第3話 現実は忽然と姿を消す
第3話です。少し急展開です。
―――――なんだ?俺は死んだのか?真っ暗だぞ?
『……が……し……かい……』
―――――いや、待て、死んだなら意識があるはずないよな……失明したのか……?
『……力が……し……かい……』
―――――まぁヤクザにあんな蹴られ方すりゃぁ失明ぐらいするか……。
『……力が……しいかい……』
―――――にしてもさっきから頭に響くこの声はなんだ?近くに誰かいるのか?
『……力が……しいかい……?』
―――――もっとハッキリ喋ってくれないか?よく聞き取れないんだ。
『……力が欲しいかい……?』
―――――力?力がなんだって?
『―――――力が、欲しいかい?』
―――――…………あぁ、欲しいさ。あったらあのヤロー共を是非叩き斬ってやりたいね!
『聞き届けた。その願い、僕も協力しよう。』
―――――は?
その声が聞こえた瞬間、暗闇だった視界が一瞬で閃光に塗りつぶされる。
「うわっ、まぶしっ!」
やがて閃光は収まり、目の前には純白の空間が現れた。
いや、空間なのかもよくわからない。
そもそも、
「え?俺の体は?」
そう、自分の体が存在していないのだ。
手も、足も、胴体も、顔……はあるのだろうか?
「そもそも手がないから確認出来ないけどな……。」
「手が欲しい?」
「え?」
「まぁ、君、人間だもんね。そのままだと不便だろうし、仮初で良ければ作ってあげる。少し待ってね。」
「え、は?誰…………うわっ!」
まるで脳裏に響くように聞き覚えのある声が聞こえたと思ったら突然自分の体が戻っていた。
手も、足も、胴体も、顔も、
「……ある。どういうことだ?というか誰なんだ?ここの事を知っているのか?」
そうして辺りを見回すと、純白だけだった空間に徐々に輪郭が現れ、色を帯び始める。
「な、なんだ?」
さっきから変なことばっかりだ。まるで理解が追いつかない。
半分思考を放棄してその場に立ち尽くしているうちに、空間は完全な景色となって出来上がっていた。
「日本じゃ……ない?」
見渡す限りの大草原である。爽やかな風が今にも吹いてきそうだが、何か不自然だ。
この場所には、まるで"生"を一切感じないというか…………。
「鋭い!お見事。まぁ仮初だからさ、そこは許してよ。ね?」
今度ははっきりした響きでいきなり後ろから話しかけられて驚いて振り向く。
「君は……。」
そこには真っ白なテーブルとイスが2つ。
その片方には…………なんと、子供……少年が座っており、こちらを見ながら満面の笑みでウィンクをしてくる。
あどけない顔立ちだが、その顔もどことなく人間らしさを感じない。
「まぁ、立ってるのも疲れるでしょ?イスはもう1つあるから座りなよ。」
促されて思わず座ってしまう。この時も少し違和感を感じる。
そして更にここでようやく思考回路がまともに起動し出した。
目の前の少年は相変わらずニコニコしているので少し冷静になって状況を整理してみる。
…………まさかだが。
「あー…………こういうベタな展開はよくラノベで読んだ…………。俺は死んだんだろう?」
「うんうん、理解が早くて助かるよ。でもねー、それは半分正解かな。」
「半分?」
「うん、半分。まず、難しい話は省いて説明するね。人間って死んじゃうと魂ごと消滅しちゃうんだけど、今君は魂が残っているんだ。」
「魂?」
「そう、魂。でも魂だけだから肉体は存在していないんだよ。試しに、手を強く握ってみてよ。」
「…………っ!」
ここで俺がさっき座る時に感じた違和感の正体がはっきりした。
感覚がないのだ。
「どう?理解してくれた?」
「仮初って…………」
「そういうこと。君の体は魂にインプットされていたのを復元しただけ。魂があるから会話はできるけど、まぁ強いて言うならそれもあくまで人間風の会話ってだけ。この空間も、僕の体も、君に合わせてさっき作ったものなんだ。さっき"生"を感じないって思ってたでしょ?それも同じことだよ。」
「…………まぁ、なんとなく理解した。ここが俺の理解を超えた超常の空間で、俺は肉体は死んだが、魂だけは何故かここに残って、君と会話をしてるわけか。」
「その通り!いやー!君を選んで正解だったね!たまたま死にかけてくれて助かっ……とと。ごめんごめん。こういう事を言うのは人間の中では"フキンシン"って言うんだっけ?この場合なら"ゴシュウショウサマ"?それもなんか違うような……。」
話が進まなくなりそうなので、一人でブツブツと考え始める目の前の少年を手で制してから続きを促す。
「あー大丈夫だ。まぁきっと今から俺が魂だけ残ってる理由とか、君の正体とか、俺をこれからどうするか、とか色々説明してくれるんだろう?」
「あっ!ごめんごめん。そうだね。まだ僕のことも説明してなかったよね。僕の名前は…………名前が無いから適当に"カンリ"って呼んで!」
「わかった。じゃあ説明続けて頼むよカンリ。」
「よし。じゃあまず、僕は世界の【管理者】なんだ。君たちの世界では"神"っていうのが一番近いかな?」
神……か。なんとなくそんな気はしていたが、なんだか改めて聞くと背筋が緊張するな……。
「ははっ、そんなに強張らなくても大丈夫だよ。逆に僕は君にお願いしなきゃいけない立場なんだ。」
「神が俺にお願い?」
「神が近い、というだけで別に君たちの世界で語られてる程の力は持ってないよ。【管理者】とは言えど、世界には深くは干渉できない。あと、僕のことはちゃんとカンリって呼んで。君に緊張されると僕も話がし辛いんだ。これもイレギュラーなことだからさ。」
「あぁ、悪い。続けてくれ。」
そこでカンリの雰囲気が少し変わる。顔を少し俯かせ、次に上げた時にはとても先程の無邪気な子供らしい雰囲気は微塵も無かった。
カンリは真っ直ぐ俺の目を見て言った。
「世界を一つ、救ってくれないか。」
主人公に世界を救って欲しいそうです。