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『投』魔法使いの冒険譚 〜異世界やきうの球世主〜

作者: マムル

閲覧ありがとうございます。

久しぶりに短編リハビリです

ある暑い暑い夏の日__

僕は今でも思い出す。

すっかり平和になったこの世界で、目の前の子供達の野球風景を眺めて。

僕はあの夏を今でも鮮明に思い起こせる。

あの暑い暑い夏の日__


踏みしめる硬いマウンドのプレート。

スパイクの土を踏みしめるザッという音。

ボールの縫い目の握りの掛かり。

静まり返る球場。

自分の手を離れキャッチャー__相棒の手に吸い込まれていく一直線の白いライン

転がる白球

そして、飛び交う決戦級大魔法と剣閃。

舞う血しぶき。壊れた魔導具のカケラ。

血生臭い腐った鉄のような匂いと混ざる真新しい土の匂い。


その全てが懐かしい。


そして、マウンドに立つ僕の背を見守る頼もしい球友たち。

僕は追憶の中で全員を見回す。


一塁ファーストを守る魔導ゴーレムのゴッチ。その単眼の目と目が合うとぎこちなく片手を上げて答えてくれる。かわいいやつだ。魔改造に魔改造を重ねたその体に隠されたすべては、人間界のみならず魔界でも稀有な存在であろう。魔界像。破壊像か?


二塁セカンドベースから少し右に離れた位置でこちらを熱く見つめてくるのは神金聖騎士団の団長であるセルバンテス。純白の鎧とマントに茶色いグローブは似合わない。“名目上の”チームリーダーでもある。彼の加入はもっとも遅く、様々な苦難があったが、それは神金聖騎士団と我がチーム【亜人あじんタイタンズ】との因縁による物であろう。彼個人は神を信仰しすぎているのが玉にきずだが善人だ。


首を左から右に回すと遊撃手ショート戦猫ワーキャットの少女であるリンディスが悪戯っぽくウインクしてくる。このチームではもっとも古いメンバーであり野球のルールやセオリーへの理解も深い。僕が最も信頼している。“鉄壁のリンディス”を名乗っているが、“絶壁のリンディス”との呼び声も高い。その身体能力の高さで幾度もチームを救ってきた。


三塁サードベース上で目を瞑るかの如くバッターを睨みつけるのは糸目の武人、シジマだ。リンディスとは逆に野球への熱はそこまででは無いが魔族への恨みと平和への渇望が彼の信念となっている。当初はチームに打ち解けられず苦労したが、連携と信頼に結ばれた今ではリンディスと合わせ鉄壁の三遊間だ。準決勝で球場の結界ごとホームラン性の球を切ったその刀、“朝霞”“夕霧”“夜露”もその腰に無造作にぶら下がっている。


左翼手レフト_グローブも持たず腕組みをしたまま、その爬虫類テイストの尻尾を左右へ揺らしているのは龍人と竜人のハーフの女性である、逆立つ赤毛の女性、イグゼスカ・ディーハイド。今でこそ人間サイドで戦っているが、時に魔王に傭兵として雇われることもある“どっちつかずのイグゼスカ”だ。まぁ、今はもうキャッチャーのアイツにべた惚れだから裏切りは起こらないのだが。遠くでわかりづらいが少し舌打ちした様にも見える。早く投げろだって?


中堅手センターの紺色のローブを着た青年はミゲール。時を操る魔法をベースに瞬間移動や透明化、光線収縮砲などを開発した稀代の天才大賢者。数千年の時を生きるエルフの観測者であったが、“脅されて”参加しているらしい。情報が少なく、つかみ所のない男だが“歴史の枠に収まらない賢者”の名にふさわしいのではないだろうか。彼も目が合うとウインクと共に魔法で小さい花火を打ち上げた。


右翼手ライトの修行僧にしか見えない男性。托鉢で年齢不詳の顔付き。

彼は仏の化身であり、名をカネミツという。

…これ以上の説明が必要か?坐禅を組み上下逆転しながら満面の笑みで浮遊する男を見て。



そして____幻想の中の僕がマウンドの正面に向き直る。

そこには女房役、捕手キャッチャーのカッツォ=イソノこと進藤 球|しんどうきゅうが少しニヤつきながらキャッチャーミットを構えている。その表情は他人には不敵な笑みにしか見えないだろうはが、僕にはわかる。この先の分からないゲームをただ“楽しんでいる”。子供のように。彼の開発した鍔付きの帽子を逆向きに被り、ユニフォームを着こなしてはいるが、プロテクターもマスクも無くて恐怖心はないのだろうか?まぁ、恐らくは無いのであろう。

僕も彼のすべては知らない。ただ、他の人よりは多く知っている。

曰く、日本からの転移者。

曰く、伝説の勇者。

曰く、ノックランド王国の貴族、イソノ家の創設者。

曰く、100の名前と顔を持つ闇社会のボス。

曰く、女には見境ないスケコマシ。

曰く、神

曰く、すべての記憶と能力を失った孤独な人間。

曰く、野球の伝来者。

曰く、僕の女房役で、野球をこよなく愛するプレーヤー。

曰く……まぁこれぐらいにしておこう。彼への話は尽きない。

この全ての話が当たりでもあり外れでもある。

とにかく、魔改造した魔導ゴーレムやら、龍人と竜人のハーフやら、仏の化身やら、大賢者やらを集め、チームとして作りあげた男なのだ。

僕も彼に救われ__



「ねぇ!コーチ、次のメニューは!!??コーチってば!!」

少し思い出にひたっていると、不意に子供達の甲高い声で現実に引き戻される。


「……ん?あ、あぁごめん。ちょっと昔のこと思い出して懐かしくてね…そうだね、少し休憩してから試合形式のミニゲームをやろうか。」


「最近コーチぼーっとしてるの多いよ?僕たちがお話聞いてあげよっか?」


「…そう、かな?」


「そうだよ!だから休憩中はコーチの昔の話して!悩みが分かるかも!」


「お前ら、これが狙いかぁ?別に休憩時間を延ばしたりはしないよ?」


「いいよ〜別に。コーチの昔話面白いんだもん。」


「そ、そうか…ならしてあげるよ。今思い出してたのは、魔闘球技大会の攻士園大会の決勝で__」


子供たちに話しをしながら僕の頭の中ではさらに遡って思い出を探していた。

決勝大会の話は少し後にして。

まずはそこに至るまでの思い出話に付き合ってもらおう。


★☆★


僕___クライ=ファーレンハイト。12になる年の夏。

輝く金髪は綺麗に肩で整えられ、今日の儀式の為に整えられた紺色の礼服とマントは、童顔の僕には全く似合っていなかっただろう。


「お、おめでとうございます!古代魔法アーキテクト!!古代魔法アーキテクトですよ!この国では初めてです!すごいです!好きになりました!結婚してください!先ずは愛人からでも!!」


目の前で聖職者とは思えない発言を重ねるのは幼馴染でもあり、一つ年上の聖女レリィ。

それもそのはず、このベースメント公国では初めての古代魔法アーキテクト持ちだ。興奮するのも無理は無いだろう。僕はレリィの反応ですごいことだと分かり誇らしくなったが、話の大きさに頭がポワポワと浮かぶ気持ちだった。


「え〜っと…『とう』魔法というらしいです。わ、私も聞いたこと無い完全なオリジナルかと…クライ君はファーレンハイト領の後継ぎに収まらず、しゅっごい才能があったんですねぇ…」

少し冷静になったのか、古代魔法の名前を教えてくれるレリィ。甘く噛んだ。

何はともあれ、僕は12歳の授魔ジュマの義を終えることとなった。


それから数年。


『投』魔法は全く発動しなかった。ええ、しませんでしたとも。


古代魔法アーキテクトは発動トリガーを見つけるのが難しいらしく、なかなか見つからない事も多く有る。ましてや、ほとんど情報の無い魔法なら尚更だ。


それでも、最初のうちはまだ良かった。発動トリガーの問題だけだったから。


様々な人がクライの元を訪れ、投魔法を研究や調査の名目でどうにか投魔法を発動させようと努力した。もちろん、両親のバックアップとファーレンハイト家の威光により様々な能力・階級・人種が集まったものだ。


高名な研究者、学者、神官。

経験豊富な冒険者、傭兵、魔術師。それらを含む様々なギルド。

魔力の扱いに長けた龍人、稀人、エルフ。

果ては、国の一大事として国王お抱えの勇者、医者、指南役、暗殺者まで。

その誰もがクライの才能を開花させる事が出来なかった。


もちろん、クライ自身も思考錯誤を重ね、様々な方法で才能を開花させようとした。それはもう必死に。

無茶なトレーニングに始まり、人の魔法を体で受けてみたり、魔物に剣を投げるだけで戦いを挑んでみたり。魔力が足りないのかとも考え、魔力の限界を伸ばす薬を飲んでみたり。

ある時には胡散臭い学者が人間を10人殺し、その頭蓋骨を投げるのが発動トリガーだという説を持ってきた。その日の内に両親は死罪となる予定の犯罪者を集め、俺の手で斬首させた。来歴を聞けば死んで当然の奴らでは有ったのだが嫌な感触だったのを今でも覚えている。

案の定というべきか、『投』魔法は発動しなかった。奴隷商人と組んで、犯罪者を高値で売りつけるつもりだったと後に判明した。この事件から周囲の失望がさらに膨らんだのを覚えている。


最初は国中に大大的に報じられた古代魔法アーキテクト持ちの誕生も、俺がその力を発揮する事が出来無かった為周囲の人々は失望していった。最初は王族。次は領民。そして、両親。その流れは波及して行き、国全体が古代魔法アーキテクトの持ち腐れに失望したものだった。


僕の場合、さらに酷かったのは、投魔法以外の全ての属性に適正がなかったのだ。貴族ならば使えて当たり前の魔法。それが全く使えない。発動しない古代魔法アーキテクトと合わせ、何も出来ない置物という意味で古代の遺物、ひどい時には首狩り、詐欺師、嘘つき、反逆者などと影で呼ばれた事も有った。


親は流石に貴族の外面を取ったのであろう。僕から名前を取り上げて放逐することにした。「他国で冒険者でもなんでも好きにするといい」というのが最後の会話であった。

家を出た時に手元に残ったのは僅かな路銀と発動しない『投』魔法だけ。剣の心得なども多少有ったが、古代魔法の開花を求められたため、平民よりまともという程度であった。


僕の暗黒時代の幕開けだ。

それから僕は隣のノックランド王国でうだつの上がらない下級冒険者として燻ることになった。


★☆★


転機が訪れたのは15歳の春。

いつものように下級モンスター討伐と素材収集の依頼を受けようと依頼掲示板を眺めていたところ、男に声をかけられた。やけに陽気な声である。

「よう!!あんた、俺と組まないか!!」


人に話しかけられることすら久々のクライは「どうせまた冷やかしだろう…?」と煩わしさすら覚えつつ反応をする。


振り返ると、この辺りでは…どころかベースメント公国でもノックランド王国でも一度たりとも見たことの無い襟の開いたシャツとやけに意匠の細かい生地の不明なズボンを身に纏った、(日本ではごく普通のVネックシャツとジーンズである)黒髪、黒目のツンツン頭の軽薄そうな男がそこにいた。


クライとカッツォ最初の出会いである。印象はお互い最悪だった。


「……何か御用ですか?冷やかし方を練習するならこの間見かけたゴブリンの首置場に案内しますが」


「…随分なご挨拶だな…」


「僕とパーティを組もうなどという輩は久々に見ましたので。同情なら結構。荷物持ちならほら…周りには筋骨隆々の男たちがいるではありませんか?」


そういって周りを見渡すと、酒場の様になっている冒険者ギルドの受付付近ではパーティがこちらを伺いつつヒソヒソ話だ。クライに聞き取れたかは分からないが、耳をすませばこう言っている。


「またカッツォの野郎が訳の分からねぇ事をしてやがるぜ…新興貴族に取り立てられただかなんだか知らねえが気に食わねえ。」


「まさか|屍体漁り《スカベン》を仲間に…?ありえないわよ。アハハ」


「カッツォのパーティーか…ソロ専じゃなかったのか?なんにせよ、目を離すなよ」


二人の会話に戻ろう。

「あのなぁ!俺はそういう輩とは違うし、ましてや同情なんかでパーティを組むわけがねえ!」


「ほう…なら何故僕に話を?」


「???分からねえのか?そんなにどでけえ魔力を持っててよ?お前の実力を買ってるんだぞ?」


「…魔力が視える???馬鹿にしすぎだ。それに発動しない魔法に魔力が必要ですか?」


これは失言だった。魔法が使えないという設定で冒険者として活動をしているのだ。発動しない、とは語弊がある。


「は、発動しねぇ?ってことは…ちょっと待て?」


そういうと何かブツブツ言いながらクライの上の虚空を見つめ始めるカッツォ。

これはこの世界の人間では見ることの出来ない“ステータス”を見ていると知るのは少し先のことだ。


古代魔法アーキテクト?『投』魔法??初めて聞くが、…はっはーん、お前は、レアキャラってとこか…『投』魔法と出会えたのは俺の運命力が高かった様だな、つっってもまた神様の仕業だろうが…」


内心では驚いたクライも、今度は失言に注意する。

「何勝手に一人で納得しているんですか?独り言のスキルの高さは分かったのでもっとがんb」


「あぁうるせぇ!!準男爵の貴族特権を使うぞ!!お前は今から俺のパーティだ!まずはクエストを受けるからついてこいや!」


「は…?一体何を」


そこまで言うとカッツォはクライを肩に担ぎ上げる。決して線の太いとは言えないカッツォの膂力に驚き、言葉も出ない。


「つべこべ言うな皮肉屋!クエストは…あぁもうこれでいいや!受付のお姉さん頼む!」


「カッツォさん、またこんな高難易度なクエストを…あなたはまだCクラスの冒険者なんですけど…」


「なんだよいつもは平気で緊急のクエスト回してくr」


「はい、受付けましたのでさっさと行っちゃって大丈夫です。(その事はギルドマスターとの秘密のはずではボソボソ)」


「わーったわーった。ジイさんも中々こまかいやつだぜ」


この間数秒。二人には慣れたやりとりだったのだろう。

カッツォの強引さにあっけに取られていたクライはいつの間にか高難易度クエスト、ディ二パープルティガーの群れの討伐への参加が決定していた。

クライを担いだカッツォが冒険者ギルドの扉を開けて出る時には様々な罵声や歓声がそこらの冒険者からかけられていた。


★☆★


二人は街道沿いの大きな木の下で休息をしていた。ディ二パープルティガーの群れの一報のせいであたりに人の姿は見えない。


「んでよう、クライっつったか。魔法が発動しねぇってのはどういう事だ?ここには俺しかいねえ。話して見な。」


「ほとんど見ず知らずの誘拐者に言う事は有りません。」


「なら勝手に推測させて貰う。当たっているなら何も言わなくていいぞ。お前は“元”貴族の坊ちゃんで、古代魔法を持ってる。だが、発動トリガーが分からず四苦八苦。他の魔法もからきし。愛想を尽かされ親に追い出され、隣の国で慣れない冒険者家業をやってる。ここまでは合って___る見たいだな」


「な、な、なんでそれを知ってるんだ!」


「簡単だ。お前の“心”に聞いた。」


ニヤリと笑い答える。事実、転生者として様々な能力を持つカッツォの能力の一つ、読心である。


「続けるぞ。お前は発動トリガーさえ分かれば国へ戻り親の領地を継げる。俺はお前の『投』魔法に多いに興味が有る。そして、俺なら発動トリガーが…恐らく分かる。それがお前が俺に全てを話す理由だ。」


「……胡散臭い。」

一蹴、である。


「…信用がねぇ、か。どうして俺はいっつもこうなんだ…分かった。俺の秘密も喋ろう。それで対等だ」


「内容によりますね。」


「よっしゃ、簡潔に行く。俺は“転移者”であり“勇者”であり“世界を何度か救う”存在だ」


「______は?」


「ついでに言うと“成り上がり新興貴族、イソノ家の家元”であり、“裏社会の顔役”であり“大賢者の友人”かな」


「ますます分からん!」


事実、クライには伝わらない。転移者や勇者はおとぎ話の存在であり、貴族、裏社会、大賢者なども関わりが不明だ。現在に例えるなら僕はジェダイで大統領でプロ野球選手です!などと言われても信じられないだろう。詐欺師、と言う印象だけが伝わった。


「詐欺師…まぁ無理もないか…なら特別サービスだ。俺の能力を見ろ。それで信じてくれ」


と言い終わるか終わらないかのうちに目の前から彼が搔き消える。


「!??」


「おーい、上だ上」

見上げると大きな木の幹に腰掛け、どこから取り出したのかサンドイッチと飲み物の筒を持ち歩いているカッツォ。

そしてクライが姿を確認した瞬間、また姿が消え目の前の草むらに彼の姿が舞い戻っていた。


「今のが瞬間移動。んでこれはアイテムボックスから出した。食うか?」


「食っとる場合か!?説明してくださいよ!」


クライはカッツォのことは実力者であるとは考えていたが、規格外という言葉に収まりきらないという事を改めて知った。それもそのはず、カッツォが軽口で語るのは転移者が持つ10人並みのぶっ壊れ能力のオンパレードであったからだ。

さらに決して自慢しているわけでは無いような軽口からポロポロと飛び出す様々な功績の数々。疑いようのない英雄が目の前にいた。。。


★☆★


「__それで、そんな英雄が僕を捕まえて如何しようと?」


「育成、スカウト、能力開発。それじゃ不満か?まぁ、最終的な目的はあるがな…もっとも身近な目的としてお前の発動トリガーの解析かな?」


「そうか、そうでしたね。どうやって解析するんですか?」

もう目の前の男に能力への疑いはない。希望すら抱き始めていた。


「そうだな、まずはこれを持ってくれ。」


「……なんですか?これ?白くて、硬くて、丸い……ただの球じゃないですか」


「“ただの”?そりゃ聞きづてならない。これは俺が今試作中の魔道具で、芯材には硬さとしなやかさを備え、全ての属性の魔力に耐性を持つシロゴムマリヤシの実を使い、周りにはスーパースパイディの糸とギャックスエレファントの皮でコーティングをし、着色剤にもこだわりが___」


彼の虎の尾を踏んでしまったクライは小一時間、さして興味の無い魔道具への説明を受けた。


「__とまぁ、こうやってグラブの皮を加工する為の魔導ナイフをアダマンから作り上げることで柔らかさと強度を併せ持ち、魔力を通す結界内蔵グラブも開発したんだぜ!この鉱石と皮の比率はもはや芸術的で__」


「そ、それはわかりましたので、そろそろ『投』魔法のトリガーの方を…」


「ん?あぁ、そうか、じゃあ今持ってるグラブを左手に嵌めて、右手でボールを持って見てくれ。…そうそう。ん?あぁ、ボールに魔力が通り始めたか。少し光って視える。いや、でもなんかぎこちないな__まぁいいか、とりあえず、俺があそこで座って構えるからよ、全力で投げて見てくれ。」


カッツォはこの世界の人間とは違うレベルの“魔眼”を持つ。これが自分なら発動トリガーが解析出来ると言った理由である。この世界の人間には魔力を“見る”ことは出来ないのだから。


「少し今までとは違う気がする。肩が熱いというか…『投』げます!」


「こいや!」

そして、刹那。クライの手を放たれたボールが“そこそこの速度”でカッツォのミットに突き刺さる!

