公表男女比1:40の世界に転生しました。ただし女性の内39は生物学上男です。
ちょっと変わった男女比ものだと見ていただければ幸いです。こういう世界もあるんじゃないかと。
大体作者の悪ノリでできています。
「うおぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」
「「「まってぇ、ひいらぎくぅん」」」
俺は今走っている。
全力で走っている。
背後から迫る可愛らしい洋服を着た筋肉隆々の戸籍上は女の怪物たちから逃げるために。
ああ、なんて酷い世界に生まれ落ちてしまったんだろうか。
ー▽ー
俺の名前は柊雅也至って普通の高校生さ。
なんてこれからギャルゲーでも始まるかのような自己紹介だがそんな奇跡は起きない。
もし仮にそんな都合の良い展開がこれから起こるならば俺は悪魔に魂を売ってもいい。
だってもうすでにここは地獄なのだから。
俺はいわゆる転生者だ。
さっきは普通と言ったがそういうところは普通じゃない。
まあ、死んだ記憶はないのだが気が付いたらこの世界に生まれ変わっていた。
この世界はいわゆるパラレルワールドというやつだ。
俺が住んでいるここは地球だし日本だ。
そう言うところは前の世界と同じだがやはり世界が違うからか違うところがある。
その相違点がこの世界を地獄と化している。
この世界は異様に女性が多く男性が少ないのだ。
政府が発表している男女比は実に1:40。
これだけ聞くと男からしたら何が地獄なの?
ハーレムとか作り放題じゃん。
そう思うかもしれないがとんでもない。
確かに政府が発表している男女比は1:40だ。
これは戸籍をもとにしている。
ここで問題なのは女性の内戸籍上は女性だというのが大半を占めることだ。
何が言いたいかと言うと、戸籍上は女性であっても生物学上は男であるという事。
オカマだということだ。
その割合、実に女性のうち39!!
生物学的に男女比を計算すると40:1になってしまうのだ!!
しかし、これだけならまだよかったかもしれない。
ただ心と体の性別が違うだけならよかったかもしれない。
だが奴らはそんなことを気にしない。
奴らはある本能を持っている。
そう、男を狩るという事だ。
奴らはあらゆる手段で男を狩ろうとする。
一応はある程度の社会で生きる文明人としての規律は守るが中にはそんなものを気にせずに本能のままに男を狩ろうする奴らもいる。
実力行使で。
過激派と呼ばれる奴らは実力行使で男を狩ろうとするからか非常にたくましい肉体を持っている。
丸太のように太い手足を持つ奴らはその溢れんばかりの情熱と筋肉を持って男を見つけるなり徒党を組んで狩りを行う。
そして男を生け捕りにしお家に持ち帰ってしまうのだ。
被害にあった男たちは精神を崩壊してしまい、良くて一生引きこもり、最悪奴らの仲間入りを果たしてしまう。
俺は今、そんな過激派たちに追いかけられている。
捕まれば待っているのは地獄だ。
何が何でも逃げ切らなければならない。
一応は歴とした拉致誘拐、強姦にあたるので犯罪行為だ。
バレれば警察に捕まってしまう。
だが忘れてはいけない。
その警察も大半が奴らと同類であるという事を。
奴らは何故か仲間意識が強いので一時的に過激派を報道されても注意だけで済まされてしまうのが現実だ。
だから交番に駆け込むというのは悪手。
もし、勤務している奴らが過激派に協力的なら終わりだしな。
はぁ、それにしても迂闊だった。
今日発売の漫画の新刊がどうしても読みたくて出てきてしまったけど、まさか過激派に見つかるとは。
奴らにとって一人で外を歩く男なんて恰好の獲物だからな。
まったくもって迂闊だった。
普通に親にでも買ってきてもらえばよかった。
それにしても今日は妙に過激派が多いな。
過激派たちにも妙なネットワークがある。
それを生かしてターゲットの行動パターンを割り出して待ち伏せすることはよくあることだ。
だが俺の行動パターンが過激派たちにバレているとは思えないんだよな。
厳重にフェイクしているし。
他の誰かを待ち伏せしていた時に俺が見つかったのか?
