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序章

作者: 竹甫 口耳

長編に挑戦しようと意気込んで書いてみたものの、途中で挫折して放置してたものです。

せっかく書いたので、どうせなら出せるとこまで出しとこうと思い立ちました。

なので、たぶん続きません。


もしよろしければ、私のつたない文章やストーリー構成について、ご意見いただければ幸いです。

といっても、短くて判断しようもないかもしれませんが。

午後5時半を回る時計。グラウンドから聞こえる野球部のかけ声。私と花子と加奈は、三人で教室の掃除をしていた。今日は6月20日。ほとんどの部活生徒達は夏の大会に向けて、部活の練習に勤しんでいた。加奈が(バット)を構えると、花子が私に目線を送ってきた。球種を決めるサインを要求している。

「ストレート。」

私は正拳突きでサインを送る。花子は首を横に降った。

「いやいや、ストレート!」

正拳のラッシュで捲し立てるが、花子は尚も首を横に振る。

「…じゃあ…カーブ?」

チョップ。チョップの仕草をしてみる。花子はまたも首を横に振る。これも違うのか。

「…ナックル?」

抉るように腕をしならせて拳をつき出してみる。花子は、大袈裟に頭を抱える仕草をして、さらに大きく首を横に振った。

「じゃぁ…スライダー?」

反復横跳びをしてみる。花子は掌で顔を隠して、あたかもグローブで顔を隠す投手の真似をして、じっと此方を見つめている。

「スライダー…スライダー…スライダー…」

花子は表情を崩さず、じっと此方を見つめている。

反復横跳びは十往復めに突入した。

「はぁはぁはぁ…ちょっとたんま。いや、タイムで…」

私は加奈の肩を叩いてタイムを宣言した。花子に駆け寄ってみる。

「いやハァハァ…いい加減に、ハァしてハァ、くれませんかねぇハァ…?」

「なんか、凄いハァハァ言ってるんやけど。怖いんやけど。」

私は含み笑いの花子をガンと睨み付けた。

「花ちゃん?いい加減にしとこう?な?」

花子は尚も含み笑いで答えた。

「ゴメンごめん。次ちゃんとするから。」

「…おう。たのむよ。」

なんか納得いかないが、元の位置に戻って再度サインを出した。

「ストレート!」

腰を落としてもう一度正拳を放ってみる。花子は少し考えたような仕草を見せて、大きく頷いた。

「よし。いける!」

私は腰を落として捕球態勢に入る。

「いけねーよ!サイン丸見えだよ!てか丸聞こえだよ!あと、ストレートとナックルのサインかぶっとるやろ!」

私達の三文芝居に痺れを切らしたのか、加奈が声を上げて私を見た。

「今や!」

待っていたとばかりに、花子が渾身の一球を放つ。

「っんと!ずるい!」

気後れした加奈が(バット)を振った。完全にタイミングを外したはずだったが、雑巾(ボール)が広がって、空中で急ブレーキしてしまった。

「もらった!」

加奈はストレートだったはずの雑巾(ボール)をタイミングよく真芯?で捕らえた。しかし、広がった雑巾が上手いこと箒の柄に巻き付いてヒットとは成らず。

「計算通り。魔球パラシュートボール!」

…ストレートじゃなかったっけ?首を傾げる私を尻目に、花子はしたり顔で宣言した。

加奈は巻き付いた雑巾を剥ぎ取りながら言った。

「…てか、早く帰ろうや。」

急に冷めた様子の加奈。

「あれ?負け惜しみかな?」

煽る花子。

「違うやろ~…いや、加奈さんがそんなことを言うわけないやろ~!」

花子の言葉に続けて、とりあえず煽ってみる。

「いや、マジやって。そろそろ見回りの先生来るって。」

確かにそろそろ当直の見回りが来る時間ではあった。

私は立ち上がって花子に駆け寄った。

「しゃーない。帰ろう。」

ぽんっと花子の肩を叩く。

「そうやね。しゃーないね。」

花子はため息をつきながらそう言うと、加奈子に近づいてぽんっと肩を叩いた。

「加奈?私、イチゴミルクね。」

「あいあいあい。」

1球勝負の罰ゲーム。ドリンク一本。

「加奈?私、カフェオレね。」

私も便乗してみる。

「丸ん分はない。」

「なんで?!」

「丸は見届け人やろ。審判役やったはず。」

その通りだけども。

「そうやけど…キャッチャー役もやったやん!」

「そがんと知らん。キャッチしとらんし。」

はい、その通りでした。大人しく諦めよう。


私達は教室の後ろのロッカーに掃除道具を片付けた。

そのまま、帰り支度を始めた時、後ろの扉から視線を感じた。そちらに目を向けると、一人の男子がこちらを見ている。

「あの…君、丸山さん…やろ。」

始めてみる男子だった。さっきのオチャラケムードが、一瞬にして緊張へと変わった。花子と加奈も男子に気が付いた様で、窺うようにそちらに向き返る。

「え?…何?」

私は謎の男子に返答した。謎男子は、他の二人を一瞥すると一瞬びくりと反応したが、再度私に向かって言った。

「…明日ん放課後に、家庭科準備室に来てほしいんやけど…」

これは…?