100km/h程度だろう。小学生でも体の出来た子なら投げれる程度だ。

しかし__途端にカッツォは不満をもらす。


「お、お前、舐めてんのか!なんだその無茶苦茶なフォームはよ!」


「…え?」


それもそのはず、異世界で初めて作られたボール。当然野球のやの字も知らないクライの投げ方は見事なまでに、“女の子”の投げ方であった。しかし、カッツォは驚き、笑い出しそうな顔とは別に心の底で新たな感情を抱いた。その感情は歓喜と感動。

(こ、こいつ全てにおいてなってねぇ。フォームはお嬢ちゃん投げ、リリースも踏み込みもカス以下と言っていいだろう。でもよ!それでこの速度だ!伸び代の余白だらけ、可能性の塊じゃねぇか!!胸が踊るぜ!!決めた!こいつが居ればできる!俺の夢だった“魔族との野球の試合”ができるぜ!)


「だが、フォームを抜きにしても、お前には才能がある!お前は|ドラ1|《ドラフト一位》でウチで召し抱えるのは確定だぜ!クライ!そうだ!!俺も貴族だ、そろそろお抱えの冒険者パーティを作ろうと思ってたとこだ!」


「ぼ、、僕に才能が?貴族のお抱え冒険者!?嘘だ、そんな…でも、でも、認められた…のかな?あ、ありがとう、ございます」


「オイオイ、涙目になるのは辞めとけ。試合に勝った時だけにしとけや。それにお前はまだまだだ。山の頂に立つどころかようやく麓が見えて来たところだぜ!」


「は、はい!!」

こうして、二人は最悪な初見の印象を乗り越え、尊敬し、尊敬される関係となったのだ。


結局、その日の内に簡単にフォームの調整を手伝うと、夕暮れ時にはクライは高校球児の平均であろう130km/h台程度の球が投げられるようになった。その速度は、女子の弓道家の放つ矢と同程度である。戦闘でようやく使えるレベルだろうか。ディ二パープルティガーの討伐はどこへやら、汗を流し心地よい疲れを感じた二人は近くの村にある空き家へ泊まることにしたのだった。


★☆★


次の日、興奮して寝付けなかったクライも夜遅くまで考えごとをしていたカッツォも寝不足で出立の支度を整えようとしていた。が、途中で何かに気づいたようなカッツォがニヤニヤ笑いつつ、急に大声を上げた。


「特訓だ!特訓をする!!ホシヒューマもシゲノゴローもバンババンも特訓を乗り越えて強くなったんだぜ!特訓だぜ!」


「…急に何を言い出すんですかねぇ、カッツォさんは信頼していますが…それに聞いたことのない名前の人たちの特訓なんて何をするんですか?」

クライの言葉が届く前に、カッツォは話を続ける


「ディ二パープルティガーの群れが速度を上げたらしい。明日にはこの村を通過し、昨日依頼を受けたソカイサキ村の冒険者ギルドから何から全てを食い潰して行くだろう。そうなれば、俺たちの負け、ゲームセットだ。」


「そ、その情報は何処から?」


「今見た。俺の能力の一つだよ。兎に角だ、明日群れが来る。お前はここで迎え撃つ。そして、俺は討伐に手を出さない。お前一人でやるんだよ、クライ!!!」


「い、いや無理ですよ!!僕は落ちこぼれ冒険者で…」


「んなわけねぇだろ!!お前はこの世界で唯一のエース!だぞ!出来るに決まってるぜ!!」


「……どうすればいいんですか?」


「いいか、この村の街道から少し外れれば荒野だ。見通しのいい荒野なら遠距離での“狙撃”が出来る。そう、お前の『投』魔法でな。お前は制球コントロールは良さそうだから、奴らの頭をそこいらの石でブチ抜いてきゃいい。なーに、簡単なお仕事だろ??」


「ディ二パープルティガーは紫犬虎シケンコと呼ばれて集団戦が得意で機動力にも優れたバケモンなんですよ!しかも今回は群れの規模が最大クラスで200頭は下らないと……」


「だーかーら、特訓だと言ってんだよ!!無理を通す実力と精神力、それがテメェに必要なモンだろう!それにお前はもう力を得た。何も出来なかった過去に縛られているただの下級冒険者じゃねぇ。ここいらで一つ手柄を立てとけよ」


「それは…そうかもしれませんが一人では荷が重いですよ…」


「ん〜〜〜そうか。どうすっかな………お?待て待て、警戒網に引っかかったヤツがいる。これは…こいつは何モンだ?近付いて来てるが…虎どもが来てる方じゃあねぇし敵ではなさそうだな…よし、閃いたぜ!やっぱり“二人”で討伐だ!」


「あ、あぁ、そうですか、助かりまs」


「ここに爆速ダッシュで近づいて来る謎の猫娘がいる、ソイツと協力して討伐しろ!!連携も野球には必要だ、闘いにももちろんな。俺が居ると安心しちまうだろうから、俺はちょっと別の場所で世界を救ってくる。んじゃあ、またな。生き残れよ。あ、予備のボールとグラブは昨日の空き家にあるぞ」


「え、えぇ〜〜〜〜〜〜〜〜!!!??」


言うが早いか、瞬間移動で目の前から消えたカッツォ。


そこに、地平線から何者かが土煙を大きく吹き上げ、ドカドカと盛大な音を立てつつこちらへ走ってくるのが見えた。まるで小型の機関車のようだ。近づいて来る毎にその姿が見えるようになって来た姿は人猫ワーキャットの少女であった。そして、丁度カッツォが消えた所へ“頭から”滑り込んで来た。見事な


「NYA、NYAAAAAAAAAAAA間に合ったにゃぁああああああ!」


「ちょ、大丈夫ですか…!?」


慌てて駆け寄るクライであるが、目の前の猫娘が倒れたまま起き上がって来ないのを見て一層心配になる。

立ち上がらせる為に肩から抱えあげようとして、少し泥の付いた顔の猫娘と目が合った。ドクンと胸の音がした気がした。泥に塗れてはいたがクライが見た中で最も見目麗しい猫娘がそこにはいた。


これから長い長い付き合いになる、リンディスとの出会いであった。


★☆★


「胡散臭いにゃ…何処にその英雄がいるのかにゃ?」


「僕が聞きたいくらいだよ…」


その猫娘、リンディスが聞き返して来る。ペルシャ系の猫なのか白く短めではあるが白い髪。ショートボブカットだ。そして、凛と立つ耳。余談ではあるが人間らしい耳はついていない。鼻はぱっと見人間らしいが少し先端部が丸みを帯びているのが可愛らしい。泥を綺麗に洗い落とした顔は大きな目を初め猫の特徴を残しつつも、バランス良く整っている。(人間7:猫3くらいの混じり気だろうか)


胡散臭い、と言いつつジト目になってもその表情すら美しい。

クライがポーッと見惚れた様になっていると真剣な表情になったリンディスの方から話しかけて来た。


「それで、クライと言ったかにゃ??あんた一人でディニパープルティガーの群れを倒すのは…絶対に無理にゃ。信頼と実績のあるB級冒険者の一団でやっと、という依頼にゃ。」


「それはまぁ……そう思いますが…」


「だからにゃ、この信頼と実績と知性と美貌に溢れたA級冒険者パーティ【猫の如く】の一員、リンディスがやっつけるにゃ!君がそこでハンモックを作って昼寝してる間に終わるにゃ!にゃーに、心配ご無用にゃ!にゃはは」


そうは言うが、強がっているのがバレバレだ。声が震えている。まるで、自分自信を説得しているかの様にクライに話しかけて来る。


「……やっぱり僕も手伝います。しがないC級冒険者ですけど」


「…そう言ってくれるのは嬉しいにゃ。でも本当に必要ないにゃ。本当はパーティのみんなも近くまで来てはいるんだにゃ。ただ、戦略的にこの村と森を抜けた平野で陣と罠を張っているのにゃ。この村へ来たのは独断なのにゃ」


「なんで、そんなことをしたんですか?」


「ここが私の故郷にゃ。村長に拾われ、みんなに暖かく育てて貰ったにゃ。この村の景色。村の真ん中の大きなお家。みんなで見よう見まねで作った石壁。村外れの風車。広場に池に鶏小屋に……この村はお父さんとお母さんの宝にゃ!ディニパープルティガーの真の恐ろしさは植物や動物、人間にも悪影響を及ぼし長期間の凶作を招く。この村も死の村になりあたしの生きてる間には戻れなくなるにゃ。モンスターどもに好き勝手には絶対にさせないにゃ!!!!話が分かったら、足手まといになる前に帰るにゃ。気持ちは本当に嬉しかったにゃ。」


「なら__それならなおさら協力する必要が有りますね。」


「C級冒険者程度がどうやって__」


言うが早いか、急に立ち上がると手に持っていたボールを握り締め、少し遠くに見える石壁を指差した。リンディスも何をするのかと唖然としながらも、クライの一挙手一投足を黙って見守る。昨日カッツォに教わった様に振りかぶると、ボールに熱を感じた。魔力を操ることへの目覚めであるが、クライは知るよしも無い。

熱を感じたまま、腕を高く掲げたワインドアップの状態へ。これは、未だ教わっていない技術で有ったが、体が自然にそう動いた。そして____瞬間。

決して強度の低いとは言えない石壁が、広範囲に渡り砕け散った!


体と腕のしなりを溜めを込み、十分に力に変え放たれたボールは大砲と言って差し支えない程の速度を有し石壁を砕いた__勢いが衰えないままに白い軌跡は森へと消え、幾本かの木々をへし折った音が聞こえた。間違いなく、ベスト・ボールで有った。(時速に直すと約200km/h程度だろう。男子の弓道家の矢の速度程度)

自分の進化に驚きつつも、リンディスへ向き直るとあんぐりとした少し間抜けなツラをしていた、うん、それでも美人なんだが。


「……ど、どうです?これで僕も戦えるでしょう…?」


「何にゃ、今の…明らかにA級冒険者の魔法の破壊力を超え……目で捉えるのが精一杯だったにゃ…それよりも__い、石壁弁償するにゃ〜〜〜〜!」


「す、すいませーん!!」


その光景を遥か彼方から見てフッと笑ったカッツォ。笑みだけを残し、また消え去るので有った。


★☆★


翌日。日は中天。

荒野のど真ん中、少し小高い丘に立つ二人。予備のボールとグローブを身につけ、掻き集めた石の山を詰めた木箱を傍らにおき、地の揺れを感じていた。奴ら、の足音が地響きとなり、第二の心臓があるかの様に体が震える。二人も緊張を隠せない。


「__見えて来たにゃ!!丑の方角。こ、これは…聞いてたよりも」

「__多そう…ですかね」


紫、紫、紫。クライは荒野には似つかわしくない色合いだな、とふと思った。


「作戦通り行くにゃ!!クライは奴らをブチ抜いて数を減らすにゃ!近接戦と護衛はあたしがやるにゃ!出来れば一頭足りとも抜かせないのが良いにゃ。でも死にそうになったら迷いなく逃げるにゃ!」


「逃げませんよ。後ろにあるのはリンディスの故郷です。誰のであろうと故郷を見捨てて逃げる教育はされてません。__それに、特訓になりませんからね!!!」


そう言うと石をワインドアップで構え__第一球を投げた。緊張からか球が上ずってはいたがそこは敵が雲海の如く、蠢く紫の毒沼の様に迫って来ている。そして、敵の少し後方の一団が迫撃砲を受けた様に飛び散ったのが開戦の合図となった。


結論から言えば、作戦は途中までハマった。裏をかかれたのは予想よりもディニパープルティガーの群れの規模が大きかったこと。そして、奴らが機敏で反射神経が鋭かったことであろう。

接近される前に群れの大半をクライの『投』魔法で殲滅できる予定で有ったが、半分程が消し飛んだところでリンディスまで牙が届く位置に押し込まれてしまっていた。仕方なしに少しづつ後退して行くと、村の石壁が見えてくる位置まで下がって来てしまった。周りには簡単な柵と陣地が、塹壕の様に並んでいる。村人たちの最終防衛線だった、と昨日リンディスが語っていた場所。


「__クライ!!右方面が破られそうにゃ!前線は抑えとくにゃ!!左側へ一撃かました後、右へ集中攻撃を頼むにゃ!」


「分かった!!」


クライの投石数は既に100を超えていた。更に、ほぼ初めての実戦がこれである。緊張とプレッシャーから体力は既に限界を越え気力だけで石を投げ続けている状態であった。リンディスも双刀を持つ手はどこか力無く、表情は険しい。お互いに傷と泥と紫の返り血に塗れ、側から見ても満身創痍だった。


その時__リンディスの体が急に何かに弾き飛ばされるのが視界の端に写った。


「にゃっ___」と言う短い悲鳴の後に、石壁の上を越えて向こう側へ消えて行く白猫娘。ちらりとそちらを見たが、姿は見えなかった。無事を祈る間も無く、リンディスを弾き飛ばしたで有ろうソレが目の前で唸り声を浴びせかけて来る!

ふた回りは大きいその個体は十分にボスとしての風格を保っており、群れを消しとばした厄介な防衛者__クライを睨み付けていた。魔力の操作を覚え始めたクライも、あの体全てが魔力の塊であるとの認識した。

どうやら、一騎打ちの様相だ。周りの虎達は吠えて来てはいるが、飛びかかる様相は無く後ずさりをしている。ボスにも吟自があるのだろうか、あるいは面子か。


クライの恐怖感は既に麻痺しており、目の前に立つそれへの恐怖は無い。さらに、極限まで追い詰められたこの状況は逆に集中力を与え、周りだけでなく小刻みに上下するディニパープルティガーのボスの頭を捉えている。確信がある。必ずブチ抜けると。

クライは追い詰められると燃えるタイプだった様だ。


ゆっくりと__虎の子のカッツォお手製ボールを木箱から取り出し、暫しお手玉の様に遊ぶ。魔力の通りが良いお手製ボールはラスト一つ。挑発しているのか、感触を確かめているのか。大虎とのサインの交換では無さそうだ。

そして__幾度かボール手のひらで跳ねた後に__同時に動く大虎と投手。

それは偶々だった。ワインドアップの動きは胸の前を通過し、頭上で構える。

その通過する最中__グラブをはめている左腕の中程に鋭い痛みが走り、目の前に奴がいた。が、問題無い。構えられる。見れば、左手には折れた爪の先が刺さっている。一瞬で近寄り、鋭い爪で切りつけたのだろうが、動きは捉えられなかった。ヤツは得体の知れない攻撃を受け、バックステップをし距離を取ったがその目は怒りに燃えている。

実は、カッツォお手製のグラブは、持ち主の魔力に応じて障壁を作り出す。元々は捕球する為だけの機能だったが、クライの魔力が高過ぎて爪の先端だけが結界の中に切り離される結果となった。それをクライが知るはずも無いし、今は知らなくていい。


とにかく、折れた爪が突き刺さったままモーションを続ける。体バランスも悪くなっているだろうが、全く感じない。淀みなく練習したままのフォームで__投げた。ボールは音を置き去りにして鋭く飛ぶ。

大虎との距離は十数メートル。奇しくも、マウンドからキャッチャーへの距離と同程度。


絶対に当たる、と直感していたのだが__ボスは全力で避けた。いや、消えた。完全に想定外であり、面食らったが血の飛沫が舞っており当たってはいたのだろうとは予想するが…姿が消えた。

しかし、クライは思考の深くまで辿り着く事はなく、限界を迎えていた肉体はその場へ崩れ落ちた。


周りを囲み、輪を狭める虎の咆哮とは別に、誰かの声が聞こえた気がした。


★☆★


目覚めると、そこは見知らぬ天井で有った。だが、粗末ながらもベッドと布で体は包まれている。気配を感じ右を向くと、リンディスも隣のベッドに寝かされている様だった。傷なども見当たらない。


「よう、起きたかクライ!特訓、ご苦労さん。数倍もレベルアップしててなんと言うか、笑うしかなかったぜ。」


「カッツォ…さん?奴らはどうなったんですか…?それに傷は…村は…!リンディスは!?」


「質問が多いな…奴らは帰っちまったよ。お前がボスを倒したからな。すげえ球だったぜ…(敵が)消える魔球とはね、恐れいったよ。」


これは、嘘だろう。本当は群れが半分程度残っていたのをカッツォが倒したと考えている。ボスを倒したのももしかしたら自分の力ではなかったのかも知れない。


「そうだ、嘘だよ。対外的にはお前らが全部討伐した事にするからな。チッ、騙されなかったかよ。だが、ボスの討伐に関してはお前自身の力だ。誇っていい」

また読心、か。


「さてさて、村だが…奴らは村には一歩足りとも入ってねぇ。安心しろ。荒野は荒れてるが、まぁ俺が粗方片付けたし、荒野ってのは荒れててナンボだろ。んでそこの爆速白猫娘。怪我は全て直したし如何わしい事もしてねぇ。そっちも安心しろ。んで、起きたら正式にウチのパーティに誘うつもりだ。傷が思ったより浅かったのもボスの攻撃に対応してたからだろ。戦猫ワーキャットは運動神経の塊だから元々遊撃手ショート中堅センターで考えてっ…てワカンねぇか。まぁ、イソノ家の筆頭だ。上手く行きゃ即出世もあり得るから、お前からも説得してくれ。」


「それは、是非!!」


「にゃ、にゃんにゃんにゃあ……急に大声を出して」


そして、起き上がった白猫娘リンディスを無理矢理にカッツォが引き抜き、クライとカッツォとリンディスの3人での冒険が始まったのだ。


★☆★


それからの日々はアッという間で有った。

本業の冒険者業と領地の防衛、開拓、内政に加え、野球の特訓が始まると更に忙しかった。それだけでは無い。


チームメンバー集め。最初はイソノ領の従者として…と言う名目で有ったが、カッツォの真の目的、魔族との野球の試合の為に様々な能力を持つメンバーをスカウトしていた。武人、仏の化身、龍人と竜人のハーフ、エルフの大賢者。それ以外にも妖精や魔族、犯罪者や王族もいたなぁ。そのどれもが一朝一夕では行かなかった。それに、カッツォは敵でも味方でも躊躇なくスカウトするのでそれを止めるのも並の苦労ではなかったのだ。