「あ」
「あ」
何て考えながら走っていると知り合いに出会った。
後ろから過激派たちを引き連れて走っている。
「雅也じゃないか!!」
「お、おまっ、和樹!」
過激派たちに追いかけられているそいつは俺のクラスメイトの三島和樹だった。
そして俺は和樹を見て悟った。
俺が言えたギリではないが、男が一人で出歩くなんて不用心すぎる。
それ故にほとんどの男はそんなことしない。
つまり、過激派たちが狙っていたのはこいつの可能性がある。
「なあ、お前どこに行っていた?」
「今日は魔法少女ルルリアの特装版の発売日だったからね。それを買いに行っていたら奴らに追いかけられたのさ。店の前で待ち伏せされていたよ」
やっぱりお前か!!
そういやこいつは重度の魔法少女オタクだ。
行動パターンを読まれていてもおかしくはない。
「それ完全に狙われていたじゃないか! お前はあれほど行動パターンを読まれないようにわかりやすい行動は控えろって言ったのに!!」
「だが俺には特装版を明日に買うなんて選択しはなかったんだ。今回の特装版にはルルリアのタオルが付いているんだぞ!?」
「知るかっ!? だったら誰かに買ってきてもらえばよかっただろう!?」
「ルルリアのファンとして俺には誰かに買ってきてもらうなんてことはできない。たとえ危険があろうとも自らの手で買ってこそファンというものだろ?」
なんで俺はこんなバカに巻き込まれないといけないのだろう。
しかも出かけた理由が似ているところが腹立たしい。
「まあいい。説教はまた今度だ。今はこの死地を切り抜けるのが先だからな」
「どうする? 二手に分かれるか?」
「いや、それは悪手だ。二人いることだし屋根伝いに行くぞ」
連携すれば高いところまで素早く登れるしな。
「そこの角を曲がった瞬間だ。いいな?」
「了解」
作戦を決行せんと角を曲がった瞬間、目の前には筋肉隆々の可愛らしい洋服を着た奴らがいた。
「「なっ!?」」
「うふふ。いらっしゃ~い」
この距離じゃ屋根に上ろうとした瞬間に捕まってしまう。
どうする?
なんて一瞬考えたのが命取りだった。
いつの間にか後ろから距離を詰めていた過激派の一人に締め上げられてしまう。
「つーかまえた」
「しまったぁぁ!!」
ぐっ、なんて力だ。
このままじゃ男として死ぬ前に生命的に死んでしまう。
人間の腕力じゃねえ。
だがこちとら一人で出歩くような男だ。
この程度の危機何度も切り抜けてきた!!
「せいやぁぁ!!」
柔道の要領で投げ飛ばす。
前方の過激派たちに向かって。
あの巨体をぶつけられたらすぐには起き上がってはこれまい。
その隙を利用して俺たちは屋根の上に上り逃げる。
奴らはパワーはあるけどその分重量もあるからな。
屋根の上にはこれないだろう。
「ふぅ危なかった。マジで冷や汗かいた」
「さすがだね。雅也ならあのまま過激派たちを一掃出来たんじゃないのかい?」
「いや、リスクが高すぎる。さすがにお前を守り切れる自信はない」
「まあ、僕は逃げるぐらいしかできないからね」
いずれにせよこれで危機は去った。
やっぱり屋根伝いはいいわ。
嫌な危機がないからな。
だったら最初からこっちから逃げればいいじゃんと思うかもしれないけど、こっちはこっちで普通に危ないのだ。
足滑らせたら危ないからね。
何かあった時のために最低でももう一人は必要だからな。
それでもさっきのようなピンチの時にはこうやって逃げるには最適だ。
しばらくしてから安全を確かめて地面に降り、俺たちは無事に家に帰ることが出来た。
ー▽ー
「ただいまー」
「ちょっと雅也! どこ行っていたの!!」
何とか家に帰ると母さんが鬼の形相で立っていた。
「えっと、ちょっとそこまで」
「男の子が一人で出かけるなんて何考えているの!? 変な奴に捕まったらどうするつもり!?」
いや、はい、さっきまでその変な奴に追いかけられていました。
「あれほど一人で外出したらダメだって言っているでしょ!!」
「えーと、ごめんなさい」
「だいたいあんたは」
おおぅ、これ長くなるやつだ。
やばい、疲れたから早く座りたい。
だけどそんなこと言えない。
さっきまで過激派に追いかけられていたなんて言ったら本格的に外出禁止令がでる。
このまま耐えるしかないのか。
しかしそこで救世主が現れた。
「まあまあ、雅也も反省しているようだしそこまでにしてあげてくれ」
マイリスペクトファーザー。
俺の父さんだ。
「まったく、あなたったら雅也に優しいんだから」
この世界はなんやかんやで男が優遇されている。
まあ、その分いろいろとデメリットもあるけど。
そんな父さんの鶴の一声で母さんも怒りを鎮めてくれたらしい
さすがは父さんだ。
「雅也も疲れているだろう。早く入って休みなさい」
「はーい」
さすがは父さん。