「え?何?なんで?」

「そん時話すから。そんじゃ。」

謎男子はそれだけ告げると逃げる様に行ってしまった。

…これは、まさか、いや、しかし、でも、えっと、つまり…

ゆっくりと振り返ると、目の前まで加奈が接近していた。

「うぉぅ!?」

私の驚きを見て、加奈の目がイヤらしく光った。不気味な笑顔を作りながら、私の肩に手を回す。

「丸~。」

わざとらしい粘っこい声で私に語りかけてきた。なんだよ、止めてくれ。

「丸やん。これ…告白やろ、どう考えても。」

いつの間にか接近していた花子が、それに続けとばかりに脇腹を小突く。

まてまてまてまて。

「そんなのまだわからんやん。」

私は二人の悪意ある手を退けた。

「そかな~?どう思う?」

わざとらしく、加奈が花子に話を投げかける。

「…いや~…たぶん、そうやろう。私らもおっとに…ねぇ?」

花子が人差し指でグリグリと脇腹をこねる。

「あーもっ!!はよ帰るんやろ。置いてくよ!」

私は再度、花子の毒牙を振り払って、そそくさと帰り支度を続けた。


実はと言うか、何と言うか…私は案外モテる。二人には秘密にしているのだが、この一年位で既に3人の男子に告白されている。しかし、まだ誰とも付き合ったことはなかった。タイプでは無かったので。

「私にも来んかね?青春てやつ?」

加奈が宙を仰いで呟いた。

「そのうちそのうち。」

花子が素っ気なく相槌を打つ。

「花に言われたくないわ。」

少し恨めしそうに加奈が返した。

「私ん話より、花は最近どうなんよ?彼氏とは?」

私は話題を花子に移してみる。花には春頃から付き合いだした彼氏がいた。

「大会近いからね~。最近あんま遊ばんし。何かねぇ~…わからん。」

「青春やねぇ…」

加奈が茶化すように言った。


…6時の鐘が鳴り響く。

そろそろマジで見回りが…ガラガラと教室前の扉が開いた。まずい。

「お前らまだおったんか?!はよ帰らんか。」

当直の安田。鬼瓦のような顔が教室を覗いた。

「はーい。もう帰りまーす。」

私がそう答えると、顔を引っ込めて扉の前に仁王立ちし始めた。早く出ろってことか。

3人供が荷物を抱えて、後ろの扉から教室を後にすると、入れ替わりに教室に入った安田が後方で何やらぶつくさ言っているのが聞こえた。

「丸、安田にストレート。」

加奈が耳元で呟いた。

「ストレート。」

教室の安田の背に向けて正拳突きをしてみる。

「なんしよっとか?!はよいかんか!?」

気配に気づいたのか、振り返った安田の怒鳴り声が響いた。

「「はい!すいません!」」

私達は一斉に走って、階段をかけ降りた。


正面玄関を出ると、グラウンドを横切った先にが正門がある。門を出ると正面におおきな道路が走っていて、門の右手正面に大手コンビニチェーンが軒を構えている。三人で歩道橋を渡り、コンビニに向かった。

加奈は罰ゲームのイチゴミルクを買って花子に手渡した。それを横目に私は自分でカフェオレを買う。外に出て道路に沿って南下すると、地元の商店街があって駅の近くまで続いている。私達はいつもこの道を通学路にしていた。駅までの道を歩きながら、先ほどのカフェオレにストローを通す。

「丸、明日行くの?」

急に花子が振ってきた。

「明日?」

「いや、だから吉岡の呼び出し。明日行くんかなって。」

吉岡?…あの男子の事か?

「そういえばそうよ。どうすっと?」

待ってましたと言わんばかりに加奈が続ける。

私はカフェオレを吸い上げて、舌の上で転がしながら考えた。二人は過去に私が告白を受けた事、そして悉く振ってきた事を知らない。


今までの呼び出しはだいたいメールだったりしたので、他の人に知られる事は無かった。しかし、今回は異例中の異例。他の女子もいる前でのお誘いだ。どうすべきか思案していると、私の言葉を待たずに、二人は勝手に盛り上がり始めた。