道具作り。ボール、グラブ、バット、ユニフォーム、スパイク、プロテクター…それに留まらずにベースやマウンドなどの設備を始めとし、それが目処が立てば球場の建設。もちろん、素材は元の世界の気の利いたものは存在しない為、異世界特有の物を使わねばならず、魔力にも耐えうるものと言う点を考慮すると難航したものもある。竜牙を削り出したバットなども、苦労した一つであろう。ちなみに、カッツォは重力核グラビティコアという鉱石を自身で加工した。


ルール作り。当然難しいルールやややこしいルールも日本の野球では多々存在した。極限までスリムアップし、簡単にした上で異世界特有の魔法を盛り込む。魔法は個人の資質ではあるが、優遇し過ぎれば体を動かすことや、チームプレーをするという野球本来の楽しさは失われてしまう。こちらもカッツォがかき集めた優秀な文官や、たまたま出会った転生者の存在が大きかった。彼らがいなければ未だにこの話は入り口でつまづいていたかも知れない。

結局、日本のプロ野球ルールをベースに魔法は好きなタイミングで好きな呪文が使える緩めのルールでスタートした。


集めたメンバーの特訓と連携。新しいことを覚えさせるのは大変だったし、冒険者として成功しているものは“球遊び”への拒否感を覚えたし、文化の違いに戸惑うものもいた。何よりみんな個性に溢れており、噛み合わなかった。その垣根を越えて野球をやると言うのだ。有る意味ではこれが最も大変だった。


僕個人にも様々な問題も有った。

球速を上げる為に故障しかけたり、練習試合に負けイップスに陥ったり、変化球を覚えればフォークは地面に突き刺さりカミソリシュートは空気まで切り裂き調整に戸惑ったり、人間相手には何故か投げれなくなったり、魔球が魔族圏に環境問題を引き起こしたり__おっと、これは秘密。何よりカッツォとバッテリーを組み信頼を置く間柄になるまで理解し合う事。これも大変だったなぁ。


最後に、野球の楽しさを伝え、みんなにチャレンジしてもらう事。これは存外簡単だった、と言うのはカッツォの談である。

「だってよ、俺が一番楽しみなんだぜ?集まって来た奴に楽しんでくれるようにするのは当然だろ??」との事。


そんなカッツォは

「まぁ、監督やらスポンサーやらコーチやら雇う必要が無いのは大きかったよな。だって全部俺だもんよ」

この調子だ。楽しんでいる分、苦労も大きかった様だ。僕はその苦労の裏の裏まで知っているんだけど。


★☆★


人間界でも野球が浸透し、王族にも競技として認められしばらく経った頃。

クライとカッツォの出会いからは数年が経っていた。

カッツォが突然イソノ領の従者全員を集め、語った。何故か全身は生傷だらけで有ったが、トラブルを抱えてくる時のいつもの光景なので聞く必要が無いとは思ったけど。

「えーっと、何から話すかね。まずは…俺たちが主催で大規模な大会を開く事になった!!」

口々に全員が語る。「面倒臭い」「やりましたな!」「またか…」「楽しそうにゃ!」何故か咽び泣く仏の化身。天井まで浮いて頭をぶつけるのはやめろ。


「問題は場所と相手だな。まずは場所だが…魔界と人間界の中間地点。ハザマ境界平原。ここに一ヶ月後の開催の為の準備をする。そして相手だが…魔王だ。」


「「「「「「「「「「「はぁ!!??」」」」」」」」」」」


「正確には魔王と魔皇帝の各方面軍。これらの中からチームが選抜され、人間側と勝ち抜けのトーナメント形式だ。まぁ、人間側でも参加チームを募るが恐らく俺たちしか戦えないだろうから、全チームに勝てば優勝だ。10チームも来れば御の字だと思うぜ。」


「「「「「「「「「「「はぁ!!??」」」」」」」」」」」


「負ければ人間界と魔界の境界は大きく後退する上に人間と魔族の小競り合いは終わらない。あるいは好機と見て全面戦争になり得る。勝てば戦争行為は全面的に停止。さらにだ。魔族の間で野球が奨励される!!!魔界の領土を貰っても危険なところを喜んで納める人間はいないしな。良い落としどころだろ?」


「「「「「「「「「「「この野球バカ!!!!」」」」」」」」」」」


「この条件を引き出す為に魔界の奥地に紛れ込み引退した魔皇帝とガチって来たんだ。人間にも武力で上回る奴がいるって教えた上で、対等に勝負しようってな。殺しちまえば遺恨が残りそうだから、辞めといたがよ。あと部下みてぇのがメチャメチャ怒ってた。」


「「「「「「「「「「「ただのバカ!!!!」」」」」」」」」」」


「まぁお前らまでそう怒るなって……俺は魔族も変えたいんだよ。人間が変わって来た様にな。魔族が何故人間界を支配しようとするのか。魔族は街で噂されてる様に人間を食ったりはしねぇ。なら何故?領土を広げ、納めると言うプライドと有り余る力が悪い方に噛み合っちまってるんだ。人間は純粋な戦いには弱いし、虐げるのにも丁度良かったんだろうよ。だからよ、そこに野球と言う娯楽と新たな価値を放り込む。野球は楽しい、上手くなれば尊敬される。そういう社会を作っちまえば結局戦争は無くなる。戦争が無くなった代わりに人間と魔族は野球で競い合う様になる。今回は大きなチャンスなんだよ。俺は人間も魔族も一緒に野球をする世界が好きだ。」


そこまで言うと、一理あるかと全員が頷く。何処まで上手く行くかは分からない理想論、夢物語だが説得力は有った。カッツォの発言はいつだって誰も裏切らなかった。

間髪入れずに何かを懐から取り出すカッツォ


「んで、これが募集用紙だ。魔族には渡してあるから人間界でも広めてくれ」

異世界に似つかわしく無いまっさらな紙が何十枚束になり出てくる。

そこには少しかわいい丸みを帯びたフォントで


【魔族・人間の皆様へ 大魔闘球技大会のお知らせ】

・魔族の勇敢な諸兄方、人間と楽しい球技大会をしませんか!?

・これで貴方も野球の虜!イソノ印の道具も販売中!

・球を棒でぶん殴って魔法をぶっぱ!点数の高いチームが勝ち!

・気に入らない人間は殺してもOK!!


つらつらとルールがその下に書かれているのを全員があんぐりと見ている中、カッツォはニヤニヤと笑ってみんなを見るだけだった。


★☆★


そして、一ヶ月後。

ハザマ境界平原には土魔法で作った立派な球場が建っていた。魔族の参加を踏まえ、全てが通常規模の三倍で作られた球場だ。両翼はポールまでで約300メートル。中堅は約330メートル。塁間が60メートル、マウンド間も約30メートルと言えば少しはその大きさが伝わるだろうか。

球場のバックボードにはスポンサーの広告(例えば、イソノ家、春の柔らか白パン祭り!など。)と共に『第1回 魔闘球技大会 攻士園』の文字が踊る。

そこに集められた殺気立つ13チーム。行儀よくチーム毎に並び、開会式と言うのを待っている姿は目を疑うどころか目が飛び出して大気圏に突入するやも知れない。

魔族側8チームと人間側の5チーム。一つは明らかに能力ではAチームに劣っているイソノ領のBチームの為、実質4チームといってもいいだろう。


魔族側は魔皇帝のチーム【ジ・オルドー】を初めとし、炎魔王、氷魔王の明らかに強者と見えるチームや獣人だけのチーム、黒ずくめのチーム、何やら女性だけのチームもいる。巨人族も含めれば個の力に秀でた、まさに魑魅魍魎、跳梁跋扈の百鬼夜行だ。応援席も暗い雰囲気が渦巻いている。選手の中にはちらほらと人間らしいサイズの影も見えるが、詳細は分からない。


対して人間側はカッツォ率いる【亜人タイタンズ】を始めとして決して何かに秀でたと言えない見た目ではあるが、【神金聖騎士球団】などは揃いの白い鎧が眩しく光っており、チームプレーと連携での戦いを感じさせる。団長のセルバンテスも紆余曲折あり現在では我がチームの一員ではあるが、古巣の躍進を喜んでいる様子だ。

僕__クライ=ファーレンハイトもグラウンドの中央から応援席の聖女レリィと目が有った。ふと思う。ファーレンハイト領は弟が面倒を見ているが、様々な功績から名を戻す事を許された時のことを。相応に嬉しかったが、今ではクライはイソノ領の従者で有りS級冒険者でもあり唯一の投手だ。(カッツォ曰く、お前を見てしまったら他の奴を投手とは呼べない、らしい)名を戻された時よりも、その言葉の方が嬉しかったのは秘密だ。


主催者でもあり、今回の仕掛け人でもあり、最強の勇者と魔族側には認識されているカッツォが選手宣誓の為、“満面の”笑みを浮かべているのを見て様々な反応が飛び交う。怒り、畏れ、呆れ、笑い、愛情、涙……とにかく不気味な笑顔で有ったのだろう。


ちなみにでは有るが、僕もかなり魔族達に睨まれている。マークされていると言う意味が半分、物理的に睨まれていると言う意味が半分。何でも、魔皇帝の所に押し入った時に一悶着以上の騒動が起きているのは間違いないらしいが、詳しくは聞けなかった。恐ろしくて……

そもそも、野球の上では僕には恥ずかしい二つ名が付いている『古の巨神、タイタンの左腕』チーム名をこれから取ってしまったのはもちろんカッツォだ。「俺も巨神ファンだからよ!」とニヤニヤしながら提案して来たので渋々飲んだ。こういう時のカッツォは止まらないからだ。第二候補としてジャイアンツと言うのを提案されたが、満場一致で否決された。タイタンと言う神はポピュラーだが、ジャイアンという神はいない。

あ、因みに僕は左利きだったらしい。利き腕と言う概念は初めて聞いた。これにより、人間相手は右で投げ、魔族相手には左で投げると言うスタイルも確立された。神の左手、悪魔の右手__かな。余談終わり


「え〜っと…選手宣誓!!俺たち、私たちは正々堂々とスポーツマンシップに乗っ取り、ぶっ殺したりぶっ殺されたり生き返ったりする事を誓います!!よ〜っし、堅苦しいのは終わりだ!!やるぜ!!」

かなり物騒な選手宣誓だ。


「んじゃよ、今世紀最強の勇者ジャックのパーティがルール説明と結界と主審を担当するからな。あとは任せた」マイクを開会式の台の後ろで並ぶものものしい装備の勇者一団に投げる。ワタワタと受け取ると、何やら小声でジャックとカッツォが話しているが全て漏れ聞こえている。マイク入ってますよ。


「え…え?僕そんなの聞いてないんですけど!!結界って、あんたの魔法止めれる人とかいないんですよ!カッツォさん!!ルール?そりゃ覚えてますけど…あぁもう、大魔法構えるの辞めて下さい!分かりましたよ…え〜皆さん、主審のジャックです。勇者やってます。基礎ルールは人間界のプロルールですが、魔族の皆さん向けに複数追加があります。

一つ、相手チームのメンバーを倒した場合…殺したり無力化した場合は得点が一点追加される。

二つ、試合中は各チームで蘇生魔法が使える回数は5回。それ以降はメンバー交代して下さい。魔族の皆さんは自然に再生した場合も蘇生したと見なしますので悪しからず。

三つ、全ての魔法が使用可能です。瞬間移動に寄る走塁や大規模に地形が変わる程の大魔法は…一人を除いて人間側で使える人は居ませんので禁止でしたからね。

四つ、全ての魔道具の解禁。精神を操るもの等はプロルールでは禁止でしたが…今回は禁止しません。

五つ、トーナメントで両陣営のチームが当たった場合、両チームとも勝ち抜けとするか、協議の上1チーム勝ち抜けとして構いません。

それ以外は禁止などは有りません。」

ここまでウンウンと頷きながら聞いていたカッツォ。急にジャックからマイクを奪い取り

「んじゃ、始めるか!!因みに俺は、楽しめれば勝敗は二の次だ!お互い楽しもうぜ!」

よく通る声が、青空とは言えない空に響き渡った。


★☆★


そして試合は始まった。

初日、1回戦。炎魔王のチーム【炎魔】との戦い。力に長け火を操るのが上手い一団。金の炎が蛇の様に体に纏わりつく、嫌味ったらしく見える男が炎魔王だ。配下の中では黒く燃える鎧に包まれた巨躯や、高熱で青白く燃える人型に笑みを貼り付けたようなモノが目立っていた。

まぁ、正直楽勝で有った。ルールへの理解度が低く、ただ人間を殺せば良いと考えていた一団である。(例えば、タイムの最中の相手選手への魔法攻撃。一度目は警告、二度目は退場。)

ルールは破られると相手が進塁するものや、容赦無く退場あるいは試合終了まで拘束となるものも有り、その制限に掛かってしまい最後はフィールドには3人ほどしか魔族が残っていなかった。拍子抜けである。

が、最後は拘束されていたものが何者かに解放され、乱闘騒ぎとなった。図らずしも、それを無傷で抑えた【亜人タイタンズ】の戦闘力の高さも浮き彫りとなる結果で有った。176対1の大量点差である。(1点はイグゼスカの無気力エラーによる得点であったが、乱闘により100点を稼いだのもイグゼスカである)

因みに、人間側は一回戦で3チームが敗退。【亜人タイタンズ】の他には各地の冒険者ギルドよりS級冒険者を集めた【SSSトリプルエス】のみが残る結果となった。

初日の夜は、試合が日中の為参加出来なかったヴァンパイアチーム【夜の王】が寝所へ攻め込んで来たのだが、野球が出来ない逆怨みで有った。ナイターでの再戦を約束し別れるだけに留まった。


二日目、2回戦。謎の黒ずくめチームが登場。その中身は魔族の中でも改造に改造を重ねられた人造魔人とでも言うべき集団【進化プログレス】。試合が始まっても得体の知れない手の内の読まれ方をし、幾度となく追い詰められたが、そこに違和感を感じたシジマの独断により相手チームに探りを入れたところ、裏の監督と言うかチームドクターが畜生王とも言われる低魔王であった。かつてカッツォ・クライ・リンディス・シジマの4人で潰した組織【超越者】の一団の首魁が魔族に下り、作り上げたチームで有った。

7対8の辛勝で有る。クライの新魔球“ゴールドナックル”(カッツォ命名)とカネミツの神の手とも言うべき守備が勝敗を分けたので有った。

2回戦で特筆すべきは魔族同士の戦いとなった一戦である。通常であれば、トーナメントで魔族同士が当たった場合はどちらかが辞退するか、両チーム勝ち抜けとして人間側チームと当たるようにするルールである。が、獣人のチーム【ワイルドワンズ】と人型の魔人?のチーム【愛】が互いに譲らずという戦いで有った。3対2という接戦で獣人のチームが敗北したのだが、なんとも面白みの無い地味な試合で有った。技術の差は垣間見えたのだが…

それに獣魔王シシールの試合後の談では「分からん、何も出来ずに負けていた」との事で有った。以前に戦闘をした限りでは、ダイナミックで派手好きな御仁とは知っているので地味な試合には違和感を覚えるのであった。


3回戦。二日目の夕方。

セクシーな女性だけのチーム、蟲魔王ベルゼ率いるチーム【ダーティハニー】。こちらも強敵で有った。全身を蟲に変え、蟲でボールを運び、蟲で走塁し、蟲でホームラン性の打球すら捕球する。何より、カッツォは蟲が弱点で有り急遽代わりのキャッチャーが必要となったのだ。結局、人間界でも有数の結界の張れる王女アナスタシアが選ばれたが、遠慮したクライが全力で投げることが出来ずに15点もの大量リードを許す。覚醒した聖女レリィがキャッチャーを変わらなければ恐らく負けていたのでは無いか。15対18、サヨナラ満塁ホームランを打った魔導ゴーレムのゴッチと、魔力で蟲取り網を作った大賢者ミゲールがヒーローだった。

3回戦では冒険者ギルドのチーム【SSSトリプルエス】は古の龍のチーム【サーガ・ドラゴンズ】(佐賀の地元チームじゃねぇ)に全員が殺されて9対0のコールド。蘇生後、全員がとても悔しそうにしていたが1、2回戦と野球を楽しんでいたのが印象的だった。

魔皇帝のチームも順当に勝ち進んでおり、その高い技術力を伺わせた。魔皇帝は実は数十年前に転生したプロ野球選手であり当然の結果とも言えるだろう。余談ではあるが、魔族側にも一定数の異世界転生者はおり、野球好きや戦闘嫌いのものもいた。秘密裏にそのようなものを集めたとも魔皇帝本人からカッツォは聞いている。


優勝まではあと二勝か三勝と行ったところだろう。チームメンバーは強敵の試合を見て気合いを入れ直したのである。


★☆★


三日目。準々決勝。劣魔王と呼ばれるガムサムラムのチーム【ヤクシャ】。劣魔王と呼ばれるだけあり、卑劣な手段を得意としている。正々堂々と卑劣。これが信条。右側半分がピエロ、左側半分がひげ付き紳士のような仮面を被っている彼は堂々と、紳士的に、優しくルールの穴を付いてくる。まずは自分のチームに人間を複数人。どれもがイソノ領の元民間人であるが、正当な手段で買い集めた奴隷。それをいつ死んでもおかしく無い出血を抱えた手傷を負わせて、外野に配置。当然カッツォ達が治療したのだが魔道具により際限なくキズが付いていく。魔道具使用許可への弊害だ。さらにエラーをすると殺す。得点が入っても殺す。各チームの蘇生回数は5回まで、それを敵チームの人間に使わされる痛手。点数上では圧倒的にタイタンズが勝っていたが、さらにその後、内野のリンディス、シジマ、セルバンテスが相次ぐ謎の離脱。ガムサムラムの走塁の度に何かが起きていたし、その秘密を話すことは試合終了までの無かった。


「私は卑劣な男。皮肉ですが、表に出てしまえば卑劣とは言えませんねぇ…ふふふ。お仲間に喋っては行けませんよ。そうであれば、正々堂々と同胞の解放を約束します。」


後にリンディスやシジマ、セルバンテスの弱味を握り盤外戦術を行っていたと知ったのであった。


そして、9回の表、【ヤクシャ】の守り。20対0の【亜人タイタンズ】大量リードであるが、ベンチにはチームメンバーがカッツォ、イグゼスカ、ゴッチの3人しか残っていなかった。(僕はファーレンハイト領の危機を救いに行っていた)。