すべてお見通しか。
父さんのようになるにはまだまだだな。
二度目の人生とはいえ俺も思春期だ。
普通は父親なんてウザったく思うかもしれないが、俺にとって父さんは目標であり師であり尊敬に値する人だ。
なんせ母さんと結婚したのだから。
この世界で本物の女性と結婚することは非常に困難だ。
大抵は結婚できずに引きこもるか、戸籍上は女の奴らに囲われてしまう。
過激派だけでも厄介なのに、他にも厄介な奴らはいるからな。
見た目は女にしか見えない偽装型、いわゆるオトコの娘とかな。
出生率とかどうなってんのって思うかもしれないが、そこらへんはこの世界のタブーだから触れてはいけない。
で、そんな中父さんは過激派にも屈しず、偽装型にも屈しず、町中で母さんを見つけアタックした結果、見事に結婚したのだ。
昔はやんちゃで俺のように一人で町中を出歩いていたらしい。
当然のように過激派に目を付けられるが、なんと一度全員返り討ちにしたこともあるみたいだ。
そんな人間の頂点に立つような男の中の男になってようやく本物の女性と結婚できるという訳だ。
俺も自分の身を守れるように父さんからいろいろと教わっているしこれで尊敬しない訳ない。
俺もいつか父さんのように本物の女性と結婚するのが目標だ。
まあ、結婚の前に彼女を作ることだな。
彼女作る=婚約みたいな所あるからそう変わりないか。
それにしても疲れた。
本当に最悪の一日だった。
明日から学校あるし今日は早めに寝るか。
ー▽ー
俺が通っている学校はここら辺ではトップクラスに偏差値が高い学校だ。
理由としては珍しい共学だという事だ。
この世界の男は大体男子校に通う。
それ故に共学に通う男はただでさえ少ないのにさらに少ないのだ。
そんな男がいる学校に通えるというのは滅多にない機会なのである。
だから共学にはみんな通いたがるし、だからこそ狭き門となって自然といろいろとレベルが高い学校になるわけだ。
ちなみに男は無条件で入学、卒業ができるし、他にもいろいろと特典がある。
そういうところはどこかで見た男女比何たらとかの小説と一緒だけど忘れてはいけない。
この世界の女は大半が生物学上は男だ。
かなりきついものがある。
さらに酷いことに奴らは男である俺たちを狙っている。
さすがに過激派みたいなのはいないが、隙あらばと虎視眈々と狙っている。
「あら、ひいらぎくんおはよう」
例えばこいつ、俺の席の前にいる烏丸だ。
こいつの見た目は前世のアイドルなんて目じゃないくらいの美少女だ。
しかし俺は知っている。
こいつは奴らの仲間であるという事を。
こいつは俺たち男の間では偽装型と呼ばれる奴らだ。
どういう訳か表面上の見た目は美少女にしかみえない、いわゆるオトコの娘がやつらの中には結構いるのだ。
男の中にはこいつらの見た目に騙されて、もうこいつらでいいやと諦めてしまう人たちが続出しているのだ。
さらにはこの偽装型から派生した潜伏型がいる。
見た目美少女なのを利用して男に近づき、本物の女性と思わせて、惑わせ、一気に刈り取るのだ。
何より厄介なのはこいつらの見た目は美少女にしか見えない故に本物の女性がいたとしても誰が本物の女子なのかわからないのだ。
この偽装型や潜伏型がこの世界で本物の女性と結婚するのを困難としているのだ。
だって女の人だと思って声をかけても大抵はこいつらだからな。
特に潜伏型の被害が凄まじい。
奴らの中で最も警戒しなければならない奴らはこの潜伏型だ。
かくいう俺も一度潜伏型の被害にあいかけている。
昔の話だが、俺の初恋の相手は近所の美人で優しいお姉さんだった。
雅也君が大きくなったらお姉さんと結婚してくる? なんて言われた日には舞い上がったものだった。
だが俺はある日知ってしまった。
お姉さんの股間にはついてはいけないものが付いているのを。
そう、お姉さんは、奴は俺を対象として光源氏計画を進めるつもりだったのだ。
本当にあの時はショックだった。
近くに本物の女性がいてラッキーだと思っていたのに。
本当に潜伏型は恐ろしい。
その分偽装型はまだマシだ。
見た目は美少女でも女性のフリをする潜伏型と違い、奴らであることを隠してはいないのだから。
まあ、奴らであることには変わりないので男を虎視眈々と狙ってはいるのだが。
この烏丸もそうだ。
奴らの中ではこの烏丸はかなりまともな方だ。
普通に会話もできるし仲良くなったからってセクハラ染みたこともしない。
友達として考えれば本当に良いやつだ。
だが、もし仮に俺が烏丸の見た目に心が揺れようならその隙を突いてくるだろう。
まあ、それを踏まえても烏丸は本当にマシなんだけど。
この通り学校でも奴らに狙われるため、男のほとんどは男子校に通うのだ。
では何故俺がこの四六時中狙われかねない共学に通っているのか?