「そいえばさ、あの子って…誰やったっけ?」

と加奈。

「1組の吉岡。」

花はあの男子を知っている様子だ。

「有名人なん?」

「あたし、中学同じなんよ。」

「マジ?どんな子?」

「中学ん時は…人気あったんやないかな?」

「今は?」

「それは知らん。サッカー部やったはず、うちのサッカー部イケメン多いし。埋もれてるんやない?」

「サッカー部?」

「確か後の…守りの方。」

「…普段は守りやけど、告白ん時はやっぱ攻めるんやな!」

全然上手くないぞ加奈。

「守りの告白て、そんなんあんのかね?」

「そらあるやろ。草食系の振りして、近づいたらばくーって感じの食虫植物みたいな男。」

「確かに。…よう考えたらそういうのばっかかも。てか、加奈、まさか引っかかったことあるん?」

「いや、ないけども…普段はおとなしい人が実は!みたいなのいいやん!」

「」

「」

加奈のスイッチが入る前に、話を遮ることにした。

「…何か変やない?」

「なにがよ?」

加奈が首を傾げた。

「普通こういうのって、他の人にばれんように動かん?」

これは、あくまでも私の持論だが。

「そうかな?」

花子が答える。

「吉岡って、結構そういう所は積極的な奴やったと思うよ。」

「なんかエピソードあんの?」

花子の話に加奈が食い付いた。

「あぁ…中学ん時に一回あったんよ。…同じクラスの女の子に告白したことが。」

「…皆の前で?」

「皆の前って言うか…今回にみたいに放課後に。何人かしかおらん教室で。そん時は私も含めて何人かしか残ってなかったけど。」

花子は言葉を選ぶように、思い出す様に話をしている。

「そん時も、そこで告ったん?」

「告ったって言うか…事前に手紙渡してて、そこで返事聞いた、みたいな…」

「それ…どうなったん?」

「ダメやったね。回りに人いるんに、そんなこと言われたら、相手にとったら恥ずかしいし。」

「恥ずかしいか、そんなもんか。」

「そんなもんやろ。中学生なんて。」

私はハッとして、花子に聞いてみた。

「てか、それってさ。コクられた子は…?」

加奈もハッとした表情で花子を見る。

「そうなん??マジ?」

少し考えた後に花子が答えた。

「…そうです。私の話です。」

「うっわ!!マジか!それマジか!!すげー!!花、アイツの事振ったことあるんや?!」

加奈が一気にテンションを上げる。

「…でもほら…なんだかんだ人気ある子やったから。その時の事が、後々ちょっと噂になって、あることない事話が広がるわけよ。」

少し、不貞てた様に花子が言った。

なるほど、妙に躊躇いがちに話すわけだ。思い出したくない過去だったのだろう。

「あー、他の子もおったらそら噂になるよな。デリカシーないな吉岡。」

加奈も花子の雰囲気を悟ったのか、機嫌を取るように同調する。

「で…昔の事は置いといて、結局告白には行くの?」

花子がまた話を引き戻す。

「話くらいは聞きに行くつもりやったけど…」

「やったけど…?」

加奈が食い気味に聞いてきた。

「いや、OKはせんよ。だってそもそも吉岡のこと全然知らんし。」

「そか…だよね~。」

だよね~って…加奈あんた。

「いや…デリカシーないとか言って、明らかにテンション下げに来てるやん。」

私の言葉に、加奈が苦笑いする。加奈の代わりに花子が答えた。

「友人として、しっとる情報は提供せんとね。」


「そんじゃ。また明日ね。」

商店街を過ぎて、駅前で二人に手を振る。改札に消える二人を見送って時計を見ると、既に6時半を回っていた。やばい。早く帰らないとどやされる。私は駆け足で帰路に着いた。



翌朝。予鈴とともに、担任の烏丸が教室に入ってきた。

烏丸は、気だるそうな、やる気の無さそうな表情でいつものように挨拶した。

「おはよう。」

「「おはようございます。」」

「えーと。今日のホームルームなんやけど、皆もう知っとるかもしれんが、最近この辺で通り魔の噂がたっとるらしい。」

突拍子もない発言に一瞬にして教室の空気が固まる。烏丸は尚も続けた。

「知っとる奴おるか?」

教室がざわつく。通り魔?この町に通り魔?物取り?痴漢?皆知ってる?知らない?

がやがやと騒ぎ始めた教室を静めるようにさらに続ける。

「噂では…あくまで噂なんやけど、うちの生徒が被害にあっとるらしい。なんか、話を聞いたことあるやつおらんのか?」

生徒が襲われた?誰が?またもや、がやがやと教室が沸き立つ。

「先生らは何も知らんの?」

クラス1空気を読まないバカ、金子が口火を切って質問した。

「今朝の職員会議で少し話題が出てな。」

烏丸が話始める。

「実際、警察に被害届が出たりはしとらん。襲われたって噂の生徒に話を聞いても、どうも確証をえん。職員会議じゃ最初から通り魔なんておらんのじゃないかって話も出とるんだが、じゃぁ、どっからそんな噂がたったのかって話だ。」

なに?つまりどういうことだ?噂話?