ガムサムラムがバッターであるカッツォへの最後の一球を投げる前にこう語ったらしい。


「私はこれからこのボールを持ち結界の外へ行きイソノ領へ行きます。ルールの4条 試合の終了条件 4項“9回裏の攻撃が終わり得点が多いチームが勝ちとする”。5項 “試合の終了まで、両チームの選手は結界の外に出た場合は戻ることは出来ない”。でしたか?それに、守るものの多い皆様の事ですから、少し説得すれば様々な場所に向かってくれましたよ。そして、私自らがイソノ領へ赴きます。試合はまだ終わらない、あなた達はこちらでゆっくりしておいて下さいな。私が試合を引き延ばしたのはある準備の為でした。それも終わり、あとは私が迎うだけ」


カッツォは少しだけ驚いたが、ニヤッとした笑いを取り戻し反論する。


「オイオイ、それじゃよとりあえずルール2条 投手について 2項 “投手は投球態勢に入り10秒以上…”は投球態勢に入ってねぇか、クソ。んじゃ6条 試合の途中に大幅な遅延行為が見られた場合の対処はどうする?この点差と回数なら俺たちの勝ちでコールドだぞ?」


「それには及びません。先ほどから魔道具『時の鐘楼』を発動しています。この会場は完全に時空間と切り離されました。一秒足りとも試合時間は進んでいませんから遅延行為は起こりえませんよ。ふふ。ついでに言えば、投手はルールを守る様にと言っておりますがね、厳密には私は投手では有りませんよ。ただの魔道具です。この意味が分かりますか?」


「魔道具『空蝉』…か。お前は結界内のどこかにしてお人形を操作してるのか?ほう…やるじゃねぇか。ルールもよく理解しているし魔道具なら結界内から出るのも禁止されてねぇ。お前が外に出るのに何も問題がなさそうに聞こえてしまうな。ならこれはどうだ?8条3項__」


「“各チームの現在のメンバー5名ずつが試合終了への可決を行い可で有れば続行、非で有れば引き分けとし後日再試合とする”ですか?残念ですが、貴方のチームには4名しか居ませんね??私のチームは非に投票致しますよ。」


「けっ、流石にお勉強してやがるな。じゃあ…助っ人、の定義も知っているよな?」


「勿論です。“チームの要請に答えてチーム外より参戦するもの”ですが、残念ですね。時の鐘楼は結界フィールド内と観客席は完全に断裂している。あなたの召喚魔法も不可でしょう。あなた一人だけなら外に出るのも、戻るのも簡単に出来そうですがね…ふふふ」


「では、秘策と行こうか。来てくれみんな!!」と、そこには先程死んだはずのイソノ領の民間人の奴隷がベンチから出て来るでは無いか。


「な…それはルール違反です!墓穴を掘るとは…」明らかに驚いてはいるが、勝ち誇った笑みが半分の仮面からはみ出ている。


「蘇生魔法、ならな。俺はこいつら奴隷どもには一つだけ呪い、をかけている。死んだ後にもまだ働けるように『再臨の呪い』をだ。顔を覚えてる奴らで助かったぜ」


「ば、バカな!悪魔でも使えない呪いを…」


「バカじゃねぇ。バカはお前だ。俺は……悪魔?」


「確かに」「そうだそうだー」と奴隷達。そこに威力を落とした火魔法が飛ぶ。


「んで、お前らのウチ5人ぐらいがウチのチームに助っ人として参入。残り15人は相手チームに残留で良い。いやぁ、敵も寝返る要素が欲しくて助っ人のルールを緩くしたのが功を奏したな。さて、これで頭数は足りたが…どうする?」


表情は仮面でわからないが、ガムサムラムが急に笑い出す。


「ふふ…ふふ…はははは…!!いやぁスバラシイ!再試合となれば貴方達は様々な対策を打ち再戦となるでしょう。このまま私達の負けでも構いませんが…一つだけ禁じ手を打つとしましょう!」


「おぉ、構わんぞ?こいつらもしっかり生き返ってるし、お前の行動はルールに乗っ取ってはいるからな。なんでも来い!」


「本当にスバラシイ。劣魔王の戦術書に於いて禁じ手はただ一つ__真っ向勝負です!」


カッツォはニヤニヤと笑いつつ力強く特製の重核棒グラビティコアバットを握りしめる。

「_じゃ、やるか!」


カッツォとガムサムラムの舌戦は終わった。

そして、試合は21対0での圧勝で有った。


準々決勝のその他の試合は魔人チーム【愛】の辛勝、古の龍【サーガ・ドラゴンズ】が無名の人型チーム【撃打滅砕】に敗北、魔皇帝のチーム【ジ・オルドー】は側近のチームと当たった為、協議の末不戦勝。(二チーム勝ち抜けなど狡いことはしなかったらしい)

ここに【亜人タイタンズ】を含め、4強が出揃う事となった。


★☆★


準決勝。4日目、太陽は中天に登り球場内を暑く照らす。ここ、ハザマ境界平原は西の魔界側が曇天、東の人間側が晴天であるのが常で有ったが、ここ数百年では初めてのことだろう。

【撃打滅砕】___このチームは全てが人型、あるいは人間のチームである。が、しかし魔族側としての参戦である___このチームは“人間を恨む人間族”が集まったチームで有った。そんなチームがなぜ古の古龍のチームに勝てたのか???答えとしてはいくつかあるが、それは努力!!!!!!!そして、古代魔法アーキテクトだ。

古代魔法アーキテクトと言うのは複雑で有り、例えば授魔ジュマの義で火属性や水属性と判別されたとしても、古代魔法アーキテクトへの適性は持っている。そもそも、魔族の強さは人間界では知られていない古代魔法アーキテクトの物によるものが大きい。(とは言え、クライの『投』魔法と言うのは魔界でもレア)そして魔皇帝の指示の下、人間を恨む人間族の古代魔法を開発した。

誤算で有ったのは、恨みが強すぎたのか、努力が過剰だったのか古の龍を打ち倒すレベルにまで強くなってしまった点である。彼らは古代魔法アーキテクト古代魔法アーキテクトを合成して新たな超越古代魔法オーバーアーキテクトを作る事すら成し得た。


そんな【撃打滅砕】の筆頭で有り4番打者を勤めるのは__クライと同年齢かそれ以下に見える白と黒のメッシュの髪をした目付きの悪い少年。服装は魔族の決闘衣装である銀色で意匠の彫り込まれた質の良い軽装鎧。投手は魔族の標準的な喪服である漆黒のドレスを身に纏う赤髪の少女だ。これまでの試合では得体の知れない変化球を投げていた。

そして、試合前の整列、礼と握手の時に事件が起こった。クライとの握手を4番打者の少年が手の甲で払ったのだ。

「試合前から物騒ですね……」とクライ。

「貴様らは俺の『打』魔法で殺す。」と少年。


この戦いは、魔族の歴史よりも人間界の歴史と記憶に残る事となった。後の歴史書では『輝ける内戦』と呼ばれ、人間界の古代魔法アーキテクト事情を激変させた。


1回表。先攻は【亜人タイタンズ】の攻撃。お互いに探り合いとなったが、投手の少女__アクローネは動体視力と足に自信を持つ一番打者の戦猫リンディス、安定感が抜群の二番の団長セルバンテス、居合から最速のスイングスピードを誇る三番の武人シジマを三振に切って落とす。物理法則を無視し、クネクネと変化する球ではあるがこれぐらいの球で有ればクライの球で打撃特訓を行って来たチームメイトが打てないはずがないのだ。

「球が消えたにゃ。確実に捉えてたにゃ…」とリンディス

「わかりません…球が大きくなった様な…」とセルバンテス

「球が増えた。間違いない、全てが本物だ」とシジマ

それがベンチから見た限りではクネクネと曲がるたまにしか見えない、それでも異常な球なのだが。

異常と言えばカッツォも感じていた。人間相手には必ずと言っていい程使える“読心”が通じない。

(全開だから読心も使ったはいいが通じねぇとは…驚きだな。楽しくなって来たぜぇ!!)


1回裏。後攻の【撃打滅砕】の攻撃。クライは変調を感じていた。先ずは人間が相手だと言う事。無意識的に左手では投げる事が出来ず右手での投球となっていた。既に一番、二番、三版打者からストレートを叩かれヒットを浴びていた。さらに、連日の魔球の多投による全身の不調。それもそのはず、大会も4日目。魔球だけでなくストレートにも魔力を込めるクライは幾ら膨大な魔力を持つとは言え精神面への負担が大きい。どうもそれだけでは無さそうであるのだが。

そして4番打者の少年__ヒカルへノーアウト満塁で打席が回る。『打』魔法の使い手、古龍をその打球で消し去った怖ろしき少年。その初球__渾身の力でど真ん中へ投げた筈の球はアッサリと中堅のミゲールの防護を破り、バックボードに運ばれ__そのまま外側の結界を突き破り青空へ消えた。

外側の結界は異世界で言えば1000と数100km/hで飛ぶ龍の突進をも軽く受け止める様に作られており、現実世界で言えば艦載主砲をも耐えうる。因みに今大会結界が破られたのは初である。

「くだらない…全力で行くべきじゃなかった。『投』と『打』の格付けは済んだ。次はお前を殺す。」

「そんな…」

この後、なんとか持ち直そうとするクライで有ったが、4回までに26点を取られた上でバックに助けられなんとかスリーアウトを取る。今大会初のクライの大量失点で有った。そして、ヒカルの打球で初めて死亡と蘇生を受けたのである。


4回までは試合は散々で有った。点差は絶望的で、敵投手の喪服少女__アクローネの攻略も糸口すら掴めていない。しかし少しずつ、味方のファインプレーに盛り立てられて徐々に調子を取り戻すクライ。

「クライ!ショートに打たすにゃ!内角をえぐるにゃ!」リンディスもファインプレーにより士気を上げてくれた。

「クライ君…センターは最早鉄壁を超え鋼…いや新金ゴルディンの壁となりつつ有りますよ!!!早く4番の彼にここまで運んで貰って下さい!!いえ、貴方が抑える所も見ものですよ!」センターのミゲールからの独特な励ましだ。

「ならば我の守る右翼は仏壁…いや完壁だ!!」ライトの仏の化身、カネミツからも声がかかる。


「俺は信じてる」カッツォだ。


「ははは…みんな勝手な事言ってるよ…でも、やるんだ…僕はエースなんだから!」そうしてクライは己を取り戻した。点数は26対0の圧差である。


勝負の転機は5回の表、9番打者でこの回の先頭打者であるクライの打席だ。例により増えたり曲がったり消えたりする球に苦しんでいると、キャッチャーが不意に後逸した球が壁に跳ね返りクライの足元へ転がった。何の気なしにピッチャーへ投げ返すと、次の投球では変化の甘い、恐ろしく魔力が籠っていない球(クライとカッツォにしか魔力の多寡は見えないだろうが)であり容易にセンターへはじき返すことが出来た。その後は後続を切って取られ、得点には結びつかなかったが確かな違和感である。

初ヒットと言うわけでは無いが打力に劣るクライが打てた事が異常で有り、クライ自身は一つの仮説を立てる。キャッチャーが何かしらの魔法を使っている、と。


【撃打滅砕】のキャッチャーを務める無口の大柄な男。短く整えたヒゲを生やしてはいるが、20台後半くらいだろう。名はカニンガム。喪服の少女、アクローネの兄だ。実は二人とも没落した名家の兄弟である。彼は古代魔法アーキテクトの『補』魔法に目覚め、ボールに魔力を込めて返球する事でアクローネの能力を増幅している。彼はアクローネの持つ『球』魔法の魔力、速度、威力、操作精度、負担を5倍に増幅していた。『球』魔法は球状の物体で有れば自由に操れ、形状や数、性質までも思いのままとなる。まさに野球の為の力と言えようか。

これだけなら直ぐにでも手品の種は割れていただろうが、一塁手が『妨』魔法の使い手で有った。どう言うことかと言えば【亜人タイタンズ】側のベンチである一塁側ベンチに認識阻害の魔法をかけていた。こう言うのは大体カッツォが気づくのであるが、そもそも古代魔法レベルの妨害魔法は受けた事はなく、その効果がベンチ全体に及ぶとは思えなかった。(実際は球場全体に及んでいたのだが)さらに、おかしいと考える感情すら起こらない様に妨害すると言う効果も有った。これが【撃打滅砕】の全てである。


実情がそんな事とは知らず、5回の裏は長いタイムでクライからの情報を共有した。未だに全てが掴めた訳では無いが。ようやく掴めた糸口に歓喜し、5回にしてようやくノーランナーで守備を終えた。


6回の表、4番打者カッツォからの打順。カッツォは一つの作戦を提案し実行する。

「んじゃ、やるぞ。作戦、“キャッチャームシムシQ”だ。」

単純な作戦である。キャッチャーが何かをしているなら、キャッチャーにボールを渡さないと言うだけ。

つまりはどうにかしてボールを前に飛ばす必要がある。だが、バントやバットに当てるだけ、と言う技術は全員が身につけているものでは無い。ならどうするか?プロリーグにはバットが持てないもの向けのルールがある。それは、“球をバットに準ずる道具で打ち返す”事である。そして、道具を持てない龍などの種族はどうするか?自らの肉体で打撃を行う。つまり…

「いいか!!俺が度肝を抜いてくるぜ!!」

そう言うとバットを持たずにカッツォが打席に入る。


アクローネは無表情のままでサイドスローの投球態勢へ__入らなかった。

「あなた、私の球をバットで打てないのに素手でいいの?別に貴方が死んでもストライクゾーンに入ったボールはストライクよ?全く正気とは思えないのだけれど。」


「やってみろよ。ウチのエースの球を身一つで止めてるんだぜ?お前のヘナチョコ変化球で死ぬかよ?」

いつものニヤケ顔も、少し固い様に見える。


「その冗談、つまらないわね。」

そう言うと、サイドスローで振りかぶり、ドレスを翻しつつ生き物の様に動く豪速変化球を投げるアクローネ。

刹那__ゴッと言う鈍い音が球場内へ響く。そして、球場内の全ての目がカッツォの姿に釘付けになる。

「________イッテェ!!!!!!だが…まずは捉えた。」

正拳突きの要領でなんとかボールを捉えたカッツォ、そして、ファウルグラウンドに転々と転がっていくボール。それを満足気に見つつ、深く血の滲んだ手の甲をヒラヒラと振り痛みを堪えている。直ぐにその怪我も治癒して行くのだが、痛みはあるのだ。


「そりゃそうだねぇ…」「まさか…本当にやるとは」「すげぇな、カッツォはやっぱ最高だ!!」「これが神の真理か…」などとチームメイトも口々に騒ぎ立てる。

それを聞き、味方にドヤ顏を向けるカッツォ。


なぜカッツォがボールを捉えられたのか?単純な話ではあるが、肉体を守る魔力量が少なくなる代わりにアクローネの辺りまで魔力検知用の道を作っているのだ。当然、こんな真似ができるのはこの世界で最大級の魔力量を誇るカッツォだけだろう。普通の人間は体内で魔力を循環させるだけで精一杯なのだから。


驚いたのはアクローネである。今まで誰もが捉えられ無かった球を弾き返す男___目の前の不愉快な笑い方をする男__コイツは許せない。そう思った。

「お兄様…私、彼を殺します」


そして、暑い暑い日の熱い熱い一打席が始まった。

腕や手を血だらけにしつつ何故かファウルグラウンドへ球を素手で弾き続けるカッツォ。ファウルの場合は主審のジャックより新しい球がキャッチャーを経由して渡ってしまうのに、である。

最早、治癒に使える程の魔力が残らない程の消耗。そして、その球を何度か体で受け止める場面も有ったが“お互いの合意によりデッドボールとする”がプロルールの為、互いにデッドボールで無いと主張。

素手でのバッティングに切り替えて以後、カッツォの集中力は野球のそれでなく戦闘時と同等まで引き上げられていた。


そして、アクローネの消耗も尋常では無かった。時速300km/h(ハヤブサの降下速度程度)近い変化球をこの打席だけで数十球投げている。ちなみに、カッツォは知らないがキャッチャーのカニンガムの能力では“投球時の負担”も5倍になる。それに加え、血塗れになりながらもニヤニヤと素手で自分の全力のボールをぶん殴る初めての相手である。精神的にも疲労が大きい。


そして、その打席の30球目。カッツォの集中力とアクローネの疲労が極限まで振り切ったその一球。内角から外角のボールゾーンに向けてクネクネと曲がるはずの球は甘く入りストライクゾーンのど真ん中へ__その球を待っていたとばかりにカッツォは“蹴った”。

打球は気持ち良いとは言えない音を残し、観客席へ飛び込んだ。この一点は只の一点では無く、アクローネの精神を大きく削った一点で有った。


「とまぁ、一点取ったぜ。気付いた事は……あのお嬢は疲労とプレッシャーに弱い見たいだな。一人30球粘れば楽勝でホームランだ」


「「「「「「「「(お前、カッツォ、あんた)以外に出来るか!!」」」」」」」


「それと…あの球は何と言うか、あいつの魔力量からしたら異常だとも感じたな。とにかくこの回はチャンスだな。絶対に初球から弾き返しキャッチャーには触らせない方が良い。」これは、『妨』魔法を放っていた一塁の男も動揺し魔法への集中が甘くなってしまった為である。

そして、生き生きとした空気を取り戻した【亜人タイタンズ】。6回と7回を合わせ、打者6巡の猛攻で27点を返し、脅威の逆転を成功させる。アクローネは屈辱で唇を噛み締める結果となった。


8回の表「バレたな」とマウンドで話し合うのはカニンガムとアクローネ。

「アクローネ、一つだけお願いがある。殺すとか、必ず三振を取るとかはもう考えなくて良い。持てるだけの魔力で投げるだけだ」

「お兄様、それでは…」「俺も人間への恨みはある…が、この試合は…そんな次元の話じゃない。」

「なら…一体どうすれば」「簡単さ。もっと低次元に考えよう。あいつらを見てたら、楽しまないのが損だ」

そうして、バッテリーは再度息を吹き返し、8回、9回は無得点で攻撃を終えることになるのである。


この試合において、最大のヤマ場はもう一つ有った。それは、クライとヒカルの闘いである。

7度の打席を経て、本塁打が2本、クライを殺した殺人打球が2本、ファインプレーに阻まれた良い当たりが2本、そして6回の裏の勝負は明らかにクライが力勝ちをしたセンターフライ。チームの好調と同様にクライも調子を上げていた。

そして現在、9回の裏ツーアウト。この試合最後になるかもしれないヒカルとの闘いだ、クライも否応無しに気合いが入る。点差は26対27。楽な点差では無いが、これを気負う事は無く、笑顔すら垣間見える。


