表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/3

世界の始まり

五分アニメのように、それぞれの話を個別に楽しんでいただければと思います。

「進路希望調査……か。」


 私の名前は神田彩かんだあや。今、さっき出された宿題を思い出して憂鬱になっている。もう高校二年生なんだから、そろそろ将来について考えないといけないのは分かっている。でも、私には夢なんてない。

 大学へ行って勉強したいとか、なりたい職業に就きたいとか、そんなこと何も考えずに今まで生きてきたんだから当然だ。


 私に特技があれば話は変わってくる。例えばスポーツが得意ならスポーツ選手を目指せばいいし、ゲームが好きならプログラマーになるための勉強でもすればいい。でも、私に誇れるものも熱中するほど好きになった趣味もない。何か努力をすることもなく、ただのうのうと生きてきた人は何をすればいいんだろう。何を目指せばいいんだろう。


 帰ってお母さんに相談しようかな。いや、どうせお母さんは遅くまで帰ってこない。うちは母子家庭で、私と生活するために頑張って働いてくれるのはいつも尊敬しているが、お母さんと話すことは滅多にない。

 せっかくの休日もどこかへ出かけることもなく一日中休んでおり、まるで一緒に暮らしているという事実を忘れてしまいそうだ。子供の頃はあんなに大好きだったお母さんは、今では遠い存在に思える。


 信号を待つ。今日も帰って一人。晩御飯の用意もしなきゃいけないし、帰りにスーパーに寄らなくちゃなあ。今が忙しいとは思わない。今日までずっとこんな生活をしてきたんだから、もう慣れてしまった。でもだからこそ、何か新しいことをしようとも思わない。

 就職をしてもこんな生活を送るんだろうな、とふと考える。朝起きて仕事に行って、帰ってご飯を作って明日の準備をして寝る。代わり映えしない毎日。


 世の人々は一体何を目標として生きているんだろう。哲学的な話ではなく、本心からの疑問だ。生きるために生活する。それのどこが楽しいんだろうか。

 人って、何の為に生まれて何をして生きるんだろう。某パンの主題歌ではないが、あの歌は実は深いんだなあと独りでに感心する。


 横断歩道を渡る。毎朝見るニュースを思い出す。だれだれがなんとか賞を受賞した。なになに選手が新記録を出した。勿論凄いとは思う。こんな色々な人が世界中から称賛されているなんて、という憧れの気持ちもある。

 でもどうせ、そんな人達とは才能の時点で違うんだろう。私には到底不可能なことばかりだし、遠い存在だなとしか感じない。


 そういえば、最近友達に借りた小説が面白かったなあ。主人公がトラックに引かれて死んでしまうが、転生して違う世界へ飛ばされる。そこで自分だけの最強の力を手に入れて、周囲に尊敬されつつ世界を救いに行く。

 自分もそうなりたいと思った。ただ死ぬだけで才能を手に入れて、決まった目標へ向かって生きていく。なんて楽な人生なんだろうと衝撃を受けた。


 その驚きもあったが、人にこんなに感動を与える作者も凄いと思った。言ってしまえばただの文章の羅列なのに、様々な感情をもたらすのも事実だ。魔物に騙されたときは腹がたったし、仲間と別れたときは悲しかった。

 楽しさだけじゃなく、様々な喜怒哀楽を与えることができるのも才能だろう。創作で輝く、こんな生き方もいるんだなあと再認識した。


 でも、結局私はどうしたらいいんだろう。何もない私は、何ができるんだろう。このままずっと高校生でいて、与えられた学生生活をただ過ごしていたい。

 大人になりたくない。大人は自分で選ばなきゃいけない。大人は独りで生きていかなきゃいけない。大人は我慢しなきゃいけない。時が流れて欲しくない。


 それならいっそ、小説みたいに事故で――。と、ここで大きなクラクションが聞こえた。トラックが迫ってきている。まずい、信号は赤だ。全く気付かなかった。とっさに体を前に放り出す。嫌だ、死にたくない……。


 私の人生は終わった。しかし同時に、新しい人生が始まったのだった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