「じゃぁ、つまり、通り魔って噂だけ?結局居ないんですか?」

いつもは空気を読まない金子が、空気を読んで聞いてくれた。

「まあ、多分おらんのだろうよ。多分な。」

要領を得ない返事だ。襲われたって生徒が違うと言ってるなら違うんじゃないの?どうなの?

金子の方を見ると、金子自身も意味がわからない様子で、隣の深川と話している。金子よ、空気を読め。空気を読んで質問を続けろ。

「他なんか質問ないか?」

烏丸が絞めにはいるぞ。金子。聞いてみろ。金子。

「あくまでも噂話なんだがな。実際、現実で問題も起きとる。」

教室が静まりかえる。

「先生たちの間では単なる噂でしかないんやが。でも、今朝な、商店街の交番から警察が来とるんだ。」

もう意味がわからない。なんで、噂だけの通り魔で警察が?…金子、いけ。金子、聞け。金子。

「噂の発信地がこの学校らしいって話でな。うちの生徒が、商店街で言いふらしてるって通報があったらしいんよ。」

金子が聞くまでもなく、烏丸は続ける。

「噂とは言え、人様に迷惑かかるもんを言いふらすのはいかんやろ。実際の被害届けもないのにそんな噂がたったら、町の印象にも悪い。だから、もし噂の事を知っとる奴がおったら、先生らに教えてほしいんよ。どっからでた噂なんか調べたいと思ってな。」

要するに、通り魔は噂話。実際の被害もない。でも、噂話が出回ったせいで、地域に、ひいては警察に、さらに言えば、先生らに迷惑がかかっている…と言うことらしい。

「んで、この噂知っとった奴おるか?」

教室が静まりかえる。当然だ。仮に知っていたとしても、話したがる人がいるわけない。余計な火の粉を被りたくはないだろう。

そうこうしている間に予鈴がなった。

「誰も知らんのか?」

烏丸が最後の確認をする。もちろん誰も反応しなかった。

教室の前に現国の加藤の影がある。

教室をでる前に、最後に付け加えるように烏丸が言った。

「多分明日の全校集会でも話がでると思うが、今回の噂話をやたらめったら喋り回るな。地域にも迷惑がかかっとることを肝に命じとく様に。」


一限の終わり。加奈が即座にやって来た。

「丸。今日の放課後なんやけどさ。」

「なん?」

「私も一緒に見に行っていい?」

「それは…だめやろ。」

「なんでよ?」

「加奈さぁ…あの場におったとはいえさ、振る事になるんよ?他の子も連れてったら、流石に印象悪いやん。」

「あー…」

あーって…そこ気づこうよ加奈。

まぁ、加奈子はちょっとそういう所に気が利かないというか、ぶっちゃけていうとデリカシーがない。

「でもさ、実際振るんだし、印象もなにもないじゃん。」

「だから、その後に向こうから友達連れてきて見世物にされたとか、変なこと言われたら困るって話。」

「あー。」

あーっ…て分かってるのか加奈よ。

「わかった。」

「わかってくれたか。」

「じゃぁ、なるべく遠くから、ばれないように見とくから。」

…あんた、なんにも分かっちゃいないよ。ため息がでた。

「…わかった。じゃ、ほんと絶対に見つからんでよ。」

私は結局折れる事にした。一度興味を持った加奈は説得が難しい。

「じゃ、早速、敵情視察行きましょうや。」

何を言い出すんだ加奈。

「いやいやいやいや。」

「なんで?」

「振るんだよ?見に行ったら余計な期待させるでしょ。」

「だから、ばれないように。」

こうなってくると、バカの金子が可愛く思える。

加奈子は一度火が付くとこの調子だから、過去の告白のことも内緒にしていた。

「じゃ、加奈見てきなよ。私行かんよ。」

ちょっと突き放して見る。

「乗り悪いなぁ。…しゃぁない。いっちょ見てきてやるか。」

そう言うと、加奈は制止する私には目もくれずに、教室から飛び出していった。

私は頭を抱えた。今回はいろいろタイミングが悪い。なんせ、加奈と花子がいる前での呼び出しだ。加奈はあんな性格で、好奇の目を隠そうとしないし、花子にいたっては今回の彼の元想い人だって話だし、なんだか全てにおいて歯車が噛み合っていない。いや、逆に噛み合っているのかもしれないが、完全に悪い方向に回ってしまっている。

私が頭を抱えていると、後ろから花子が肩を叩いた。

「よっ。青春しとるね。」

「みとったなら、加奈止めてよ。」

「無理無理。」

「…だよねぇ。」

私達3人は同じ帰宅部として、春から一緒に帰る友達だった。

皆違う中学の出身だったが、帰宅部の肩身が狭いこの学校で、心強い味方だったのだ。必然的に3人で遊ぶようになり、3人で帰るようになった。

「加奈は、あれがなきゃいいんだけどねぇ。」

私のつぶやきに花子が答える。

「まぁ、向こうにばれないように動くっていってるなら、大丈夫でしょ。」

「他人事やと思って…」

「他人事やしね。」

「ひどい。」

「ははっ。」

花子と話していると、加奈が息を切らして帰ってきた。

「丸!」

「行ってきたの?」

「どんな様子やった?」

花子が、横から加奈に聞いた。

なんだ?花子、お前もか?