共学なんだから奴らだけではなくちゃんとした女子もいるのだ。
俺は彼女が欲しい。
どうしても欲しい。
だから危険を冒してでもこの共学の学校に来たのだ。
彼女さえできればこの地獄から解放されるからな。
何故かはわからないけど、伴侶のいる男は奴らから狙われないのだ。
もちろん過激派たちからも。
そう、彼女が出来れば、彼女さえできれば奴らから狙われなくて済むのだ。
もちろんそういう目的もあるが、俺たち男にとって本物の女性と付き合う事は人生の目標だ。
俺たちはそういう風にできている。
だからちゃんとした女子を見つけるためにも危険を冒してでも共学に来たのだ。
虎穴に入らずんば虎子を得ずってやつだな。
しかし、やはりリスキーなのは否めない。
このクラスでは5人くらいいた男子も早くも俺と和樹の2人だけとなってしまった。
一人は過激派に捕まり引きこもりに。
2人は偽装型に妥協してしまった。
あれほどみんなで本物の女子と付き合おうと固く誓ったにもかかわらず。
次々と脱落者が出る共学は本当に恐ろしいところだ。
だが俺は諦めない。
ちゃんとした女子と絶対に付き合ってみせるのだ。
「ね、ひいらぎくん。最近暑くなってきたよね」
烏丸が制服の胸元を少し緩め手で仰いでいる。
くそっ、何て奴なんだ。
とんでもない破壊力だ。
こいつが奴らの一員だと分かっていてもくるものがある。
こいつの見た目は紛れもない美少女なのだ。
さらにかすかに漂ってくる匂いがとても良い匂いだ。
もしこいつが俺が元いた世界にいたなら例え男とわかっていても告白してくる奴が後を絶たないだろう。
だが俺は負けない。
この程度じゃ屈しない。
ここまで生き残って来た俺の精神力をなめるんじゃないぞ!!
ちなみに隣では和樹がいるが、こいつは魔法少女オタクだからか奴らからの誘惑を気にすることなく真剣に魔法少女の本を読んでいる。
こいつ、二次元でいいんだったらなんで共学に来たんだろう。
ー▽ー
「雅くん」
放課後、駐車場まで行くと幼馴染のミハルがいた。
いつもは学校の送り迎えは父さんか母さんが車でしてくれる。
まあ、過激派とかいるこんな世の中じゃ普通に歩いて登校するのなんて無理だからな。
だが、たまにどちらも用事があり送り迎えが無理な時はみはるがやって来る。
ミハルは俺の1つ年下の小柄な男だ。
見ようによっては女子に見える。
子供のころからそんな感じだったな。
だから最初は偽装型か潜伏型かと思ったものだ。
確か出会ったときは、お姉、潜伏型の奴の正体を知った時だったからな。
まあ、自分で男だって言ってたし、まったく必要なのない警戒心だったわけだが。
それくらいミハルは男には見えない。
普通に女の子の恰好をしても大丈夫だろう。
まあ、偽装型と違って男のわけだしそんなことしないだろうが。
そんなミハルだが、もちろん車の免許なんて持っていないので当然このまま歩いて帰ることになる。
普通は男二人で学校から歩いて帰るの何て過激派たちに狩ってくれと言っているようなものなんだけど、どちらかと言えば女子っぽい見た目のおかげか、ミハルがいると何故か奴らに狙われないんだよな。
だからこうしてたまに一緒に帰るのだ。
「ようミハル。今日はお前か」
「うん、おじさんもおばさんも急用ができたんだって」
「そうか。いつもすまんな」
「ううん、ボクも好きでやってることだし大丈夫だよ」
おまけにこいつは本当に良い奴だ。
見た目に比例してか料理もやたらうまいし。
もしこいつが女子だったら迷わず結婚を申し込んでいたと思う。
だが残念なことにこいつは男だ。
まあ、近所の女の子が幼馴染なんて都合の良い展開はこの世界じゃまずないからな。
「あ、スーパーに寄っていい? おじさんもおばさんも今日は帰れないみたいだから雅くんのご飯頼まれちゃったから」
「なんでうちの両親は息子の俺じゃなくお前にそういうことを伝えるんだ」
俺には何の連絡も来てないぞ。
「さあてね。それより今日は何食べたい?」
「ハンバーグ」
