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第8話 休息と安寧は仲良くない

木葉の素性がもう少し明らかになります。


 あれからもう少し木葉と話していると、流石に日が傾いてきた。

 近くにモンスターらしき姿も見えないが、ここで野宿というわけにはいかないだろう。


 それに、最初に木葉が俺を盗賊と勘違いしていたのも気になる。

 この近くにもし盗賊が出るとしたら、当然暗くなる前には街へ着いていた方が良い。


「そもそもお前はなんで俺のことを盗賊だと思ってたんだ?どう考えたって草原に寝っ転がる盗賊が居るとは思えないんだが。」

「いや……だな。実は私も盗賊は見たことが無いのだ。」

「は?」


 思わず口に出てしまったが、旅に出たばかりだと言うし、この辺りに出る、と噂を耳にしただけかもしれない。運良く出会わなかった、ということもあるだろう。

 

「あー……それは、アレか?噂を耳にしたが、運良く出会わなかった、とかそういう感じか?」

「いや、ここに出るという噂は特に無いぞ。」

「…………ん?」


 オイオイ、やっぱコイツそろそろ一発殴っても大丈夫かな?

 返答次第では流石に紳士な俺もキレちゃうかもよ?


「い、いや!そんなに怖い顔をしないでくれ!本当に申し訳ないとは思っている。旅に出ると盗賊というものに襲われるので気をつけろ、という話は里の者達から何度か聞いているんだ。」

「……それで?」

「当然、私とて葉隠家の一員。日頃より注意を怠ることはない。ただ、こんな場所に寝転がっている貴殿が居たので何事かと近付いてみれば突然起き上がり、有ろう事か一瞬で隠れた筈の私を見破るではないか。これは只者ではないと思ってだな…………」

「いや……あれで隠れてたつもりか?全身見えてたぞ、全身。そもそも草丈は隠れられる程高くないって見れば分からないか?」


 ここの草原は草原というだけあって確かに周り草だらけだが、草というより芝レベルだ。

 到底人間が一人隠れられる長さなど存在していない。


「ぐ…………し、しかしだな。仮にも私は隠密の葉隠。里で修行もしてきた。それなりに自信はあったのだ!里の者も旅に出ても問題ないと何度も太鼓判を押してくれたのだぞ!」


 要するに、プライドがあったわけか。そこまで言うなら尚更気になるな。

 もし仮に木葉が何らかのスキルを使って隠れていたのだとすれば、俺はそのスキルを見破った、ということになる。修行もしてきたと言ったしな。だが先程の俺の能力には"看破"系らしいスキルは無かった筈だ。

 【桜刀の神腕】にも流石にそこまでの効果は無さそうだった。


「そもそもさっきから隠密だとか葉隠だとか里だとか言うが、そんなに葉隠ってのは凄いのか?」

「なぬ!貴殿もヤマトの者ではないのか?それなら葉隠の名くらい聞いたことはあろう。先程、私の刀を難なく持っていたではないか。」

「あ~……まぁそれについては特殊な事情があるんだ。後で説明もしてやるから先にそっちを説明しろ。」

「む…………仕方あるまい。ならばとくと聞くが良い!我らが葉隠家の偉業を!」


 バッ!と立ち上がり、こちらに指を突きつけながら、その慎ましやかな胸を反らしつつ木葉は語り始めた。

 正座はもう良いのか?



*



 木葉に拠れば、葉隠家は由緒ある隠密の一族であるらしく、過去のモンスターの襲撃時も、最初にそのドラゴンの寝床を突き止めたのは葉隠家であるという。

 暗殺能力にも長け、木葉がそれほど重要視して語らなかった、人が斬ったり死んだりした時は、誰の側にも付かず、金を積まれればどんな人間でも立ち所に斬り捨てていたらしい。

 なんかまるで必殺◯事人みたいだな……。

 

 それから実力を認められ、今でこそ不知火家に仕える身となってはいるが、その技術は衰える事無く継承され続けているらしい。

 取り敢えず、聞く所に拠れば実力は本物のようだ。


「どうだ!葉隠家の凄さは理解できたか?ふふん!」


 木葉は語り終えて鼻息荒く仁王立ちをしている。

 そんな凄い自慢気に言われてもなぁ…………別にお前の功績じゃないんだぞ?