「それがさ、今日、彼休みやって。一組の子に聞いた。」

「えっ?」

休み?吉岡休み?

「どういうこと?」

「詳しくはわからん。ただ、今日は朝から学校来とらんみたい。」

加奈が、少し残念そうに告げた。

「風邪とか?」

「そんなところやない?」

「昨日はそんな様子でもなかったけどね。」

「今更、今日の事が怖くなって逃げたとか?」

「そんなタイプでもなかったと思うけど。」

横から花子が指摘する。

「しかし、告白当日に欠席とは、吉岡くんもとことん運というか…ないね。」

加奈は苦笑いでいった。どうも吉岡と私は結局そういう運命にあるらしい。

「まぁ、手間が省けて良かったんやない?」

鼻で笑いながら花子がいった。

「手間って…言い方~。」

昨日の話から考えれば、花子は吉岡をあまり好いてはいない様だった。

吉岡に自覚はなかったのだろうが、花子にとっては中学での嫌な思い出の元凶であるわけだし、それも仕方ないのかもしれないが。

「実際振るつもりやったんやろ?おまけに当日スッポカシって、どうなん。」

花子はあっけらかんといい放った。


加奈は眉を潜めて言った。

「もしかして…例の通り魔だったりして?」

通り魔?私は気になっていたことを二人に聞いてみた。

「その通り魔の噂ってやつ?二人は知っとった?」

「「知っとったよ。」」

二人の声が重被った。

「被った。」

「被ったね。」

何故か照れる二人。

「てか、丸は知らんかったっの?マジで?」

加奈子があきれた様にいった。

「そんな有名な話やったの!?」

「一部では有名よ。うちの生徒が襲われとるって話。」

一部では有名って、それ有名っていってもいいのか?

「襲われるって?変態かなんか?」

「丸よ、ほんと全然知らんのね。」

花子も呆れた顔で私を見ている。

「うちの高校の運動部生徒達が私刑にあったって噂よ。」

そんな話聞いたこともなかったぞ。

「そんなに何人も襲われた人がおるの?」

「私が聞いた話じゃ、剣道の熊山とボクシングの田島先輩って話は聞いた。」

「そうそう。それとあと、富田もって聞いた。」

「富田って、あの富田?!」

「そうそう、その富田。」

富田と言えば、我が校で知らない人間はいない。国体にも出た柔道部のエースである。熊山、田島ともに知った名前だ。

そんな、まさか、それじゃぁ…

「今週、富田が怪我して部活休んでるってのは…通り魔の仕業って事?!」

表向き、富田は階段から転び落ちたという話で、足を引きずって学校を歩いている姿を目撃はしたけど。

「らしいよ。あくまでも噂やけど。」

「熊山先輩は二月くらい前に、目の上腫らして登校したらしいよ。田島先輩も、たしかこっちは一月くらい前やったかな?なんか顔に青アザ作って登校したとか。」

「けど、烏丸も言いよったやん。当人らは否定してるんやろ?」

「そうなんよ。実際現場を見たって人がいるわけでもないし。」

「でも、ここ数ヵ月で格闘系の部活の人が立て続けに謎の怪我してるって、それなんか怪しいやん?」

加奈が少し鼻息を荒くていう。

「…いつ頃からそんな噂がでたんやろ?」

「私が聞いたのは先々週くらい前やね。」

花子が答える。

「加奈は?」

加奈にふってみる。

少し考えてから加奈は答えた。

「今週入ってからやなかったかな?」

「…どっから、そんな噂がでたんやろ?」

なんでだ?なんで、そんな噂が立ってるのか。

「さぁ。私も又聞きでようわからん。」

わからんて、今のこの話は加奈からふってきたんですが?

そんな噂がたっていたとはやはり全くしらなかった。

しかし、それはそれとして私は加奈に告げた。

「それじゃとりあえず、放課後の話はおあずけやね。」

私がニッコリと笑顔を見せると、加奈は大きなため息をついて頭をもたげた。



放課後、私は一人旧館に向かった。

今日予定されていた、例の呼び出しは無くなったものの、明日以降また呼び出されないとも限らない。普段使わない生活科準備室の位置を確かめに来た次第である。

加奈は、放課後にはすっかりやる気がそがれたらしく、ついてくるとは言わなかった。

花子とともに玄関で待つと言ってくれたが、急げば一本早い電車に乗れる時間で、待たせるのも悪いからと、先に帰ってもらったのだった。

旧館はこの高校の定員が大幅に増えた十年前まで、クラス棟として使われていた所だ。現クラス棟、所謂新館が立ってからは、移動教室なんかに様変わりしている。旧館は新館の裏側、中庭を挟んで反対側に立っていて、放課後は文化部や少数の同好会の部室棟代わりに利用されていた。