「オッケー。えーと卵はあるし、パン粉もあったよね。ひき肉と付け合わせにジャガイモ、ニンジン、ブロッコリーかな」
いやなんでお前がうちの食糧事情を知っているんだよ。
まあいつもの事だけど。
「あとさ、後で勉強教えてもらっていい?」
「いいけど、最近多くないか? そんなに勉強してどうするんだ」
「だって雅くんのとこレベル高いし」
確かにうちの高校はレベルが高い。
ここ近辺では有数の高校だろう。
倍率もアホみたいに高いしな。
だけどそれは奴らを含めた戸籍上は女の人たちの話だ。
俺たち男は無条件で入学することが出来る。
「別に勉強なんてしなくてもお前ならうちの高校に入れるだろ」
「えっ、あ、そ、そうだね。うん。でもほら、授業についていけなくなったら嫌だし、そのための復習だよ」
やけに早口にまくしたてられた。
「お、おうそうか。立派だな」
和樹なんか授業中も魔法少女関連の何かをしているぞ。
悲しいかな、一応は男女比1:40であるためか、碌に勉強が出来なくても最悪働かなくても俺たち男は生きていけるのだ。
「それに勉強が必要ないって言う割には雅くんだってかなりできるじゃない。この前のテストで1位だっておばさんから聞いたよ」
「ま、まあな」
さすがに前世で頑張ったおかげというのと、あまり外出も出来なくて暇だからちょいちょい勉強しているだなんて言えない。
それにしても勉強か。
最近のミハルは偽装型にしか見えないから困る。
奴らのように捕食者の目をしていないし、身の危険も感じないからいいけど、こいつの見た目のせいか若干クルものがある。
しかも下手な偽装型よりもよっぽど。
このままじゃ俺はいつか道を踏み外すかもしれない。
偽装型や潜伏型でもなしに普通に男であるミハルに。
くっ、ミハルめ。なんて恐ろしい奴なんだ。
これは、早く彼女を作らないとまずいかもしれないな。
しかし、偽装型や潜伏型がいるなかで本物の女子を見つけるのは至難の業だ。
父さん、俺はどうすればいいんだ。
俺に教えて欲しい。いや、マジで切実に。
ちなみに、その日は特に何もなく普通に勉強を教えただけでした。
ハンバーグはめっちゃうまかった。
ー▽ー
ある日、学校に行くと、和樹が死んだ目をしていた。
「やあ、おはよう雅也」
「か、和樹。お前どうしたんだそんな目をして」
「ああ、聞いてくれ。実は俺に恋人が出来たんだ」
恋人が出来た。
それは本来は羨ましくも妬ましくもあるが、友人として祝福すべきことだ。
特にこの世界では。
だが、だというのにどうしてそんな目をしている。
「ほら、見てくれ。これが僕の天使さ」
そう言って見せられたスマホの写真に写っていたのはまるで魔法少女のような可愛らしい女の子だった。
もし、元の世界でこんな彼女が出来たならだれもが羨ましがるようなほどの美少女だ。
だが、だが。
俺の本能が囁いている。
「お、おい。こいつまさか潜伏型じゃないのか?」
俺の問いに帰って来たのは沈黙。
つまり、そういう事だ。
「あれほど潜伏型には注意しろと言ったのに」
「ははは。だが、彼女は僕の理想だったのさ。それにもう僕は」
「しっかりしろ! 今ならまだ戻れる!! 共に誓っただろう?! 俺たちは「ダーリン♡」」
ゾっとして声のする方を向くと、そこには写真に写っている奴と同じ人物がいた。
「やあハニー。今ハニーの話をしていたところさ」
「やだなぁもぅ。恥ずかしいよぉ」
「ははは。それでどうしたんだい?」
「ダーリンに会いたくって来ちゃった。授業までまだ時間があるし二人っきりになれるところに行こうよ」
「ああそうだね。それじゃあ雅也、失礼するよ」
和樹はフラリと幽鬼のように立ち上がった。
「雅也。君は、君だけは生き残って欲しい。僕のようにはなってはいけないよ」
そう言ってフラフラと教室から出ていった。
それを追いかけていく潜伏型。
「余計な事ダーリンに吹き込んでんじゃねーよ」
そいつは立ち去る瞬間俺の耳元でそう呟いた。
それは先ほどまでの可愛らしい声と違い低音の男の声であった。
そしてそれを最後に和樹は学校に来なくなった。
ー▽ー
くそっ!
