨っていて地獄絵図だったことを覚えている。しかしそのおかげで、それからは人間同士の抗争など殆ど起きなくなったのだけれど、というかそれで抗争を起こす程の元気がある人達がいなくなったというのが正しいのかもしれない。

「私の秋刀魚で切れないヤツ、始めてだったよね」

 ソファに座り鼻歌を歌いながら自分の拳銃の手入れをし始めたヨミに話しかける。

「んー……、私達以外が出会ってるってことは無いんですかね? 今度双子ちゃんとかに聞いてみましょうか?」

「いやー、あいつらはどうだろう……。そもそも言葉通じるの?」

「何言ってんですか! 通じますよぅ。しーちゃんもむーちゃんも、大人しいけどいい子ですよ?」

 少し引き気味の表情で突っ込まれた。大人しいよりもよそよそしいの間違いではないかと思ったがとりあえず彼女の言葉を待つ。そもそも、双子としか認識していなかったけれど、あいつらは四と六なのか。

「双子なのに四と六かぁ……」

「まぁ、丁度良いじゃないですか。四六だけに"丁"度良いなんて……ね!」

「私さぁ……、ヨミのそういうとこも好きだけどさぁ……、上手いかどうかと言われると上手いかもしれないけれどさぁ……、なんだかなぁ」

「っ!!」

 彼女が拳銃の手入れの為に抜いていた銃弾がバラバラと手から溢れる。それほどショックだったのだろうかと思ってヨミの顔を見ると、ショックどころの顔ではなかった。少し顔が青ざめているくらいだ。

「いやいや、でも私はそんなヨミも好きだよ?」

「じゃなくて! なむちゃん! 音! 部屋開き!」

 ヨミが慌てて銃弾を拾い集めて拳銃に込めている。


 ドン、ドンという音。


 この音は大型ノッカーのノック音、しかも、見える範囲まで迫ってきていた。

「っっんとーに、私は! なんで目の前にいて気付け無いのさ!」

 手に持ったままだった刀を握り直し、即座にソファから飛び上がる。鞘等いらない、視線を上げただけで目に移る距離にいたノッカーに向かって駆け出す。

「開けないでよ寝坊助ちゃん!」

 駆けながら、一瞬だけヨミの方を振り返ると、彼女はソファに膝を乗せ、背もたれには膝を乗せて、拳銃の撃鉄を起こし援護の体制を取っていた。


――そう、ヨミはそれでいい。

 

 彼女は援護してこそ輝く人間なのだ。精神的にも現実的にも。

「お前くらいなら、斬れるよな!」

 届く距離、扉が開くより刀が届く距離に来て、私は笑っていた。大型だったら昨日だって二体も斬ってる。アタシは手元のスイッチを押し込み、振動状態になった青刀を斜め右下から思い切り振り上げる。

「あれ?! 動かない?!」

 私の刀をより強くする為の振動が、私の手にちゃんと届かなかった事に焦りを覚えた時には、もう既に私の刀は振り下ろされていた。

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