中庭を抜けて旧館に入る。一階の渡り廊下は蛍光灯が半分だけ付けられていて、夕方近いとはいえ薄暗くなっていた。通り過ぎる各教室には微かに人の気配があったが、それらが何の部室なのかは全く知らない。帰宅部の私にとっては全く未知の領域で、若干薄気味の悪い印象を持った。

生活科室とその準備室は、入り口の間反対。奥側の階段と非常口の手前にある。私は息を潜めて、ゆっくりとその部屋の前に立った。…灯りが、着いている。中に誰かいるのか。というかどっかの部室なら、そんなところで告白するつもりだったのか?吉岡?

取り留めもなく考えていると、横の階段から一人、誰かが降りてくる足音が聞こえた。

「あれ?何?どした?」

私を見て声をかけてきた。

…!?

「三俣さん!?」

思わず名前を呼んでしまった。こんな場所で彼女に出くわしてしまうなんて。

「はい、三俣ですよ?」

彼女はキョトンとした顔で此方を見てきた。

私は彼女の事を知っている。というか、同学年なら知らないやつは居ないんじゃなかろうか。三俣は学年一の変人と呼ばれる女だ。彼女の奇行は学内で知られている。

1週間、毎日違う眼鏡をかけて登校したとか、弁当にお中元ハムを丸ごと持ってきたとか、水泳の授業にビキニで出てたとか、昼休みに学校裏の池でザリガニ釣りをして教室に持ち込んだとか、もう上げれば切りがないくらいの奇行を重ねているレジェンドオブクレイジーである。

何故こんなところに彼女がいる?何で私に話しかける?ここに居てはまずい。ヤバい。何をされるか分かったものではない。

「な、何?何か用?」

私は咄嗟に切り返す。

「用があるのはそっちやないの?」

「どういう意味?」

「いや、ここ、うちらの部室。」

「は?えっ?」

私は教室の入り口を見上げた。家庭科準備室。そうだ。間違いない。ここは家庭科準備室だ。何?部室?ここが?何の?

「まぁ、少し落ち着いてよ。そんな取り乱さなくても良いやん。」

挙動不審な私を見て、三俣が宥めるように声をかけてきた。

「ここに来たってことは…何かウチに用事?」

「いや、違う違う。そうやなくて…」

「じゃどしたの?こんな夕方に。何で帰宅部の貴女が?」

「いや、あの…」

絶対に言いたくない。告白場所の下見に来たなんて口が裂けても言えない。あの三俣に対して、そんなことを言おうモノなら、後でどんな事になるか…決して良いことは起こらないだろう。考えたくもない。

「と、友達探してて、確か、旧館のどっかの部屋が部室だって言ってたから…」

「あぁ~。なんだ、そうなんだ。何部の子?」

「え?」

「いや、だから何部の誰を探してんの?」

「な、何で?」

「旧館に部室があるなら、私だいたいわかるからさ。教えられると思うよ。」

そうなの?!

「いや、いいよ。別に。気にしないで。」

「そう?」

「そうそう。…あっ、そう言えば、そうだ。こっちじゃないわ。そういえば、運動部部室棟の方だったわ。間違えた。」

言っていて非常に苦しい。あまりに下手くそな誤魔化し。

「なんだ。そうなの?」

「そうそう。そんじゃ、ごめん。じゃました。ありがと。じゃーね。」

さっと三俣に背を向けて、早足で歩きだす。とりあえず、この場を離れなくては…

「てっきり、吉岡の呼び出しで来たんかと思ったよ。」

三俣の言葉に思わず脚が止まった。

「え?…今なんて言った?」

「いや、吉岡の呼び出しで来たんかなって思ったって。」

な、何で?何で?なんでなんでなんでなんでなんでこの女がその事を知って?なんだ?何の罠だ?何だ?何の…何の……?

「…てかなんで…私の事って知ってんの…?」

こいつさっき、私が帰宅部って事を知っていた?

「あぁ…なんでだと思う?」

三俣が不適に笑う。私は思考が停止して、次の言葉が出てこない。

「まぁそれなら、とりあえず入ったら?悪いようにはせんからさ。」

三俣はそう言うと、準備室の扉を開けて中へ入ってしまった。

私が何をした?なんだ?なんで、三俣が私を知ってるんだ?なんで?頭の中の疑問符が絶えない。気が付くと私の足は自分の意思とは裏腹に、勝手に家庭科準備室へと逆戻りしていた。

準備室を覗いた。中には長机が二つ合わせて置いてあり、回りに何脚かのパイプ椅子が広げて置いてあった。その一つ、上座の位置に三俣が腰かけていた。

私を見て言う。

「どしたの?入らんの?」

「失礼します…」

私は静かに部屋には入った。

「そこ、いいよ。」

三俣は扉の前の席に座るように指を指す。

「いや、いいよ。それより三俣さん。何で私の事知ってるん?」

「丸さんこそ何で私の事知ってんの?」

質問してるのは私なんだが…

「いや…三俣さん有名だから。」

「…私も同じ理由だよ。丸さん有名だから。」

私が有名人?

