第4話 世界は人間に救いを求める
カンリが矢刀を説得する回です。
「世界を救う…………?」
またもやいきなり規模がでかい話をされ、思考回路がオーバーヒート寸前だ。
むしろ、この超常と普通に会話してるだけで俺結構凄いんじゃないか?
「あっはっは!驚かせたかな?」
目の前で無邪気に笑う少年に、先程のような雰囲気は残っていない。
……騙された?
「そんなに疑わなくても良いじゃないか。ちょっとしたお遊びだよ。でも世界を救って欲しいのは本当だよ。」
「マジで……?」
「大マジだよ!確かに、元の世界でストラップ片手にちょっと運命感じちゃって人助けしたら思ってたより相手がヤバくて彼女の方はなんとか逃がせられたけど体ボロボロに使い果たして蹴り殺されちゃった挙げ句、突然訳もわからない空間だかに連れてこられていきなり世界を救えなんて言われても頭はだ~~いぶ混乱してしまうのはわかるけどさ?」
「…………。」
…………むっ。全部知ってるのか。
「そんなに気を悪くしないでよ~!むしろこれでも褒めてるんだよ?」
「どこがだよ!めっちゃ嫌味だろ!結構トラウマなんだぞ……?」
―――――そう。全てカンリの言った通りである。
俺があの時起こした過ちは2つ。
あの後、【WaH】の武器の【刀】の形をしていたストラップを見た俺は、もしや彼女こそが"ホワイト"さんなのではないか?とよくある神がかり的な運命をうっかり感じてしまった。
ここで俺は、
1.悲鳴を辿る
↓
2.絡まれてたら助ける
↓
3.ついでにストラップも返す
↓
4.彼女が"ホワイト"さんならHAPPY END
と、一連の流れを妄想した後で、声を辿って見に行けば確かにいかにも柄の悪そうな男2人に絡まれていた先程の女性を発見した。
さて、ここで俺は本来どうすれば良かったのか?
答えは簡単。"警察を呼ぶ"だ。
しかし、健全な男児たるもの、夢は見たくなってしまうものだ。
建物の陰に潜れつつ、事前の妄想イメトレをしていた俺は、冷静な判断など明後日に放り投げ―――――
なんと2人組の男へ向かって猛ダッシュ、思いっきりタックルをかましたのだ。
これが過ちその1である。
そして運が良かったのか悪かったのか、暗い路地裏での奇襲は見事に成功してしまい、男の片方は突然のタックルで体勢を崩し、もう一人の男も巻き込んで転倒したのだ。
まぁ、これが過ちその2。
彼らがただの柄の悪い男達ではなく―――――ヤクザだったということだ。
あろうことか、あの時俺は、転倒した男たちを傍目に、内心大歓喜しながら『俺、最強なんじゃね?』と思っていたりもした。
今すぐに殴り倒したい気分だ…………。
実際、しばらくは相手も追ってこなかったし、2人組がいきなり5人組になって追って来るまでは気付かなかったものだ。
俺は『嘘だろ……。』と現実逃避はしつつ、一応はしっかり【刀】ストラップも返しつつ、俺が囮になって、彼女を逃がすこともできた。
正直、俺が彼女に『俺が囮になるから、先に逃げて下さい!』と言った時の彼女の悲壮感漂う顔を見て『(あぁ、俺主人公してるわ……。)』と役得な気分に浸っていたのは良い思い出である。
…………もしかしたら"コイツ馬鹿なんじゃないか"と思っていた顔かもしれないが……。
それはさておき、若干心残りなのは、俺がチキンすぎて彼女が"ホワイト"さんであるかどうか確認出来なかった事だ。もしそうなら良いなぁとは思うが今では確認のしようもない。
俺は過去の情景を思い出しつつ、盛大にため息を吐いた。アホか。
「え~っと、心中はお察しするけど、勿論、世界を救ってくれたら君にもメリットはあるよ……?」
タイミングを見計らい、若干遠慮気味にカンリが話しかけてくる。
「…………どんな?」
「そうだね、例えば、君が世界を救う上でとても強くなったとしたら、その強さを上乗せして君の元いた世界に戻してあげる。ついでにまだ肉体が死ぬ少し前ぐらいまでなら時も戻してあげれるよ。」
「…………!!」
つまり、世界を救った時のステータスをそのまま反映させて元の世界に戻れるってことか!