8度目の相対では、ヒカルの方から話しかけて来た。もう詰まらないモノを見下すような目では無いが、根底には“恨み”が籠っている様に見える。

「フン…『投』魔法の使い手。お前はこの戦いで一度も俺に勝っていない。これは“決闘”であり、“戦争”だ。俺を殺す気で来い。」


「言われなくても、です。僕も貴方に勝ちたい。」


ヒカルにあるのは『打』魔法__物を打つ魔法とそれに融合された『撃』魔法__魔法を強化し撃ち返す魔法、がある。相手の魔法が強ければ強い程、撃ち返す威力も青天井に上がる。超越古代魔法オーバーアーキテクト、『打撃』魔法だ。

クライにあるのは『投』魔法だけ。ただ物を投げると言う魔法だ。しかし、この世界では最大級の魔力を持つクライである。現在クライの球速は500km/hを超える。音を置き去りにし、人の目には映らない世界。拳銃の弾の速度に近い。


それでも、両者の実力は拮抗しているだろう。後は、気力と気力の戦いだ。ここにいる全ての人が息を飲み見守る。


投げる。球は瞬間的に消え、カッツォのミットへ収まる。と、同時に、グバァとも言える轟音が遅れて響く。

空振る。豪快な振り遅れだ。ヒカルの目には驚きが光る。

お互いに目線を交わす。アイコンタクトでは闘志と驚きが交差する。


ワンストライク。


投げる。先ほどのリプレイではなく、魔球である。|止まる《ストッピング》ストレートと名付けられたその球。通常の慣性の法則を無視するその球は、ホームベースとマウンドの中間でクライの魔力をボールから消す。そうすると空気の壁の影響をもろに受ける様になり、急激に速度が落ちる。それは正に、止まる魔球。

空振る。今度は逆に異常な速さのストレートへタイミングを合わせていた為、とてつもなく早いタイミングだ。

ボールが収まる音が先ほどより小さかった為、空振りのブォンという音が球場内にこだまする。


ツーストライク。


そして大きく振りかぶるクライ。最高の一球を投げる為、足をクロスさせ、ワインドアップで頭上に構える。試合の途中から左手での投球に切り替えている。これはカッツォが発破を掛けたことによるものだ。

最高の一球が来る。と、間違いなくカッツォとヒカルは感じている。それは、会場にいる全ての人間族・魔族も感じた。目に見える程の白く輝く魔力の奔流がクライより立ち上る。クライ自身も___間違いなく最高の一球になるだろうと静かに感じている。


___投げる。人の目で捉えられる筈の無いクライの投球が、会場の全員に確かに見えた。それは____白くたなびく軌跡が、投球を終えた今も輝きながら残っているからである。

その軌跡の僅かボール一つ上をヒカルの木製バットが振り切られていた。こちらも、僅かに茶色の魔力の軌跡が残っていた。


スリーストライク、アウト。ゲームセット。


斯くして、クライとヒカルの戦いは終わりを告げた。ヒカルの目はどこか遠くを眺めていたが、その後ろ姿を爽やかな風が通り過ぎていくのだった。


その後、決勝へのもう一つの切符を賭けた準決勝第二試合は_____魔皇帝チーム【ジ・オルドー】の敗北という波乱の結果であった。


★☆★


そして本日は攻士園大会決勝戦。

その日の朝、カッツォは観客席の中でも特別豪華な中央付近の個室席にいた。魔皇帝の専用とも言える貴賓席で有る。


「よ、魔皇帝サンよ。元気?負けちまったな〜、残念だが……決勝で当たりたかったぜ、あんたの精鋭チームと」


「あぁ、カッツォか…ワシもよの。正直、残念である。あんな特訓やこんな特訓で極限まで鍛えたのだが、披露の機会を失うとは……」


「そ、そうだな、見たかったぜ、うん。」


魔皇帝は1970年代の日本から転生した元プロ野球選手である。その時代は非効率とも言える過剰なトレーニングが横行していたし、精神論で解決しろという指導方針もごく普通で有った。そんな魔皇帝が課した特訓が温い筈も無いだろう、カッツォは内心身震いした。

ちなみに、魔皇帝は四番サード。外見は緑の短髪、無精髭を携えた2mを超える壮年タフガイで転生者のチートを持つ熱血漢。彼の特訓から逃げれるものは早々いないだろう。


「ところでよう、魔皇帝のおっさん。」 


「ワシは魔皇帝のおっさんじゃない。コーチかカントクかオジイと呼べ。」


「全部皇帝より10ランクぐらい位が低いぞ…まぁいいや、【愛】ってどんなチームなんだ?」


「あのチームか…一つだけしか情報が無い。」


「昨日アレだけ大負けしといてそれか?まぁどんな情報でもいいや。くれ。今からミーティングなんだ」


「あぁ、それはな。“俺も何も分からない!”意味は分かるか?」


「___なるほどなるほど、それはとてつもなく__難解だ。」


得体の知れない相手チーム【愛】の存在。人型魔人の集団ではあるのだろうが、魔皇帝もその存在を“知らなかった”。名の通る魔人であれば、つぶさにスカウトをして来た魔皇帝にとってはあり得ない事態である。やはり得体の知れない不気味さを覚えたカッツォはありがとよ、と右手を軽く上げ貴賓席を後にした。通常は不敬であると切って捨てられるが、これでいてカッツォと魔皇帝は縁が深い。仲が良いのだ。

結局はミーティングで話す事も無く、無手のまま試合へ臨む羽目になってしまったのだ。カッツォもチームメンバーもしっかり偵察をしていたのだが、【愛】は魔皇帝戦以外は毎回接戦での勝利であり、その全てが凡戦で有った。そして、魔皇帝戦の圧勝は全ての得点が殺害による得点(魔皇帝のチームは呪いと自己再生で何度でも蘇ったのが裏目であった。)で有った為、その戦闘力以外は計り知れない。これまでの戦いが全て作戦で有ったと言うなら__末恐ろしさに身震いをしたチームメンバーで有った。


本日のハザマ境界平原の空は昨日の晴天とは打って変わって……曇天、いや頭上には暗黒が雲のように渦巻く黒天である。日中の最も日の高い時間であろうというのにだ。ちなみにであるが、魔族にとってはこの程度の黒天はまだまだ悪天候にも入らない。

そして、主審として貫禄が出始めたジャックの「全員、整列!」の声と共に両雄は整列し並び立つ。ここでクライは相手のチームリーダーの顔を初めてまじまじと見た。

「な…」息を飲むクライ。その顔は、真横に並ぶカッツォと全く同じであった。彼が絶対にしない安らかな笑みを携えた以外は。


「初めまして、クライ君。私たちは神魔王シンマオウと神の軍勢。お互い楽しもうね。よろしく。」


決勝戦の相手はどうも、神だったらしい。


「じゃ、皆さんもカッツォさんに見えてるわけですか?」

「そうにゃ」「その通り」「誠に不思議」

ベンチに下がった後、メンバーも口々に話し、魔導ゴーレムのゴッチもこくこくと頷いている。

カッツォ自身は「俺にはアイツがクライに見えたり魔皇帝に見えたりするぞ。チラチラと切り替わってクソまどろっこしいぜ。」との事。

結局、カッツォ以外のメンバーには『彼』がカッツォに見えるらしい。少しその姿について神魔王と友好的に話したところ「神だからね。何故か尊敬する人の姿に見えてしまうんだ」とのことだ。観客席の方から「王様だ!」「皇帝がもう一人!!」などと声が上がっていたのはそう言うことだったのだろう。

神魔王の名前については「この世界の創生神であり、最近魔王を倒し魔族の領地を得たから」との事。人間側で参加しなかった理由は?と聞けば「君たちが負けてもいい、と考えてしまうから」だと。


つまりは本気で人間あるいは魔族と戦う為にお忍びで大会に参加した。そう言う事である。

「でも、相手が神ってどう戦えばいいんですかね……?」クライがそうポツリと呟くと、誰かに肩をポンと叩かれた。叩いた相手___神魔王はいつのまにか【亜人タイタンズ】のベンチの片隅に座っていた。


「そう言うと思ってね、一つ提案をしに来たよ」


カッツォですらその気配を感じ取れなかったらしく、“驚き”をその表情から伺わせた。久方ぶりの感情、だ。


「……聞こう。」


「5戦勝負にしないかい?3試合先取した方が勝ち。さらに初戦は僕が【亜人タイタンズ】の助っ人で参加しよう。どうだい?」


「______飲むぜ。お前は打順7番、ファーストで入ってくれ。ゴッチ、初日は待機だ。すまねぇな」


目の前のやりとりがワケが分からなすぎて、混乱するチームメンバーを尻目に神魔王はカッツォと握手すら交わしている。優しそうなカッツォと悪そうなカッツォが握手をすると言う光景も混乱を増すのに一役買っているのは間違いない。ゴッチは右に左にと首を傾げているのみだが。


「うん、こうなるのは分かってた、と言えやっぱり君って面白いね。」


そして、決勝のスターティングメンバーが公開される。ウグイス嬢は人間界の冒険者ギルドミスコンで優勝した、トリスと言う【亜人タイタンズ】ファン1号でもあるギルド職員だ。(カッツォがコネでねじ込んだ)


「さぁ、いよいよ決勝です!が、その前に!!両チームキャプテンの合意により少々ルールの改正が御座いました!!!決勝戦は5戦中3本先取した方が勝ちとなります!!」にわかに、会場内の観客達も盛り上がる。あの熱い戦いがまだしばらく観れるのだ。盛り上がるのも当然と言えるだろう。

「そして、我らが【亜人タイタンズ】のスターティングメンバーの表も今届きました!!!え……これは__?ま、間違いは無いんですね?それでは発表します。」

1番打者、リンディスから始まるいつも通りの打順は7番ファースト、神魔王の名が出た途端に会場がざわめき揺れた。相手チームのキャプテンが助っ人に入るのは前代未聞であった。

「__以上がタイタンズのスタメンとなります!!次に【愛】チームの方ですが……言語が見た事がなさすぎて名前が読めまs」

「なら僕から発表させてもらうよ。」と言うのは神魔王。


ベンチの前に腕を組み立っているのだが、その声は放送席にいるトリスの拡声魔法より大きく、会場全体へ響く。


「1番はピッチャー、アルテミス。大いなる光と闇、そして時を操る神の尖兵。彼女のその球は光より速く、闇より重い。

2番キャッチャー、ブッダ。存在自体が死と不死の境目にある仏の中の仏。あぁ、彼を殺して得点を得ようとは思わないでくれ。うっかり、全ての死と生が反転してしまうかもな。

3番ファースト、クライスト。魔力の根源とも言える天界の峰の守主で神界でも最高の魔力を持つ。彼は魔力の塊と言うか魔力そのものと言うか。それは自身の目で確かめてくれ。

4番セカンド、ディーバ。故もなき我が子だ。野球を仕込むには丁度よかったのでね、手塩にかけて育てさせて頂いた。野球の神にするつもりだがね、未だ信奉者もいない未熟者。この試合で神へと至って欲しいものだが。

5番サード、エロール。運命と心を司る神だ。とはいえ、この試合の結果の操作はさせないがね……」

全ての説明が絶望に満ち満ちていた。神魔王の笑みはカッツォのニヤニヤとは違う優しい笑みであったが、うすら寒さが会場に満ち溢れる結果となったのである。


「さて___我がチーム__いや、今日だけは“元”我がチームか。選手の紹介も終わった所で一言。僕たちのチーム【愛】がこの戦いでもしも勝ってしまった場合。この世界は終わりを告げる。だが世界は滅んでも君たちの存在は永遠に不滅です。」

シン、と静まり返る会場。カッツォが頭をポリポリと掻く音が全ての観客に届きそうなぐらいであった。


★☆★


「まぁどうにもきなクセェと思ってたよ、お前は」


「お褒めに預かり光栄だね。」


「んで、なんでこの試合の結果が世界の命運を握ってるんだ??」


「理由はいくつかあるが、図らずしもこれが世界一を決める戦いになってしまったからだよ。そして、チームで戦うと言う事。神々の約定により、世界一の戦士と神の戦いと言うのは世界を掛けるものと決まっている。」


「ならなんで参加した?そうなる事は分かりきっているだろ??」


「それは私の存在意義の否定とも言える。私の創ったこの世界は“戦いと魔法と娯楽”に特化した。その全ての頂点を決めようと言えるこの戦い、参加しない理由が無かった。あとは、趣味だね。」


「そうか、なら俺は何も言わねぇ。こいつらとベストを尽くすだけだ。」


「そう睨まないで欲しい。あれだけ情報をくれてやったんだ。“味方として”感謝して欲しいね。それに、聞かれたら全てを教えるつもりだったんだよ?その為の初日助っ人権だ。これでようやくフェアと言える__かも知れないね。」


「__テメェの能力は?」


「『全』だ。カッツォ、君をこの世界に転移させた力。クライ、君が持つ古代魔法アーキテクト。魔族の経験や知識に獣人の身体能力。魔導ゴーレムや仏の化身にはなれないが、彼らの実力はもちろん上回る。この世界の全てが、私だ。」


「全く、趣味が悪りぃぜ。最強のチームメンバーも合わせて俺たちには絶対に勝てないってか?高校野球対メジャーリーガーってとこだな」


「あぁ、誤解しないで欲しい。単純な戦争や闘争なら間違い無く勝てない。野球なら可能性はあるんだ。私たちが創ったのは世界や人間や魔族。それらは絶対に上回るが、野球__言うなれば人間の二次創作物なら全能ではない。だから、野球は素晴らしい。筋書きの無いドラマ。」


「もう言う事はねぇな。あとは試合でケリをつけるぞ」


そうカッツォが吐き捨てると【亜人タイタンズ】は長い円陣を終え、同じベンチから神魔王とカッツォが駆け出していく。


1回表。【亜人タイタンズ】が先攻だ。

初回は不気味過ぎる程に静かな立ち上がりであった。まず、ピッチャーのアルテミス。アクローネの様な曲がりに曲がる球でも無く、クライの様な見えないくらいに速い速球でも無い。極めて凡庸な球である。(しかし、異世界野球の平均球速300km/hは出ているだろう)だが、打てない。

「あれはね、ひとえに投球術によるものだと思うよ。彼女は時を操れるが今はほとんど使っていない。あれはそもそも試合で使うものでは無いと言うのが彼女の考えだ。よって彼女はほとんど素の力だけで戦っているよ。まぁ、自己の知覚出来る時間単位を伸ばし、コースの投げ分けもギリギリまで見極めているくらいはしているかも。要は打ち気があるのか、無いのか?内角と外角の何処に狙いを絞っているのか?何球目を叩きたいのか?その裏を突くだけだ。」

嬉しそうに語るのは神魔王だ。


初回は三者凡退に終わる。「ボールが逃げてくにゃ…捕まえたいにゃ」とはリンディスの談。


1回裏。【愛】の攻撃。

クライも、チームメイトも体調は万全だ。負けたら世界が滅ぶと言うプレッシャーはあるが、彼らの動きを鈍らせる要因にはなっていない様に見える。

(よし、今日は球が走ってる!!昨日の準決勝以上の球が投げられそうだ!!)

が、クライの自慢の速球は、初回にして打ち砕かれた。

9対0。それが初回を終えての点差であった。


「何が何だかわかりません…あっと言う間に9点が入っていました…実感も無く操られたかの様な」


「そう言ってる場合でもねえぞクライ!!相手を打ち崩すヴィジョンも見えてねぇ、こっちは初回から追い詰められてるんだクソッ!!」


これ程焦るカッツォを見るのは初めてだろう、チームメンバーも動揺を抱えている。いつもの試合であればチームメンバーの動揺を抑える側で有ったキャプテンのカッツォが、である。これぐらいの点差であればどんな逆境でも逆転してきた【亜人タイタンズ】なのだ。そんなカッツォを見てメンバーにも動揺が走る。


カッツォの胸中は穏やかでない。

(一体なんだあいつらは!!個人単位で見れば完璧なフォーム、完璧なバットコントロール、完璧なプレーだ。一見すると全てが地味で凡庸だがそれは派手なファインプレーが必要ない程に完成されている基礎能力によるものだ。まるで永遠の時間を反復練習にあててきたかの様な__人間には不可能な動き!個人ではこちらも体力や能力で上回るものがいるかもしれないが、それが集団として完璧に機能してやがる!テレパシーで繋がり有っているかの様な…実際そうなのか!!??だとすればそれは日本の繋ぐ野球、守る野球、スモールベースボールの最終形態と呼べるのではねぇか!!!??こいつらは心底ヤベェぞ!!)


つまり、カッツォの焦りは現代日本の野球を知るもの特有の焦りで有った。異世界人であるクライ達には、チームプレーへの恐怖については伝わら無いであろう。彼らの抱いた印象は魔法も使わず地味なプレーを繰り返された結果、いつの間にか大量得点されていたと言う事実だけだ。事実、普段はすぐカッとなる龍人と竜人のハーフのイグゼスカもカリカリせず、いつか得点出来そうと楽観視している。こう言う失点は傷として残りづらく、ダメージがない分対策が打ちづらい。まさに神の掌の上で踊る、と言う事だろうか?