「なんで?」

「何でって言われても…あ、ほら、丸さん帰宅部じゃん?帰宅部って少ないからね。」

「帰宅部だから…有名?」

「そういうことにしといて。てか、私も知ってるの名前くらいやけんさ。あんま聞かれても困るかな。」

そういうことにしといて…だと?すっごい含みある言い方じゃないそれ?

まあいい。私は続けて聞いた。

「それじゃぁ、吉岡くんの呼び出しを知っとったのは何で?」

私は立ったまま聞いた。三俣は答える。

「あれ?本人からなんも聞いとらんの?」

「いや、聞いてない。」

「なんだ、そうなんや。」

「そもそも吉岡くんの話って…結局、何やったの?」

どうも告白って話じゃなさそう、な気がする。三俣が絡んでいるならなおの事。まともな話ですらないかもしれない。大分偏見を含むが。

「ん?いや…私も良く分からん。」

「え?」

さっきの思わせ振りの態度は何なんだ。

「どゆこと?」

「吉岡から、会わせたい人がおるって言わたんやけど、なんで会わせたかったのかは聞いいとらんのよ。」

三俣に会わせたい?やっぱり告白じゃなかったってことか?更に訳がわからない。どう言うことだ?私は吉岡との面識はない。話ぶりからみれば、三俣の方は知り合いのようだが、何故、吉岡が私と三俣を会わせたがっていたのか。サッパリ検討もつかない。

「折角ここまで足運んだんだし、座りよ。少し話そうや?」

「いや、やめとく。今日、吉岡君休みなんやろ。話も聞けんみたいだし、また今度、本人もいるときに直接聞いてみようや。」

部屋を出ようとした時、家庭科室と繋がる扉が開いた。

「あれ、お茶飲んでいかないの?」

茶飲みが三つ乗ったお盆を持って、一人の女生徒が入ってきた。この子は…誰だっけ?

「そうだよ。折角だし一杯くらい良いやん。菓子もあるよ。丸さんとはあんましゃべったことないし。ちょっとだけで良いから。」

三俣が立ち上がって椅子を引きに来た。イヤに積極的だ。

「いや、部活の邪魔しちゃ悪いけん。」

やんわりとお断りしてみるが、肩をグイッと押されて、椅子に座らせられてしまった。あんまり関わりたくないんだが。

「ここ、部活じゃないよ。同好会。」

自分の椅子に戻りながら三俣が言う。仕方がない。少しだけ付き合って、適当に帰ろう。

「…同好会?」

同好会は部活より小規模な活動グループ。一応、顧問も着くには着くが、週に何度か顔を出すくらい。反社会的活動や、不道徳な活動でないと判断され、月々活動報告を提出しさえすれば、ある程度の事は容認されていた。旧館の空き室は、正式な書式で申請を出して認められれば、借りる事が出来る様になっている。それを利用して、継続的に部屋を借り、自ら会を立ち上げる酔狂な生徒は、実際何人かいるらしい。