 半ば呆れ半分の目線で見ていると、それに気付いた木葉が不満げに言い出した。


「……なんだその目は。まるで『別にお前の功績じゃない』とでも言いたそうな目だな。」


 分かってるのかよ。


「確かに、これらは全て葉隠家が積み上げた素晴らしき有史の数々であり、決して私の功績ではない……だが!私もこれから大きな功績を成して里に帰るのだ!」


 あぁ……なんとなく掴めてきたぞ。


「つまり、その功績とやらがその犯人探しと復讐という訳か?」

「その通りだ!」

「でも、まだ犯人の目星すら付いていないんだろう?」

「ぐぅっ…………!」


 図星か……。


「じゃあお前はまだ大手を振ってヤマトには帰れない訳だな。」

「ぐぅ……そうだ!非常~~~~~にっ!不甲斐ない事ではあるが、ここ1ヶ月は何も進展がない……これでは不知火様にも里の者にも面目が立たない……。」


 先程とは一転してズゥン……と音がしそうな程落ち込む木葉。

 

「おかしい……里の者も、私ならばすぐに無法共を見つけ、成敗してくれると期待をかけてくれていたのに……ここまで何も進展が無い事など有り得るだろうか……?」


 半ば独り言気味に頭を抱える木葉に対し、先程から思っていた事を一言言ってやる。


「…………それはお前がポンコツなだけで厄介払いされた、とかは考えないのか?」

「何!?」


 木葉はガバッ!と起き上がり、そんな馬鹿なと言わんばかりにこちらを見る。


「こ、この私がポンコツだと……!?た、確かに貴殿には迷惑をかけたがそこまで言われる謂れは……!」

「いや、里の話だよ。修行の時とか何か言われなかったのか?」


 それを聞いて木葉は少し頭を悩ませる。


「む……確かに、私にはよく同級の仲間よりも注意が多かった気がする……。最初に私が"復讐に行く"と伝えた時も彼らは慌てふためいて止めてきたが、私が固い決意でそれを説得すれば、その後は何も言わないどころか、私が技の修練をする度に周りの者が褒め称えてくれたな……『お見事!』『完璧よ!木葉ちゃんならできるわ!』『これならきっと復讐も果たしてくれる!』『皆期待しているぞ!』…………あの時は最高の日々だった……。」

「…………。」


 悲しいことに、葉隠木葉は里随一のポンコツ認定だった。


 恐らく、木葉の頑固な性格ゆえだろう。

 木葉を説得できないと考えた里の人間らは、逆に木葉に出発当日までに自信を持たせる作戦に出たようだ。その自信によって、木葉の技がより精錬されれば良いと願いながら…………。

 奇しくもそれは逆効果に終わり、こうして自身をポンコツと自覚できないまま旅を続けているのだろう。

 なんと哀れな存在だろうか。


 里の者にも騙され、自身の力量も分からず、こうして永遠に果たせない復讐を心に刻んで旅を続けているのだ。

 お母さん、涙が出てきちゃうわ。


「な、なぜそんなに哀れな目で私を見る!」

「いや……な。お前も苦労してんだな……。」

「どういう意味なのだ!」


 だが俺は紳士なので絶対にそんな悲しい事実は言わない。

 ここで心が折れて廃人になってくれても困る。

 大丈夫だ、里の者よ。俺がこのポンコツを使いこなしてみせよう。

 俺の《 運 》は残念ながら1だが、逆に御し易い相手が居て幸運だと思う。

 …………まぁ使える範囲は限られそうだがな…………。 


 ポカポカと力なく俺の胸を叩く木葉を軽く往なしつつ、俺は密かな決意を心に刻んだ……。


「そうだなぁ……お前は里の者に喜んでもらいたいか?」

「と、当然だ。何を今更。」

「復讐も果たしたいんだな?」

「あ、当たり前だ!」

「じゃあ俺から一つ提案がある……聞くか?」

「提案だと……?」

「そうだ、俺への償いの提案だ。」

「……き、聞こうではないか。」

「よし、じゃあ俺は今からお前とお前の復讐を手伝って、里に大手を振って帰れるようにしてやる。その代わり、お前も俺にこの世界の事とかをもっと詳しく教えてもらう。ついでに、それなりに腕が立つようだから俺の用心棒にもなってもらおう。どうだ?俺もお前も目的を果たせるし、Win-Winじゃないか?」