どうしてこんなことになったんだ。
約束したじゃないか!!
奴らの魔の手から逃れ、共に栄光をつかみ取ろうと。
なのに5人いた仲間ももう俺一人になってしまった。
過激派に捕まった三島は精神的ショックで家から一歩も出てこなくなってしまった。
偽装型に妥協してしまった松永と新田は音信不通。
そしてついに、和樹までもが奴らの魔の手に落ちてしまった。
魔法少女オタクの和樹は大丈夫だと思っていたのに。
まさか潜伏型に捕まるだなんて。
どうしてこうなった。
やはり共学は修羅の道だとでもいうのか。
だが、俺は諦めない。
何が何でも本物の女子と付き合ってやる。
俺はあいつらの分まであきらめる訳にはいかないのだ。
希望を託されたのだから。
もはや一人となった今、これからの道のりは困難を極めるだろう。
だから何だというのだ。
俺はどんなことがあろうと絶対に屈しない!!
必ずや栄光を手にして見せる!!
「......何一人で百面相しているのさ」
「うおっ、お前起きてたのか」
ミハルがベッドから起き上がってジト目でこちらを見ていた。
「うん、さっきね」
「そうか、体調はどうだ?」
「だいぶマシになったかな?」
ミハルはどうやら風邪を引いたらしいので俺はこうして見舞いに来ていたのだが、ミハルの両親が急用で出かけるためにミハルを見ておいてくれと頼まれたので俺はこうしてミハルの部屋にいた訳だ。
幼馴染とはいえ風邪ひいた奴と長時間同じ部屋にいさせるなよとは思うものの、生まれてこの方風邪なんて引いたことはないし俺にとっては何の問題もなかった。
普通に心配だしな。
ちなみにミハルの父親は勝ち組だ。
「それはよかった。腹は減ってないか? お粥でも作って来るが」
「え、雅くんが料理を?」
大丈夫かこいつという目で見られた。
「失礼な。お粥ぐらい作れますぅぅ」
「ふふふ、冗談だよ。じゃあお願いしようかな」
「オーケー。任せろ」
そう言って俺は立ち上がり、ミハルの部屋から出てキッチンに向かった。
勝手知ったる何とやらだな。
幼馴染という事で何度もミハルの家には言っているからな。
「えーと、米はある。卵はある。だしの〇もある。ネギも刻んでっと鍋がないな。どこだ」
下準備は完了したが、肝心の鍋が見当たらない。
そこら中をひっくり返すわけにはいかないし。
どうやら俺はミハルの家の事を何も知らなかったようだ。
まあいいか。
ちょっとミハルに聞いてこよう。
という事で再びミハルの部屋に戻る。
「おーいミハルー、鍋ってどこにある...ん...だ」
バンッと無動作にドアを開けるとそこには着替え途中のミハルがいた。
それだけなら本来は問題はなかっただろう。
だが俺はそこで信じられない光景を見た。
下着姿のミハルは、華奢な体躯に丸みを帯びた体つき、そして解かれたさらしの間から見せるのは膨らんだの乳房。
明らかに女性のそれであった。
「き、きゃああああ!!」
硬直する俺に追い打ちをかけるようにミハルから発せられる女の子のような悲鳴。
「でっ、出て行って!!」
そして俺は物を投げつけられ部屋から追い出され、締め出された。
やべぇ。
なんだコレ。
心臓がバクバクする。
ちょっと待って、これはどういうことだ?