「そう、お掃除同好会っていうの。」

もう一人の女生徒がお茶を長机に置きながら言った。お掃除同好会?…全く知らない。当たり前といえば当たり前だが。

「えっと…ごめん。名前なんやっけ?」

「あぁ…ごめんなさい。私三年の石橋です。」

「先輩!?すいません!私、タメ口…」

「いやいや、気にせんで良いよ。そんな堅苦しくせんでも。」

「そそ。石橋先輩そんなことで怒る人やないから。」

「貴女はもう少し謙虚でも良いんやけど?」

「まぁ…いいやん。私らの仲やん。」

少し話がズレてきた。

「で、あの…何する同好会なんですか?」

「読んで字のごとく掃除だよ。」

「?」

石橋先輩ではなく、三俣が答えた。掃除は授業終りに皆やっている。まぁ、最近は部活のために早めに切り上げる生徒が多いけど。

「教室とか廊下とかトイレとか、普段皆がやってるところも含めて、点検したりとか、後は、園芸部の手伝いだったり、学校から依頼があった部室の片付けてつだったり。」

「つまり、ボランティアみたいな?」

「そそ、そんな感じ。あと、部活の助っ人に行ったりとか、何でも屋みたいな?」

そう言いながら、三俣は煎餅を食べ、茶をすする。

…なんと言うか、至ってまともな活動だった。噂に上る三俣の印象からはかけ離れている。掃除と言うか寧ろ、ひっちゃかめっちゃかするイメージだったが。

おまけに、石橋先輩は物腰柔らかで、どことなく気品が漂う。何処かの金持ちのお嬢様っぽい。そんな人とあの三俣が、同じ同好会でダベって茶をすすっているとは。

「丸さんは、なんで帰宅部なの?」

三俣が私の事を聞いてきた。

「え?あぁ…家の事情って言うかね。そんな感じやね。」

「ふーん。」

聞いてきた割には、なんだか反応が薄い。

「ねぇ、うちの同好会入ってみる気ない?」

「え?」

「いや、どうかなって。」

三俣は、突拍子もないことを言い出した。

「どうかなって言われても…」

「見ての通り普段は二人だけしかいない会なんよ。暇なときは少しダベって帰るだけだし。どぉ?」

「どぉ?って言われても…家の事情もあるし…て、二人だけって…吉岡くんは違うん?」

「吉岡はサッカー部だよ。」

そう言えば、花子がそんなことを言っていた気がする。

「会員登録だけしてもらってる。」

「会員登録?」

「そそ。同好会って言っても、部活と変わらんから五人以上必要なんよ。名前だけ借りて申請してんの。運動部の助っ人とかもやるって言ったやん?私らあんまりそういうの得意やないから。そういう所、手伝ってもらったりしてんの。」

なるほど。そういう繋がりか。こんな得にもなりそうにない活動を手伝うとは、吉岡も中々良い奴なのか?

「他にも名前だけ登録しとる人が要るってこと?」

「そゆこと。ね?そんな感じでも全然いいんだけど、どぉ?」

どぉ?と聞かれても困る。会員登録したら、呼び出しで手伝いをさせられる可能性も有るってことじゃないか。

「いや、やっぱり無理っぽい。手伝いとかあるんなら早く帰れんし…」

「たまにくらいなら、親御さんもなんも言わんって。だいたい五時半定時に帰るようにしとるし。文化系の同好会なら断然早い方よ。」

三俣…さてはこの女初めから、勧誘するために座らせたな。しかし、私に全くその気はない。というか、ボランティアとか正直めんどくさい。

「いや~、一緒に帰る子も困るし。…ほら!最近通り魔の噂立ってるやん?噂とはいえ、やっぱ一人で帰るとか怖いし?」

こんな噂がここで役立つとは…

「あぁ…通り魔ね。そうか…丸山さんも知ってるんだ。そんな噂あったねそういや。…なら、友達も誘ってさ!」

さすが三俣。全然折れない。なんなだよこの噂、役立たず!!

「いや、それは流石に…ここで勝手には決められないやろ?」

「あ~…確かにそうやね。」

やっとわかったか三俣。

「じゃ、また明日その友達も連れてきてよ。」

…面倒な話になってきてるぞ。

「それは、まぁ…話してみんとわからんし。」

「よし、そんじゃ決まりやね。」

ちょっと待て待て、なんも決まってねぇよ。

「いやいや、ちょっと待ってよ。」

「そうよ、きぃちゃん。強要は良くない。」

ここで、石橋先輩も私をフォロー。ありがとうございます。

「あ、いやいや。ごめんごめん。そんなつもりやなかったんやけど…それじゃ、取り合えず友達に話すだけでもしてみてよ。明日の昼休みにでも、結果聞きに行くからさ。」

ここが落としどころか。

「わかったわかった。」

私は立ち上がった。

「そんじゃ明日の昼休み。無理そうやったら悪いけど…。」

そういって、扉に手をかける。

「よろしくね。」

「今日はごめんね。ありがとう。」

二人に手を挙げて部屋を出て、扉を閉めた。足早に部屋を離れる。

はぁ~…めんどくさい事になった。会員登録はしないとしても、この事をどうやって二人に説明すればいい?特に加奈の反応は…めんどくさそうだ。

というか三俣。やっぱり一癖ある女だ。ほぼ初対面であんだけグイグイ来るとは。将来セールスレディにでもなるつもりか。

「おーい。」

後ろから三俣の声がした。

「な、何?」

びくっと後ろに振り替える。ドアを開けた三俣が半身だけだしてこちらを見ていた。

「そういえば、帰り大丈夫なの?通り魔~。」

「大丈夫大丈夫。友達待ってもらってるから。」

咄嗟に口から嘘がでた。

「そか。…そんじゃまた明日。」

「うん、じゃ~ね。」

平静を装うが、心臓がドクドク鳴っている。三俣の頭が教室に引っ込んで、ドアの閉まる音が廊下に響いて、ようやく緊張から解放された。

思わず嘘で誤魔化してしまった。なんて噂だよ、まったく。というか、吉岡のやつ、いったいどういうつもりで、なんでよりにもよって三俣と引き合わせようとしたのか…わからない。

私は二人にどう話すか考えながら旧館を後にした。

こんな中途半端を読んでいただきありがとうございました。

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