「ウィ……だかが何だかは分からんが、これは私と里の者の復讐だ。お前が巻き込まれる事ではない。」


 む……意外と強情だな。少しハッタリだが、まぁ良いだろう。


「まぁ、俺も仮にも()()()()()だしな……()()()()()()()()()()()()が困ってるんなら、当然、助力しても良い。」


 途中を少し強調しつつ木葉に持ちかける。

 全く出鱈目だけどな。


「別にお前がど・う・し・て・も手伝って貰いたくないというなら構わないが……俺も多少は情がある。成果が出ずに手ぶらで里には戻りたくはないだろう?」

「むぅ…………。」

「俺の気まぐれと思ってくれて良い。だが、お前が俺にしたことを……そうだな、里にバラされたくはないだろう?」

「…………!!」


 その瞬間木葉の顔色が変わる。


「ひ、ひ卑怯だぞ!そんな……そんな事をされれば私への期待が……!」


 木葉は真っ青になって震え出した。うむ、どうやらいいポイントを付けたようだ。

 意外とプライドだけは高そうだもんな。典型的なくっころタイプと見たが間違っていなかったようだ。


「どうする?」

「ぐっ……最初から選択肢は無かったのだな…………ええい!良いだろう!だが、巻き込まれてどうなろうが」

「お前は用心棒としての役割も担っている。そんな出鱈目な約束をして良いのか?」


 出鱈目なのは俺だけどな。


「ぐ……!わ……分かった……しっかりと貴殿を守ろう…………。」

「それだけじゃない、ちゃんとこれからは答えられる範囲でいい。俺の疑問には答えるんだ。」

「あぁ……疑問にも答えよう……。」

「そして俺はお前の復讐を助ける。」

「本当に良いんだな…………?」

「ああ。俺からも是非頼む。」

「む…………」


 俺としても本当に可哀想だと思ってないわけじゃない。

 忠誠を誓った筈の主人に先立たれたら悔やみきれない思いは少しは分かるつもりだ。 

 まぁ、先立っちゃったのは俺なんだけどね。


 木葉は俺の差し出された右手を見て唸ったまま固まっている。

 …………もしや握手の文化が無いとかならやめてくれよ……と思ったが木葉は一度深呼吸をすると―――


「こちらからも、お願いしよう。」


 と、右手を握り返してきた。

 俺はニヤっと笑うと、少し言いたかった台詞を言ってみた。



「―――――契約―――――成立だ。」



*



 すっかり日も暮れた草原。

 目の前にある街明かりを目指しながら俺は隣を歩く木葉を見る。


 …………ふむ、喋らせなければどこからどう見ても一流の剣士だ。

 残念ではあるが、間違いなく十人に聞けば十人が美人とも答える容姿でもある。

 艷やかな黒髪。服越しにもわかる引き締まった体躯。整った顔。

 …………おっといかん、俺にはホワイトさんという心に決めた人が…………。


「……?どうした?顔に何か付いているか?」

「…………いや、訊きたいことがあってな。」


 これでも何故か今は普通に話せているが、元はコミュ力0のただのゲーマー。

 おいそれと某主人公みたく『綺麗だと思ってな……』なんて言えるわけがない。

 多分、その場合は『……?あぁ、確かに月が綺麗だな。』とかになるんだろう。

 …………今雲に隠れて月出てないけどな!


「なんだ、契約した仲ではないか。何なりと言ってみるがいい。」


 笑顔が眩しいぜ木葉さん。さっきあんなに渋ってた癖に~~。


「いや、金はあるのか、と思ってな。」

「あぁ、勿論だ。正直使い所にも困っていてな……。」


 すると木葉は懐からジャリッ!と音がするいかにも重そうな革袋を取り出した。

 スルリと紐を解いて中を見せてくれる。

 

 …………うわぁ、金ピカですけどいくら入ってんのこれ?

 異世界の金銭価値がどのくらいかは分からないが、かなりの金色率だ。しかもそれが革袋いっぱいに入っている。

 

「これだ。正直いくらかはわからんが、優しい人間に貰ってな。」

「…………優しい人間?」

「うむ。森の中で野宿していた時だ。朝起きたら私の周りで3人程倒れていてな。何事かと思ってその内の一人を起こしたら、その者は私を見るなり股間を押さえて、これを渡してきたんだ。」

「…………ほう?」

「顔が真っ青だったので、大丈夫かとは思ったが、声もかけれぬ内に他の倒れている者を担いで森の奥へ消えてしまったよ。アレは何だったんだろうな?……おい、顔が真っ青だぞ?」

「あ、あぁ、だ、大丈夫だ!ほら、街もすぐそこだぞ。は、早く宿を探さないとな!」

「……本当に大丈夫か?だが、確かにそれもそうだな。もう夜だ。早く見つけねばな。」


 俺は名も知れぬ山賊に心の中で手を合わせつつ、途中で起こさなくて大正解だった…………と自分の幸運を改めて噛み締めた。


 …………《 運 》1なんだけどな…………。


 




7話より長めです。

文章の丁度いい長さがわからない……。

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