「君は死なずに、華麗に彼女を助けることができたら、どうかな?」
「なる…………ほど。"力が欲しいか"ってそういう意味だったんだな。」
「そういうこと。理解してくれたかな?」
正直、かなり悪くない条件だ。結構未練は、ある。
この時点でかなり世界を救うことに乗り気ではあったが、同時に疑問に思うこともある。
「そう言えば世界に【管理者】は干渉出来ないんじゃないのか?時を戻すって―――」
「えっとね、世界の歪みは直った時に大きなエネルギーを放出するんだ。今まで不自然になっていた分の放出みたいなのが起こる。それを使えば、世界に"歪み"が起きない程度にはそういう事も出来るんだ。エネルギーはすぐ消えちゃうから、僕が持ってても使いようがないんだよねぇ……。」
世界のエネルギー、か。確かにすごそうだ。
「なるほど、もう一つ疑問なんだが、そもそもどうして世界を救うのは俺なんだ?俺みたいな弱い奴より、もっと強い魂はあるんじゃないのか?」
極論言っちゃえば、あの白スーツのオッサンとかな。俺より絶対強いし。
「まぁ、これに関しては個人の強さってより、魂の強さが関係しているんだ。」
「魂の強さ?」
「"世界の歪み"を直す時に、当然その世界に転移させるわけだけど、やっぱ魂自体が弱いと送る過程で消滅しちゃうんだ。」
「へ、へぇ…………消滅すると…………どうなるんだ?」
「さぁ?」
さ、さぁ?って、送られる俺は結構怖いわけなんだが!?
「安心してくれたまえよ。僕が君の魂は転移に耐えられる程強い、って判断したからここまで連れてきたんだ。そこは心配せずとも大丈夫だ。僕が保証しよう。」
カンリはエッヘン!と言わんばかりに腰に手を当てて胸を反らし、一人頷いている。
本当に大丈夫なのか余計不安になるのはなぜだろう…………。
「で、どうするんだい?世界、そろそろ救ってくれる気になったかな?」
「…………因みに断るとどうなるんだ?」
「他の死者の魂と同じように天界へ行くよ。その後は僕の領分じゃないから、あまり詳しくはわからないけど、記憶を消去されて"生物"としてどこかの世界で生まれ落ちるだろうね。」
……それって虫とかになる可能性もあるってことか。流石にそれは勘弁したい。それに、
「…………世界を救う……か。」
実際俺もそういうのに憧れはある。
「取・り・敢・え・ず!今回君に救って欲しい世界について説明するよ!よーく聞いておいてね!」
カンリは嬉々として説明してくれた。大分長かったが纏めるとこんな感じだろう。
●今回救って欲しいのは"武器の世界"である。
●それぞれの国が独自の武器を製作、発展させて国を拡張している。
●剣や魔法、銃といったもの等、様々な武器がある。
●その国で生まれた人間は、その国で作られた武器しか使えない。
●使える武器に関わる呪いは、生まれた時に体に現れる"紋章"が示す。
●"紋章"が現れる位置は人によって様々。
●今回直して欲しい"歪み"は、その"紋章"に関する物であるということ。
なんだか、聞けば聞くほど俺のやっていたMMORPG【Weapon and Heroes】にそっくりなような…………。
にしても"歪み"の内容がざっくりしているな?
「それはごめん。【管理者】でも、"歪み"がなんなのかは詳しくはよくわからないんだ。」
「何?それじゃあ直しようがないぞ?」
「でも"世界の歪み"だから、住む人間も本能的に察するんだろうね、聞き込みをしたりすれば『世界におかしな事が起きている……。』とか言ってすぐに分かると思うよ?」
なんか曖昧な物言いだなぁ…………。
「そう言えば、今まで聞いてなかったが"歪み"は放置するとどうなるんだ?」
「当然、その世界が壊れちゃうよね。」
「壊れる?」
「そうだね。」
「え?文字通り?」
「文字通り。」
「パキンって?」
「バゴーン、かな。」
「うわぁ…………。」
取り敢えず、直さないとヤバい事は理解できた。
そんなにヤバい事態になるなら、聞き込みなんてしなくても噂話とかで判別できそうだ。
コミュ力0だからどうしようかと思ったぜ…………。
「質問は大丈夫かな?そろそろ向こうの世界に送りたいわけだけど……君は使いたい武器とかってある?」
答えは決まっている。
「当然、刀だ。」
「"桜と刀の国ヤマト"って所で作ってる武器だね。じゃあ向こうに行ったらまずはそこを目指してみると良いよ。」
あるのか!余計に【WaH】っぽい世界だ…………だが、それさえあれば何も問題はない。
俺は桜木矢刀。刀好きの一人として、刀で―――――
「―――――世界、救おうじゃないか。」
「―――――契約―――――成立だ。」
カンリと握手を交わした瞬間、俺の視界は純白に包まれた。
遂に憧れの異世界へ!