2回以降もクライは打たれ続けた。速球も変化球も魔球すらもだ。対して、相手投手のアルテミスは散発的に安打や得点を貰うが崩れない。いい投手の条件はまずはメンタルだと言うのも分かる。


カッツォもチームメンバーも流れの悪さを感じている。皮肉では有るが、神魔王は楽にヒットやホームランを重ねていくのがさらに焦りを生む。


そうして初戦が終わる。45対6。


【亜人タイタンズ】の圧倒的敗北である。


「おぉ、我らがタイタンズ、負けてしまうとは情けないね。明日は私は不参加にするよ。興醒めだ。」


★☆★


「恐ろしい」


夕食後のミーティング。いつもはうるさいぐらいのカッツォはポツリと呟く。そして、語る。


「みんなは知ってるだろうが俺は平和な世界からの転移者だ。こちらの世界に来て何度ともなく命のやり取りもした。そういう恐怖とは違う、得体のしれないものだ__」

そう言って言葉を切ると、また一息置いて喉から絞り出すように話す。


「俺では奴らに勝てないかもしれない。」

「「「「「「「そんなことない(にゃ、です、ですよ、ぜ)!!」」」」」」」

間髪入れずに答えたメンバーたちだが、その発言に根拠があるわけではない。


「いや、事実だ。俺はこの世界に来て初めて、“野球”で負けた。」

カッツォの“野球”についての愛を知っているメンバーは、その発言の重みを感じているようだ。


「今日は解散だ。一人にしてくれ」

その言葉と共にカッツォは消えたが、あとに残されたメンバーは顔を見合わせる。


気まずい時間だけが刻々と流れていたが、暫くの後にクライはある提案をするために立ち上がる。

「…………僕たちはカッツォさんに頼り過ぎていたのでは無いでしょうか?明日の試合について一つ提案があります。」


★☆★


翌朝。カッツォは言い様のない倦怠感と疲労感により頭を抱えつつ目を醒ます。回復魔法で本来は休養十分なはずなのにだ。


(あ~クソッ、あの化け物集団に付け入る隙が見えねぇ。昨晩シミュレーションを数十試合したが、確率も糸口も見えねぇんだ。とにかく一試合、今日できっかけを掴まねぇといけねぇ……俺一人で)


まずは朝飯と切り替えたカッツォだが、食堂どころか宿舎には誰の気配も見当たらない。


(あいつら、また秘密特訓か?効率悪いからやめとけってのに、人の言うこと聞きもしねぇ。しかも今日も試合だぞ?魔力の無駄使いはするなとあれほど……悩みの種ばかり増えるぜ?試合は10時からだったな……はぁ)


そうして、アイテムボックスから取り出したスクランブルエッグを掻き込みながら何の気なしに時計を見たカッツォ。


時間は9時55分。


悩みの種がさらに増えた。


★☆★


「ク、クライ殿。本当に成功するのであるか?」

シジマが整列しているクライに小声で耳打ちする。


「分の悪い賭けですけど何もしないより100倍マシなはず……です」


「シジマ、あんたも最後は賛成したにゃ!男にゃらどんと構えるにゃ」と、リンディス。


「そうだよ、アタシですら賛成したんだ!!邪魔はさせないからね!」イグゼスカもだ。


「し、しかし……いや、もはや何も言うまい!」

シジマも納得したようだ。 


「魔力反応……来ますよ、彼が!」

クライがそういうと、急いで来たのであろうボサボサ頭のカッツォが瞬間移動でマウンドの辺りに現れた。


「オイオイオイオイこりゃよ、どういうことか説明しろよクライ!

俺以外が準備万端で試合前整列って戦力外通告か!?FA宣言すっぞ!!」

クライに詰め寄るカッツォである。


もともと気弱ではあるクライだが、今日の目には強い意思がある。

「…………えぇ、その通りです。カッツォさん、あなたには幻滅しました。たった一度の敗北でボロボロでしたからね。キャプテンは昨晩の内に僕になりました。」


「__造反とは、おもしれぇ冗談だ。笑って許せるさ。今日が大事な決勝戦じゃなきゃな!」


「冗談?いや本気です。キャッチャーには魔皇帝、【撃打滅砕】のカニンガムさん、聖女レリィを助っ人として迎えました。何も心配はいりません」


「____本気みてぇだな。なら俺にも考えがあるぜ!」

そう言うと、二人のやり取りを背後からニコニコと見ていた神魔王にくるりと向き直る

「オイ神魔王!!!俺はお前のチームに入るぞ!!文句あるか!!」


「もちろん、ないよ。4番キャッチャーで迎え入れる。」


★☆★


「それで、クライとやら。ここからどうするんじゃ。」

魔皇帝は訝しげな顔を浮かべつつ、クライに問い掛ける。


「勝ちましょう。」


「勝ちましょう……って昨日コテンパンにのされたばかりじゃろうに。カッツォもおらんのに無理よのう。」

魔皇帝はため息を吐く。カッツォの為に力を貸して欲しいと頼み込まれ二つ返事で参加したが作戦の内容を聞き、少し……と言うよりかなり意気消沈している。


「カッツォを敵チームに入れて勝つってそれはそれで面白いんじゃがの……不可能という点を除けば」


「僕たちを誰だと?不可能は何時だって可能にしてきた【亜人タイタンズ】ですよ?それに世界を滅ぼさせるわけにはいかないでしょう?」


「そりゃそうじゃが……」「キャプテンは僕、つべこべ言わない!」「お主、なんかタフになったのう……」

そうして作戦を伝える。初回から三回までは魔皇帝がキャッチャー。4回から6回まではカニンガム。7回からは聖女レリィのキャッチャー側の継投だ。そうでもしないと一試合毎にパワーアップしているクライの殺人ボールで潰れてしまうだろう。


そうして第二戦は始まる。

その初回。今日は昨日と変わり、【亜人タイタンズ】の先攻である。

取り決めにより、毎試合先攻と後攻は入れ替わる。


一番、リンディスの打席。チーム【愛】のキャッチャーとして少し不満気に構えているカッツォと目が合う。少し緊張で白い猫耳がピクピクと反応してしまう。

臨んでここにいるわけではないというカッツォに同情してしまうが、手を抜くつもりは毛頭無い。前を向けば精密機械の様な金髪の鎧乙女、アルテミスが無表情でこちらを眺めているのだ。


(たくさんカッツォに救われてきたにゃ!ここで打つのが恩返しにゃ!!もっと強くなった……最強のチームに戻って来て貰うにゃ!!)


言葉ではなく、表情が強くそう語っている。


そうして投じられたフルカウントからの6球目。

リンディスの特製デコレーションバットはボールを真芯で捕らえ、センターを貫く様にライナーで弾き返した。


こうして、反撃は始まった。


4番に座ったイグゼスカの三者一掃タイムリー、次の打順で6番ライト、仏の化身カネミツの満塁ホームランもあり初回から11点の猛攻である。感想は「誠に快なり」とのことだ。


何故今日はそこまで簡単にゲームが進むのか?全員、すぐに一つの結論に思い当たる。


「「「「「「「キャッチャーが悪い」」」」」」」と。


とはいえ、カッツォも異世界野球ではトッププレイヤー。プレイ内容は神の軍勢に見劣りするものではない。ましてや、カッツォの性格的に野球から手を抜くなんてことはあり得ない。チーム【愛】に裏切り行為をしている訳でもない。


ならば何故か?キャッチャーが変わったことには、神の軍勢は誰も動揺はしていない。ただし、神の軍勢にも完璧故の弱点がある。それは、無意識レベルに染み付いた“リズム”だ。

元々チーム【愛】の神々は一定のリズムで機械的に投球やバッティングを行う。そのリズムはチーム全体で共有され、完璧で付け入る隙の無い、さながら止まることのない一つの永久機関の様なチームとなり得る。そこにカッツォと言う……リズムの異なる異物が混入した結果、乱れが発生しているのだ。一つの乱れは波となり、全体に波及し、全てを揺るがしていた。


ピッチャーのアルテミスには動揺は無い。どうこうして8番、大賢者エルフのミゲールを打ち取り初回の守りを終えた。12点もの点差とえもいわれぬ不愉快さを残して。


そして、1回の裏だ。

クライの投球と魔皇帝のキャッチング。急造バッテリーでは有るが、転生前はプロ野球選手であった魔皇帝の技術とクライの気合いの投球で普段に負けずとも劣らぬ力を見せた。

そして、守備での悪い流れは攻撃にも影響するものである。昨日と合わせ、初の三者凡退。一番アルテミス、二番クライスト、三番ディーバを楽に打ち取った。


この初回の攻防に最も驚いたのは何を隠そうカッツォである。カッツォはサインも出さず、アルテミスの球を受けているだけだ。状況は何も昨日と変わっているとも思えないのに、結果は真逆。

(こいつら……いつの間にかこんなに上手くなってやがる!例えば、リンディスのコースの見極め。高めボール球をこんなに堪えれたのか。例えば、セルバンテスのパワー。あいつは器用さ重視のハズだったのに外野を楽に越えてく飛球。例えば、イグゼスカのバットコントロール。苦手だった外角低めに難なく対応出来てやがる。逆らわずに弾き返せるのも技術あってこそだろう。例えば、ミゲールの守備範囲。元々瞬間移動は使いこなしてたが、無茶苦茶な速度のライナーに周り込み結界で受け止める。すげぇな。そして……クライの球。圧巻の一言だぜ。……同じチームならここまで意識することは無かったのによ。今は敵で有るのが嬉しく感じるぜ!俺はこんな強いチームでプレーしてたんだってよ!!)


そうして、【亜人タイタンズ】は二回にも三点を追加して、カッツォとクライの直接対決がやって来た。


この二人の真剣対決の回数は、二年と少しの間共に旅して来たにしては驚くほど少ない。理由はクライの全力投球をカッツォ以外にまともに受けれる人がいないからではあるのだが。


5戦4勝1分。4勝はもちろん、カッツォの方だ。カッツォはホームラン以外は勝ちとは見なさない。


カッツォはゆっくりと打席に入る。その目はクライから離さない。

そして、打席に入りルーティーンをこなすと……おもむろに____バックスクリーンをその禍々しいバットで差し示す。ニヤニヤと、普段通りの笑みを浮かべながら。

それを見てクライは、静かに笑うのであった。


8戦5勝2分___1敗。この試合の後に更新された二人の対決ので結果である。


二日目の試合は、初回の流れそのままに進んだ。しかし、カッツォのプレーは決して神々の足を引っ張るようなものではなく、普段以上の素晴らしいプレーであったとは補足しておく。


ちなみに、本日の【亜人タイタンズ】の捕手であるカニンガムやレリィも活躍の機会が有った。カニンガムは足に自信ニキである、7番ライト、ヘルメスの盗塁阻止。レリィはホームでの聖結界クロスプレー。三番のクライストの無限とも言える魔力を結界をミット状にして受け止めた技術は脱帽ものであった。


二日目の結果は55対7。初日とは全く逆に【亜人タイタンズ】の圧勝である。これで勝敗は五分だ。


そのスコアボードを見て笑うのは【亜人タイタンズ】の面々だけでは無い。本日出場していなかった神魔王も何故か満足そうな笑顔を浮かべるのである。


★☆★


宿舎に戻ると、少し照れくさそうにカッツォが話しかけてくる。

「クライ、ありがとよ。正直、俺は一人で抱えすぎてたのかもな……せめてお前だけn」


「そう言うのはいいっこ無しですよ、カッツォ。それを言うなら抱えさせてすいませんと僕が言うべきです。それより、明日は大事な三戦目ですから、頼みますよキャプテン。こんなに面倒なチームのキャプテンはあなたしかいないんですから」


「お、おぉそうだな……なんか照れるぜ。んでそれも含めて相談したいことがあるんだが」


「あぁ……宿舎の外のアレ、ですか?」

 

「アレ、だ。」


二人して、宿舎二階廊下のガラス窓越しに見える外の光景をうんざりと見下ろす。


『君たちは真の勇者の一団!我が国最大の名誉を貴殿らに授けようぞ!』

『俺も試合に出さしてくれ!頼むカッツォ!いやカッツォさん』

『クライ君~サイン頂戴!それに、夜のお情けを頂けると聞いて……』

『お前ら、うるせぇぞ!奴らには俺の特製マッサージを受けて貰うんだからよ!どけどけ!』

『カネミツよ……答えよ……野球の真理とは何ぞ?』

『獣人の星!リンディス!リンディス!リンディス!絶壁!』


魔皇帝ゆかりの魔族、【亜人タイタンズ】のファン、腕利き冒険者、謎の売り込み、神と崇める宗教家、激励と称して吹奏楽を吹きならすブラスバンド、王族に皇族に貴族に氏族に獣人族に……

人種のサラダボウル状態で、夕暮れ時の宿舎に向けてさまざまな声が響く。

 

「うわぁ……本当にごちゃごちゃだ。この機会だから世界平和法案とか何か発表したらどうですか?カッツォ?」

クライが冗談でカッツォに言うと、何かを閃いたのか悪い顔をしているカッツォ。

「そだな……んじゃ____」

言うが早いか、姿が消える。


すると、おーい、皆さーん、と呑気な声が頭の上から響いてくる。どうやら、瞬間移動で三階建ての木造宿舎の屋根に上っているようだ。


外から口々にカッツォが出たぞ!だの、あれが裏切った勇者か!などと声が響いてくる。カッツォの姿を見て外もパニックが加速しそうだった。


そんの様子はどこ吹く風のカッツォはよく通る声で「あー、テストテスト、静粛に」なんて言っている。準備が整ったのか、外がにわかに静かになったようだ。


クライは外の様子を気にしながら、頭の上から響く声に耳を傾ける。今度はどんな問題発言をするかと興味津々に。不思議と、宿舎内のメンバーも同様に耳を済ませている気がした。


「えーっと、ここに集まってくれたみんな、応援してくれる方、本当にありがとよ!今日で試合結果は五分に戻せたが、勝てるかはわかんねぇ!負けたら世界は終わりだから精一杯やるぜ!!んで……もしも優勝した場合!これも大事だ。まさか神に勝つ奴らを放置は出来ないだろ!!??だから…………優勝したらチームは解散だ!!あ、あと俺は副賞で神からこの世界を貰うからそこんとこヨロシク!」


大問題発言だった。


★☆★


その夜のミーティングは怒号が飛び交った。

やれ解散はしないだの、解散するくらいなら負けるだの。世界を貰ってどうする気だの。

とても明日の試合の話をする雰囲気ではない。


「カ、カッツォ!!名目上のキャプテンは俺と言うことになってるんだぞ!対外的には俺が対応しなきゃならんのだ!理由を教えてくれ!」


こう言う問題発言は元神金騎士団の団長セルバンテスにしわ寄せが行く。カッツォの勝手な行動や発言にチームが揺らぐのは何度目かの事では有るが、解散発言は初めてである。

魔皇帝の元を独断で訪れた時や、魔族の土地にリアル野球盤を土魔法で作った時も、責任感の強いセルバンテスが表面上のキャプテンとして、全ての処理を押し付けられたので有った。南無。


「理由っつってもよ……俺にも考えが有るが、今全部話しても理解が追いつかねぇだろ?確実に言えるのは____優勝して俺の物になった世界は、平和と野球で溢れてるぞ!!楽しみだろ??」


「そんなことを言われても説明が必要なものは確実だ!無駄に民が不安を抱えてしまってるんだ!!」


「不安?そんなこと感じる余裕が有るのが分からんな。俺達が負けたら世界が終わる。まずは勝ちを必死に祈るのが道理だろうよ?勝った後の心配は勝った後にしろ。」


「そ、それは当然ではあるが……」


口喧嘩ではカッツォに勝ったことがないセルバンテス。いつものように歯切れが悪くやり込められてしまう。ふぅっと息を吐き、作ったような明るい声とトーンで喋り始める。メンバーはクライを初め、不満そうな顔を並べ立てているが。


「と、言うわけでスペシャルゲストだ。どうしても今日のミーティングに参加して貰おうと思ってな……入ってくれ。」


一流のホテルマンのように、恭しくミーティングルームのドアをあけると、そこには魔皇帝、聖女レリィ、カニンガムの他に【撃打滅砕】の4番打者、金髪のヒカルと投手の赤髪少女、アクローネが居た。チラホラと魔皇帝の側近でありチーム【ジ・オルドー】のメンバーとして見覚えの有る顔もいる。

「また会ったな、クライとやら。ワシらもミーティングに参加してくれとカッツォ直々に要請が有ったからのぉ。」

髭を撫で付けながら、魔皇帝がほっほっと笑う。


「色々と考えたんだがよ……その、俺は一人で戦ってる訳じゃねぇんだ。それにこの戦いは世界の命運を掛けた戦い。魔族も加わってこそ真の世界を掛けた戦いと言えるんじゃねぇかな、とな。」

そこまで話し、恥ずかしそうに頭を掻くカッツォ。ちらりと、部屋に入って来たものを見て間を埋めようとしている。


「私たちも、お手伝いさせて下さい……クライ、そして皆さん。」

レリィもやる気は十分だ。


「奴らは本気を出していない。神魔王が試合に出ていないのだからな。それなら、こちらのチームも切り札が必要だとカッツォに言われた……か、勘違いするな。世界が滅ぶとお前らも倒せん。一時休戦だ。終わったら殺す。」

ヤンデレボーイのヒカルも協力してくれるようだ。アクローネは周りをキョロキョロと見渡しつつ、ヒカルに同調しようとしているようだ。


「ワシらはベンチに助っ人として登録することと相成った。ガムサムラムの奴との試合の後に助っ人として登録出来るのは4人までと改正されてしまったからの。好きに選んで貰おうかと思うて側近を連れて来たわぃ。」

魔皇帝も自身の能力と手駒を惜し気もなく披露するようだ。


「魔皇帝、レリィ、カニンガムは今日の試合で活躍していたからな。頼れるものは何でも頼らせて貰う。側近達は転生者、転移者を選りすぐってもらったし、ヒカルもアクローネも超越古代魔法オーバーアーキテクトがある。彼らは相談役兼┃助っ人┃《スーパーサブ》ってとこだ。んじゃ、明日の試合の作戦だが_____」

ミーティングは魔族と人間の知識を総動員し、各神々への対策などを遅くまで話し合った。

解散の事や、今後の話には触れる事は無いほど真剣である。


そうして様々に集まった人間と魔族の混成チーム。元々【亜人タイタンズ】は"人"と"それ以外"を繋ぐためにカッツォとクライが作ったチームだ。真にその目的が果たされつつ有ることにはまだ実感は無かった。


★☆★


翌朝。一勝一敗で迎えた決勝戦三戦目。

何時もと変わらぬ様に朝が来て、試合が始まる。

今日もクライは全開である。ストレートはもちろんのこと、魔球、ゴールドナックルや止まる魔球のキレも抜群。この決勝の二試合の間だけで魔力量も伸びているように感じる。散発的に失点はあるが、引きずる様子もない。

さらにメンバーも攻撃、守備に渡り好調この上ない。昨晩のミーティングのお陰か、リズムを崩す為に定期的に局地級大魔法を使っているのが功を奏しているのだろうか、はたまたヒカルや魔皇帝の代打が効果的に機能しているからだろうか?5回にして20点以上の大差が付いている。しかし相手も神、一向に殺すことによる得点は得られていないが。


あまりの楽勝ムードにエルフの弟子に変わって貰おうか、などと軽口を叩くのはエルフの大賢者、ミゲールである。


カッツォが気になっているのは、打順と守備位置に多少変更が有った点。そして、神魔王が9番ライトでの出場の点である。プレーも普通の打球を普通に捌き、普通のボールを普通に打つ。不気味な程に静か過ぎるのだ。


カッツォの脳裏にフラッシュバックするのは試合直前の神魔王との握手。そして不自然な程の笑顔。そして言葉。


『今日も結果が楽しみだね。』


結局、チーム【愛】は何も動かず。終始【亜人タイタンズ】が優勢のまま試合は終わった。クライの背負う槍に始まり様々な秘策を準備していたのだが、それらは肩透かしをくらう結果となった。


これで2勝1敗。まさかの神のチーム【愛】が追い詰められる結果となったのだ。

その日の夜は試合の参加者だけでなく、様々な人が宿舎を訪れ宴会の様相を呈していた。まるで明日の勝利が決まっているかの様であった。


★☆★


その日は【亜人タイタンズ】の全員が度肝を抜かれる風景から始まった。4試合目の朝、少し遅めに集まったタイタンズが整列をしようとした際、満員の球場のざわめきを感じた。ゲートを越えて中に入るとざわめきの元凶、明らかに人の形とかけ離れた者……巨龍のサイズを越える何かがグラウンドで蠢いていたのである。20メートルは有ろうかと言う黒い溶けたゴムのような塊に、黒い穴のような目を彫り、歪んだ口を無造作に張り付けたような異塊。

それに白く輝く巨神。縦のサイズだけで有れば黒い塊の倍は有ろう。だが、目は明らかに敵意を持ち観客席やカッツォ達を睨み付けている。

それがチーム【愛】の末席に並んでいる。その影に隠れていた【愛】の面々はよくよく見れば、昨日までの人型サイズを辞め、巨大、異形、悪辣な物が並び立っている。


もう見慣れてしまった優しい顔のカッツォ、もとい神魔王が口をあんぐり開けたままのナインに歩み依ってくる。


「驚いたかな?私はこの世界で様々な神を作った。その数26体。アルテミス、ブッダ、クライスト、ディーバ……A.B.C.Dと頭文字の順にね……。最初に作った人を見守る神が9体。善なる神が9体。悪なる神が8体。最初に作った見守る神は力で言えば、人間の枠を少し越える程度。後に作った善神や悪神とは格が違い過ぎる。君たちは強い。"3軍"はやめて本気で行かせて貰うよ。」


その言葉には抑揚も誇張も含まれていない。全てが事実だろう。


そうして、またも場内アナウンスの様に【愛】のメンバーを紹介していく。Zから始まる8体の悪なる神。つまりはアルファベットの最後から紹介していくつもりらしい。


「Zから始まるのは暗黒神ゾーグ。闇を司る悪逆無道の存在だ。古来より闇は恐怖の象徴。つまりは闇と言う無形の恐怖の存在だ。今、彼の姿は見えるかい?見えないだろう?だが、いる。___恐怖を感じればきっと見えるようになるはずさ。最後に作った神だが最強と言う訳でもない。悪しからず」

何もいない虚空を指差す。そこに、いるのか?