いったんおおおお落ち着こう。
幼馴染の看病をしていたら、男と思っていた幼馴染が実は女だった。
やべぇ、意味わかんね。
いや、あれか。
女と言っても戸籍上は女の奴らの事か?
それならミハルは男ってことだ。
ってそんなわけないだろう!?
あまりの出来事にパニックになっていると、ドアが少し開かれた。
「入っていいよ」
「あ、ああ」
パニックのまま、ミハルに言われたとおりに部屋に入った。
そこに立っていたミハルは顔を真っ赤にしており、いつもよりも可愛いと思えた。
それこそどんな偽装型や潜伏型よりも。
「えっと、ずっと黙っててごめんね。さすがに気が付いたと思うけど。ボク、女の子なんだ」
ミハルは顔を真っ赤にしながらもとても不安そうにそう言った。
「お、おうそうか。女の子ってアレだよな。男を見つけるなり執拗に追いかけてくる過激派とか、見た目で騙して男を刈り取る偽装型や潜伏型がいるアレの事だよな」
しかし、ずっとミハルの事を男と思っていた俺は現実逃避に走る。
だって、ミハルは、ミハルは、えーと?
それを見かねたのかミハルは何かを決心したかのように俺に詰め寄って来た。
「違うよバカぁ。ボクは、私は女の子だよ。雅くんがずっと好きだった女の子だよ。いい加減気づいてよ」
そして俺を押し倒し、体を密着させる。
女性特有の胸のふくらみと下半身にないふくらみはもちろん、ミハルのその全身が自分は女性だと俺に訴えかけてくる。
「私の裸見たんだし、責任取ってよね」
そして、ミハルは俺に唇を重ねた。
これは俺がこの地獄で幸せをつかむ最初の出来事。
ー▽ー
とある両親の会話
「雅也ったらいつになったらミハルちゃんに気付くのかしら」
「さあ、でももうすぐじゃないかな」
「あらどうして?」
「だって最近ミハルちゃんはうんと可愛くなってきたからね」
「でも、あの子がミハルちゃんを男と思ったままだったらそれはかなり問題じゃない?」
「まあねぇ。でも、ミハルちゃんだしなんだかんだで大丈夫じゃないかな」
「そうね、ミハルちゃんだしね」
「案外、今頃正体がバレてうまくいっているかもしれないしね」
ちなみにミハルちゃんはちゃんとした女の子です。潜伏型だったなんてオチはないよ。
面白かったらブクマや評価、感想などしてほしいです。
登場人物紹介
柊雅也:主人公。転生者。男女比1:40なんていう男にとって夢のような世界に来たのに現実は地獄だった可哀そうな人。過激派から逃れるために鍛えあげた足は半分人外の領域。基本は逃げるがもしもの時のための護身術は過激派たちの意識を一瞬で刈り取るほどの腕前。それぐらいしないと過激派たちから逃げられないと思っているし実際にそう。前世の記憶があるからか人一倍本物の女の子を求める想いは強い。しかしながら偽装型や潜伏型を警戒するあまりなかなか女の子を見つけることが出来なかった。灯台下暗しだったが。
ミハル:ヒロイン。オトコの娘と思いきや実は本物の女の子。幼いころから雅也が好きでいろいろあって嫌われたくないから男のフリをしていた。普通に美少女。雅也がミハルと一緒に歩いている時に狙われないのはミハルが女の子だったから。初期設定ではミハルは幼馴染ではなく高校で出会ったいい感じの女の子。だけど実は潜伏型だったというオチも考えたけどさすがに主人公がかわいそうだったので今の形になった。めっちゃいい子。
和樹:雅也の友達だった人。護身はできないが、雅也に匹敵する逃走能力はある。魔法少女オタクだったが、潜伏型に捕獲された。
その他の男たち:犠牲になった人たち。
過激派:狙った獲物を逃がさないために日々自分を鍛えあげる無法者。ほとんどの男では太刀打ちできず、逃げるのも困難なため、普通の男はまず外出できない。捕まれば悲惨。
偽装型:見た目は美少女なオトコの娘。その容姿で妥協する者を狙う。ちゃんと生えてる。
潜伏型:見た目だけでなく中身も本物の女の子のように振舞い、本物の女の子だと油断しきったところを一気に食らいつく狩人。たぶん一番たちが悪い。やっぱり生えてる。