「Yの頭文字を持つのはヨミ。日本からの転生者諸君はお馴染みかもしれないな?死と生を司るが、ブッダとはまた違う意味で厄介かもな。死に続けたり生き続けたりする苦痛をも伴う。死、と言う安全な逃げ道を塞がれるのはどんな気分なんだろうな?」

黒髪の日本人形の様な幼い少女の見た目、それにに似合わぬ魔力と濃厚な死の気配を漂わせる。


「Xの頭文字を持つのはエクス=マキナ。exでエクスが普通らしいが省かせて頂いた。機械の神、転じて文明の神として造らせて頂いた。こちらでは魔道具や魔法の神として崇められているようだね。魔道具の真髄を見せるまで君たちが戦意を失っていなければいいが。」

3メートル程度の逆三角形をした巨大な機械。胸に嵌め込まれた端正な時計を初め、肩には剥き出しの歯車。腕には大小様々な魔道具。一つ一つが存在感を持ち、日差しを浴びて鈍く煌めく。


「Wの頭文字を持つのはワカンタンカ。宇宙の真理と無を司る神だ。そこの一際大きい黒き異形さ。私も作ったは良いがもて余しぎみでね。宇宙を旅させていたのだがこの度戻って来て貰ったよ。蘇生も許さぬ無に帰すことも出来るが、興を削ぐ真似はしたくない。何せこれは"ただの野球"なのだから」

異形。それに尽きる。先ほどから目に捉えられているのだから説明も不要であろう。通常の三倍のサイズでカッツォが作った特製球場で無ければ、その巨体だけで一塁から三塁まで届いてしまっていただろう。


「Vの頭文字を持つのは嘘と真実の神ヴィジャ。真実も嘘も残酷なものだ。人間にはどちらも必要な業だと彼は思っているのだろう。彼は嘘も真実も受け入れるが業はお嫌いの様でね。」

ヨミと同様に人型では有るが、その姿形は揺らいでいる。顔の造形すらつかめない。それはまるで陽炎に移る人影の様に。


「Uの頭文字を持つのは魂を管理し悪の運命を司るウラヌス。人間も魔族も至極、悪に見いられ易い。元々はそれを良しとしない魂の再生を促す善神だったのだが___悪神として造り代えさせて貰った。それもまぁ……運命か____」

彼女も人型である。サイズ感が少し大きくはあるが。首を刈る為の煤けた斧を持ち、運/名と刻印された目だけのマスクを着けている。口元から表情は伺えないが、さすが神らしく恐ろしく整った顔立ちを覗かせている。


「Tは飛ばして、Sの頭文字を持つのは美と殺人の神セルケト。本来は毒サソリの神だったか?残酷神とも呼ばれ、最も忌み嫌われる悪神。毒殺、斬殺、刺殺、櫟殺、圧殺、銃殺……彼女はその全てをいとおしい

子供の様に愛でる。おっと、人間が人間を殺すのは好むが自身が人間を殺すのは反対らしい。楽しみが減る、とね」

少しレトロなローブを纏ったエジプト風美女。その紹介と不満足な表情からすると彼女自身が人間を殺すことには不満らしい。


「そして____星を創りし神タイタン。始まりの巨神。あそこの白く輝く巨神さ。破壊と創造は表裏一体。また、星を創ったというのは全ての業を生み出したことに等しい立派な悪だ。普段は善神だが。君たちの為に破壊神としての一面で参加してもらうことにしたよ。」

そうしてようやく、優しい笑顔は終わりを告げ、真顔になり【亜人タイタンズ】のメンバーへ向き直る。


「以上の8名に私を加えた9名が真のチーム【愛】。我らが約定に縛られずに本気が出せるのは神になってから初めてだ。感謝する。悪なる神と私の愛を持ってお相手する。」


物々しい紹介の後にデモンストレーションどばかりに魔力を解放する神々。準決勝でクライの投げたボールの軌跡のような、たなびく奔流が一人一人から立ち上る。目に見える程の魔力、というのは普通はあり得ないとは説明した通りだ。

少なくともカッツォやクライとは同等以上の力を持つということの象徴で有った。観客席はもはや言葉もない。

これから人は神魔王と【愛】の本気を初めて目の当たりことになる。


★☆★


カッツォはベンチの中で一人憤っていた。

(クソッ!!!!嵌められたぜ!!!!恐らく神魔王は神々の約定とか言う封印の類いでがんじがらめにされてたんだろう!それが2敗して追い詰められたら明らかに____別者だ。昨日までの不自然な負け方は条件を満たして行くため……まさか!?いつからだ……5戦勝負の提案からか??初日のウチへの助っ人も作戦の内か!!!???納得するしかねぇ心当たりだらけだ!!!クソッ、クソッ!!!)


実際、神魔王が人間を相手に対等な力を出すためには様々な条件が必要である上にほぼ不可能だ。特に「人間相手に追い詰められる」「対等な条件で人に敗北する」などはチームでの敗北だったからである。

単体勝負で有れば、ボクシングだろうとチェスだろうとどんなに手を抜いても人間には負けられないのが道理である。それが神魔王の能力『全』なのだから。


表面上は冷静を装うカッツォだが、やはり表情は暗かった様だ。タイタンズのメンバーもどうするかと頭を抱え、壁に向かいぶつぶつと呟いている者もいる。(大体こうなるのは繊細なセルバンテスである。)


悪い雰囲気を感じ、クライがベンチを出て、少し高くなっているフィールド部分に大げさに足音を立てつつ向かう。


「カッツォ!それに皆さん!僕たちは仲間でしょう!新たな敵が強いのは見れば分かりますが、僕たちはどんなときもチームで勝って来ました!それに今回は秘策も幾らか準備しています。勝って全てを……終わりにしましょう!!!」

普段は弱気なクライのこんな演説は珍しい。


そんな熱気に当てられ、リンディスが答える。

「そうにゃ!!あたしたちはどんなときも勝ってきたにゃ!!絶対に負けないにゃ!!」


シジマもだ。この4人が【亜人タイタンズ】の基礎を造り上げた。

「そうでござるな!!某達は勝つでござる。今こそ故郷の恩、借りを返す時でござる!!」

一人……また一人と立ち上がりクライの下に集まっている。いつの間にか、ベンチの前には試合前の円陣が出来ていた。普段と何も変わらないかのように。相手は一人一人が魔皇帝やカッツォ並であろう、その恐怖を吹き飛ばすかのように。


カッツォはこんなに強くなっていたんだな、と一瞬考えてニヤリと笑った。そして円陣の輪の中に勢いを着けて加わって行くのであった。


★☆★


結論から言おう。この日の試合は敗北で有った。

これで2勝2敗。そして点差は……15対13。紛れもなく善戦で有った。

試合内容はどちらのチームもスーパープレーのみしか無いと言えよう。


敵の四番打者、タイタンとクライの一進一退の真っ向勝負。


投手ゾーグの見えない球はカッツォが魔力感知で叩き返し。


ヨミが死の力を乗せた打球を放てばライトのカネミツがかみの掌で受け止め。


エクス=マキナの魔道具による妨害をファーストのゴッチがアンチ魔導波と言える自壊砲で消し。


ウラヌスの走塁の度にシジマの剣閃がその斧をどうにか受け止め。


ヴィジャの真実の球、と言える打球はリンディスの忌まわしき過去を暴いたがその球を体で止め。


ワカンタンカの虚無の力とミゲールの時魔法がぶつかり合い球場に巨大な渦を造り。


イグゼスカとセルケトの毒を持ち毒を制した戦い。およそ美の対極と言える凄惨な一騎討ち。


セルバンテスは…安定感が有った。しかし、神々を相手にし6回まで無死という防御力は称賛に値するだろう。代わって代打で出たヒカルも、守備固めに起用された魔皇帝も素晴らしい活躍を見せた。


そして、またも9番ライトの神魔王。試合後は明らかに不満気で驚きがブレンドされた顔を浮かべていた。だが、ほんの僅かの間であり


試合後の礼では負けた【亜人タイタンズ】の方が手応えの有った顔をしているのは明白である。

表情の変わっていない悪神達の様子はどこか険しく感じる。

カッツォはお互いに背を向け歩き出した時に神魔王の声を聞いた気がした。

『本当に………楽しいねぇ。』


★☆★


「___だからよ、もう秘策はねぇんだって!」


「アダマンランスは流石に製造も魔力の貯蓄が追い付かないでしょう。それにユニフォームだって明日まで微調整が終わるかどうかといったところ。グラブもガタガタですね。改造で結界の強度が上がったとら言えあんな極大魔法に耐えてるのがおかしいんですから!!皆さん本当に化け物揃いで……」


「化け物??神どものがよっぽどだろ……クライの投げたアダマンランスで殺せ無いどころか、バックホームの足止めにしかならんとは……アウト一つ分の価値じゃねぇぞあれは。あとはクライの超越古代魔法『投球』魔法の制限数次第か……アクローネ頼みだなそこは」


「そうなるでしょうね……ちなみにアダマンランスにはこっそりカッツォの風土混合魔法を乗せてた筈なんですけど……」


「お?分かった?流石ナカジ」


宿舎に帰ってすぐ、カッツォはチームの裏方のヘッドである転移者、ナカジへと話しかける。カッツォはクラス転移でこの世界に来たクチである。ナカジは数少ない生き残りの中でもカッツォと中の良かった友達だ。大体秘策はこの二人の悪知恵から産み出されていた。ナカジが敬語なのは仕様である。


決勝戦四試合目に備えた秘策は4つ。どれもが会場の結界の強度の懸念や調整の難しさから今回の大会での使用は見送る筈であった。


・希少金属、アダマンランスの使用

実はクライの『投』魔法はボール以外にも有用だ。異世界には無かった投げ槍の技術を伝授し、魔力伝導率と貯蓄率が最高を誇るアダマンを惜しみ無く使用した逸品を投擲する。二本しか生産出来ず、その二つを本日の試合で全て使用した。魔力貯蓄には数日が掛かるため明日の使用は不可能。多重結界を軽く破る威力なのは把握していたので、神魔王が結界を張り替えるまでは使用禁止扱いとしていた。


・揃いのユニフォーム

魔導印を内臓し周囲の魔力を効率的に変換する。強度自体もボールの繊維と同等の|奇跡の糸《ミラウェブ》と呼ばれる素材を使っている最高級品。見た目はユニフォームだが実態はアイアンマンのスーツのようなものだ。実は、カッツォの魔力を分けられる機能を内臓していたのだが、カッツォとメンバーの実力差が大きく、負担が考えられた為にユニフォームの使用自体を保留していた。そちらの問題は決勝まででメンバーが急成長した為、カッツォとの格差が埋まり解決された。


・クライの超越古代魔法オーバーアーキテクト

付け焼き刃ではあるが、クライも適正の有った『球』魔法の一夜漬けに成功した。(アクローネは半泣きであった)

『投』魔法と合わせ『投球』魔法として使うことにしたが負担が分からず今日の試合では10球を制限としたが全て空振りを取れた。クライに調子を聞いた限りでは負担も重くなさそうだ。ちなみに今日だけで全215球を投げたクライも聖女レリィの回復魔法により明日には万全だろう。


・グラブの再調整

決勝三試合目の後に「嫌な予感がする」と言うナカジが魔皇帝の側近の異世界転移者、転生者と結界機構の調整を行った。独断である。

人間界の魔術、というのは魔界のお下がり程度のちゃちでお粗末な技術、という厳しい言葉から始まった調整会議は、1日で可能な改良を考えた結果グラブの手の甲部分の結界高速展開化魔導印を、グラブ全体に書き換える、と言うもの。

グラブの平たい一部だけしか魔導印が書けなかったので結界の高速展開に無駄なエネルギーを裂いていたのを、グラブの全体を用いて魔導印を書くことで結界の強度にエネルギーを裂くように変更出来るのである。

要は、変なマークを手の甲だけでなくグラブ全体に広げたら結界が強くなります。と言うことらしい。

グラブの湾曲部は魔族の職人しか加工出来ず、ナカジは技術の高さに舌を巻いた。

結果としてグラブの結界は2倍程度の強度になったのである。今日の蘇生回数が4回で済んだのもこれのおかげだろう。ナカジgj


「と、まぁ秘策は考えてももう出ねぇだろうな……」


「ですね。僕はグラブ最終調整を魔族の職人さんとしてくるので……はぁ~ギンコちゃんとお仕事出来るぅ~」

そう言うとそそくさとグラブをアイテムボックスに仕舞い込み消えて行くナカジを見て、ため息が出そうな笑顔でカッツォが見送る。


明日は最終日。試合は泣いても笑ってもあと一試合だ。


カッツォがそんな話をナカジとしている頃。

負けはしたが軽い達成感と、明日への希望を持った【亜人タイタンズ】のカッツォ以外の面々が食堂に集まっていた。夕食時には少し早い。クライが集まって欲しいと全員に声を掛けたのだ。


「えーっと、魔皇帝さんもヒカルさんも集まって頂いてありがとうございます。明日の試合についてですが少し話が___」

このカッツォ不在のミーティングがこの世界の命運を分けたのかもしれない。


★☆★


最終日。決勝戦第5試合。

珍しく、その日の朝は全員が同じ様な時間に起き出し、食堂の朝食を取っていた。魔導ゴーレムのゴッチがいるのも珍しい。


ふと、カッツォは辺りを見渡す。今日の夕方には世界は終わっているかもしれないのだ。だがそんな気負いは無さそうに口々に話をし、笑い合い、肩を叩き合っている。


結成当初の苦難をふと思いだし、苦笑いをしそうになったが堪えていると、本当にいいチームになったな、なんて考えてしまう。うやむやにしていたが勝ってもチームは____やめておこう。センチメンタルな気分になった自分を嘲る。まだ試合は始まってすらいないのだ。


いつの間にか少し静かになった食堂。まるで自分に語りかけるかのようにカッツォが力強く呟く。


「さぁ、行こうぜ。」


食堂内で意外と大きく響いたその声に誰からともなく拳を握り立ち上がるのであった。


★☆★


どんな試合も予定通り、時間通り始まるものだ。

その暑い暑い夏の決勝戦。午前10時。最後の1日も始まろうとしていた。


立ち並ぶ二チームの姿は昨日と同じ面々だ。【愛】もメンバーは変更しないらしい。そして、ポジション発表。だが、神魔王は9番ライトである。軽い違和感を感じることは有っても昨日と同じ打順だ。


審判のジャックが右手を上げプレイボールを高らかに宣言した。

【亜人タイタンズ】の先攻だ。一番打者、リンディスがデコレーションされて煌めくバットを握り締める。


今日もピッチャーは暗黒神ゾーグである。ピッチャーも球も見えない。タイミングも不明。だが、魔力感知や風の音で見えなくとも打つことは出来る。容易くは無いが、亜人タイタンズのメンバーの実力なら可能ではある。


初球から響く快音。リンディスの打球はレフトを守るワカンタンカの横を抜け、外野のフェンスにぶち当たった。ツーベースヒット、素晴らしい立ち上がりだろう。


(ちょっと簡単過ぎるにゃ!!でも、これならクライの作戦なんていらないにゃ!!)


しかし、試合はまだ始まったばかりである。


★☆★


異変は3回の裏、神魔王の打順からで有った。最高の仕上がりのクライは三振の山を築き上げている。バッティングも好調で5対0と点差を広げつつ有ったそんな中でのこと。


打席に立った神魔王は_____無表情である。いつも浮かべていた優しい笑みは無い。ちなみに、神魔王はバットを持たずに、自身の手から放たれる高密度の魔力球をぶつけ跳ね返すと言う打法だ。


初球。クライの左腕から放たれた700km/hは越えようかというストレート。神の軍勢すら打ちあぐねる球。

一瞬、会場中を包んだ悪寒。そして、次の瞬間。クライの振り切られたはずの左腕は肩から千切れマウンドの上空を舞っていたのだ。

ボールは金色の強い魔力の軌跡を残していた。クライの左腕を掠め、センターの観客席に届く軌跡。終点の観客席には旋盤で削り取ったかのような美しく巨大な穴が空いていた。勿論その席に座っていた観客は影も形も無くなっている。


「____本当は……こんなことしたく無かった。しかしもはやこれは"遊びでは無い。"___つまらない決勝戦にしてごめんね。全員を消して私達が___いや、私が勝つ」


見れば、ゆっくりとダイヤモンドを廻る神魔王が全員に話し掛けるかのように内野手の首を跳ねて行く。しかし、刀の様なものも見えない。なぜ首が飛ぶか分からないが横を通り過ぎるとファーストのゴッチに始まり、セカンドのセルバンテス、ショートのリンディス。そして今サードのシジマ。全員が壊れたオモチャの様に首を無くし、体が跳ねている。


ホームに歩いて近寄る神魔王。仲間を殺され、憤怒するキャッチャーのカッツォがその様子を視線で威圧していたが、神魔王が歩を進める度に首を押さえ苦しそうにして___そして、カッツォの首がゴロリと地面へと転がった。


「うん、クライ以外の内野は全員死んでるかな?ならソロホームランと合わせて6点。逆転だ。」

冷たさも暖かさも感じない声。しん、と静まり返っている球場には大きすぎるほどの声がクライの耳に届いた。その声は酷く不快に感じて止まない。


★☆★


「つまり……俺も死んだんだよな?」

カッツォの問いかけにクライが無言で頷く。

内野手全員が死にミゲールが蘇生魔法を掛けた。蘇生魔法とは簡易な時魔法の応用である。肉体の一部分でも有ればそれを巻き戻すようなものだ。(この為、チーム内では皮膚の一部分をストックしている。カッツォやミゲールレベルの使い手で有れば、魔力の残さや髪の毛一本からでも蘇生は可能。但し、時間制限が有る)蘇生後は少し記憶などは曖昧になってしまう。


カッツォはこの大会では初めて死んだし、死ぬの自体も三度目である。強力な防護魔法や身体能力強化、自己再生まで兼ね備えたここ十数年は死の淵まで行った覚えはない。それが、瞬間的に殺されたのである。神魔王の力を見くびっていた訳では無いがまさかそこまで絶望的な差が有るとは思いもしていなかった。


首を擦りながら周りを見渡すと、セルバンテス、リンディス、シジマは顔面蒼白だ。無理も無いだろう。首の断面が滑らかな為、ゴッチも修理可能で有るが、内部を破壊されるのは久しぶりなのでどこまでプレーに影響が出るかは分からない。クライも左腕は元通りに治療して有るが、魔力の喪失を感じていた。


一球。たかが一打でチームの半数が手痛い打撃を受けた。侮っていた訳では無いが、今まで大人しかった神魔王を全員がどこか軽んじていた。悔しさに歯噛みをするカッツォたち。


そして、試合は4回表、【亜人タイタンズ】の攻撃。追加点はなんとか許さずに5対6。マウンドには神魔王がいる。そして___他には誰もいない。内野も無人。外野も不在。キャッチャーすらも居ない。

ふと【愛】のベンチを覗くと、巨人達や悪神は姿も形もない。

そんな目線を察し、マウンド上でボールを玩ぶ神魔王が、【亜人タイタンズ】へ語りかけてくる。


「さて。遊びは終わり、と先ほど言った通りだ。君たちは私の造り上げた悪なる神を越えてしまった。本当に、人間たちは成長が早い____しかし、私の領域へ踏み入ることは許さない。断じてだ。もはやこれは野球では無いよ。野球の結果に世界の滅びを委ねた結果、神の領域を土足で踏み荒らされてはね___。力の劣るものには退場して貰った。ここからは|神々の闘争《ラグナロク》だ。」


その自己中心的なスピーチを聞いてカッツォは思う。

(野球なんて只の遊びにムキになってんじゃねぇ!!…………と普通なら言いたくなるもんだが、アイツは負けず嫌いなんだ。それも特上の。なんだ、アイツも俺と同じじゃねぇか!!あぁ、面白くなってきた気がするぜ!!)


★☆★


謎多き神魔王。

彼の出自は少々複雑だ。


彼はとある星で混ざりモノと言うべき様々な種族の特性を持った、クォーターの魔術師で有った。


生きていた時代は古代魔法アーキテクト古代魔法アーキテクトと呼ばれる前。


周りのものがバカに見え、物足りなく感じるほど優秀で有った彼はその強大な魔力と聡明な頭脳で様々な魔法や魔導具、魔導印を作った。その中には創星魔法や輪廻転生魔法と呼ばれる常軌を逸した物も数多かった。


そして、全てを作った彼は自分の作った以外の物をいとも容易く滅ぼした。何年も、何百年も、何万年も時間をかけて。


理由はもはや覚束無いが、恨みだったような気もするし、うっとおしいと言う感情だったかもしれない。


そうして自身も転生を重ね、星々を渡り歩き、生命を創ったり壊したりを気まぐれに繰り返して来た。


ふと、極限まで薄まった時間の中で娯楽の必要性を感じた。いつもの気まぐれである。彼にとっては幾度目かも知れぬ創星。


眺め、堪能し、飽きたら壊す。いつも通りのはずだった。


娯楽を通じて自身と相対する存在と出会うまでは。


彼は久々に何かを感じた。何か熱いものだ。


そうして思い出す。自分が全てを壊した原因。


私は人一倍負けず嫌いだったのだ。


私はどんなことをしても全てを越えたかった。それが始まりだったのだ、と。


★☆★


「さて、どうするか……降伏サレンダーでもするか?」

カッツォがお通夜ムードのベンチへ語り掛ける。そもそも戦意を折られて項垂れているものが多数。もう(修理したゴッチを含め)蘇生魔法も5回を使い切ってしまったし、神魔王の能力は得体が知れない。タイムを掛けマウンドの神魔王を待たせていると明らかに不機嫌そうである。


試合は神魔王1人対【亜人タイタンズ】9人。戦いはもはや野球とは呼べないものとなっている。だが、勝てないだろう。なすすべもなく殺され、コールドゲームになる未来しか見えない。


「しませんよ、カッツォ。僕たちを誰だと思ってるんですか?と言いたいですが……本当は…………正直、神魔王に勝てるとは思えません。僕一人では……」

弱気を見抜かれたと思ったのか、クライが言い直す。


「俺もそう思うぜ……だがよ。世界が掛かってるからな、やるしかねぇ。例え無理でも」


「そこで提案があります。カッツォ、ピッチャーをやる気はありますか?」


「……その提案は聞かなくても飲めない。確かに俺の能力、"剣を御霊に"ならお前の『投』魔法ごと吸収し、俺がその力を振るえるかも知れない。だが、お前の魂は俺と同化しちまう。蘇生魔法でも手を出せない領域だ。もしこの試合に勝っても、俺は後悔を抱え続けることになるのはゴメンだ。面白くねぇ。」

クライの提案は、自分ごと『投』魔法をカッツォに吸収して貰い、投手を変わると言うもの。一時的でもクライとカッツォの魔力が合わさり、絶大なパワーアップが臨める。もしかしたら神魔王に勝てるかも知れない手段である。


「なら、もうひとつの提案ですが_____」

クライの口から新たな提案が飛び出した。

 

「ふーむ……結構面白いんじゃねぇか?やってみるか!!!」

カッツォは軽快に頷き、項垂れているチームメンバーに手を翳した。


その回の攻撃の打順はクライからで有った。長い長いタイムを

「遅かったじゃないか。もう少しでこの星に向けて投げてしまう所だったよ。」

不満を隠そうともせずにクライに話し掛けてくる神魔王。


「おや___?ちっぽけながら魔力の上昇を感じる。それにバットも持たずに打席に入るとは。なるほど、私の真似事か?人間風情が!?」


「真似事ですいません……でも、負ける訳には行きません。それに何だか……あなたにも勝てそうです!」


「嘗めた口をっ!!」

いつ振りかぶったのだろう?いつ投げたのだろう?

神魔王の投球フォームは終わっており、ボロボロになった球がキャッチャーのいた空間に張られた結界に突き刺さっていた。

主審であるジャックすらも判定不可の超速球。音も無く影も形も見えないのがその球の恐ろしさを物語る。


クライもジャックも、驚きを隠せない。


「少し遅過ぎて驚いたかな?肩が温まっていないんだ。」


「え……ストライク……?かな?」

ジャックも力無く宣言をしようとする。


「ストライクですね」

クライが神魔王を睨んだまま答える。


モーションすら早すぎて見えない神魔王の二球目が投げられたらしい。なぜ、それが分かったのか?それは、こちらも何時の間にか投げられていたクライの魔力球とかち合って、丁度二人の中間地点で眩い光を放っていたからだ。


二つの魔力球は押し合い____その光は神魔王の頭の横を掠め観客席の上を通りすぎてバックスクリーンを突き抜けた!それはつまり、勝てるはずがないと思われたクライの魔力球が神魔王の球に押し勝ったと言うことである。神魔王を見ればその頭は半分が欠けており、力の余波の凄まじさが伺える。


「ホームランと……無力化で二点……これで逆転です!!」


嬉しそうにホームインをしたクライ。点差は7対6。逆転である。

神魔王の欠けた頭が徐々にウネウネと再生していく。その表情はクライとは対象的に恨めしさで固まっていた。


クライの提案。それはこの様な時の為の物で有った。

クライは『球』魔法を覚えたことで、他人の魔力を『球』に出来るようになった。これはオリジナルのアクローネにも使えない力だ。元々『投』魔法以外使えないと言うイレギュラーのせいで、他人の魔力に敏感になり、更には目で捉えることの出来るようになったクライだから出来たのである。元々魔力検知と目の良さには定評の有るクライは、先ほどの神魔王の球も"見えすぎて驚いた"レベルだ。


リンディスの魔力を試しに球にし、それを『投』魔法で投げると倍では収まらないほどの力を見せたのだ。リンディス達の魔力も、幾度の試合を経て世界有数レベルまで上昇している。


先ほどの一球は、戦意の折れたメンバー達の魔力をカッツォが掻き集め、クライが魔力球にしたものだ。しかも、今の一球で使った魔力は掻き集めた魔力の一割ほど。これはクライへの負担がどうなるかの実験的な意味合いも有った。


結果は見た通り、神魔王の投球に押し勝つレベルで有る。代償は仲間達の魔力を大きく削いだことと、クライ自身の肉体的ダメージであろう。


左腕の至る所の血管が裂け、肩に至るまでユニフォームも傷みが見える。むしろ、それで済んでいる方が幸運なのだ。


ここから試合は膠着を迎える。【愛】は神魔王ただひとり。【亜人タイタンズ】はクライとカッツォのふたり。それ以外は心身、魔力、共に限界で有り、ベンチで試合を見守ることしか出来ない。


カッツォは思った。

(一人対二人?バッティングセンターじゃねぇんだぞここは!!しかもキャッチャーの俺が浮いちまうじゃねぇか!!)


★☆★


神魔王も心中穏やかでない。

(バカな!!神である私の球だぞ!人間ごときが知覚する事すらおこがましい!!!)


【亜人タイタンズ】の攻撃は、バッターはクライとカッツォの二人を交互に迎える。クライは先ほどの魔力球で腕へのダメージが祟ったのか、打撃には参加していない。ただストライクを見送り、アウトを重ねて行くだけだ。

一方カッツォは、と言うと4回表の打撃は掠りもせず三振だったが、5回、6回、7回と回を重ねるごとに球に食らいつき、ファウルで粘れる様になった。そして8回には痛烈なピッチャーライナーを打った。『全』の能力で、クライの球と同等或いはそれ以上の速さのはずの球にだ。次はホームラン、とばかりにニヤニヤと眺めているのにも、さすがに焦りを覚える。


守備はと言えばクライの投球は鬼気迫るもので有った。

回の初めにカッツォから肉体の許容量を越えた魔力を預り受け。

『球』魔法と『投』魔法の併用で精神を磨り減らし。

一球ごとに全身が血にまみれながらの投球。途中から、治癒魔法への魔力を裂くのが勿体ないと言うクライの発言でろくに治療すらしていない。

そして、肉体は限りなくボロボロになっていくのに、キャッチャーのカッツォでさえ身の危険を感じる程キレの有るボールを投げ込み続ける。

神魔王は自身もその球を投げれるのに三振を重ねているのは、一重にカッツォとクライのバッテリーの技術、呼吸のシンクロによるものだろう。


試合は現在8回裏。点差は7対6から動いておらず、4回からはお互いのスコアボードに0の数字が並んでいる。両チーム内野、外野はいない為、お互いに前に飛ばせない壮絶な投手戦と化しているのは想像に難くない。


意外にも、どちらのチームも相手を殺す様な魔法は飛び出していない。実は、神魔王もクライもカッツォも____この試合がこのまま続けば良いのに、と思う程に力のぶつけ合いが心地良くなっていたのだ。全員が精神も、魔力も、体力も消耗し切っているはずなのに。


そんな試合も唐突に転機を迎える。迎えてしまう。

クライの失投。明らかに数段は球威も魔力も落ちる球を叩かれた。いつかの回と同じく、観客席に穴が開く程のホームランだ。


神魔王は同点に追い付いた。思わず笑みがこぼれる。しかし、ホームベースを踏んだ時に感じたのは勝ちへの優越感でも負けたくないと言う気持ちでも無かった。 


喪失感、であった。


(惜しいな……素晴らしい試合。素晴らしい投球。もはや勝ち負けの次元は越えている……あんなに勝ちたかった感情も、先ほどのホームランで消えた____消えてしまった。残念……だ。)


マウンドで項垂れて膝をついていたクライが、天を仰いだ。

空は中天を越え、最も熱い時間帯。流れる汗も拭わず、クライは再度打席に入ろうとする神魔王の顔を見て、何か話し掛けようとしていた。その一言目はカッツォも驚く言葉であった。


「もう____限界です。終わりにしませんか?」


「_____何を言っている?もっと、もっと、もっと、私を楽しませてくれ!!私を楽しませないと殺して_____」

複雑な表情になる神魔王。


「いえ、そうじゃないんです。僕たちだけで楽しむのは……終わりにしようと。」


「_____どういうことだ?今さらお前ら以上の選手を集めるとでも?無理な提案で時間稼ぎをするのは____」


「お互いに手詰まりのはずです。僕は魔力の限界。あなたはカッツォに打たれるのを予期してる。僕らだけではもう新たな楽しみは産み出せない。それなら……泥臭く、野球を楽しみませんか?」


意図が読めず、困惑している神魔王を見かねてカッツォが口を挟む。

「おぉ、そりゃいい。あいつらも魔力は限界だが、俺たちの試合を見てウズウズしてるらしい」

ベンチを指指すと、全員が何時の間にか立ち上がりクライとカッツォの戦いを応援していたのだ。観客席も似た様な有り様で、凄まじい熱気を感じる。


そうして、神魔王へとクライが再度話し掛ける。

「神魔王さん。僕は次の一球に全魔力を込めると約束します。それを受け止めるカッツォもほとんどの魔力を使い果たすでしょう。あなたの全力の魔力を込めた球と比べてみたい。そうして全てを使い果たしたら、全員を呼び戻して9人対9人の野球をしましょう。それでこそ初めて、野球で戦ったと言えるのではないでしょうか?」


「____ふふ!ははは!!人間風情が神に提案とは面白い!!!楽しませてくれ____いや、"共に楽しもう"!!!!」


そうして、次の一球は白い投気と金色の投気、とも言える莫大な魔力の渦のぶつけ合いとなった。数十秒にも渡りとどまり有った二つの球はまるで竜巻の様に真上へと舞い上がった。


結果は全くの互角。衝撃の余波で三人はぶっ飛んで倒れ、空を見上げる様に寝転んでいた。ベンチや観客席にも季節外れの雪とも言える煌めく投気の粒子が降り注いでいた。


その粒子は魔力の消える前の煌めきで、温度を持たないはずだったがそれに触れたものは皆、口を揃えて確かな熱を感じた、と言った。


★☆★


時は進み、現在。


「ねーね~、コーチ!!!お話長すぎ!!もう30分は休憩してるよ!!!」

せっかちな兎の獣人の女の子が、クライの後ろから袖を引っ張った。

それにより、現実に引き戻された感覚がした。


「ん……?あぁ、もうそんな時間か!高学年の子はミニゲームの準備頼むね!」


「ミミーは黙ってろよ!!!コーチ、その後は!!どうなったんだよ!!」

人間の男の子はミミーと呼ばれた女の子を近くに座らせる。周りの子たちよりキラキラと目が輝いている様に見える。


「その後……って世界は滅んで無いから分かるだろ?9回の表からは全部出しきった僕たちも、神魔王の中で力を使い果たした様々な神様たちもそれはもうドロドロになりながら試合をしたんだ。それで18回の表、カッツォのスリーベースで勝ち越して、僕が抑えた。25対26だった。素晴らしいプレーの連続だったよ。点を取っては取られ、取られては取り。打っては打ち、守られては守る。夕方過ぎまでそんな試合をした。僕たちも、神様たちも、最後は笑ってた。」

クライはグラウンドの様子を気にしつつ、足早に語った。

男の子はそれを聞いて一層、目を輝かせた様に見える。


「すげーすげー!!その後は!!!?」とまだ聞きたがる男の子。


「あ~もう、やっぱり休憩伸ばすのが狙いか!?もう話してやんねーぞ!」と冗談混じりに話を変えようとするクライ。


「ちがっ……そんなこと無いもん!!俺もどうやったらコーチみたいになれるか、知りたかっただけだよ!!!!」

少し意地悪し過ぎたかな?ちょっと悲しそうな男の子を見て、クライはとっておきの情報を男の子に耳打ちする。他の子たちは早速ミニゲームを始めようとソワソワ、チラチラと遠巻きにこちらを見ているから、この男の子だけの秘密になるだろう。


「んじゃ、耳貸して。最近、この【亜神タイタンズ】の幼年部の練習見に来てる奴らいるだろ?ほら、今も外野の観客席でこっち見てる……そう、手振ってる奴ら。あれが"創世神"シンと"野球神"キュウ……つまりカッツォさ。将来、【創世ゴッデス】と【球神ジャイアンツ】のプロチームに入りたかったら、奴らにお願いしとくんだぜ?ほら!ミニゲームが始まるから、奴らに良いとこ見せないとな!!」


それを聞いた男の子はえっ!ほんと!と言ったあと跳び跳ねんばかりに喜ぼうとしたが、秘密だったことを思い出し口を手で抑えた。そして外野の彼らとクライの顔を見比べた後、ミニゲームの赤チームの輪にスキップ染みた早足で加わって行った。


クライも手早く審判の装備を整え、子供たちを並ばせた後で空を見上げる。本当にいい天気だ。


次はカッツォが野球神になるまでの話をしてあげようかな?いや、【亜人タイタンズ】の解散とプロリーグ設立までの話の方が子供たちは好きかも知れないな。妻……いや、リンディスの話と【亜神タイタンズ】のライバルチーム【戦姫キャッツ】の話は冷やかされそうだからやめておこうか?あぁ、他の星まで遠征試合に行って冒険者稼業に一時戻ったこともあったなぁ、あれも面白く話せるかも_____


おっと、子供たちが睨んでる。そうだな、暑いもんな。

野球をやりたくてウズウズしてる子もいるし、始めようか。


「んじゃ、プレイボール!お互いに楽しめよ!!!」



(おしまい)

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